著作権や原盤権、実演家の報酬請求権、AIを利用した音楽の権利…などなど、難しそうであやふやにしているけど、絶対知っておかなければいけないことが、まとめて理解できる音楽・動画クリエイターの必読の書籍「弁護士で作曲家の高木啓成がやさしく教える音楽・動画クリエイターの権利とルール」が第2版に改訂されました。以前「クリエイター必読の一冊が出版!『弁護士で作曲家の高木啓成がやさしく教える音楽・動画クリエイターの権利とルール』」という記事で紹介した当初、売り切れ続出だったこの本が、より分かりやすく、さらにAI関連、企業案件の契約などが加筆され、まさに今必要な情報が詰まった内容となったのです。
4年前にこの本が初めて発売されたときよりも、個人クリエイターが増え、さらにAIも大きく進化してきました。そんな激動の時代だからこそ、トラブルを未然に防いだり、損するケースを回避するのはとても重要です。ちょっとしたことだと思ったら、後々大問題に発展して、本来集中したい活動に支障をきたしたら大変。なので、まずは実例や挿絵が入って読みやすいこの本で、ざっと権利問題は理解しておきたいところ。この本は、音楽クリエイター編、動画クリエイター編、契約・トラブル編、モデル契約書集、と4つの章で構成されているため、ほとんどのケースがカバーされています。今回も著者である弁護士で作曲家というユニークな肩書を持つ高木啓成さんにお話しを伺うことができました。前回は高木さんのプロフィールや「弁護士で作曲家の高木啓成がやさしく教える音楽・動画クリエイターの権利とルール」の概要を伺ったので、今回はAIで作った作品の権利についてフォーカスして、いろいろと質問してみました。
個人クリエイターが大きく増えたことから改訂を実施
--今回本の内容を大きく改訂しようというキッカケはどういうことだったのでしょうか?
高木:4~5年前に書いたころと比較して、個人クリエイターの活躍が広がったように思えることが大きなキッカケです。従来のように作家事務所に所属して、そこからコンペを勝ち抜いてプロを目指す……というよりも、最近は個人でYouTubeなどを使って発信する方が急速に増えています。これまでの音楽業界の在り方とは明らかに異なる活動をする方が目立つようになってきました。個人クリエイターが増えた結果、全部事務所任せではなくなり、自分で契約を行う必要がある人が多くなっているからこそ、それに対応した本にしたいと思ったのです。そこで、今回「第2版 弁護士で作曲家の高木啓成がやさしく教える音楽・動画クリエイターの権利とルール」を発売することとなりました。
--初版との違いは、その個人クリエイターに向けた話の部分ですか?
高木:それだけではなく全ページ修正しており、初版の読者からの疑問をよりしっかり解説したり、JASRACの運用が変わったりしたのでそれを反映させたり、新しい裁判例を追加したり、さらにはAIについてや企業案件の契約など新規で加筆しています。その結果、60ページぐらい増えています。初版についてみなさんにご好評いただき、クリエイターのみならず、企業サイドの方からも分かりやすくて楽しく読めましたという声をいただき、企業側にもこういった本は需要があるのか、と驚きました。またこの本では、たとえ話として「君に異議あり!」というタイトルの架空の曲を例に出していたのですが、楽曲を聴きたいという声があったので、第2版のタイミングに合わせて実際に制作しました。ぜひこちらも聴いていただければと思います。
日本ではクリエイターに無断で機械学習しても適法
--さすが弁護士で作曲家なだけあって面白いですね。いろいろ加筆されているとのことでしたが、やはり気になるのは、AI関連の話です。
高木:AIについては、社会的にも議論になってますよね。今どういう議論が行われているのか、一応文化庁が素案を出していて、こう考えています。というのが割と明確になっているので、その部分は丁寧に解説しています。まず、その素案としてはAIが我々クリエイターに無断で学習するというところの適法性について。これは基本的に適法としています。海外では比較的NGとなる場面が多い中、日本は原則OKという扱いになっていますね。これは情報解析については概括的にOKにしようという2018年の著作権法改正によるものです。当時はAIというよりも、ビッグデータを集めるというところにおいて、著作権者側の了承を得なくてもよいとしたのです。あくまで僕の考察ですが、最近AIが予想以上に影響を持っているとはいえ、2018年に改正したばかりなので、AIの機械学習だけ特別扱いできないという事情もあるのだと思います。
--一方、クリエイターがAIを使うとなったとき、その著作権などはどうなるのでしょうか?
高木:たとえば「『君に異議あり!』というタイトルで歌詞を作って」というようにプロンプトを入力して出てきた歌詞については、著作物ではありません。これは、AI利用者の著作物ではないのはもちろん、AI企業の著作物でもなく、誰の著作物でもないのです。これは動物がたまたま描いたもの、などと同じような扱いとなります。では、どういった場合であれば著作物性が認められるのかというと、これは素案で一応の要素が挙げられています。たとえば、プロンプトをたくさん入力してそこに創意工夫があるかどうか、何度も試して出てきたものから選択したか、それらに対して自分で加筆修正しているか、などです。こういったところを総合的に判断して、創作的な寄与が認められる、ということであれば著作物性が認められる、と素案では解説されています。
人とAIの共同著作物という考え方はあるのか!?
--なるほど、それを誰がどう証明するかも難しそうですね。たとえば、最近「1番は自分で作って、2番はAIに歌詞を書いてもらう」なんて話をよく聞くのですが、こういうパターンはどうなのでしょうか?
高木:その場合2番は自動生成されたという形になるので、1番は著作物として認められるけど、文化庁の素案からすると、2番は著作物性が認められないということになります。とはいえ、歌詞は、1番と2番含めて1つの著作物ですよね。実はこの場合、どう判断するか明確な見解は出ていません。たとえば、1番を僕が作り、2番を藤本さんが作ったとすると、これは僕と藤本さんの共同著作物になります。しかし、AIが生成したものは著作物ではないので、1番を僕が、2番をAIが生成した場合には、僕とAIの共同著作物とはなりません。じゃあ1番も2番も一体として僕の著作物になるのか?というと、そうでもなさそうで、正直、この歌詞がどのような取り扱いになるのかはハッキリしていないですね。今後、議論が深まっていくところだと思いますが、僕の提案として書籍の中で強調しているのは、著作物として認められる要素を把握した上で、自分の著作物だとちゃんと説明ができるようにしておこう、ということです。
--創意工夫があればAIが生成したものも著作物になり得るとのことだったので、その記録をしっかり残しておく、ちゃんと説明できるようにするのが重要ということですね。
高木:そうですね。できるだけ途中経過を保存しておくなど、記録を残しておくといいと思います。AI関連でいうと、原盤権も問題になります。たとえばiZotopeのOzoneなんかは僕もよく使っていますが、これはAIによるマスタリングである、と言ってますよね。これについても私見にはなりますが、Ozoneを使ったとしても問題なく原盤権を取得することができます。一方で、最近は自分が作ったトラックとAIが生成したトラックを組み合わせた場合なども出てきています。いろいろなシチュエーションが考えられますが、AIが生成したトラックが含まれるからといって原盤権が発生しないというようなことはなく、従来のサンプル素材やループ素材を組み合わせた音源と同様の扱いで、自分に原盤権があると考えていいと思います。
進化の早いAIに法律が追い付かない!?自己防衛のためには制作経過の記録が重要
--もうひとつ個人的に伺いたいのは最近話題のSuno AIを活用するケースです。Suno AIの場合、2ミックスのデータが生成されるわけですが、これを別のAIでSTEM分解した上で、ボーカルを消して別のメロディに差し替えたら、それは自分の著作物になりますかね?
高木:基本的に著作権は歌詞とメロディの権利なので、メロディを差し替えたら、そのメロディは自分の著作物といえますね。ただ、原盤権は悩ましいです。歌を歌って入れましたという部分に関してはレコーディングの権利(著作隣接権)も発生しますが、それ以外の全てがAIのステムということになると、果たしてその音源の原盤権を取得できるのか、正直わからないことが多いです。少なくとも、各ステムを耳コピしてMIDIで作り直すことをおすすめしたいです。今後、さらにAIも進化していくだろうし、文献や判例も出てくると思うので、それ次第ですね。今できることでいえば、繰り返しになりますが、クライアント仕事の場合はなおさら、自分の著作物である、原盤権も自分にある、ということを、しっかり説明できるようにしておくことが大切ですね。
--今年、さらにAI作曲の精度などは上がって、そろそろ人が感動するような曲を作ってくる可能性がありますよね。そうしたときに、本当はAIが作ったのに「自分が作詞・作曲した!」と言い張ったらどうなるんでしょう?
高木:これは、もう分からないですね。著作権法14条で、その人のクレジットの音楽だという場合には、その人が著作者だと推定される、という規定はあるのですが、これは「AIがつくったものではない」という推定までではないんですよ。なので、そうしたトラブルを避けるためにも制作過程を記録していくことはますます重要になっていきそうですね。
--AI関係の話は尽きないですが、権利回り、契約回りの話がこの改訂版の本を読めばわかるわけですね。
高木:そうですね。個人クリエイターとして活動する場合、企業との取引において契約書を交わすといったケースも増えてきています。そうした際に役立つよう、契約書のひな型となるものもいろいろ掲載してるので、ぜひ多くの方のお役に立てると嬉しいです。
--ありがとうございました。
書籍内に登場する楽曲『君に異議あり!』をリアルな音楽作品に
初版のときにも、たとえ話として『君に異議あり!』というタイトルの曲がたびたび話題として登場していました。もちろん、あくまでも架空の曲だったわけですが、本の読者から「ぜひ『君に異議あり!』を聴いてみたい!」という声が結構多く集まったのだとか。高木さんも、「たしかに作ってみたら面白そう」という思いから、この書籍のテーマソングとして、第2版の発刊に合わせて実際に制作したのだとか。そこは、まさに作曲家としても活動している高木さんだからこその発想。
しかも単に高木さんがトラック制作するだけではなく、ボーカルレコーディングはINSPIONさん、ミックス・マスタリングは森元 浩二さんにお願いするとともに、MVもMusic & edit Inc.さんに依頼して制作するなど、かなり本気の作品となっています。ちなみに、今回インタビューした日にはCM制作スタッフが撮影に来ていたのですが、なんと「第2版 弁護士で作曲家の高木啓成がやさしく教える音楽・動画クリエイターの権利とルール」のテレビCMも放映予定なのだとか…。
高木さんに伺ったところ、『君に異議あり!』の制作においてDAWはLogic Proを使い、音源は主にシンセはSERUMとSylenth1を使って打ち込みで制作しているそうです。ドラム音源はSteven Slate Drums、ベース音源はMODO BASSを使っているとのこと。ギターだけはレコーディングでやきにくたべこさんが、そしてボーカルは、かなでももこさんが担当しています。聴いてみると分かるとおり、ガヤが結構はいっていますが、これは高木さんと、高木さんの弁護士事務所のインターン生によるものとのこと。ぜひ、その辺もしっかりチェックしてみると面白いと思いますよ。
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