DTMerもJASRACに入れば、YouTube動画再生収益が増えるってホント?JASRACに行って聞いてみた

報道などではよく名前を目にするJASRAC=一般社団法人日本音楽著作権協会。普段、DTMで音楽制作をしている人にとっては、あまり関係ない存在、ちょっと面倒臭そうな団体……なんて風に捉えている人も少なくないと思います。でも、昨年「JASRACはDTMユーザーにとって敵か味方か!?突撃取材を試みてみた」という記事でインタビューした際、YouTubeの再生回数が1,000回を超えればJASRACのメンバーになることができる、という話題も出ており、そんなハードルが低いものなのかと驚きました。

YouTubeやニコニコ動画、ツイキャス、TikTok、Instagram、Pococha……などなどネットメディアで楽曲を発表している人も少なくないと思いますが、そうしたDTMユーザーにとって、JASRACのメンバーになることはメリットがあるのでしょうか?それとも費用面などで出費となるだけの存在なのでしょうか?JASRACに問い合わせてみたところ、ネット専門の担当者がいるとのことだったので、お話を伺ってみました。対応いただいたのはJASRACのネットメディア部ネットメディア課の生田智嵩さんと瀧本奈緒さんです。

JASRACに入るとYouTube動画再生収益が増える、という話が本当なのか、JASRACに聞きに行ってみた

Googleからの収入の中には、著作権使用料は含まれていない

--JASRACにネットメディア部ネットメディア課なんていう部署があるんですね。まず、この部署がどんなところなのか簡単に教えていただけますか?
瀧本:ここはインターネット上での音楽の利用について許諾を出している部署です。YouTubeなどのUGCサービスや音楽サブスクサービス、動画配信サービスなど、日本国内における著作物の配信利用許諾や請求作業を行っています。グローバル企業との向き合いはもちろんのこと、一般個人の方による、X(旧:Twitter)や、メタバースでの音楽利用などの非商用配信まで、多岐にわたります。

--では、さっそく核心部分について伺っていきます。GoogleとYouTubeのパートナー契約をすることで、YouTube再生回数に応じて収入を得ているDTMユーザーは多いと思いますが、そうした人がJASRACメンバーになると収入を増やすことができるというのは本当ですか?
生田:YouTubeに動画を投稿するDTMerの方がJASRACメンバーになることで収入を増やすことは可能です。動画投稿で得られる収益に著作権使用料は含まれておりませんが、JASRACに楽曲の著作権をお預けいただければ、その使用料を得ることができます。YouTubeでは、Googleの「ContentID」という仕組みを通じて著作権の管理が行われており、ここに音源(原盤)と著作権の権利者が情報を登録することで、その楽曲が利用された動画の再生数に応じて使用料を得ることができます。

JASRACのネットメディア部ネットメディア課の瀧本奈緒さん(左)、生田智嵩さん(右)

--「ContentID」を利用することで動画に申し立てが入ると、動画投稿者の収益がなくなってしまうと聞いたのですが?
生田:はい、「ContentID」を通じて申し立て(音源検知の通知)が入るとGoogleから得られる動画投稿者の収益はなくなります。ですが、投稿者収益がなくなる代わりに「ContentID」に登録した音源(原盤)の使用料を受け取れ、さらに著作権の使用料を得ることができ、収益を増やすことが可能です。

ContentIDによる管理で、「歌ってみた」動画に対する著作権使用料が入ってくる!?

--自分の動画での著作権使用料のほかにメリットはありますか?
生田:ご自身の投稿した楽曲がバズった結果、ほかの人がその曲の「歌ってみた」動画をどんどんアップしていくといったケースですと大きなメリットがあります。こうしたほかの人がアップした歌ってみた動画の場合、そのままだと楽曲を作った人には1円も入りません。しかし、JASRACへ直接または音楽出版社を通じて著作権を預けていただければ、ほかの人がアップした動画での利用についても著作権使用料が入る形になるのです。

--YouTubeには膨大な動画があるなか、JASRACが楽曲の利用を正しく把握して、それに見合った著作権料を分配するなんてことは現実的にできるのですか?
生田:「ContentID」に音源を登録することで、フィンガープリント情報が生成され、これを元に、動画内で使われた音源が検知されるようになります。その検知により、動画の広告収入に応じた著作権使用料が、JASRACを通じて権利者へ分配される形です。

生田智嵩さん

--歌ってみたなどでのカバー曲となると検知は難しくないのですか?
生田:ContentIDの仕組みでは、音源利用を検知する機能のほか、同じようなメロディラインと一致した場合に検知する「メロディマッチ」という機能があります。Google側の仕組みですので、私たちも実際の検知精度などはわかりませんが、これによって、カバー曲を利用する動画も特定できるようです。

--なるほど、カバー曲も検知できる仕組みなんですね。一方で、ContentIDで検知できなかった場合は、著作権使用料を得ることは難しい、ということでしょうか。
生田:YouTube上の無数の動画から楽曲が利用された動画を見つけ出すのは簡単ではありませんが、JASRACでは二つの対応を行っています。一つ目は、他のフィンガープリント事業者との連携です。ContentIDに音源が登録されていないものの、他のフィンガープリント事業者に音源が登録されていることがあり、これらのデータを活用して楽曲が利用された動画の特定を行っています(※詳細はJASRACのプレスリリース「YouTube動画の楽曲特定についてフィンガープリント事業者2社と契約を締結」をご覧ください)。二つ目として、JASRACに著作権の管理委託をいただいている権利者から、楽曲が利用されている動画の情報をお寄せいただき、この情報に基づいて、利用を確認して使用料を分配しています。YouTubeが設けるContentIDの仕組みを活用しつつ、さらにJASRACとしてできる取り組みを加えることで、より精緻に使用料を分配できるように努めています。

プロとアマ、メジャーとインディーズ、個人での著作権使用料に差はあるの?

--それを聞くとずいぶん公平な感じがしますね。ちなみにYouTubeで動画が再生されてから、収入として入ってくるまでの時間はどのくらいかかるものなのでしょうか?
瀧本:たとえば2024年10月~12月に再生された楽曲に対するJASRACからの分配は、2025年9月になります。やはり膨大なデータを処理しているため、データのとりまとめに時間を要してしまうのも事実です。Googleとは頻繁に協議をしながら、より正確に、より効率よく分配できるようにしていますが、現状はそのくらいの時間がかかっています。

--ぶっちゃけ、1再生あたりの著作権使用料ってどのくらい入るのですか?みんなこの点が一番知りたいのでは、と思いますが……。
瀧本:1回あたりの再生単価は、Googleから支払われた使用料を、使われた回数で割って算出するため、金額が毎回変動し、いくらとは一概には言いづらいところでもあります。が、それなりにインパクトのある数字だと思います。もっともApple MusicやSpotifyをはじめとする主要な音楽サブスクでの単価と比較すると低くなりますが、先ほどの話のとおり、歌ってみたなどで多数の人に使われるようになると、夢のある金額をもらえる可能性もあります。

瀧本奈緒さん

YouTubeで1年間に1,000回再生を超えればJASRACメンバーになることが可能に

--さて、DTMユーザーの場合、本業は別にあって、音楽制作は趣味として活動している人も多いと思います。また発表するのはYouTubeのみ…という人もいると思いますが、そんな人でもJASRACメンバーになることは可能なのですか?以前のインタビューで1,000回再生あれば大丈夫という話を少し伺いましたが…。
生田:楽曲が使われている動画の再生数が1年間で1,000回を超えればJASRACに委託することができます。具体的には「商用配信サイトにおいて、1,000回以上のリクエストがされていること。もしくは、有料かつ視聴期限が設けられたストリーミング形式のライブ配信において楽曲が利用されていること(視聴券の購入者が500名以下の場合は、1年以内に同一曲が3公演以上で利用されていることが必要です)」と規定しています。なので、YouTubeに限らず、さまざまな商用配信サイトで1,000回再生以上あればその条件はクリアできています。ただし、商用だとしてもご自身が運営するサイトは除きます。

--YouTubeやニコニコ動画などで1年間で1,000回再生というのであれば、かなりの人がターゲットになりそうですね。ここまでYouTubeでの話を中心に伺いましたが、ニコニコ動画やTikTok、Xなどに動画を投稿した場合、これらも同じように収益につながるのでしょうか?
瀧本:はい、その通りです。JASRACは多くの動画投稿サービスと包括契約を結んでいますので、詳細についてはJASRACのサイトの「利用許諾契約を締結しているUGCサービスの一覧」をご確認ください。ここにあるサービスであれば、JASRACとサイト運営者との間で包括契約を結んでいるので、JASRACから分配を受けることができます。ただし、先ほどお話したContentIDはあくまでもGoogle独自のシステムなので、他社のサイトでは適用されません。一般的なUGCサービスは、サービスごとにどの曲がどれだけ使われたかサイト運営者に報告いただき、その報告に基づいて分配しています。

 

--たとえばニコニコ動画の場合、クリエイター奨励プログラムというものがありますが、それとJASRACからの分配は別ということですね。
生田:その通りです。ここでもJASRACに信託いただくことで著作権使用料として、クリエイター奨励プログラムとは別に分配を受けることができます。一方で、先ほど挙げていただいたサービスの中で、X(旧:Twitter)は包括契約が結べておりません。Twitterの時代から交渉はしているのですが……。

X(旧:Twitter)とJASRACの間では包括契約がない

--昨年でしたっけ?Twitterが楽曲の著作権侵害ツイートを放置したと、全米音楽出版社協会が損害賠償を求める訴訟をした…といったニュースを見た記憶がありますが、日本ではそうした形にはなっていないのですか?
生田:JASRACでは、現在投稿者が、X(旧:Twitter)上でのJASRAC管理楽曲を利用したい場合に、個別に申請を受け、1件1件許諾をしています。また無許諾利用に関してX(旧:Twitter)削除要請を出した際に、それに対応していただいた、という経緯もあります。法的にいうと要請にしたがって削除をすれば、X(旧:Twitter)側は、責任を負わないという枠組みになっています。とはいえ、X(旧:Twitter)に包括契約をしていただければ、適法な利用が促進されると考え今後も交渉は続けていくつもりです。

--なるほど、いろいろ難しいことがあるんですね。ちなみにほかのサービスの場合、楽曲が再生されてから収入が入るまでの時間は、Googleと同様なんですか?
瀧本:これもサービスによって異なりますが、利用されてから6~9か月後の分配となります。たとえば、2024年10月~12月の再生楽曲については、サービス運営者から2025年1月に3か月分の全量の楽曲報告をいただきます。その後、ご請求、お支払い、作品の特定などの工程を経て、2025年6月に分配します。なお、事業者から報告された作品の特定にあたっては、申告されたJASRAC作品コードから特定しているほか、タイトルや作家名、アーティスト名などの楽曲情報をもとにシステム上で特定しています。また、システム上で特定できない場合は、専門スタッフによる特定を行います。

--すごくラフな集計、分配なのかな…となんとなく想像していましたが、そんな細かい作業を1つ1つ行っているわけですね。
瀧本:ちなみに配信の楽曲報告数は2008年度、4億件に対し、2023年度では、33億件にまで増加している状況です。
--気が遠くなる件数ですね。3カ月に一度といっても大きなサービスを運営していると報告が大変そうですが、精緻な報告がほしいですね。
瀧本:利用楽曲報告を、それぞれの管理団体が指定するフォーマットで行うことは、利用者にとって非常に負担となります。このため、大量の楽曲配信に伴う事業者の報告作業負荷の軽減等を目的として、JASRACをはじめとする著作権管理事業者と音楽配信事業者が2009年に設立した一般社団法人著作権情報集中処理機構(CDC)と呼ばれる第三者機関があり、主要な大手配信事業者の報告作業を請け負っています(各権利者団体に報告している)。またアジアの著作権団体と連携し、世界の主要なデジタル配信サービスのコンテンツ情報と楽曲情報を共有・交換する新プラットフォーム「GDSDX」も昨年6月にリリースしました(※詳細はJASRACのプレスリリース「世界の主要なデジタル配信サービスのコンテンツ情報と楽曲情報を共有・交換する新プラットフォーム「GDSDX」をリリース)」をご覧ください)。利用の対価となる著作権使用料を確実に分配するため、各種DSP事業者から受けるデータとJASRACの作品データや国際データを関連付けるデータベースです。楽曲特定の精度を高め、世界中の音楽クリエイター・権利者がより精緻な使用料分配を受けられるよう取り組んでいます。

 

--最後にもう一つ質問させてください。そうした著作権使用料の分配金におけるJASRACの取り分というか、手数料ってどのくらいなのですか?
瀧本:管理手数料は、著作権管理などを行うための業務運営の経費に充てるために設定しています。適用する管理手数料率は、演奏(演奏会、カラオケ等)、放送(放送、有線放送)、録音(CD、DVD等)などの区分ごとに 「管理委託契約約款」で定め、文化庁に届け出た手数料率の範囲内で決定します。実際に適用している料率(実施料率)は管理手数料届出・実施料率表に記載していますが、2024年度においてはインタラクティブ配信
(YouTubeなどのUGCサービスや音楽サブスク音楽配信サービス、動画配信サービスなど)の区分の届出料率は10%ですが、実際の実施料率は9.5%です。ただ、年度ごとの運営経費に余剰金(収支差額金)が発生した場合は、翌年度に権利者の皆さまに還元しています。実際、3月の分配においては実施料率を下げるのが通例(2024年3月分配のインタラクティブ配信の料率は7.5%)となっています。

--なるほど、意外と手数料は少ないんですね。多くの読者の方にとって参考になるお話だったと思います。ありがとうございました。今日はYouTubeを中心にお話を伺いましたが、ぜひ改めてApple MusicやSpotifyなどの音楽サブスクに関する話なども聞かせていただければと思っております。

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