Massive、SERUM、NEXUSを超える!? 超ド級のソフトシンセ、Minimal Audioが出すCurrentの実力

DAW標準搭載のソフトシンセやフリーウェアのソフトシンセなども含めると、世の中には膨大なソフトシンセが存在しています。その中でも自分で音作りをするソフトシンセとして人気が高いものを3つピックアップするというと、Native InstrumentsのMassive、XFER RECORDSのSERUM、そしてreFXのNEXUSの3つではないでしょうか?それらを超えるといって過言ではない超パワフルなソフトシンセの新星が海外を中心に話題になっています。それがMinimal Audioというメーカーが先日リリースしたCurrentカレント)というソフトシンセです(税込み実売価格33,000円)。

これはスペクトル・ウェーブテーブル・オシレータ、グラニュラー・エンジン、加算式サブオシレーター、タイムストレッチング・サンプラー、モーフィング・フィルター、モジュラーFM/AMという強力なサウンド・エンジンを備えたパワフルなシンセサイザであり、エンベロープやLFOなどのモジュレーションをドラッグ&ドロップで自由自在に掛けていくことが可能。また数多くのエフェクトを備えており、これ単体で音作りを完成させていくことができます。その一方で、プリセットも膨大にあるのでまずは選択するだけで即戦力あるサウンドが利用できるのですが、そこがクラウドと接続されているのが大きなポイントともなっています。つまり、ウェーブテーブルやサンプリングデータを含め、莫大にあるクラウドのデータを読み込んで使うことができる仕組みになっているのです。今後、まさにソフトシンセの定番に入るのではと思われる、このMinimal AudioのCurrentについて紹介してみましょう。

Minimal Audioの超パワフルシンセサイザ、Current

新進気鋭なアメリカのプラグインメーカー、Minimal Audio

Minimal Audioはマルチポーラ・ディストーション・エンジンという斬新な新世代ディストーションとして話題になったエフェクトプラグイン、Riftや、複雑で不規則なオートメーションを簡単に作成できる新しいEQプラグインとして注目を集めたMorph EQなど、これまでにない斬新なエフェクトを作るプラグインメーカーとして、ここ1~2年、海外を中心に話題となってきた新進気鋭のメーカー。

Minimal Audioが大きく注目を集めたキッカケとなったユニークなディストーション、RIFT

幼馴染の3人であるミュージシャン、サウンドデザイナー、エンジニア、アーティストで構成されるチームで開発しているアメリカのベンチャーのようですが詳細は明らかにされていません。国内ではRob PapenやU-heなどのシンセシンセを扱うとともに、シンセ系に強いDAWであるBitwig Studioを扱う代理店であるディリゲントが昨年11月からMinimal Audio製品の取り扱いを開始し、Currentに関してはこの1月から「無限のインスピレーションのためにすべてを統合したバーチャル・インストゥルメント」として販売を開始しています。

動作環境としては

Windows:Windows 10以降(64bit)、VST、VST3、AAX
Mac:macOS 10.9以降(64bit)、AU、VST、VST3、AAX

となっているので、基本的にどのDAW環境でも使うことが可能となっています。

簡単に使える超パワフルなウェーブテーブル音源

では、ここからそのCurrentについてもう少し具体的に見ていきましょう。前述のとおりCurrentはさまざまなシンセサイザ方式のエンジンを持っているのですが、とりあえず起動すると「ビー」という感じでなるシンプルなノコギリ波の音が鳴るのがデフォルトとなっています。

Currentを起動したときのデフォルト画面

この状態だと画面左側のオシレーター、OSC Aのみが動いている形ですが、このノコギリ波部分をクリックすると三次元のグラフィックが現れてきます。そう、これはウェーブテーブル音源になっているんですね。そして真ん中のPOSITIONを回すことで波形が動いていきます。

試しに画面の下のほうに並ぶENV、LFO、CURVE、FOLLOWの中からLFOをドラッグ&ドロップしてPOSITIONのところに持ってくると

波形をクリックして3D表示させたのち、LFOをPOSITIONにドラッグすると、こんな風に動くようになる

こんな感じで波形がウニウニと変化してくれ、いわゆるウォブルベースをはじめとするサウンドを簡単に作ることができるんです。

もちろん、このデフォルトのウェーブテーブルだとノコギリ波、矩形波、サイン波をモーフィングするシンプルなものなので、そこまで激しいサウンドとはならないですが、膨大な数のウェーブテーブルが用意されているので、ここから選ぶだけでかなりのサウンドを作ることが可能です。

OSC AとOSC Bと同じウェーブテーブルシンセが2つあるので、組みあわせて使うこともできる

また、いまは左側のOSC Aのみを鳴らしていましたが、右側のOSC Bもまったく同様のウェーブテーブル音源となっているので、この2つを組み合わせて同時に鳴らすことができるのです。

自由に使えるグラニュラーシンセも搭載

Currentは2つのウェーブテーブルシンセを同時に鳴らせるシンセであるということだけでも、かなりすごいシンセだと思うのですが、そこに留まらず、さまざまなシンセサイズ方式を同時に持っているのもユニークな点です。

WAVETABLESの右隣のタブ、GRANULARをクリックするとグラニュラーシンセが立ち上がってきます。グラニュラーシンセとは、元になる音を極短い音=粒子(グレイン)に分割し、再配置する事で新たな音を合成するという方式のシンセサイザ。

GRANULARタブをクリックするとグラニュラーシンセが現れる

その元となる音は手持ちのWAVでも、AIFF、MP3でも何でもいいので、ここに放り投げてやればシンセサイザとして機能してくれます。もちろん、CurrentにもGRANULAR用の波形が膨大に用意されているので、その中から適当に選んでもOKです。

波形を読み込ませるとすぐにグラニュラーシンセとして使うことができるようになる

その上で、波形左側にあるLAYERSにおいて生成するグレインの数を1~8で設定。またその下のPATTERNを使って再生パターンを指定します。具体的にはEVEN、TRIGGER、RANDOM、WAVES、STRIKEの5種類があり、ここから選ぶことでかなり違ったサウンドになります。単純にそんな指定をしただけで鳴らしてみたのがこちら。

かなり破壊力があるシンセであることが分かると思います。画面下のほうでは、この波形のどこの位置を鳴らすのか、そのサイズはどのくらいにするのかなどを指定するとともに、ピッチやシェイプなどを指定して音作りをしていくわけです。

加算合成による超太い音も作れる

さらにSUB|SAMPLERタブをクリックしてみると、また異なる2つのシンセサイザエンジンが登場します。まず左側にあるのが加算式サブオシレーターです。

その隣のタブをクリックするとSUBとSAMPLERの2つの異なるシンセサイザが現れる

アナログシンセをはじめとする一般的なシンセサイザは減算式といって、音を削って加工していくのに対し、これは加算式というちょっとユニークなシンセサイズ方式のものです。

画面を見ると、4本の棒が立っていますが、その一番左が基本となるサブオシレーターの音量を表しています。それに対して右にある3つが高調波の音量。そのバランスによって音を作るシンセサイザになっています。

SUBは左側の基音と右側に並ぶ3つの倍音のバランスで音を作っていく

サブオシレーターの波形を選んだ上で、棒グラフをいじりながら音を組み立てていきます。その高調波の構成が偶数倍音なのか奇数倍音なのかなどを設定できるほか、倍音の幅を調整したり、ドライブのかかり具合を調整することにより、減算式シンセにはできない、超ぶっといサウンドを作ることも可能になってきます。

もちろんサンプリング音源も搭載

その右にあるのがサンプラー音源です。サンプラー音源については、いまさら説明するまでもないと思いますが、PCMでサンプリングした波形を鳴らしていくいたって普通であり、一般的なシンセサイザ。

SAMPLERも普通のサンプリングシンセサイザとして使うことができる

ここも手持ちのWAVやAIFF、MP3などをドラッグ&ドロップで持ってきてやれば演奏するこができるし、もちろんCurrent自身にも数多くのサンプリング波形が用意されているので、それらの中から選んでもOK。あとは普通に鳴らしてくわけですが、ユニークなのはボイス数を1~16の範囲で指定できるという点。この数を増やしていって、DETUNEでチューニングを微妙にズラしていくことで、非常に広がり・奥行きがある壮大な音になっていくんです。この辺もアイディア次第でいろいろと使えそうです。

膨大な数のフィルターも装備

このようにCurrentにははウェーブテーブルのOSC AとOSC B、またグラニュラーシンセ=GRANULAR、加算方式のサブオシレーター=SUB、そしてサンプラー=SAMPLERと5つの異なるエンジンがあり、それらを単独でも使えるし、全部同時に使うことも可能など、組み合わせ自由で利用できるすごいシンセサイザになっています。

画面右側には2つのフィルターが用意されている

そうして出てきた音に対し、もちろんフィルターを掛けて音作りをしていくことが可能になっています。このフィルターはFILTER 1、FILTER 2と独立して2つあり、それぞれにローパスフィルタ、ハイパスフィルタなど、異なるタイプのフィルターを設定できるようになっています。

膨大な数のフィルターが用意されており、FILTER 1、FILTER 2それぞれに設定して使うことができる

が、そのフィルターの数も尋常じゃないほど。極一般的なLP 12、LP 24、HP 12、HP 24といったものに留まらず、コムフィルター、モーフィングフィルター、フォルマントフィルタなど多くのジャンルの中に、さらに細かく膨大な数のフィルターがあり、それらから設定して音作りが可能。もちろん、どのシンセシスに対して掛けていくのかの指定もできるようになっていますが、フィルターによってまったく異なるサウンドになるので、その音作りはまさに無限という感じです。

FM、AMによる、想像もできない幅広い音作り

さらにフィルターとは別に、FM/AMという変調方式も用意されています。ここでいうFMはDX7に代表されるFM音源というのではなく、先ほどあげたOSC A、OSCB、GRANULAR、SUB、SAMPLERの5つオシレーターに対して、どのように変調を掛けるか、というもの。たとえばOSC AとOSC Bをそれぞれシンプルなサイン波を設定しておいて、OSC AからOSC BへとFM変調を掛ければ、ヤマハのDX的な2オペレータのFM音源のように鳴らすことができますが、グラニュラーシンセから、サブオシレーターへFM変調掛ける…などとなったら、もう何をやってるのか想像がつかない、偶然の世界の音作りとなってきます。

これまで見てきた5つのシンセサイザに対してFM変調、AM変調をかけることができる

またFM変調(周波数変調)だけじゃなく、AM変調(振幅変調)も掛けられるので、リングモジュレーター的な音作りをはじめさまざまな音作りが可能。また、オシレーターからオシレーターへ変調をかけるだけでなく、自分に対して変調をかけるフィードバックも用意されているので、何でもあり、という音作りが可能なシンセサイザとなっています。

Minimal Audio自慢のエフェクトも8つ搭載

さらにCurrentには豊富であり、かなり独特なエフェクトも搭載されています。冒頭でも触れたとおり、開発元のMinimal Audioはもともと独特なエフェクトのメーカーとして世の中に知られるようになったところでもあるわけですが、そのエフェクトがCurrentにも搭載されているのです。

Currentには8種類の強力でユニークなエフェクトが搭載されている

具体的にはコーラスのFLEX CHORUS、ディレイのCLUSTER DELAY、フィルターのHYBRID FILTER、EQのMORPH EQ、ディストーションのPOLAR DISTORTION、フェイザーのRIPPLE PHASER、リバーブのSWARM REVERB、コンプのFUSE COMPRESSORという8つが搭載されているのですが、たとえばディストーションのPOLAR DISTORTIONを見てみましょう。

単体で販売されているユニークなディストーションRIFTとほぼ同様の機能を持つPOLAR DISTORTION

実はこのPOLAR DISTORTIONはMinimal Audioが最初に注目されたエフェクト、RIFTとほぼ同様のものとなっています。そう、ポジティブ(+側)とネガティブ(ー側)それぞれにシェイプする波形を設定できるようになっており、それぞれでどのくらいでサチュレーションを掛けるかの設定が自由にできるため、単なるディストーションやオーバードライブといったものではなく、自由自在に音を歪ませることができる、綿密な歪みツールとなっているのです。

2つのEQをモーフィングさせることができるMORPHも搭載

同様にEQであるMORPH EQは同社のMorph EQを切り出したもの。パッと見は単なるパラメトリックEQのようにも見えるのですが、実はこれもトンでもないエフェクト。複数のEQ設定を直列につないだり、並列につないだ上で、モーフィングさせて使うことができるという、かなり奇天烈なEQ。

そんなエフェクト群を自在に利用できるのがCurrentなのです。

クラウドから膨大なプリセットを入手できるSTREAM

ほかにもさまざまな機能を持つCurrent。説明しているとキリがないほどですが、すべての機能を使いこなせるのか…というと機能がいっぱいありすぎて簡単ではないかもしれません。

もちろんシンセなんて、自分が使いたい音色が見つかればそれでいいので、全部を理解する必要もないのですが、その音色探しに上で多いに役立つのが、STREAMという機能です。これは、簡単にいえば音色ブラウザなんですが、LOCALとCLOUDという2つがあるのが重要なポイント。そうLOCALは自分のコンピュータのHDDやSSDにインストールすたものをブラウズする機能なのに対し、CLOUDは、クラウド上にある膨大なライブラリにアクセスできる、というものなんです。

数多くのプリセットをブラウズしてプレビューできるSTREAM

ジャンルやキーワードを利用して目的のサウンドを絞り込んだ上でプレビューしてみると、さまざまな音色を鳴らすことができるので、気に入ったものが見つかったらダウンロードすることで、瞬時にCurrentで直接鳴らせるようになっています。もちろん、この際にウェーブテーブルやグラニュラーシンセの元ネタ音、サンプラーシンセのサンプリングデータなどもダウンロードでき、手元で使うことができるし、エディットして保存することも可能です。

STREAMはクラウドにアクセスして数多くのプリセットを入手できるのも大きな魅力

このクラウドへのアクセスはCurrent All AccessというMinimal Audioのサービスに則ったもので、今後どんどん拡張されていくようです。Currentを購入するとこのCurrent All Accessを1年間無料で使えるアクセス権が付属するので、とりあえず全機能が使えますが、1年後以降も使う場合はMinimal Audioのすべてが利用できるサブスクプランへの加入が求められる、とのこと。ちなみにAll Access Planの内容は以下の通りになっています。

Currentの内蔵エフェクターを単体エフェクタープラグインとしてインストールし利用可能(一部のエフェクターは今後追加予定)
②3種類の拡張プリセットパックが利用可能
③6種類の拡張ウェーブテーブルパックが利用可能
④18種類の拡張サウンドパックが利用可能

この辺は、もっとライトな仕様でいいので、無料で使えるクラウドからのプリセットダウンロード機能なんかが解放されるといいな…と思うところではあります。

※2024.6.18追記
All Accessの1年間無料というサービスは2024年6月時点で終了となったそうです。その結果、フルアクセスするには、サブスクへの加入が必須となります。
なお、国内発売元のディリゲントでもCurrentを使いこなすためのチュートリアルも開始しているので、そちらも参考にしながら使ってみてはいかがでしょうか?

【関連情報】
Minimal Audio Current製品情報

【価格チェック&購入】
◎Dirigentオンラインストア ⇒ Current

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