作曲本のベストセラー「作りながら覚える 3日で作曲入門」がバージョンアップ=改定して、「作りながら覚える 3日で作曲入門2.0」として出版されています。2016年に発売された「作りながら覚える 3日で作曲入門」は作曲本としては異例のヒットで、DTMで作曲を始めようと思ったときにこれを読んでスタートしたという方も多いと思います。そんな作曲の定番入門書として読まれている、この本が「作りながら覚える 3日で作曲入門2.0」として、現代のスタイルに合わせ2024年1月30日から発売されています。
著者のmonaca:factory(10日P)@monaca10pさんには、以前「ボカロPがニコ動で一発ヒットさせれば、音楽で食べているのか!?」でインタビューさせていただいたり、「ゼロから始める人のための入門書『作曲はじめます! ~マンガで身に付く曲づくりの基本』」という記事も書いたりしていますが、今回も直接お話しを伺うことができました。作りながら覚える 3日で作曲入門2.0の内容をはじめ、インターネットで稼ぐことについて、今と昔の活動の違いなど、作曲を始めて活動し始めたらぶつかる疑問など、いろいろと伺ってきたので紹介していきましょう。
確実に1曲作り上げることのできる本「作りながら覚える 3日で作曲入門2.0」
--改めてではありますが、作りながら覚える 3日で作曲入門2.0がどういった本なのか教えてください。
monaca:この「作りながら覚える 3日で作曲入門2.0」は、2016年に出版した「作りながら覚える3日で作曲入門」のリニューアル版として書き直した、まずは真似して打ち込むだけで1曲作れる、という本です。前作はありがたいことに多くの方にお読みいただいたのですが、発売した後、自分のオンラインサロンなどで人に作曲を教えて行くなかで、もっとこう書けばよかった、こっちの方が伝わりやすかったのかな、といったところがいっぱい出てきたので、それらを新たに盛り込みました。結果的には、全ページに何かしらの加筆修正が入っているので、新しい本を丸々作ったくらいの作業感はありましたね。
--ほぼ全ページ加筆しているんですね。
monaca:前作と大きく違うのは、取り扱っているDAW/シーケンサがDominoからStudio Oneの無料版であるStudio One Primeになっている点です。Studio Oneであれば、これからより作曲をしていきたくなった場合、次のDAWに迷うことなく、上位版を購入すれば本格的な作曲が可能になります。しかも、プロ御用達のソフトなので、この先使えるようになって損はありません。一方Dominoだと、MIDIシーケンサでオーディオが扱えないなど限界があるので、より本格的に作曲を行おうと思ったら、ソフトの引越し先を探すところから始めなくてはいけないんですよね。とはいえ、Dominoにもいいところはあります。前作ではCD-ROMを付属していましたが、これでDominoをインストールして使えたので、最初Studio Oneを導入する際よりも手軽といった利点がありました。一長一短ですが、PCの操作が得意な人は、「作りながら覚える 3日で作曲入門2.0」を。あまり得意ではなくて、CDを読み込めるPCを持っているのであれば「作りながら覚える3日で作曲入門」の方が、インターネットに接続する必要もないので、DTMをはじめやすいかもしれませんね。
--現在も「作りながら覚える 3日で作曲入門2.0」と「作りながら覚える3日で作曲入門」はどちらも販売されているんですね。
monaca:はい。ほかにも細かい表現などを変更しました。たとえばコード進行を意味する数字があるのですが、作曲の世界では一般的に、「Ⅳ-Ⅴ-Ⅲm-Ⅵm」のようにローマ数字で表記されます。しかし日常生活では一般的ではないので、今作では「4-5-3m-6m」という表記を採用しました。そしてこれらの数のことを度数(ディグリーネーム)と書いたりもしていたのですが、煩雑な言葉は廃止して単に数字と呼ぶようにもしています。さらに、サンプル音源を新たに2曲追加し全12曲になったりなど、あらゆる点でアップデートをしています。
--この本は、どんな人に読んでもらいたいですか?
monaca:まずは、作曲を始めてみたい人ですよね。今の時代YouTubeなどで作曲方法の動画などはたくさん上がっていますが、1曲作り上げるための入り口としては、インターネットの情報は多すぎます。本の情報には限りがありますが、その分内容に集中できますし、達成感も感じやすいかなと思っています。ほかにも作曲には興味なかったけど、何か始めてみたいと思っている人が本屋で見つけて手に取ってくれたら、とても嬉しいですね。
--これまで作曲本と言われるものは数多くありますが、「作りながら覚える 3日で作曲入門2.0」はそれらと何が違うのでしょうか?
monaca:たしかに、作曲本はたくさん存在していますが、初心者向けとして考えたとき、ほかの作曲本は専門的な知識から入りますが、「作りながら覚える 3日で作曲入門2.0」は何も分からなくても、まず手を動かす作りになっているのが大きな違いですかね。実際に僕もさまざまな本を読みましたが、多くが最初五線譜が引いてあって、度数を覚えることから始まるんですよね。また知識は書いてあるけど、それをどう作曲に活かしたらいいか分かりにくいなど、自分だったらこうするのになというポイントが多くありました。また、DAWを主軸に作曲を教えるというのも、昔からある作曲本と大きく違う点でしょうね。「作りながら覚える 3日で作曲入門2.0」では、難しい専門的な部分は説明しておらず、順番に進めれば1曲作り始めることができます。まず、作曲の楽しさを感じてもらって、もっと専門知識を知りたいと思ったら、また別の本やインターネットで、どんどん勉強していってもらえればと思います。
10円を稼ぐところから、まずは始めよう
--作曲して曲が完成したら、発表先の1つとしてインターネットがありますが、やはりここがおすすめですか?
monaca:まずはニコニコ動画やYouTube、各SNSなどにアップすることで手軽にほかの人に音楽を聴いてもらえますよね。特に今のニコニコ動画はすぐに収益化できるので、1000人以上のチャンネル登録者が必須というYouTubeの収益化のハードルの高さを考えると、ニコニコ動画を主軸にしてもいいかもしれませんね。音楽を作ってアップして、気づいたら10円でも収益が上がっていたら嬉しくないですか?10円で何ができるというわけではないですが、これまでできなかったことができるようになって、しかもそれでお金を稼げるきっかけをすぐに作れるのはニコニコ動画でしょうね。それがモチベーションになるかどうかはさておき、嬉しさや小さな成功体験を感じることはできますよね。
--それこそ、monacaさんが始めてニコニコ動画にアップしたときと、今の環境でいうと、かなり違いがありそうですよね。
monaca:当時は、動画をアップして収益化する仕組みはありませんでした。それに、初期の頃はネットで稼いではいけない風潮が強く、90秒のショートバージョンをアップして「フルバージョンはCDで」といったCDの販売に繋げると叩かれる人もいました。まぁみんな楽しくやっていたので、稼ごうと思ってボカロPを始めた人はいないんじゃないんですかね。けど、再生数とマイリスト数は、みんな意識していました。お金と再生数は直結していなかったけど、再生回数を競い合っていましたね。そういった時代を経て、だんだんクリエイターにも対価を、という発想になって、今ニコ動は誰でも再生数に応じてある程度の収益を得ているような状況ですね。
再生回数とお金が直結している現代の問題点
--当時とマインドが結構違うんですね。
monaca:今の子たちは中学生でも、広告費でクリエイターにお金が入ることを知っていますよね。しかも、ニコ動全盛期なら多分50万再生ぐらいで、そこにいる誰もが知っているような時代から、今のYouTubeではチャンネル登録者が50万人いても、知らない人がいる時代になっています。それぞれ好きなものが細分化されていて、けど母数は増えていて、音楽というカテゴリだけでも、自分の隣に1億再生とかトッププロがいるので、比較されてしまいますよね。ある意味、当時は井の中の蛙だとしても、人気があることを感じられ、それがモチベーションになっていた人もいると思いますが、今はそれが難しくなっているので、より劣等感を感じやすい環境であるとは思います。
--当時も再生回数は見られてたと思いますが、それが今はお金に直結していて、さらに全世界と比べることができると。
monaca:また投稿者も増え、ドワンゴが主催する参加型イベントのボカコレでは4日間で5000曲以上がアップされるんですよ。世界と比較されるのもありますが、近いライバルがたくさんいて、うまくいっている人がどうしても目に入ってしまうので、プロになろうとか本気度が高い人ほど挫折しやすいと思います。劣等感とは切り離せないので、そことどううまく付き合うかも大事な要素かもしれませんね。世間のペースではなく自分のペースを見つけて作品を作り続けてもらえたらと思います。
個人クリエイターはゴール型ではなく、プロセス型を目指すべき
--継続していくのって難しいですよね。monacaさん的には、どうしたら音楽を諦めることなく、続けることができると思いますか?
monaca:僕は作曲に限らず、何かを始めるときの考え方として、プロセス型とゴール型があると考えています。ゴール型というのは、まず自分の理想があって、そこに向け進む考え方。プロセス型というのは、特に大きな目標を立てることなく、目の前の課題などをコツコツと進める考え方。ゴール型で考えるとどうしても、うまくいかなかった時のダメージが大きくなることもあります。ボカコレでトップ100に入れなかったら敗北感を感じて辞めたりですね。極端ですが、音楽で食って行くからと機材のために貯金を全部使ってしまったり、見通しがないまま学校や仕事を辞めたりのような、「こうでなければ負け」といったギャンブル的な発想に囚われなくてよいと思います。なので、僕が作曲を始める人に伝えたいのはプロセス型の考え方。お金がすべてではないですが、1円稼げるようになったら、次は10円、100円、1000円と、その積み重ねの結果、気付いたら本業として音楽で生活できる日が来るかもしれない。別に最初からプロになると張り切りすぎず、長く音楽と付き合っていってほしいですね。
--プロセス型とゴール型、とてもいい考え方ですね。
monaca:といっても、ゴール型で成功した人の方がかっこよく見えちゃうので、多くの人がそっちを目指してしまうんですけどね。1度は挫折したけど金メダルを取れましたとか、こんな苦労しましたとか、ドラマチックなストーリーがあって、人生すべて賭けましたとか。かっこよく見えるけど、現代の個人クリエイターは、プロセス型で考えるべきだと思います。それこそ、みんなプロって響きが好きですけど、プロって何を持ってプロなんでしょうね。だって、たとえば絵はあまり上手くなくてもSNS漫画でバズっている人の方が、商業漫画家よりも稼ぐとかもありそうですよね。技術が長けていればプロなのか、稼いでいればプロなのか、有名事務所に所属しているとプロなのか、定義が難しいですよね。だから、あまり意識し過ぎなくてもいいかなと。
--何を持ってプロなのかは難しいところですよね。
monaca:たとえば、自宅で趣味でコーヒーを挽いていて、ご近所さんとか地域のイベントで0円で配っていたら、誰かがある日美味しかったといって100円くれて、それを繰り返していたら、口コミで広がって半年後には小さなコーヒー屋さんを開くようになったとか。これがプロセス型の考え方。一方ゴール型は、詳しく分からないですけど、プロのコーヒー家になるぞと思って、専門学校に100万円、200万円払って、2年間学んで、コンテストに出て優勝できなかったから、才能ないのかなみたいな。まあ全然違う考え方ですよね。けれど、プロセス型でも最初においしいコーヒーを淹れられないと、そこから展開はしていかない。まず、ちょっとコーヒーの淹れ方を勉強してみようかなくらいの軽い気持ちで、作曲のスタートラインとしてぴったりなのが「作りながら覚える 3日で作曲入門2.0」という感じですね。
--ちなみにmonacaさんは、オンラインサロンも運営されていますが、これはどういったことをされているのでしょうか?
monaca:詳細についてはWebページ(https://lounge.dmm.com/detail/6591/)をご覧いただきたいのですが、ここでは1歩1歩確実に曲を作れるようになるための方法を教えています。基本的には、課題をいくつか設けて、それをクリアしていくと、楽曲が作れるようになっていくという感じですね。参加している人は、20代〜40代の方々が多く、サロン生が作った曲を集めてCDを制作し、ボーマスやマジカルミライ・クリエイターズマーケットといった名だたるボカロイベントで実際に販売したりもしています。作曲とかDTMをしていて、1人だと分からないことが多いからそれを知りたいだったり、モチベーションが続かないだったり、まったく作曲をしたことない人でも参加OKなので、ぜひチェックしていただけたらと思います。
--ありがとうございました。
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