無料版も公開中のカワイのスコアメーカーZERO、VST3音源に対応とともにSynthsizer VやVOCALOIDなどとの連携も実現

Windows用の楽譜作成ソフトとして長い歴史を持つカワイのスコアメーカー。その最新版がスコアメーカーZERO Ver.12.1.082というバージョンです。2017年にスコアメーカーZEROという名称になってからもDTMステーションで何度か取り上げてきましたが、かなり頻繁にアップデートを繰り返すとともに、機能、性能をどんどん向上させてきています。基本的には年間ライセンスもしくは月間ライセンスという形でのサブスクリプションの製品となっていますが、2023年8月には無料版も登場し、誰でも気軽に使える楽譜作成ソフトとして幅広く使われるようになりました。

その無料版も含むスコアメーカーZEROが、先日さらに機能強化され、VST3音源で演奏させることも可能になるとともに、作成した歌詞入りの楽譜データをボーカル音源用としてエクスポートする機能が搭載されたことで、Synthesizer VVOCALOIDCeVIO AIまたVoiSonaなどへ受け渡し、それらで歌わせることも可能になりました。一方で、無料版を含むスコアメーカーZERO本体にもボーカル音源機能を備えているので、これ単体で歌わせることも可能となっています。その最新のスコアメーカーZEROを試してみたので、紹介してみましょう。

カワイのスコアメーカーZERO。最新版ではSynthesizer VやVOCALOIDなどとの連携も可能になった

カワイのスコアメーカーZEROとは

以前「カワイの楽譜ソフトが歌うようになった!?どんどん進化するスコアメーカーZERO」、「かすれた譜面もAIを使った認識で楽譜に入力。国産譜面ソフト カワイのスコアメーカーZEROの実力」といった記事でも紹介したことがあるカワイの楽譜作成ソフト、スコアメーカーZERO。

カワイが最初にスコアメーカーを出したのが1995年とのことなので、来年で30周年を迎えるソフトです。もちろん楽譜作成ソフトとしては海外勢であるFinaleやSibelius、Doricoといったものがありますが、スコアメーカーはこれらとは少し違った位置づけのソフトとして進化してきた、という歴史があります。

音符を入力して楽譜を作ることができる、という点ではどちらも共通しているのですが、海外勢のソフトは、自分で入力して浄書用も含め楽譜を作ることを目的に進化してきているのに対し、スコアメーカーZEROは楽譜を使うということを目的に進化してきているのです。

高精度で譜面を認識でき、それを歌わせることまで可能

中でもズバ抜けた性能になっているのが、世界最高レベルであるとされる楽譜認識機能です。手元にある楽譜をスキャナを使って読み込んで認識させるだけでなく、スマホで撮影したものでもAIを駆使して高精度に読み取り、それを楽譜データとして表示するだけでなく、そのまま演奏させることが可能になっているのです。読み取る楽譜の対象は印刷されたものであるもので、手書きの楽譜は対象外なのですが、ピアノピースなどの通常の印刷楽譜はもちろんのこと、歌詞を含む合唱曲の楽譜、輸入楽譜、ミニスコア、コードネームやドラム譜、タブ譜を含むバンドスコア、手書き風に印刷された楽譜もかなりの精度で読み取ることができるのです。

その読み取ったものは簡単に移調することもできるし、もちろん自由に情報を追加するなど編集が行えるし、パート譜にして印刷するといったことも可能になっています。

2023年8月に無料版がリリースされた

そんなスコアメーカーの最新版がスコアメーカーZEROという名称になったのが2017年。そのタイミングで、買い切り側ではなく、年額ライセンスまたは月額ライセンスという形でのサブスクとなりました。

また当初は

スコアメーカーZEROプラチナム
スコアメーカーZEROスタンダード
スコアメーカーZEROエディター

という3つのラインナップで販売されていたほか、編集機能のないスコアメーカーZERO(プレーヤー)という無料版がありました。

しかし、昨年8月のアップデートのタイミングでスコアメーカーZEROエディターがスコアメーカーZERO(エディター)という名称に変更されるとともに、これが無料公開される形になったのです。またスコアメーカーZERO(プレーヤー)はこの時点で役割を終えた形になっています。

無料版のスコアメーカーZEROが誕生。楽譜認識機能はないが、譜面作成においては一通りのことができる

その無料公開されたスコアメーカーZEROが、上位版であるプラチナム、スタンダードと異なる一番の点は、先ほど紹介した楽譜認識機能を装備していない、という点。とはいえ、このソフトを使って自分で楽譜入力していくことは可能ですし、入力した結果を印刷することもできるし、演奏することも可能です。そして、スコアメーカーZEROの大きな特徴となっているボーカル音源機能も利用可能です。詳細は以前の記事「カワイの楽譜ソフトが歌うようになった!?どんどん進化するスコアメーカーZERO」を参照いただきたいのですが、テクノスピーチが開発した歌声合成エンジンを搭載しており、男性ボイス、女性ボイスで歌わせることが可能になっています。

スコアメーカーZERO上のボーカルパートを直接歌わせることも可能

またこの後で紹介する最新版の機能であるVST3音源への対応やSynthesizer VやVOCALOIDなどとの連携機能も無料版のスコアメーカーZEROに装備されているのです。

つまり、いわゆる体験版などとは違い、完全な楽譜作成ソフトとして使えるものなのです。ちなみにスコアメーカーZEROプラチナムやスコアメーカーZEROスタンダードの機能を15日間無料で試すことができる試用版も存在しますが、ここでいう無料版とは別モノ。本当に期間制限とか、保存ができない……といった制限もなく使うことができるのです。

なお、スコアメーカーZEROプラチナム、スコアメーカーZEROスタンダード、スコアメーカーZEROの主な機能の違いは以下のとおりです。

ラインアップ スコアメーカーZEROプラチナム スコアメーカーZEROスタンダード スコアメーカーZERO(無料版)
楽譜表示・印刷
演奏
編集
最大パート数 256 16 16
音色数 756 756 756
伴奏スタイル数 422 422 422
プリセット演奏記号(発想標語)数 313 61 61
演奏記号(発想標語)の作成 × ×
楽譜の整形機能 × ×
記譜フォントの変更 × ×
記譜ルールの詳細設定 × ×
タイムラインで歌詞編集 × ×
演奏順序設定 × ×
楽譜認識 ×
認識最大パート数 256 16 ×
パート名自動検出 × ×
移調楽器の自動認識 × ×
拡張キット対応 × ×
楽譜が歌う
スマートレイアウト
スマホ認識 ×

VST3音源に対応

さて、そのスコアメーカーZEROが先月アップデートしたタイミングで搭載されたのがVST3音源への対応です。

これまでもVST2には対応していたのですが、今回いよいよVST3対応となったのです。ご存じの通り、VST2はSteinbergがすでにサポートを終了しており、今後消えゆく運命にある規格。確かにフリーウェアなどはVST2止まりとなっているものが少なくないですが、市販の音源はほとんどのものがVST2からVST3へ移行しているので、それに対応する形でスコアメーカーZEROもVST3対応となった模様です。

使い方は簡単。演奏したいパートを選択した上で、プロパティを開くと、「楽器・歌の選択」という項目がデフォルトでは「通常楽器」となっています。

パートを選択の上、プロパティを見ると「楽器・歌の選択」が通常楽器になっているので、これをVSTiに変更する

ここをクリックしてプルダウンメニューを開くと上の画面のように

通常楽器
VSTi
ボーカル(歌詞を歌う)
階名で歌う

とあるので、ここからVSTiを選択。すると、プラグイン音源の一覧が表示されるので、この中から使いたい音源を選択してください。ご覧いただくとわかる通り、この一覧にはVST3のプラグインもVST2のプラグインも含まれています。

VSTプラグインの一覧が表示されるので、使いたい音源を選択する

なお、カワイのスコアメーカーZEROのサイトの説明を見ると

VST3音源に対応しました。(すべてのVST3音源の動作を保証するものではありません)

といったことが記載されています。実際に試してみたところ、ほとんどのもので問題なく動作するのですが、Native InstrumentsのKONTAKT7がうまく動作しないなど、一部動作しないものもあるようでした。

また直接、演奏させることができるわけではありませんが、VSTiとしてSynthesizer VやVoiSonaなどを指定することが可能で、この場合、同じテンポで同期して一緒に演奏させることが可能になっています。

SMF/MusicXMLのボーカル音源用エクスポート機能搭載

そして、その歌声合成ソフトに関連するもう一つ新たな機能が搭載されました。それがボーカル音源用のエクスポート機能です。

エクスポート機能としてSMFやMusicXMLが従来からサポートされていた

これまでもスコアメーカーZEROではスタンダードMIDIファイル(SMF)やMusicXMLでのエクスポート機能を持っていましたが、今回のバージョンアップでは、そのエクスポート時に登場するダイアログにおいて「出力種類」に「外部ボーカル音源用」というものが追加されています。

SMFとMusicXMLエクスポート時に「外部ボーカル音源用」が選択できるようになった

Synthesizer VやVOCALOID、CeVIO AI、VoiSonaといった歌声合成ソフトでは、歌詞情報の入ったSMFやMusicXMLをインポートできるようになっていますが、基本的にはシングルパートのデータにしか対応していないため、マルチパートのSMFやMusicXMLを読み込むと誤動作を起こして、正しい歌い方ができません。

そこで、この「外部ボーカル音源用」を選択するとともに、どのパートを使うのかを指定することで、正しく歌声合成ソフトにデータを送りだすことが可能になるのです。

ボーカル音源に歌わせたいパートを選択する

たとえばSynthesizer VやVOCALOIDの場合はSMFをインポートできるので、スコアメーカーZERO側ではSMFのエクスポートを行い、その際「外部ボーカル音源用」を選択の上、ボーカルデータが入っているパートを選択して出力します。それをSynthesizer VやVOCALOID側で読み込むのです。

Synthesizer VでSMFデータをインポートすることで歌わせることができる

またCeVIO AIやVoiSonaの場合はMusicXMLのインポートが可能なので、スコアメーカーZERO側でMusicXMLのエクスポートを選択の上、同様に「外部ボーカル音源用」として出力し、CeVIO AIやVoiSonaで読み込むことで歌わせることが可能です。

MusicXML経由で受け渡すことで、VoiSonaでも歌わせることができる

この機能は無料のスコアメーカーZEROでも利用可能ですが、有料版のプラチナムやスタンダードであれば、手元にある歌詞が書かれた楽譜を読み込んでそれを認識させ、各歌声合成ソフトで歌わせるという一連の作業を本当に簡単に、短時間で行うことが可能です。漢字の歌詞の場合は自分でひらがなに展開する必要はありますが、とにかく効率よく作業することができます。

もちろんバックパートもスコアメーカーZEROのVST3音源で演奏させることができるだけでなく、DAWにエクスポートして、DAW上で演奏させることもできるので、手持ちの楽譜を効率よくDTMで演奏させたいという場合、これ以上強力なツールはないと思います。

【関連情報】
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