累計ユーザー数1,100万人を突破している、2012年8月リリースの音楽コラボアプリnana。そんなnanaが、今年の9月にフルリニューアルを行なっており、今後もさらなる機能強化を行なっているようです。もともとのコンセプトである「スマホ1つで簡単に作品を作れる」「ユーザー同士でコラボできる」という部分をより伸ばす方向にシフトしており、イラストや動画をスマホで作れてしまうのと同様に、本格的な音楽作品が作れるようになっているのです。
トラックを作る人、歌う人、ミックスする人、さらには動画を作る人、絵を描く人がnanaに集まり、作品を制作。そしてその作品をYouTubeやApple Musicなどに投稿。作品に携わった人は、すべて紐付けされ、収益を分配できるといった、新しい制作スタイルが確立されつつあるのです。一度、nanaを使ったことあるけど離れてしまった人も、今のnanaはレコーディング機能をはじめ、あらゆるポイントがアップデートされているので、見てみる価値は大きそうです。そんなnanaのフルリニューアルについて、株式会社nana musicの代表取締役である文原明臣さんにお話を伺うことができたので、紹介していきましょう。
より音楽を作ることにフォーカスした、リニューアル版nana
--今回のフルリニューアルのきっかけについて教えてください。
文原:もともとnanaは2012年8月にスタートしているので、約12年続くサービスです。前回のリニューアルは、2014年だったので、そこからみても約10年ぶりの大型リニューアルとなります。これまで幸いなことに10代の方々を中心にご利用いただけていたのですが、2018年ごろサービスの成長に少し陰りが見え始めたのです。大きい影響として、ネット上で歌う場所が増えたということがあり、TikTokをはじめ、さまざまなカラオケサービスが展開されていったんですよね。そうした中で、nanaが使われる理由をいろいろ考え始め、実際にユーザーヒアリングを行ったり、分析をしていきました。その結果、nanaを使っているだけでは、自分の作品に対してこだわりきれないという問題が浮き彫りになったんです。
--手軽なのがnanaのいいところでもあるので、難しいところですよね。
文原:90秒でモノラルで、とにかく簡単。3年前にステレオ対応はしましたけど、これまでは手軽さに振り切っていました。そのため入り口としては、多くの方に選んでいただけたのですが、長くみても3年ぐらいで卒業される方が多かったのです。スタートとしては非常にいい場所で、そこで最初の拍手がもらえたり、コメントがもらえたり、楽しさを感じることができるのですが、続けていくと再生回数やフォロワーの数が増えて、さらにその先を目指して別の媒体に移るというケースが多くありました。
これまでのnanaは、こだわりきれないことが問題だった
--今までは、より本格的な作品を作れなかったから、そこからステップアップして違う場所に行ってしまうことが多かったと。
文原:やはり、こだわりきれないというのが問題でした。一定のモチベーション以上になると、どんどんこだわりが出ていくものです。そうなったときにnanaでの限界値が低かったんです。それが分かり、もっとクリエイティブなことができるようにしようと方向性を定めたのが大体2年前ごろ。そこから、多くのプロトタイプを試し、いろいろ試行錯誤を繰り返し、ようやくリニューアルしたnanaを今年リリースすることができました。
--実際ユーザーの評価としてはいかがでしたか?
文原:AppStoreのレビューを見てみると、過去のユーザーからは仕様は少なからず変わっているので、一部お叱りを受けている点はあります。一方、今回新しくパワーアップしたレコーディング機能については、一定の評価をいただけているという感じです。我々よりも、ユーザーさんの方が機能は使いこなしていて、SNSを見ていると、こんな使い方もあるんだと驚くこともありますね。
手軽だけど、こだわりの作品を作れるバランス感
--よりこだわった作品を作れるようにリニューアルしたとのことですが、それでもこれまでと同様に中学生でも簡単に作品を作るというところは残しつつですか?
文原:そこのバランス感は、とても大事にしています。手軽だけど、こだわった作品を作れるというところには重きを置いています。手軽さの話をすると、nanaは基本的にはカラオケアプリに近かったんですよね。我々としては、カラオケアプリではないという主張をしていましたが、実際のユーザーはカラオケ用途で使っている方も多くいました。カラオケというのも楽しくて、素晴らしいと思うのですが、やはりnanaは創作の場にしたいなと。カラオケのように発散する楽しさではなく、ここから何かが生まれていく。これまではカラオケサービスとしての手軽さがあったのですが、これからは音楽制作アプリとしての手軽さを追求していく方向で進んでいます。そうなるとカラオケよりかはハードルが上がりますが、それでも音楽制作アプリの範囲内でもっとも手軽なアプリとして使いやすく、誰でも簡単に使いやすくしようというコンセプトで作り直しています。
-- スマホだけで作れるというのは変わっていませんか?
文原:もちろん、スマホ完結というのはとても大切にしています。
--これまでカラオケ的に使っていたユーザーからすると、多少難しくなったということですか?
文原:そうなりますね。カラオケ感覚で使っていて、その上でnanaが便利だと思っていた人からすると、なら別のアプリにしようとなってしまうのは、避けては通れない部分だと思います。そこはもう覚悟の上です。正直な話、これまでのnanaで満足されていた方々は、やはりたくさんいます。なので、その方からすると、できることを多くしなくてもいいのにという意見はありますね。ただ一方で、すでに新しいレコーディング機能を使いこなしていて、GarageBandやDAWを使っていた方が、今のnanaでも十分仕上がるので、満足してもらえているという評価もいただいています。カラオケ的に発散ではなくて、自分の歌声を作品としてネット上で発信していって、しっかりと評価されたい。それでご飯を食べていきたい、頑張っていきたいという方に向けて、明確にリニューアルし直しているので、そのターゲットの方たちには、きちんと評価をいただけているのはよかったと思います。
充実したレコーディング機能が搭載されている
--リニューアルのコンセプトとしては、もっとも手軽で本格的な音楽制作アプリということですね。最大のポイントは、やはりレコーディング機能でしょうか?
文原:SNS的な機能も刷新しているのですが、メインはレコーディング機能ですね。本当にスマホ1つでちゃんと音楽作品が完成できる。発信できるレベルの作品を作り上げられるレコーディング機能を実装しました。これまでと同様に一発録りも可能ですが、加えていいテイクを選んで、1つのトラックにするということもできるようになっています。いわゆるコンピングに近いことですが、これを歌ってみた、弾いてみたに特化した作りにしています。トラックという概念をなくし、シンプルにすることにより、通常のDAWよりも使いやすいものに仕上げています。また処理についても、5つのパラメータを使えば、ピッチ補正だったりEQ、リバーブを操作できます。DAWだといろいろなことができますが、ボーカルレコーディングに関してフォーカスすることによりnanaでは、シンプルだけど完成度の高いものを作ることができるのです。
--DAWのようにレコーディングする前に、まず準備をするということがないのは、初心者にとっては使いやすいですね。
文原:慣れてくればダブリングを行ったりすることのできる、機能的余裕もあるので、応用的な使い方もある程度可能です。通常のDAWであれば、まずインストールや機材の接続設定があり、いざDAWを立ち上げたらトラックを作成して、入力を指定して…といった多くの手順がありますが、それがnanaにはありません。なのでレコーディングにおいて、非常に簡単に体験していくことが可能なんです。
自分が持っている知識でコラボレーションして、みんなで作品を作り上げる
--編集加工についてはどうですか?
文原:編集加工の部分においては、まだ知識が必要です。理想をいえば、システムがすべていい感じにしてくれるのが、最高なんですよね。とは言え、Mixといった作業は、声の数だけ正解があるので、そこは個人個人にカスタマイズしていく必要があります。なので、nanaのもうひとつの武器であるコラボレーション機能、これを拡張することで、この問題を解決しようと思っています。
--その解決策とは?
文原:RAWデータのプロジェクトファイル自体をほかの人でも開けるようにすることで、Mixができる人が加工をうまく行ったバージョンもほかの人が使えるようにします。これにより、自分にはMixの知識がなかったとしても、知識を持っている人の技術をうまく活用させていただくことにより、自分もいい感じのMixをできるようになります。たとえば、誰かがDaft Punkの「One More Time」っぽい加工のデータを作ったとします、その人が調整したパラメータを自分も使えるようになるので、その状態で歌うことにより、エフェクトが適用されるといった具合です。この機能は年明けのリリースにはなると思いますが、より人々がコラボして音楽を制作できる環境が整います。またプロジェクトファイルを開けるようになると、これまでオーバーダビングでコラボしていたのとは違い、より高音質できれいに音を保ったままの作品を作ることが可能になります。
動画クリエイター、イラストレーターとも一緒に作品を作っていく
--個人で行うレコーディングという部分から、他人と一緒に最後作品を完成させるまでのコラボレーションまで、より音楽的に進化していくということですね。一方で、基本的にはアプリ内で完結できるということでしたが、さらにDAWを使ってもっと作り込みたいということは可能なのでしょうか?
文原:今後、DAWとの連携も実装していきたいと思っています。もう少し先になると思いますが、たとえばパラのWavデータまたはステムで書き出す、といったことはできるように対応する予定です。
--そうして完成した作品を今後YouTubeにアップロードしたいという声もありそうですが、完成した作品の発表先としては、どう想定されていますか?
文原:nanaはあくまで、音楽を作るプロセスを楽しめるSNSでありたいと考えているので、いわゆる出口はYouTubeでも、ニコニコ動画でも、ほかのSNSでも何でもいいと思っています。大事なのはプロセスの部分、たとえば自分が持っていないスキルを持っている人と出会える場所にしたいと考えています。その上でnanaでみんなで作った作品については、クレジットをすべて紐付けて、その情報をもったままApple Musicなどでも配信し、そこで得た収益はクレジット通り分配される仕組みも作っていきたいと思っています。
--音楽制作をする場ということですね。もし、作品として発表するとなると、動画やイラスト部分も必要になってくると思いますが、ここはどう考えられているのでしょうか?
文原:創作活動全体のコラボレーションの場になりたいと考えているので、動画クリエイター、イラストレーターもどんどん巻き込んでいきたいと考えています。DTMで作曲する人がいて、そこに歌を入れる人がいて、Mixする人がいて、それを聴いて気に入った人が動画を作ったり、イラストを描いたり…、携わった人のクレジットが紐付きリリースされて、その収益を得ることのできる環境を整備していきます。
--卒業してしまう人もいるとのことでしたが、またリニューアルしたnanaをぜひ活用してもらいたいですね。
文原:nanaは、作った音を劣化させることなく、フル尺のアップロードが可能になり、より音楽制作に真剣に向かい合っているので、こだわりきれなくて離れてしまった方も、もう一度今のnanaを見ていただけると嬉しいです。もともとnanaの原点は、We Are The Worldなんです。昔からスティービー・ワンダーが大好きで、2010年のハイチ沖地震のとき、「We Are The World 25 For Haiti (YouTube Edition)」というのがアップロードされたのを見て衝撃を受けました。これは57人のアーティストが歌っているのを組み合わせたビデオなのですが、本当に素晴らしく、今はこんなことができるのかと感激しました。ここでは世界中の人たちが登場して歌っているんですが、アジア人は少なく、アフリカの人もいない。そして残念ながらその中に日本人はいませんでした。これを見て、自分でも何かできるのでは……と思ったのです。ちょうど、そのころiPhone 3GSを買ったばかりだったのですが、このマイクは結構性能がよく、自分でもボイスメモを使って録音してはハモったりしてたんですよね。もし、このマイクで録音した音を世界に届けられたら、そして、このマイクでみんなで一緒に歌ったら、本当の意味でのWe Are The Worldが実現できるのではないかと、nanaはここを目指して進んでいます。
--ありがとうございました。
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