毎週届く変なメルマガ、“ローランドの楽屋にて”の楽屋裏を訪ねてみた!?

ローランドの楽屋にて」というメルマガをご存じでしょうか?名前からも想像できるように楽器メーカーであるローランドが出しているメルマガなのですが、上場企業が出しているとは信じられない変なメルマガであり、バカバカしいなんて言ったら失礼だけど、ふざけた内容のように見えながら、マニアックで、しっかりツボを押さえた、おもしろおかしいものなんです。書いているのは元ローランド社員の坪井佳織 (つぼい かおり)さんという女性。ライターが本業というわけではまったくなく、子供たちに音楽を通じた教育を行うリトミックの先生をされているとのことですが、絶対に普通の人ではありません。

実は私自身「ローランドの楽屋にて」を2017年12月の創刊号から愛読(もちろん無料です)してる読者の一人であり、このメルマガの大ファン。正直なところ、これまでメルマガなんて購読しても、あまり開封することもなくゴミ箱行きがほとんどだった中、これだけは毎週楽しみにしてる変なメルマガなんです。その長年のファンであることが伝わったのか、9月5日号で「ローランドの楽屋にて」デビューを果たすことになりました。先月がローランドの新社長、蓑輪雅弘さんインタビューだったので、その直後というのは光栄な限りですが、このインタビューを受けた機会に坪井さんに逆インタビューをしてみました。DTMステーション読者のみなさんの中にも「ローランドの楽屋にて」を愛読している方も多いと思いますが、改めて坪井さんは何者なのか、いろいろ話を伺ってみました。

「ローランドの楽屋にて」を執筆している坪井佳織さんにインタビューしてみた

毎週届くローランドの変なメルマガ、「ローランドの楽屋にて」

私が何で「ローランドの楽屋にて」を創刊号からしっかり登録して読んでいたのか、いまいち記憶が定かではないのですが、メールの履歴を遡ってみると、7年前の11月にローランド・サポートから「<号外>「ローランドの楽屋にて」のご案内」というメールが届いて、これをキッカケに登録したようなんです。

登録すると毎週、ローランドから変なメルマガが送られてくるようになる

どんなメルマガなのか、それはメルマガなので登録をしないと本来読めないのですが、BACK NUMBERサイト(https://www.roland.com/jp/promos/gakuya/backnumber/)があって、そこに行くと、「※バックナンバーは順次掲載中です」とのことで、全部の号ではないけれど、過去の取材記事が公開されています。そのメルマガの創刊号から20号までのタイトルを並べてみるとこんな感じ(リンクがあるものが公開されている号です)。

【第 1回】20年を超えた奇跡の手紙
【第 2回】輝け!! 黒歴史
【第 3回】90’s 打ち込みデスク周り
【第 4回】シンセの隙間で寝る男
【第 5回】親にお年フォンあげてみた
【第 6回】男のロマンがシンセの中に
【第 7回】赤い彗星、シンセ開発部長
【第 8回】謎のおじさん、ベースで乱入
【第 9回】ロック魂でございます
【第10回】コピー派?オリジナル派?
【第11回】遠足だ!遠足だ!第1話
【第12回】伝記になるミュージシャン
【第13回】隠れてないのに隠れ家カフェ
【第14回】黒鍵×黒鍵=真っ黒!
【第15回】バンドはじめました
【第16回】初代JUNO開発者がまだ社内にいる件
【第17回】超ド級オタクのルームシェア
【第18回】JUNO-106太い音の秘密
※第16回~第18回のダイジェスト版
【第19回】謎の男の正体は?
【第20回】ハニワのサインもろたで〜!

これが毎週届くんですから、ファンが増えていくのもわかりますよね。

その4号目が公開されたタイミングで、私がFacebookにこんな投稿をしていました。

創刊当初にFacebookに書いた「ローランドの楽屋にて」に関する投稿

これがキッカケで坪井さんともお友達になり、時々お会いしたりもしていましたが、やっぱりトンでもなく頭のいい方で、このメルマガの破壊力の凄さにも納得したのでした。今回、その坪井さんに改めていろいろお話を聞いてみました。

「ローランドの楽屋にて」の執筆者、坪井佳織さんにインタビューしてみた!

実はこれまでも「ローランドの楽屋にて」の中で私のツイートが引用されたり、イベントの写真が掲載された…ということはあったのですが、インタビューを受けたのは初めて。でも途中からインタビューする側になって、坪井さんやこのメルマガについて気になることをいろいろ伺ってみました

坪井佳織からインタビューを受けた後に反撃?する形でインタビューしてみた

大学3年生のアルバイトからスタートしたローランドの仕事

--坪井さん、元ローランド社員とのことですが、いつごろからどんなことをされていたんですか?
坪井:大学3年生のころ、ローランドの販売のアルバイトをしたのがスタートです。ミュージ郎が話題になり、電子ピアノのHP-2700が発売された時代です。名古屋営業所の管轄でしたが、土日に長野、三重、岐阜、浜松……、さまざまな楽器店の店頭に立って売っていたんです。そしたらどんどん売り上げが上がるようになり、そのうち「奥田さん(旧姓)に来てほしい」なんてお店から声がかかるようになり……。当時20万円以上する電子ピアノが1日に何台も売れたので、そこが私のルーツですね。当時は就職氷河期時代。このアルバイトですごく稼いでいたこともあり、このままアルバイトで過ごそうって就職活動はしなかったんです。周りからは大反対されたし、ローランドからも反対されたんですけどね(笑)。結局仕事が面白過ぎたこともあり1年留年して5年生まで大学にいました。そのうち年に何回かあるローランドの研修にも参加するようになり、それが楽しくって。その後社長になった三木純一さん(当時は部長)をはじめ偉い人がいっぱい集まる中、質問しまくってたら「あいつは誰だ?」ということになり、その後「浜松に来ないか?」と誘われるようになったんですよ。

毎週木曜日の朝、こんな感じで写真や画像いっぱいのリッチテキストメールで「ローランドの楽屋にて」が届く

--アルバイトからという形でローランドに入ったんですね。
坪井:浜松へもアルバイトの身分のまま飛び込み、製品を試してバグ出ししたり、レビューしたり、意見を言ったり……といった仕事をする形で開発の現場に入っていきました。この開発の仕事も楽しすぎて週の半分を浜松で働き、残り半分を住んでいた名古屋に戻って販売の仕事をするという生活でした。そのうち「社員にならないか?」って浜松で誘われたんですが、「自由でいたいです!」って断っちゃいました。でも、その結果、「スペシャリスト契約」という名前で年俸制で働く形を作っていただきました。ただし、成果が上げられなかったらクビだよ、という契約ですね。だからこそ「期待されている成果+αを絶対やる」と意識しながら働くようになりました。

Opcode Visionを使ってMIDIデータの加工・制作

--具体的にはどんなお仕事をされていたのですか?
坪井:ミュージックデータ、ミュージックスタイルというアレンジャーの自動伴奏のパターンの制作なんかをやってましたね。元々電子ピアノのKR-4500やキーボードのE-86といった自動伴奏機能が搭載されている機種が大好きで、どの機種にどんなパターンが入っていて、どれとどれが似ていて、どんな違いがあるか……全部頭に入っていました。そうした中、後継機のKRシリーズのミュージックスタイルを作っていました。

--当時、どんなツールで作っていたんでしょうか?
坪井:打ち込みはMacintoshのLC 630を使って主にOpcodeのVisionを使いながら、時々MOTUのPerformerを使って作っていました。ミュージシャンに発注し、もらったデータをチェックしてツールを通してキレイに整えてミュージックデータとかミュージックスタイルというフォーマットに落とし込んで、各製品の中に入れていく感じですね。こうしたデータはデモ曲として実機に入っていたほか、CD-ROMやフロッピーディスクを使ってデータ自体の販売もしていたんですよ。

私の手元に保存してあったミュージックデータのカタログ

--EDIROL時代ですか?うちに当時のカタログ残ってます!
坪井:いろいろあったので、しっかり覚えてないですが、当時結構画期的だったのはピアニストが手で弾いたデータだけど、ちゃんとテンポに追従できるという点。ピアニストの演奏データにテンポトラックを作って、そこに手作業でちまちまとポイントを打っていったんですよね。あるとき世界中のローランドの支社(正しくはジョイントベンチャーなので、それぞれ独立した企業)が集まるJVミーティングというのがあって、そこで新しいミュージックスタイルを世界中の社長たちにプレゼンするという機会があったんです。これはめちゃくちゃチャンスだと思って、2時間のプレゼンを英語の台本作ってネイティブの人にチェックしてもらい、全部丸暗記して、まるでペラペラ喋れるかのように発表したんです。そしたら、創業者である会長の目に留まって、「あの子は誰だ?」って。それがきっかけになり、三木さんと一緒にミュージックスタイルを使った演奏方法の本を執筆する仕事をいただいたりもしました。

--かなり多岐にわたる仕事をされていたんですね。でも辞めちゃった!?
坪井:はい、出産を機に辞めたんです。どちらにせよ年間契約なので、そこでいったん終了。とはいえ、その後もなんだかんだと、外注としてさまざまなお仕事はもらっていました。

当時の社長の三木純一さんからの誘いでメルマガをスタートさせたけど、社内は逆風!?

--その坪井さんが、この「ローランドの楽屋にて」というメルマガを始めることになったキッカケはどういうことだったんですか?
坪井:三木さんが社長だった当時、三木さんから「坪井さんみたいな文章書ける人、誰か知らない?」って聞かれたんですよ。「どういうことですか?」って聞いたら「メルマガを発行したいと思っている」と。三木さん、私の文章をすごく買ってくださっていて、それで「そんなの私しかいませんよ!」って(笑)。「でも私が書くんだったら、絶対に手をいれないでください!」って宣言したんですよ。クールな感じのカタログのようなメルマガだったら絶対読まれなくなるから、って。その後ミーティングがあって、何人かのメンバーが集まっていたのですが、三木さんと創刊当時からの編集部メンバーの山本君以外知っている人いなかったんです。そしたら、ほとんどのメンバーから「誰この人」っていう感じで、いぶかし気な顔されて……(苦笑)。その後、当時の編集長の安川さんと山本君と私の3人でまる一日かけて会議をして、読者のペルソナ設定から、ターゲットやその内容など、かなり綿密に固めていったんです。そこでたどり着いたのが、「まるでライブの打ち上げの居酒屋で雑談をしているようなメルマガ」というコンセプトでした。「どうでもいいことに真剣に取り組む」という会社の気風も伝えようということになりました。そのうえで、私がめちゃくちゃ意図的に書いていくので、絶対行ける、って自信はあったんです。

当時の社長である三木純一さんから坪井さんに声がかかった

--一読者として読んでいると、坪井さんが暴走しながら書いてるみたいに面白おかしく感じますが、ちゃんと企画通りだったということですね。
坪井:実は社内でもいまだに私が勝手に書いている、って思っている人が結構いらっしゃるんですよ(苦笑)。確かに私が勝手に気ままに書き散らかしている体だけど、実はすごい計算ずくでもあるんです。だからこそ、私もビクビクせずに書くことができたし、ちゃんと話合って意図を決めているので「とにかく文章に手を入れないでほしい」って言って、すごい空気の中、メルマガ発行にこぎつけたんです。

今では新製品が登場する際に、「メルマガで取材して!」と社内から声がかかるようになったと話す坪井さん

読者からはメルマガを辞めさせないで!という心配と応援のメッセージが…

--あれだけ破天荒なメルマガだと、当初はやっぱり社内のみんなウェルカムな感じではなかったんですね。
坪井:一方でありがたいことに読者のみなさんから毎号、毎号アンケートに「『ローランドの楽屋にて』がやめさせられませんように!」といったコメントをいただいていました。それだけ外から見てもヒヤヒヤしてたんでしょうね。そんな中、藤本さんがFacebookに投稿してくださったあたりで、社内でも少し話題になり、「おっ」という雰囲気も感じられるようになりました。それでも当初はなかなか取材にとりあってもらえないことあったりして苦労しました。でも読者のみなさんのおかげ、外部からの声で、本当にちょっとずつではあるけれど、味方も増えていきました。今では新製品が出るタイミングで「ぜひメルマガで取材して欲しい」なんて声が出てくるようになりました!

たぶん役には立たないけど、開発の裏話などもいっぱい載ってる

--そんなに苦労されていたんですね(苦笑)。2017年12月創刊だから、まもなく満7年ですよね。当初から長期連載を想定していたんですか?
坪井:まったくの想定外です。当初から「礎だけ築いたら若い社員にバトンタッチして私は消えますから、いつでも『坪井さん次号でさよならです』って言ってくださって大丈夫ですよ」って言ってたんですよ。本当に読者の皆様のおかげで、残っているというのはすごく嬉しいです。一般的な企業メルマガの開封率って20%いけば成功と言われているのですが「ローランドの楽屋にて」は平均で50%越えをずっとキープしていて、60%を超えることもあるんですよ。ありがたいことですね。

読者との交流を図るオフ会もリアルで3回開催してきた

--そんなある種熱狂的な読者のみなさんとオフ会もやってるんですよね?この3月に浜松で行われたオフ会は私も参加させていただきましが……。
坪井:はい、東京で1回、大阪で1回やって、「参加したい人は自腹でやってきて!飲食費も各自で」という企業のメルマガのオフ会として普通はありえない冷遇ですよね。ほかにもオンラインのオフ会?オン会?もコロナの時期に1回あったのと、配信も3回くらいやってますね。一方で、この前の3月に浜松で行ったのは、ちょっと変わった形でのご招待でした。この「ローランドの楽屋にて」の読者様限定イベントとして「テクノロジーには思想がある。電子楽器の未来に示唆するものとは」というタイトルのシンポジウムをローランド研究所で行った際に、メルマガ読者のみなさんにお声がけして、参加者を募ったんです。結果的には想像以上の応募があり、抽選となってしまいましたが、そのイベントのあとにオフ会を行ったんです。このシンポジウムでは藤本さんが司会役で、メディアアーティストの落合陽一さん、TR-808やTB-303の開発をリードした元社長である菊本忠男さん、そしてローランドの執行役員が2名入るという大々的なものでしたが、とっても面白かったですよね。

「ローランドの楽屋にて」の読者様限定イベント?という形で、すごいシンポジウムが行われ、筆者は司会として参加した

--そうそうたる方々を相手にする司会で、めちゃ緊張しましたが、面白かったです。その後のオフ会も濃い内容で楽しかったですが、ぜひ今度は普通のオフ会に参加してみたいですね。今後、「ローランドの楽屋にて」はどんな展開になっていくのでしょうか?
坪井:そこはもちろん企業秘密なのでここでは明かせませんが、ぜひメルマガに登録いただければ、あんまり役には立たないけど、なぜかおもしろいローランドの裏話が届くようになります。発行は毎週木曜日の朝7時が原則で、濃くてゆるいローランドの楽屋ばなしが届きます。そして毎月抽選でどこにも売ってない激レア・ローランドグッズが当たります。さらに時々オフ会もするので、楽屋仲間とワイワイできるかもしれません。ぜひ、メルマガへの登録をお願いします。

--ありがとうございました。

「ローランドの楽屋にて」に登録することで得られる3大特典!!

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