OzoneやRX、NeutronなどAIを活用した画期的なプラグインで圧倒的な人気を誇るソフトウェアメーカー、iZotope。そのiZotopeが以前に出していて多くのユーザーに利用されるなか販売を終了してしまったTrashというディストーション系のプラグインでした。単にサチュらせて歪ませるというレベルに留まらず、歪ませ方を自由に、そして細かくコントロールすることによって、サウンドを根本的に変えてしまう威力を持っていたことから、EDMやエレクトロ系のミュージシャンに人気のツールとして話題になっていました。
そのTrashは2012年にリリースされた新バージョンのTrash 2が人気を呼び、その後アップデートを繰り返してきたのですが、2022年12月にリリースされた2.06というバージョンを最後に販売が終了に。各方面から惜しむ声が上がっていたのですが、本日2024年3月12日に、Trash復活となりました。従来のTrash 2の基本は踏襲しつつ、UIは大きく変わり、よりパワフルに、より使いやすいものへと進化しています。名称的にはTrash 3ではなくTrashとなりメーカー希望小売化価格は16,200円ですが、4月16日まではイントローセールとして12,800円となっています。また従来のTrash 2を持っている方なら8,200円が4,800円とより手ごろな価格でアップグレード可能となっています。さらにTrash Liteという無料の機能限定版がまもなく登場するとのこと。詳細については記事に追記していく予定です。そのTrashとは実際どんなプラグインなのか試してみたので紹介してみましょう。
デジタル時代の歪み系エフェクト、Trash
歪み系のエフェクトというと、主にギター用途としてディストーションやオーバードライブ、ファズなどが古くから存在していました。これらは入力された信号レベルがある一定以上になったらクリッピングさせることで、「ポーン」という音が「ガーン」という音に変化させることができ、とくにエレキギターにおいてはなくてはならないエフェクトとして広まっていったのです。
仕組み的にも非常にシンプルで、基本的にはアンプで入力音を増幅させた上でダイオードでクリップさせるという単純なアナログ回路で実現させていたわけですが、そうした音の歪みをこのデジタル信号処理時代に、より自由に、より繊細に、そして大胆にコントロールして音作りできるようにしたのがiZotopeのTrashなのです。
このTrashがEDMやエレクトロ系で好まれて使われてきたという話からも分かるとおり、ギターだけをターゲットとしたエフェクトというわけではありません。ギター、ベースはもちろんドラム、シンセ、ボーカル、パッド、さらには金管楽器、木管楽器などあらゆるトラックで利用できるエフェクトとなっています。
歪みを司るエンジンモジュール、TRASH
では、実際にTrashとはどんなエフェクトなのか、見ていきましょう。まずTrashを起動すると以下のような画面が登場していきます。
大きく6つのパートに分かれているのですが、その中でTrashの心臓部ともいえるのが中央左側にあるTRASHというところで、まさに歪みを司る、ディストーション部分です。
前述のとおり、昔からあるディストーションやオーバードライブ、ファイズなどは、ある一定レベルを超えるとクリップするという仕組みであり、その回路や歪ませるタイミング、歪ませ具合などによって種類が変わってくるのですが、このTRASHでは、どこでどのようにクリップするのか、さまざまな波形が用意されており、その波形によって歪み方が大きく変わってくるのです。
その波形がDistort(ディストーション)、Drive(オーバードライブ)、Fuzz(ファズ)……などのように分類された上で300種類以上が用意されているので、その中からどれかを選ぶと、違った雰囲気のドライブ感になってきます。もっとも名前を見てもよくわからないので、サイコロアイコンをクリックするとランダムに選択されるので、いい感じのものを採用する、というのも手ですね。
そしてこのTRASHにはこの波形を選ぶところが4つあるんです。
そして、波形グラフの中にある丸をドラッグすることで4つの波形の間をモーフィングしていくことができ、それによって実際にドライブする波形の形が変化するようになっているのです。
もうここまでくると、何をやってるのかさっぱり訳が分からなくなってきますが、考えるよりもサイコロアイコンをクリックしてランダムに音を作って気に入ったものを見つけ出すのがいいのかもしれません。左側のDriveというノブを回すことでドライブ具合が変化していきます。
またパラメータアイコンをクリックすると、4つのドライブ状況に関して効き具合を調整できるようにもなっています。
IRで音を変化させるエンジンモジュール、CONVOLVE
このTRASHだけでも、お腹一杯になりそうな機能が盛り込まれているわけですが、この製品のもう一つの心臓部ともいえるのが右側のCONVOLVEです。
こちらはIR=インパルス・レスポンスを利用して音を変化させるもの。いわゆるコンボリューションリバーブのように、ホールやルームなどのIRを使ってその音場を再現することもできる一方、ギターアンプのIRを利用すれば、入力されたことがそのアンプでどう変化するかをシミュレーションすることも可能になっています。このCONVOLVEも操作方法自体はTRASHと同じで、波形の4隅にある名前をクリックすると、IRの一覧が登場します。ここではTone、Amps、FX、Body……といったジャンルからIRを見つけ出せばOK。
この際、Condenser、Dynamic、Ribbonのパラメータを選ぶことで、IRデータ測定用のマイクを切り替えることができ、これによって音の雰囲気も変わってきます。
こちらも4つのIRデータを読み込んで、グラフ内にある丸をドラッグすることで、IRデータデータ間をモーフィングでき、その合成結果が表示され、それによって波形の畳み込みが行われるようになっています。こちらもMixを右に回していくことで、コンボリューション効果が大きくなるようになっています。
なお、信号の流れ的にはTRASHのあとにCONVOLVEという順になっていますが、中央にある左右の⇔アイコンをクリックすることで、TRASHとCONVOLVEの順番を入れ替えることも可能になっています。
帯域を分けて3種類のTRASHとCONVOLVEを利用することも可能
さて、Trashの上部を見ると茶色い部分が、周波数帯域を表すものとなっていて、左側、右側からドラッグすることで3バンドに分けることが可能になっています。どの周波数で分割するかはユーザーが自由に設定できるわけですが、先ほどのTRASHとCONVOLVEはその真ん中の周波数帯用に設定したものだったのです。
そして上の周波数帯、下の周波数帯それぞれに別のTRASHとCONVOLVEを設定できるようになっているのです。
つまり低い音の歪みと中域での歪み、そして高い音の歪みそれぞれをまったく別に設定でき、TRASHとCONVOLVEの入れ替えも独立して行うことが可能になっています。
そして各バンドごとに、レベルも調整できるようになっているので、かなり自由度高く音作りができるのです。
エンベロープやフィルターも搭載
さらに画面下部にはエンベロープ、フィルターそして入出力調整部分があります。
エンベロープはサウンドにパワフルな動きを出すためのもので、TRASHに対するモジュレーションをかけていくものとなっています。必要に応じてアタックとリリースの値を変えてニュアンスを調整可能です。
さらにその右にはローパスフィルターがあります。SCREAM FILTERというもので、ものすごくエッジの効いたフィルターをかけることができ、Freaquencyで周波数を調整し、Screamが極度なレゾナンスという感じで、値を上げていくと自己発振してしまうものとなっています。さらにHeatでフィルターをかけた音をブーストすることができるため、これだけでも強力なエフェクトとして使えそうです。
そして右下の部分が入出力ゲインをそれぞれ調整するとともに、オートゲイン対応させたり、リミッターを効かせるというものとなっています。
4月16日までイントローセール中。Trash Liteは無料配布
冒頭でも書いた通り、メーカー希望小売価格は16,200円で、3月12日~4月16日までの期間イントロセールで12,800円となっています。さらに従来のTrashを持っているユーザーは8,200円が4,800円となるほか、クロスグレードとしてVocalsynth、Neoverb、Iris、Stutter Edit、Breaktweaker、Mobius Filter、DDLYの各バージョンからもこのセール期間のみ7,980円で購入可能となっています。
なお、Trashの心臓部であるTRASHモジュールのみを切り出した機能限定版であるTrash Liteも登場し、無料配布される予定です。配布方法などは、詳細が分かり次第、追記する形でお知らせいたします。このTrash LiteはiZotopeではなくNative InstrumentsのソフトウェアをインストールするためのNative Accessを使ってインストールする形となっているとので、まずはそちらを試してから製品購入してみるのもよさそうです。Trash Liteの詳しい入手方法についてはiZotopeサイト(https://www.izotope.jp/jp/)をご覧ください。
ゲーム音楽における制作背景や工程、その作曲術に迫る、Native Instruments Master Class for Game Musicが開催決定!
今回紹介したTrashを含め、2023年9月1日以降にNative Instruments製品もしくはiZotope製品をMIオンラインストアにて購入したユーザー、もしくは国内の販売店で購入後、製品付属の国内サポートIDをこちら(https://www.minet.jp/_form/_html/18.html)のページで製品登録したユーザーを対象に、Master Classという各音楽ジャンルのプロが実践的な制作過程を解説するオンラインセミナーを視聴可能となります。
その第1弾としてスクウェア・エニックス所属の作曲家鈴木光人氏をお迎えし、劇版やPOPミュージックとGame Musicの違いから、ゲームジャンルによる違い、開発チームからの発注形態など、ゲーム音楽制作現場の第一線で今起きているワークフローに迫るセミナー、「Master Class for Game Music」が開催させることが発表されました。
この制作ワークフローでは鈴木光人氏の制作環境紹介や作曲ルーティンに加え、2024年2月29日販売開始となったFINAL FANTASY VII REBIRTH使用楽曲のセッションデータを題材に、ソフトシンセから生音へ差し替えする”基準”や、リモートレコーディングの必然性、さらに社内外が関わるプロジェクトにおけるデータ受け渡しルールに至るまでが紹介される予定です。
詳細は、Master Classのページ(https://ni-japan.jp/news/master-class-series-2024)をご覧ください。
なおNative Instrumentsの直販サイト(https://native-instruments.com)びその他海外販売サイトでのご購入は全て対象外となるので、その点はご注意ください。
【関連情報】
iZotope Trash製品情報
Trash Liteダウンロード情報
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