みなさんは、スピーカーでモニタリングする際や自宅でボーカルや楽器を録音する際の反射音や部屋の残響音対策をしていますでしょうか?多くの方は、吸音材などを壁に貼ったり、マイクの後ろに配置していると思います。ただ、それだけだと高い周波数に効果があるものの、低い周波数にはほぼ効果がなかったり、高い音は吸音できていても低い音が残っているので、周波数のバランスが崩れてしまったり、逆に吸音しすぎて心地の悪いサウンドになってしまうのです。反射音のコントロールは、本来音響設計の観点でいうと、そもそもの部屋の形を調整することから始まりますが、これは何百万、何千万の規模になるので、現実的ではありません。
そんな中、一般的に知られている遮音や吸音という観点からではなく、反射音を拡散させることにより、音をクリアにする「音響拡散体 オトノハ」のIvy wallとContainer gardenという製品があるのはご存知でしょうか?一般的な拡散体は、大きさの異なる立体をランダムに配置することが多い中、オトノハは、植物の葉の成長メカニズムを参考に、黄金角と黄金比を用いて数学的にデザイン。葉となる立体をあらゆる向きに配置し、音を効率よく散乱させることができるのです。最初から部屋の形を設計するというところまでではないものの、周波数のバランスを崩すことなく、反射を散乱させることで、ただ吸音するよりも、音楽的にいい響きのある空間を作れます。見た目もインテリアに馴染むデザインとなっており、フックなどに引っ掛ける穴やカメラ関連のグッツに取り付けられる1/4インチねじ穴も装備。手軽に使えて、効果抜群のIvy wall、Container gardenについて開発者の八並心平さんに、その活用方法や開発の背景を伺ったので、紹介していきましょう。
低価格で扱いやすいIvy wallと散乱効果の高いContainer gardenの2ラインナップ
オトノハは、低価格で扱いやすい2色展開のIvy wallと散乱効果の高いContainer gardenの2ラインナップが用意されています。Ivy wallの価格は10,780円(税込)、一方Container gardenは151,800円(税込)と価格差は約15倍ほどあるものの狙っている効果はどちらも反射音の拡散。このデザインは、植物の葉の成長メカニズムを参考にしており黄金角と黄金比を用いて数学的に設計されています。植物は太陽の光を効率よく浴びるために黄金角という角度を利用して葉を展開しています。オトノハでもこの角度を利用することで、葉となる立体をあらゆる向きに配置し、音を効率よく散乱させています。また整数比を用いて拡散体をデザインすると特定の周波数に効果が偏ってしまうため、無理数比の一つである黄金比を用いて葉となる立体の形状、拡大率を設定し、 自然な音の広がりを得ることに成功しています。以下の動画は、音の反射のシミュレーションとなっているので、ぜひご覧ください。
シミュレーションを見てみてみると、やはりフラグシップモデルであるContainer gardenの拡散はIvy wallよりも効果が高いですね。ですが、Ivy wallと通常の壁を見比べてみると、Ivy wallでも十分な効果が得られることが分かると思います。なので基本的には、Ivy wallを選択するという形で問題ありません。
平らな壁では反射音が強すぎる傾向にあるので、オトノハで反射音を調整することで、スピーカーや楽器の音を聴きとりやすくし、また適度な響きのある音空間にすることができるのです。
スピーカーに対してオトノハを設置する
では実際どんな場面で使えるのか紹介していきましょう。まずは、スピーカー環境の改善です。スピーカーの配置は、大体の場合そのメーカーの説明書にも書いてありますが、30cm前後以上離すようにとされています。これは壁からの反射の影響をなるべく抑えるために、推奨されているのですが、部屋の広さによっては難しいケースも多いと思います。そんなときに、オトノハを以下の図のように配置することで、音像のぼやけて聴こえてしまうのを阻止できるのです。特に1回目の反射が起きる場所に設置するのが効果的。壁から離して配置している方の場合も同様です。ちなみに横幅が極端に狭い場合は以下の図の②を優先するほうが効果を感じやすいケースもあるとのこと、また反射が多そうなガラス天板のデスクやミキサーの上に置いても、効果抜群と公式ページの製品レビューで紹介されていました。日傘を日向で使用する場合と日陰で使用する場合では効果の感じ方に大きな違いがあるように、オトノハも強い反射音が起きる場所に設置すると効果を感じやすいので、いろいろ実験してみると楽しそうですね。
録音時にオトノハを使用する
録音の場合だと、マイクの奥側に設置する方法があります。直接的な反射音や気持ちよくない響きを改善することができるので、自宅でボーカルレコーディングする方にとって、クオリティを上げる手段になります。いざレコーディングしてみたら、部屋の反響がすごくて、ミックスに困ったという経験をしたことのある方もいると思います。そんな方こそ、オトノハを使うことで、きれいで、後処理のしやすいボーカルを録ることができます。一方、強めの吸音処理がされているレコーディングブースでは、適度な響きを持たすことも可能。マイクスタンドやカメラスタンドなどにつけたり、壁にかけたり手軽に移動できるので、マイクとの距離を変えてみたりして、最適なポイントを探してみてください。
また、オトノハをフィルタとして使うといったことも可能。楽器録音やアンプのREC、フォーリーレコーディングなど、音源とマイクの間にオトノハを設置することで、ピーキーすぎる音を聴き馴染みのよい音にしたりすることもできます。アンプにマイクを立ててレコーディングする場合、一度オトノハで音を散乱させてから収録するといった音作りの延長線で使うこともできます。
強い反射音が起きる場所に設置すると効果を感じやすい
楽器演奏時にオトノハを使う
また楽器演奏時に耳や楽器の位置に設置することで、反射音が和らぎ演奏がしやすくなるという効果もあります。以下の画像のように配置することで、反射音が直接すぎる環境を改善することができるのです。耳へのダメージを抑えつつ、長時間練習しても疲れにくい環境を作ることが可能。
楽器演奏の場合
導入事例、設置方法はWEBサイトをチェック
ほかにもオトノハのページに設置方法や事例などたくさん載っているので参考にしてみてください。実際に公益財団法人 読売日本交響楽団 黒川練習所、株式会社 角川大映スタジオ、東京藝術大学 音響研究室 録音調整室などで導入実績もあります。プロの環境でも自宅のDTM環境でも1万から始められるルームチューニング、オトノハをぜひ試してみてはいかがでしょうか?
鎖(チェーン)のフォーリーレコーディング、サンプル音源
ちなみに変化の分かりやすいサンプル音源として、鎖(チェーン)のフォーリーレコーディングの際にマイクとチェーンの間に、オトノハ無しで録音したもの、1枚立て録音したもの、さらに2枚両サイドに立てて録音したものを比較した音源があります。これはサウンドデザイナー /フォーリーアーティストの滝野ますみさんによるもの。ぜひこちらもチェックしてみてください。以下はマイクに無指向性のDPA4006を使ったものです。
違いが感じられたと思います。同様の設定で単一指向性のマイクであるDPA4011を使ったときの音源が以下のものです。
また少し違ったニュアンスながらオトノハのあり、無しで、違いが出ていることが分かると思います。
DTMで吸音はNG?
最後に防音、遮音、吸音、拡散・散乱といった似た言葉の音響にまつわる用語があるので、こちらについて簡単に説明していきます。まず、吸音について。これは、音を吸収するという意味で、主にスポンジやウール素材の吸音材を使って反射を抑えます。ただ冒頭でも書いたように、高い周波数には効果があるものの、低い周波数にはほぼ効果はありません。なので、正しく設置しないと反射する周波数のバランスが崩れてしまう可能性があり、音楽的な反響を得ることはできません。また、高音が吸われるので、吸音材を設置してモコモニした音になってしまったという経験のある方もいるのではないでしょうか?
防音・遮音は、反射音のコントロールを重要視するものではない
続いて、防音について。これは吸音が部屋の内側に着目したものである一方、防音は部屋の外側に着目しています。防音、つまり音がどれだけ部屋の外に漏れないか、または外の音がどれだけ部屋に入ってこないかが重視されるので、ここで考慮されるのが遮音です。遮音は、吸音や拡散・散乱といったものとまた別の考え方。吸音は反響を重視、遮音は音の漏れを重視する考え方なので、DTM環境の構築においては、ほとんどの場合吸音が優先です。外からの音を抑えたい、スピーカーの音をほかの部屋に聴こえないようにしたい、といったものは、また別のアプローチが必要。それでいうと、オトノハは、遮音効果はありません。
まず拡散体を設置してから、吸音材を置くのがおすすめ
そして拡散や散乱といった言葉について。音の拡散、音の散乱はほぼ同義だと思ってOK。ここまでの記事でも紹介してきたように、散乱は音の向きを変えたり散らしたりするもの。こちらも基本的には高い音ほど効果があり、特に中高音域と考えられるようなものが拡散しやすいです。ただ、吸音材を使うパターンと拡散体を使うパターンでは、聴き比べをすると拡散させるほうが低音もよく聴こえることがあります。楽音の場合、通常倍音も含まれるので、周波数のバランスを崩す吸音材よりも、音の総エネルギーを変えない拡散体の方が、音がよく聴こえるのだと考えられます。
もちろん、それぞれの製品や素材によって効果は異なるので、あくまで一般的に、ということで紹介しました。ちなみに、吸音材や拡散体を設置する際の優先順位ですが、まずは拡散体をセオリー通りに配置して、もしそれでも問題がある場合は拡散体を増やしたり、吸音材を組み合わせるというのがおすすめ。ちゃんとしたスタジオを作る際にまず行われるのは、部屋の形の調整。つまり反射音のコントロールなので、拡散体で反射音をコントロールして、さらに反響を少なくしたかったら、部屋の角にかなり大きめのビーズクッションを置いたりすると有効です。
--八並さんは、どういったきっかけでオトノハを開発したのでしょうか?
八並:私は幼少期のころからヴァイオリンやピアノを習っており、また植物を育てるのが大好きでした。そして、大学では芸術と音響設計を学ぶことのできる九州大学芸術工学部に進学し、室内音響や黄金比・黄金角の性質についても勉強してきました。オトノハのアイディアは大学生のころからあり、演奏活動を通じて反射音の重要性は理解していたのです。ではどうやって反射音をコントロールするか、当時の私はずっと好きだった植物から着想を得ました。黄金比と黄金角を利用し植物のように立体を配すれば、あらゆる方向に音を散乱させる拡散体を作ることができると考えたのです。しかし、学生当時は3Dプリンターも普及しておらず金銭的な問題もありました。が、現在3Dプリンターが普及したことで思い描いていた形状を形にする手段ができ、オトノハを開発することができたのです。
--オトノハが、従来の拡散体と比較して優れている点はどういったところなのでしょうか?
八並:従来の拡散体は、ランダムに立体を配置するものが多いと感じていました。配置される立体が少ないとそもそも「ランダムかどうか」ということの判断が難しいと思いますし、意匠的にもよくするためには、開発者の経験や勘、デザイン力が重要になると思います。そこでオトノハでは、2つの軸をまず設定しました。それは、音の散乱に有利となるように「黄金比」と「黄金角」を使用することと、厳格なルールで形状を作成し自分の判断を入れないことの2つ。これを軸にすることで、経験や勘に頼らない拡散体の開発を行なっています。その際のヒントとして、植物の成長と多様性、音楽の作曲技法を参考にしているのですが、専門的な内容になってしまうので割愛させていただきます。植物は同じ規則で成長しても見た目が違ったり、変奏曲のようにテーマが同じでも、リズムや音形を変化させることで、多様な変化をつけることができるので、そういったところから開発のヒントを得ているのです。なので、製品化したオトノハは2種類ですが、それまでに多くの試作品を作りました。参考にする植物、作曲技法によって、これだけの種類のオトノハが誕生し、一番最適なものとしてIvy wallとContainer gardenをリリースしています。
--オトノハは設置位置が重要だと思いますが、その使い方についてアドバイスを教えてください。
八並:大前提は1度目の反射場所など、反射が強いところに置くのが効果的です。その場所の見つけ方として、簡単なのは、協力してくれる人が必要ですが、手鏡を持ってもらう方法があります。まず1人は、スピーカーを聴く位置に座ります。そして2人目は、手鏡を持って、スピーカーの裏に立ち、壁に沿って手鏡を動かしていきます。この際、スピーカーの音を聴く位置にいる人は、頭を前後左右に動かさず、首を回し、鏡にスピーカーが見える位置を指示します。座っている位置から、鏡を通してスピーカーが見える位置というのが、反射点になるので、この位置にオトノハを置くと効果的です。これは横の壁、たとえばレコーディングスタジオのお客さんの席に対しての設置方法としても使えますよ。
--ありがとうございました。
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