最高品質を誇るNEUMANNブランドのオーディオインターフェイス、MT 48の実力と可能性

すでにご存じの方も多いと思いますが、先日、NEUMANN(ノイマン)のオーディオインターフェイス、MT 48が発売されました。コンパクトでスマートなフォルムのこのオーディオインターフェイス、実売価格は330,000円(税込)と結構なお値段。素人が簡単に手を出せる価格帯ではありませんが、ADコンバータは136dBのダイナミックレンジで動作し、最大78dBのゲインを備える2系統の超低ノイズのマイク/ラインプリアンプを搭載するなど、高品質を前面に打ち出したオーディオインターフェイスとなっています。

32in/16outの入出力を装備したうえでDSPを搭載し高性能なEQ、コンプが利用できるとともに、モニター用のリバーブも装備するほか、自由自在なルーティングが可能であるなど、機能面でも非常に優れたものとなっており、さすがNEUMANNと言わせるスペックとなっています。「でもNEUMANNって、伝統あるアナログのメーカーじゃなかったっけ?」と不思議にも思うところ。なぜNEUMANNがこのタイミングで、超高性能・高機能なオーディオインターフェイスを出してきたのか、その中身がどうなっているのかなど、実際に試しながらチェックしてみたいと思います。

NEUMANNのオーディオインターフェイス、MT 48

アナログの雄であるNEUMANNがなぜオーディオインターフェイス!?

NEUMANNといえば、コンデンサマイクのU 87 Aiを筆頭に、「TLM 103とU 87 Aiでギターとボーカルを録ってみた」という記事で紹介したTLM 103や「9万円で買えるNEUMANNのコンデンサマイク、TLM 102でどこまでできるのか?ナレ録り、歌録りを試してみた」で紹介したTLM 102などなど、数多くの高性能マイクで有名なメーカーです。

一方で最近はNDH 20のようなヘッドホンもあれば、KH80 DSPやKH 150などのモニタースピーカーで注目を集めるなど、アナログ機材の高級ブランドという印象が強いメーカーです。確かにKH 80 DSPなどは内部にDSPを搭載し、これを利用してキャリブレーションを行うなどデジタル的側面も出てきていますが、「どうして突然オーディオインターフェイスを?」と思った方も少なくないと思います。

実はここには背景があるようです。何度か紹介したことがありましたが、NEUMANNは1991年にSennheiser(ゼンハイザー)に買収されたことにより、現在はSennhesiserの一部門という位置づけです。同様にモニタースピーカーや設備音響のメーカーであったKlein + Hummel(クライン&ハンメル)も2005年にSennheiserに買収されたのち、そのスタジオモニター部門がNEUMANNの部門に移管されたことにより、現在KH 80 DSPなどがNEUMANNブランドで出ているのです。

PyramixのMergingをSennheiserが買収

そうした中、昨年=2022年7月、スイスのメーカーであるMerging Technologies(マージング・テクノロジーズ)もSennheiserに買収されているんです。「Merging Technologiesって何の会社だ?」と思う方も少なくないと思いますが、超ハイエンドDAWであるPyramixのメーカーだ、といえば、ピンとくる方も多いのではないでしょうか?マスタリングの世界や、ハイレゾ&DSDレコーディングの最高峰としてPyramixはよく話題に上がりますが、そのソフトウェアや、関連するさまざまなハードウェアを開発しているメーカーがMerging Technologiesなんです。

すごいトップメーカー同士がくっついたんだな…と昨年ニュースを見て驚きましたが、そのコラボレーションによる第1弾製品が今回のMT 48である、というわけなんです。

ご存じの方も少なくないと思いますが、Merging Technologiesでは2019年にANUBISというオーディオインターフェイスを発売しており、現在も販売されています。このANUBISとMT 48、色違いでほぼ同じ形をしているんですよね。

私もMT 48を最初に写真で見たときは、「なるほど、Merging製品のブランドをNEUMANNに付け替えたのね…」と思ったのですが、実はそんな単純なものではありませんでした。どちらかというと放送局などで使うシステムとして登場したANUBISを、NUEMANN側の監修のもと、音楽制作現場で使える最高性能のオーディオインターフェイスにするように作り直したのが、MT 48である、ということのようなのです。それは単に、音質が…といった話ではなく、そもそもPCとの接続性などシステム的にも大きく異なるものになっているんですよね。

USB、AES67、ADATでの接続が可能

前置きがだいぶ長くなりましたが、ここからMT 48について具体的に見ていきましょう。

MT 48は、まさにお弁当箱サイズのデスクトップ型オーディオインターフェイス。専用のケースも付属しているので、カバンに入れて手軽に持ち運びできるコンパクトな機材です。

ここには実測で10cmx6cmという、ちょうどスマホを横にしたようなタッチスクリーンディスプレイを搭載されており、ここでさまざまな操作ができるとともに、大きなノブを使って繊細なコントロールができるようになっているのも特徴。

リアを見るとさまざまな端子があるのですが、MergingのANUBISとの最大の違いともなるのがインターフェイス部分です。ANUBISはLAN端子があり、これを使い、AES67というAoIP(オーディオoverIP)のプロトコルでコンピュータやその他の機器と接続をする形になっていました。

そのAES67での接続機能はNEUMANNのMT 48も同様なのですが、MT 48にはANUBISにはなかったUSB Type-C端子が2つ搭載されています。その片方は電源用であり、もう片方がコンピュータとの接続用です。これはUSB 2.0規格となっており、MacやWindowsと接続してUSBオーディオインターフェイスとして使えるようになっているのです。

さらにANUBISになかった光デジタル端子が2つ搭載されています。これはADAT端子であり、ADAT対応機器と光ケーブルで接続することにより44.1kHz/48kHzであれば最大8chの信号を入出力できるようになっているのです。

ちなみにAES67はLANを使ってマルチチャンネルのオーディオを伝送するAoIPのシステムであるためDanteやAVB、MILANなどとよく比較されますが、それぞれ別規格で本来直接的な互換性はありません。詳細は割愛しますが、AES67はもともとRavennaと呼ばれていたものでAESが2013年に正式採用したことで、オープンスタンダードとして主に放送業界で使われるようになったものです。そのためDanteもAES67をサポートするようになっています。結果としてMT 48ではDante、Ravennaとも互換性を持つ機材となっています。

フロント、リアそれぞれにアナログ端子も装備

一方アナログはというと、リアにいろいろな端子が並んでいます。一番右側の2つはTRSとXLRの入力が可能なコンボジャックで、その左がメイン出力となるXLRの出y六。さらに上下に並ぶフォンジャックはTRSのライン出力となっています。さらにその左側にもフォンジャックがありますが、こちらはMIDIおよびGPIO(汎用的に使えるデジタル端子)となっています。GPIOとしての使い方は現時点まだ公開されてないので、MIDIの入出力用として使えるようになっています。MIDIにするためには別売のアダプタが必要となるようです。

さらにフロントには4つフォン端子が並んでいます。左側と右側はそれぞれヘッドフォン端子で、真ん中の2つがINST/LINE入力となっています。ここにギターなども接続できるようになっています。

ヘッドホン端子はそれぞれ独立して動作する形となっています。

さらにMT 48本体内にもマイクが内蔵されており、これで録ることも可能ではあります。もっともこのマイクはレコーディング用ではなく、トークバック用。レコーディングスタジオなどで利用する場合、これでブースとコントロールルーム間での会話ができる、というわけですね。

DSPで動作する独立した4つのミキサーを内蔵

MT 48は、そんな入出力を持つオーディオインターフェイスであり、アナログだけでなくADATやAES67を組み合わせることトータル32in/16outで使うことが可能となっているのです。ちなみに32in/16outで動作するのは48kHz動作時であり、サンプリングレートを96kHz、192kHzと上げていくと、設定にもよりますが、扱えるチャンネル数は減っていく形となっています。

さて、この多くのチャンネルを持つMT 48をコントロールするのがMT 48内部にあるDSPで動作するミキサーです。それぞれ独立した4つのミキサーが入っており、各入力やDAWからの入力などをミックスして、メインモニターに出したり、それぞれのヘッドホンに出すことが可能になっています。

そのルーティングは自在に設定できるようになっており、そうした操作をMT 48のタッチスクリーンディスプレイで操作するようになっています。

たとえばメインスピーカーへの出力は全体をバランスよく聴こえるようにミックスする一方、ヘッドホン1はボーカルレコーディング用にしてマイクのモニター返しを大きく設定するとともに、歌いやすいようにリバーブをかける……といったような使い方が可能になっているのです。

Pyramix直系のEQやコンプを標準装備

その内部DSPは、単にミキサーを動かすためだけでなく、そのボーカルモニター用のリバーブを動かすこともできるし、各チャンネルごとに設定できるEQやコンプとしても動作してくれます。

そして、そのEQやコンプが、まさに本気のプロ機材であるところでもあるのです。前述のとおり、MT 48はMerging Technologiesが開発したシステムなわけですが、このEQやコンプはなんと、PyramixのEQやコンプをそのまま移植したものなんです。そう、そんじょそこらのものとは格が違うEQやコンプがここに搭載されている、というわけなのです。

なお、リバーブに関してはあくまでもレコーディングにおけるモニター用なので、これを録音する形ではありません。一方、EQやコンプはもちろん掛け録りが可能となっています。

本体での操作に加え、PCやタブレットでの操作も可能

ところで、そのミキサーやコンプ、EQをはじめとする各種パラメータの調整の方法がいろいろ用意されている、というのもMT 48のユニークな点です。まずはこのMT 48本体に搭載されているスマホ大のタッチディスプレイでフェーダーやノブを動かすことが可能です。でも、それだとなかなか繊細なコントロールがしづらいというのも事実。

そこで、操作したフェーダーやノブをタッチして選択したうえで、右横の大きいノブを回すことで、そのパラメーターを細かく調整していくことができます。その際、フェーダーだと、横型のものも表示され、それを見ながら調整できるようになっています。

一方、この画面をコンピュータ上にも表示させ、それをマウスでコントロールできる、というのもユニークな点です。この際、表示画面そのものが連動しているわけではなく、それぞれ別にコントロールできるのも便利なところ。つまりMT 48本体ではMIX1の画面を表示させつつ、コンピュータ側ではMIX2を表示させ、それぞれ別にコントロールする、といった使い方も可能なのです。

さらにユニークなのは、これをLAN経由でブラウザを使ってより大きな画面で、より細かく調整することが可能である、という点です。ChromeやSafariなどのブラウザを使うだけなので、専用ソフトが不要なのも便利だし、ブラウザで操作できるから、MacやWindowsでの操作に限らず、iPadなどのタブレットを使って操作することができるのも便利なところ。

しかも複数のiPadで一緒にアクセスすることもできるので、DAWを使っている人と、レコーディングしているボーカリストがそれぞれ別々に操作する…なんて使い方もできるのです。

音質は抜群、今後の機能進化にも期待

そのほかにも各メーターを細かく設定していったり、各種設定のスナップショットをとったり、USBに対してどのポートを使ってどれを使わないかを設定したり……と、あらゆる設定が細かくできるようになっています。

音質は非常にクリアでクセがないもの。さすがNEUMANNブランドの33万円のインターフェイスということもあって、音においては申し分ありません。

気になるところとしては本体がそこそこ熱くなる、という点。やはりパワフルなDSPを搭載していて、タッチスクリーンディスプレイも搭載していることから熱くなるのですが、動作においては問題ないようです。気になる場合は設定によって内蔵ファンの設定をHIGHにして強く回すことで、温度を下げることも可能ですが、ちょっとうるさくなってしまうのが難点。LOWであればほぼ無音なので、よほど気にならない限りLOWの設定のままでよさそうですね。

ちなみに初回始動時、ファームウェアのアップデートを促され、最新版への差し替えをしたのですが、このファームウェアも頻繁に更新されているようです。これによって、さらに強力なシステムへと進化していくようです。

ちなみに前述のMerging TechnologiesのANUBISは、本体そのものにプラグインを入れて機能拡張ができるのがちょっとユニークな点。たとえばEventideのリバーブやMergingのディエッサを搭載したりすることが可能。そのうち、そうしたプラグイン機能もMT 48で使えるようになると面白そうだな…と思っているところです。

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NEUMANN MT48製品情報

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