今年の秋に入って以来、MIDI 2.0対応製品がいろいろと登場してきていますが、兼ねてからアナウンスされていたRolandのキーボード、A-88MKIIがついにファームウェアアップデートを実現し、MIDI 2.0対応となりました。すでにNative InstrumentsやKORGがMIDI 2.0対応キーボードを発表/発売していますが、MIDI 2.0の最大の特徴ともいえる高分解能なベロシティや高分解能なコントロール・チェンジに対応しているのが、現時点でRolandのA-88MKIIのみのようです。
A-88MKIIユーザーのみなさんは、まだか、まだかと首を長くして待っていたことと思いますが、2020年3月の発売以来、3年半たって、ついに実現したわけです。これだけ時間がかかったのは実はRolandの開発が遅れていたというわけではなく、OSのMIDI 2.0対応待ちだったようです。最新のmacOS Sonoma 14で安定してMIDI 2.0に対応したことから、各社動き出していて、ついにRolandもファームウェアを正式リリースした、ということのようです。すでにLogic Pro、CubaseがMIDI 2.0対応を果たしているので、実際MIDI 2.0の世界とはどんなものなのか、試してみたので紹介してみましょう。
A-88MKIIのMIDI 2.0対応で、ついにハード、ソフト、DAW、音源の4者が揃った
DTMステーションでは、これまで「MIDIが38年ぶりのバージョンアップでMIDI 2.0に。従来のMIDI 1.0との互換性を保ちつつ機能強化」、「日米合意でMIDI 2.0が正式規格としてリリース。MIDI 2.0で変わる新たな電子楽器の世界」といった記事で、MIDIの新規格、MIDI 2.0について紹介してきました。
なかでも「MIDI 2.0の詳細が発表!MIDI 1.0との互換性を保ちつつベロシティーは128段階から65,536段階に、ピッチベンドも32bit化など、より高解像度に」でも触れたとおり、ベロシティが0~127の128段階ではなく、65,536段階になるという点が大きく注目されてはいましたが、ハードウェア、OS、ソフトウェア(DAWおよびプラグイン音源)のすべてが揃わないことには、まさに絵に描いた餅。しかし、最近になってOS、DAW、そしてプラグイン音源がMIDI 2.0に対応し、あとはハードウェア待ちという状況になっていたのです。
もう少し具体的にいうとOSについてはWindowsはまだ未実装ですが、macOS Sonoma 14が安定した形でMIDI 2.0に対応。またDAWにおいてはLogic Pro 10.8で安定してMIDI 2.0が動作するようになるとともに、Cubase もCubase 13で対応を果たしました。そしてプラグイン側は以前「MIDI 2.0に対応した初の音源!?新世代RGBエンジン搭載のバーチャル・ピアノ、Ivory 3 German Dが発売開始」という記事で紹介した通り、Ivory 3が対応。そこにいよいよRolandのA-88MKIIのMIDI 2.0対応となり、4者すべてが揃ったのです。
ちなみにNative InstrumentsのKontrol-S MK3やKORGのKeystageもMIDI 2.0対応となってはいますが、これらはMIDI 2.0のプロパティエクスチェンジへの対応であって、高分解能なベロシティやコントロール・チェンジへの対応は明確に表明されていません。一言でMIDI 2.0対応といっても、いろいろな機能があるので難しい面はありますが、高解像度・高分解能でのMIDI表現ができるハードウェアという意味ではA-88MKIIが初となるわけです。
待望のMIDI 2.0対応OSの登場でいよいよA-88MKIIの新ファームウェア誕生
ちなみにA-88MKII自体は2020年3月発売で、その時点からファームウェアアップデートでMIDI 2.0対応すると謳っていたので、OS待ちでかなり時間がかかった格好となりましたが、ようやくですね。RolandでA-88MKIIの開発に携わっている冨澤敬之さんに聞いてみたところ「macOSはmacOS Monterey 12でMIDI 2.0対応はしていました。ただ、
ここで気になるのはWindows側の対応。こちらもしっかり動いているようで、
「今年の3月に六本木のApple JAPANでMIDI 2.0に関する関係者が集結してデバイステストを行いました。
気になるWindowsの動向ですが、WindowsがMIDI 2.0対応する正式な日程は現時点ではまだ発表されていません。でも、Microsoftも2024年のリリースに向けて開発を進めているようなので、ぜひ期待したいところです。
ファームウェアUPで、MIDI 2.0モードでの起動が可能に
さて、今回A-88MKIIがファームウェアアップデートでMIDI 2.0対応したわけですが、実際手元にあるA-88MKIIでもファームウェアアップデートをかけてみました。手順的には簡単で、このアップデート自体はMacでもWindowsでもできるようです。あらかじめA-88MKIIのアップデーター&ドライバーのページ(https://www.roland.com/jp/products/a-88mk2/downloads/)からアップデート専用簡易SMFプレーヤーと最新ファームウェアであるA-88MKII System Programをダウンロードしておきます。
その上でA-88MKIIとパソコンをUSBケーブルで接続し、TRANSPOSEボタンを押しながら電源を入れるとアップデートスタンバイ状態になるので、SMFプレーヤーでファームウェアであるSMFファイルを再生というか送信してやることで、アップデートが完了します。
無事アップデートが完了したら、MIDI 1.0モード、MIDI 2.0モードのそれぞれでA-88MKIIを使うことができるようになります。デフォルトではMIDI 1.0モードとなっていますが、BANKの右ボタンを押しながら電源を入れると、一瞬全LEDが青く点灯し、MIDI 2.0モードに入ったことが確認できます。このモードはA-88MKII自体が覚えているので次回以降は普通に電源を入れてもMIDI 2.0モードで動作し、電源オン時に全LEDが青く点灯することからも確認できます。
一方、MIDI 1.0モードに戻す場合はBANKの左ボタンを押しながら電源を入れればOK。この際は全ボタン類が緑に点灯する形となっており、それ以降、電源を入れると緑に点灯するようになります。
MIDI 1.0モードの場合は全LEDが緑で一瞬点灯する
A-88MKIIのベロシティーやCCで高分解能表現が可能に
では、これで何ができるのか?実は、11月11日に東京・九段で行われた東京楽器博2023において「MIDI 2.0で何が変わるのか?」というセミナーが行われ、前述の冨澤さんが、ヤマハ、コルグの担当者とともに講演を行っていました。この時点では、まだファームウェアアップデートの発表前の段階ではあったのですが、このA-88MKIIを使って何が変わるのかの実験を披露していました。
ここでは開発者用の特殊なアプリを使ってA-88MKIIからのMIDI信号をモニターしていたのですが、まずは鍵盤を弾いたときのベロシティーが従来と大きく変わっていることが確認できました。そう、従来のMIDI 1.0であれば0~127の値(7ビット)となりますが、MIDI 2.0ではノートオン、ノートオフのベロシティーがそれぞれ0~65,535の値(16ビット)で取れるようになっているのです。
同様にコントロールチェンジのほうはMIDI 1.0では0~127となっていました。もっともMSBとLSBがあるので二つ合わせることで0~16,383(14ビット)が扱えるようになっていましたが、MIDI 2.0では0~4,294,967,295(32ビット)というトンでもない値まで扱えるようになっているのです。
まあ、ここまでの分解能が本当に必要なのか、そこまでユーザーは使いきれるのか……といった議論もあるとは思います。たとえばベロシティーなどは0~127だから、これまでの慣れでニュアンスがわかっているけれど、0~65,535などと言われてしまうと、まったく感覚がつかめなくなりそうではあります。でも、実際はDAW側がうまく見せてくれるようなんですよ。
ドライバインストール不要で、MIDI 2.0認識される
現在Logic Pro 10.8とCubase 13が、MIDI 2.0に対応しているので、試してみました。まず、MIDI 2.0モードにしたA-88MKIIとMacをUSB Type-Cのケーブルで接続すると、とくにMIDIドライバのインストールは不要で、macOSの標準ドライバで認識してくれます。
そして、Audio MIDI設定アプリのMIDIスタジオを見てみると……A-88MK2というアイコンがあり、ここにMIDI 2.0という表記があることがわかります。MIDI 1.0モードで接続した場合はその上にあるように、A-88MK2のというのが2つ出てきますが、それとは別のデバイスとして認識されているんですね。
これでMIDI 2.0で接続されていることが確認できたので、まずはLogic Proから見てきましょう。Logicはには設定のMIDIを開くと「MIDI 2.0」とチェックボックスがあります。これにチェックを入れるとそれだけでMIDI 2.0対応となるのです。
ここでソフトウェアトラックを作成して、MIDI入力ポートを見てみると、上の画面のように「A-88MK2 KBD CTRL」、「A-88MK2 EXT-IN」、「A-88MK2 MIDI 2.0」という3つがあることが分かります。このうちA-88MK2 MIDI 2.0というのがMIDI 2.0の入力となるわけです。もし、A-88MKIIの設定がMIDI 1.0モードの場合は「A-88MK2 ポート1」、「A-88MK2 ポート2」となるので、この違いでうまく動作しているかは確認できます。
Logic Proのリストエディタで小数点以下の表示が可能に
ただこれだけだと、まだベロシティーやコントロールチェンジの値を高分解能で確認することはできません。設定の表示を見ると一番下に「MIDIデータの表示形式」とのがあります。
通常は「MIDI 1.0」が選ばれていると思いますが、ここは上の画面のように「MIDI 1.0」、「0.0-127.9」、「パーセント」という3つの選択肢があるのです。ここで真ん中の0.0-127.9を選んでみましょう。「どういうこと?」と思う方も多いと思いますが、とにかくこの設定をした上でA-88MKIIからリアルタイムレコーディングをして、リストエディタで表示してみます。
するとお分かりいただけるでしょうか?ベロシティーを表す値のところが73.5とか84.6など、小数第1位までの表示がされているんですよね。そう、先ほどは0~65,535という言い方をしましたが、この小数点表示という表記であれば、これまでのベロシティーに慣れた人もまったく違和感なく使うことができ、従来より10倍細かく数値が見れる、ということになります。実際には小数第2位以下を切り捨てているわけですが、普通はこれで十分ではないでしょうか?
「パーセント」の設定に変更するとベロシティーの値がパーセント表記に切り替わる
もう一つの「パーセント」を選んだ場合は、このベロシティがパーセント表記に変わります。つまり0.0-100.0と表記になるわけで従来のMIDIに慣れ親しんだ人からするとかなり違和感はあると思いますが、逆にこれからDTMに入る人で、従来のMIDIを知らない人ならこちらのほうが分かりやすそうではありますね。
これらはノートのベロシティー情報の場合でしたが、A-88MKIIの8つのノブも同じく高分解能になっているためこららを動かしてリストエディタで表示させると、従来であれば0~127の整数表示だったのが小数表示になるわけ
Cubaseでは小数点以下3桁での表現も可能
続いてCubase Pro 13でも同様のことができるので確認していきましょう。繰り返しになりますが、CubaseはMac版、Windows版がありますが、2023年11月時点でOSが対応しているのはMacだけなので、ここでのMIDI 2.0対応はMacのみといことになりますが。
Cubaseにも環境設定のMIDIを見るとMIDI-CIというチェックボックスがあります。本来はこれをオンにすることでMIDI 1.0かMIDI 2.0かの自動判定などを行うのではないかと思うのですが、試してみたところこのチェックボックスがオフの状態でもMIDI 2.0を受信する状況にはなっていたようです。
一方、Logicと同様にリストエディタ表示した際の表示の設定方法がCubaseにもありました。これは環境設定の編集操作のMIDIのところにあります。「Cubaseでは高解像度表示範囲」という項目で「0-127」か「0-100」のパーセント表示かを設定。さらに、「高解像度の小数点以下の桁数」のところで「1」、「1.0」、「1.00」、「1.000」と小数点以下第3位まで表示できるようになっているのです。
試しに「0-127」で「1.00」に設定した上でMIDIレコーディングしてリストエディターで表示させたのが以下のものです。このように小数点以下が2桁あるとさらに細かく設定できそうだし、この表記ならば0~65,535と違いって分かりやすそうですよね。
ちなみにノートオンのベロシティがメイン値のところにありますが、もうひとつセカンダリー値という項目があって、こちらも小数第2位まで表示されています。これはMIDI 2.0の話というよりもCubaseのリストエディタの表示の仕方についてとはなりますが、セカンダリー値はノートオフベロシティを示すものとなっていてこちらも高分解能での記録ができるようになっているんですね。
Ivory 3ならA-88MKIIの高分解能ベロシティを受けて演奏できる
このようにLogicでもCubaseでもMIDI 2.0の信号を受けてシーケンスを記録していくことができるわけですが、肝心なのは音源がそれに対応しているのか、という点です。残念ながらまだMIDI 2.0の高分解能に対応した音源はほとんどないのですが、その中で前述のSynthogyのIvory 3が対応しているのです。
Ivory 3がMIDI 2.0の高解像度ベロシティを受ける仕様になっている
Ivory 3はMacのAUにもVSTにも対応しているので、LogicでもCubaseでも動作するわけですが、先ほどのMIDIトラックにおいてIvory 3を音源として設定すると、画面左下のMIDI入力の項目がMIDI 2.0という表記になり、ノート信号が入ってくるとここが点滅するようになっています(※Cubaseにおいては、Ivory 3にMIDI 2.0という表示がされませんでした。原因確認中ですがVST版においてはMIDI 2.0対応できていない可能性もありそうです)。これにより、従来の0-127よりもさらに細かな演奏表現が可能になる、というわけですね。
ここまで見てきた通り、現時点でMIDI 2.0の演奏表現力をフル体験するためにはMIDIキーボードとしてRolandのA-88MKII、パソコンとしてはmacOS 14 SonomaをインストールしたMac、DAWとしてはLogic Pro 10.8もしくはCubase 13、そして音源としてIvory 3を組み合わせると、かなり限定したものとはなりますが、とにかくこれでMIDI 2.0の世界がスタートしたわけです。今後、Windowsへの展開も含め、ソフト、ハードともMIDI 2.0の世界はどんどん広がっていくと思いますが、まずはここから初めてみてはいかがでしょうか?
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