ちんたら書いていたらNAMM Show開催から1か月も経過し、ベルリンで開催されて大きな話題になったSuperboothも終わってしまったわけですが、2023年4月13日~15日にアメリカ・カリフォルニア州アナハイムで開催された世界最大の楽器展示会、The 2023 NAMM Showに関する最後のレポートです。今回もDTMやシンセサイザ周りだけに焦点を絞っていくつかの機材をピックアップして紹介していきます。
今回は真空管シミュレータではなく、本物の真空管をUSBでWindowsやMacと接続した上で真空管サウンドを作り出していくFT-1 freqtubeという製品や、TAHORNGのMIDIキーボードやブレスコントローラ、トランスミッタ。さらにはPPG Wave 2の進化版?ともいえそうなGroove Synthesisの3rd Waveなど、ユニークなものをピックアップしていきましょう。
真空管4本を使ったUSBデバイス、FT-1 freqtube
まず最初に紹介するのはオーストラリアの小さなメーカー、Freqportが開発したFT-1 freqtubeという製品から。この黒いボックス、スリットからオレンジに光るものが見えると思いますが、これはLEDではなく、ホンモノの真空管なんです。具体的にはE83CCが2本、12AT7が2本の計4本が入っており、これを使ってサチュレーションサウンドなど、真空管ならではの音を作り出すという機材なんです。
これまでも真空管を搭載したオーディオインターフェイスなどは存在していましたが、このFT-1 freqtubeにはUSB Type-Cの端子とACアダプタと接続する端子だけがあるだけで、アナログ入出力もデジタル入出力は装備していません。そう、これはオーディオインターフェイスではないんですね。
USBでWindowsやMacと接続すると、プラグインとして使うことができるもの。実際、真空管をどのくらいドライブさせるか、フィルタ設定をどうするか、倍音構成をどのようにするか……など細かな設定はプラグインのパラメータを使って設定するか、FT-1 freqtube本体のノブを使って設定することで、調整していくことが可能です。
ギターに使うのもいいですが、ボーカルに使ったり、さまざまな楽器に利用できるほか、マスターに使うこととによって、全体的に真空管による暖かいサウンドに仕立て上げることも可能です。
気になる価格は1,499オーストラリアドルとのことなので、13万5,000円程度と、なかなかなお値段。そもそもE83CCを単体で買って1万円以上することを考えると、むしろ安いくらいの価格設定となっているようです。担当者に聞いたところ、間もなく日本でも発売が予定されてるとのこと。改めて実際に機材を借りてレビューしてみる予定なので、お楽しみに!
TAHORNGのブレスコントローラやオーディオトランスミッタ
続いて紹介するつのはエレフエなどで知られるTAHORNG(タホーン)ブランドの製品についてです。TAHORNG/MIDIPLUSのブースには、さまざまな新製品が展示されていましたが、ひとつずつ見ていきましょう。
一つ目はブレスコントローラです。コンパクトなモジュール型の機材ですが、口にくわえて息を吹くことでコントロールできるというもの。こうしたブレスコントローラは30年以上前のMIDI初期のころのシンセサイザにも搭載されていて、ブラス系音源やリコーダー系音源などで活用されてきました。
今回登場するこのBREATH CONTROLLERは単体として登場する機材であり、吹いた結果の情報を5DIN-MIDIで出力したり、USBで出力できる形になっています。またMIDI規格においてブレスコントロールはMIDI CC #2に割り当てられていますが、この機材ではMIDI CC #2以外にも#1、#7、#11などに設定することも可能。またリボンコントローラを使ってピッチベンド情報などを出力することも可能になっています。
口にくわえて吹く形でコントロールする
国内での発売は秋ぐらいの予定で、現在のところ2万円前後とのことでした。写真ではMIDIPLUSブランドになっていますが、国内ではTAHORNGブランドとなります。
続いて紹介するのは25ミニ鍵の折り畳み式MIDIキーボード、FOL-KEY 25です。とってもコンパクトなキーボードながら、8つのパッドや4つのノブ、またさまざまなコントローラ用のボタンなどが搭載されているため、DAWと連携させながら便利に使えそうです。
パネル部分をキーボード側に倒して畳むとコンパクトになり、持ち運びも簡単です。ユニークなのはUSB Type-Cでのやりとりができるほか、MIDIさらには、CV/GATEの出力にも対応しているという点。そのため、最近のベリンガー製品など、低価格なアナログシンセと組み合わせて使うことができるのも魅力です。こちらは価格は未定ですが、9月ごろの発売となりそうです。
さらに2.4GHz帯で使えるコンパクトなトランスミッタも発表されました。3.5mmのステレオミニで接続するという機材で、さまざまなシーンで利用できそうです。見た目はほぼ同じですが、トランスミッタ=送信機とレシーバ=受信機があり、それらをペアで使う形となっています。いずれも充電式となっていて、USB Type-C端子を通じて充電する形です。こちらも価格は未定ですが、秋に発売とのことです。
これらについても、また詳細が分かったら記事で取り上げていきたいと思っています。
PPGの進化系!? 24ポリのWaveTable Synth、3rd Wave
NAMMの期間中、オトトークの収録などをしていたこともあってCASIOブースを拠点にして、いろいろなブースを見に行っていたのですが、そのCASIOブースの近くにあって、何これ?と思ったのが地元ロスアンゼルスのガレージメーカー、Groove Synthesisが開発した3rd Waveというシンセサイザ・キーボード。
一見してPPGっぽいこのシンセ、まさにPPGがその後進化したらこうなるはず…ということで開発したもので、アメリカ価格では$4,999で6月から販売がスタートされるとのこと。YouTubeでそのデモ動画もいくつか公開されているので、これを見ると雰囲気が分かると思います。
この3rd Waveは24ポリフォニックのウェーブテーブルシンセで、4パートのマルチティンバーが可能となっています。それぞれ3つのオシレータで構成されていますが、各オシレーターには昔のPPG 2.x時代のウェーブテーブルデータがはいっているほか、アナログモデルのウェーブテーブル、そして最新の複雑なウェーブテーブルが多数入っており、これらから組み合わせて音作りができるようになっています。
また内蔵のWavemakerというものを使うことにより、最大64個の独自のウェーブテーブルを作ることができるのも大きなポイント。サンプルからウェーブテーブルを作成する機能があり、外部入力から取り込んだオーディオデータをもとにウェーブテーブルを簡単に作れるようにもなっています。
今後、国内発売されると100万円近い値段になってしまうのでは…とも思えますが、機会があれば改めて記事にできれば…とも思っているところです。
MIDI 2.0にも対応するMIDIハブ、BomeBox
続いて紹介するのはドイツ・ミュンヘンにあるメーカー、Bome Softwareが開発した小さなお弁当箱的機材、BomeBoxです。これはスタジオでもステージでも利用可能なMIDIのHubということで、パソコンなしにUSB-MIDI、DIN MIDI、Wi-Fi MIDIでのやりとりを可能にするもの。もちろんWindows、Mac、iOSなどの機材と接続してありとりも可能となっています。
たとえばUSB-MIDIキーボードとBomeBoxをUSBケーブルで接続し、DINのMIDIケーブルでSC-55mkIIのような昔の音源モジュールに接続すると、パソコン不要で直接USB-MIDIキーボードでこれら音源を弾けるし、Wi-Fi MIDIでiPad音源を鳴らす…といったこともできるわけです。
最新のファームウェアにおいて、MIDI 2.0にも対応しているとのことで、MIDI 2.0とMIDI 1.0との変換機能も装備しているようで、将来的にもさまざまな使い方ができそうです。価格は€225で、アメリカドルだと少し割安の$249。現時点、日本に代理店がないので個人輸入するしかなさそうですが、MIDIユーザーにとっては便利そうなアイテムです。
自由自在に楽器を設計できるMPEコントローラ、ERAE Touch
フランス・パリのベンチャー、embodmeが開発したタッチコントローラ、ERAE Touchという機材も、見た目が派手なこともあって、目立っていました。
これはデバイス自体を自在に光らせることができるLEDを搭載したタッチセンス機能搭載のコントローラで、MPE=MIDI Polyphonic Expressiveに対応したというものです。これを使ってキーボード風にしたりドラムパッド風にしたり自由に楽器をデザインして、それで演奏できる、というわけです。以下に25秒の紹介ビデオがあるので、これを見るとニュアンスが分かると思います。
レイテンシーも非常に小さく、自分だけの楽器を簡単に構築できそうです。サイズ的には404(W)x244(H)x16.5(D)というもので、重さは2.5kg。1つだけで使用できるのはもちろん、複数組み合わせて使うことも可能。USB Type-C端子を装備しているほか、こちらもMINIジャックでのMIDI 2.0端子も装備されたMIDI 2.0対応気合です。
まったくチェックできていませんでしたが、2020年にクラウドファンディングサイトのKickstarterで発表されていたようで、この5月中に、いよいよ製品発売が開始されるとのこと。価格は税抜きで€700。日本円換算で10万円強。ここにはこのハードウェアのほかに、CONTINUAというWindows・Mac・iOSで動作するソフトシンセも付属しているとのこと。MPE対応のソフトシンセなので、このERAE Touchの力を存分に発揮させることができる、とのことでした。
ベテランのおじいちゃん技術者が開発するアナログシンセのコアIC
最後に紹介するのは、SOUND SEMICONDUCTORという会社のICです。NAMM最終日の夕方、終了時間が来て、大きな照明も落ちて、さあ、帰ろう…というとき、江夏正晃(@DJebee1)さんが、「アコースティック楽器が展示されているエリアの壁側に、面白いのがあった!」と1枚のパンフレットを見せてくれたんです。そこには、まさにICがいろいろ載っていたのですが、それぞれVCO、VCF、VCAなどシンセの部品となるチップ。
ICの写真が並ぶカラフルなパンフレットが、アコースティック楽器が並ぶエリアに…!?
ご存じの方も多いと思いますが、ProphetやOberheim、E-mu Systems、さらにはAKAI、KORGといった日本メーカーも含め多くにシンセサイザにはCEM(メーカー名としてはCurtis Electromusic Specialtys、のちのOnChip Systems)、SSM(Solid State Music)といったメーカーのシンセサイザICが搭載されていました。これらを使うことで安定したサウンドが作れていたわけですが、当時のベテラン技術者が集まって2016年にカリフォルニアで設立したアナログチップメーカーが、このSOUND SEMICONDUCTOR。
同社では、SSMのチップなどを再現させるICを作っており、これらを使うことで、非常に安定したアナログシンセを開発できる、とのこと。最新の技術で作っているので、昔のCEMやSSMのチップと比較しても圧倒的に温度特性がいい、とのことなので、自作派にとっても魅力的なICといえそうです。
国内にも電氣美術研究會というオンランショップで扱っており、1つが660~990円という手頃な価格で販売されています。もちろんデータシートやパッケージ情報もすべてPDFで公開されているので、興味のある方はぜひチェックしてみてはいかがでしょうか?
[関連記事]
【NAMM2023レポート1】GPUでプラグイン処理する最新テクノロジー、GPU Audioの技術とは
【NAMM2023レポート2】ブラウザで使えるInstaChordやオンラインセッションできるREALTIME PORTALなど…
【NAMM2023レポート3】アメリカのSynthesizer Vベンダー、Eclipsed Soundsが目指す歌声合成の世界
【NAMM2023レポート4】Danteの競合!?Analog Devicesが打ち出すオーディオとMIDI 2.0の伝送システム、A2Bとは
オトトークをNAMM Show会場で収録! CT-S1000V Challenge授賞式も