Synthesizer Vの歌姫、Maiの中の人は大阪のシンガーソングライター、橘田ほのかさん。Maiと一緒にコラボする!?

いま各所で大きな話題になっているAI歌声合成。なかでも昨年11月Synthesizer V Studio Proユーザーに無償公開された歌声データベース、Maiは多くのクリエイターが利用していて、日々新しい作品が公開されている状況です。いわゆるボカロ曲とは、明らかに異なり、人間の歌声と違いが判らないレベルにまで進化しているわけですが、そのMaiの“中の人”が本日3月15日、Synthesizer Vの開発元であるDreamtonicsから公開されました。

大阪のシンガーソングライターである橘田ほのか(きったほのか:@ponzu_2525)さんです。“中の人”という表現の仕方が正しいかどうかはわかりませんが、橘田さんの声をディープラーニングした結果、このMaiの歌声が生まれたのです。その橘田さんが、先日東京に来ていたので、AHSDreamtonicsの代表取締役であるカンル・フア(@khuasw)さん、そしてAHSの会長である尾形友秀@tomo_ahs)さんとともに、お話を伺いました。また、このインタビュー後に、橘田さんにお願いして、Maiのデモ曲として大きな話題になった「Merry-Go-Round」を橘田さん自身に歌ってもらったので、ぜひそちらも聴いていただけると面白いと思います。

Synthesizer Vの歌声データベース、Maiの中の人は橘田ほのかさん

--はじめまして。よろしくお願いします。まず、橘田さんのプロフィールを少し教えていただけますか?
橘田:普段はシンガーソングライターとしてCD制作をしたり、関西を中心にライブ活動を行っています。その一方で、いろいろな方から、コンペなどに使う仮歌のお仕事をいただいています。作曲家さんなどがコンペに出す曲を、自宅のDAW環境を使って、レコーディングしているんです。私がもともと音楽活動を始めたのは中学生のころ。アニソンやボカロ曲を歌ってニコニコ動画に投稿していたのが最初ですね。その後、ボカロPさんにオリジナル曲を制作してもらって、ボーマス(THE VOC@LOiD M@STER:同人即売会)に出展し、CDの頒布を行うなどしていましたが、自分で曲を作るようになり、いまはアコースティックギターで歌ってライブする活動が中心になっています。

--そして、昨年、Synthesizr VのMaiとして橘田さんの歌声がリリースされることになったわけですが、これはどういう経緯だったんですか?
橘田:ある日、Dreamtonicsさんからメールをいただき、驚きました。そんな話が私に来るなんて、想像もしていなかったので、ちょっと戸惑いもあったのですが、とっても面白そうにも思えたし、即OKのお返事をしました。
カンル:もともとSynthesizer Vの歌声データベースをもっと増やさなくちゃ…と動いていた一方で、Synthesizer V Studio Proがあれば、即使える無料の歌声データベースを用意しないといけないのでは……という議論が社内的にあり、シンガーの方を探していたんです。Dreamtonics内には、何人かリサーチャーがいて、常にいろいろな歌声の方を探しているんですが、そうした中から何人かの候補が上がってきたのです。そのうちの一人が橘田さんだったのですが、社内で検討した結果、橘田さんにお声がけしたのです。

今回、インタビューに答えていただいた橘田ほのかさん

--その後、どうされたのですか?
橘田:うちで、収録を行っていきました。仮歌の仕事をしているような感じですね。録ったものをネットでお送りし、その後NGテイクについて、再収録して送る……といったやりとりをした感じでしょうか?

--ん??東京に来て、本番収録をしたというわけではなく、橘田さんの自宅での収録のみ…ということですか?
橘田:はい。自宅でレコーディングしたものをお送りしただけです。実は尾形さん、カンルさんに直接お会いしたのも今日が初めてなんです。

--なんと!ちなみに、橘田さんのDTM環境って、どんなものを使っているんですか?
橘田:以前はWindows環境でしたが、最近Macに替えたところです。DAWはStudio One Professionalを使っていて、オーディオインターフェイスはSteinbergのUR22Cを使っています。マイクは以前からBlueのBaby Bottleを使っていますが、ボーカルを録るのにもアコギを録るのにもいい音で便利に使っています。

左からカンルさん、橘田さん、尾形さん

--実際、その環境でレコーディングしたもので問題なかった、ということなんですね。
カンル:さっきの話のとおり、もともと何人の候補かの中から橘田さんを選んだわけですが、レコーディングエンジニア含め、多くの人が橘田さんの声がいい、ということで推す形となったのです。そして、橘田さんから送ってもらったサンプルを聴いて、みんなで、「この人、すごーい!」と驚いたんですよ。かなりの曲数があったのですが、ピッチが自然で、ピッタリ合ってる。普通だと、ある程度ピッチ補正をしたりするのですが、まったく問題なし。ほぼそのまま使う形になったので、制作においても非常に効率よかったです。最初の音をチェックして、どうしてもダメであれば、東京に来てもらってレコーディング……ということも頭にありましたが、収録機材の詳細や、収録方法を事前にオンラインミーティングで綿密に確認した上で、橘田さんに収録に臨んでいただきました。表情もすごくあって、バリエーションも多く、アタックとリリースの表現もよく、それでいてパターンもはっきりしていて、統一した感じ。ロングトーンが苦手という方もよくいるんですが、そこもすごくよく出ていました。これまでにないほど効率よく作ることができました。追加でいくつかだけリテイクをお願いしたりしましたが、本当にちょっとだけでしたね。ちょうど、いまDreamtonicsのスタジオを作っているところで、今後、当社でのレコーディング環境も大きくパワーアップしていきます。

自宅でレコーディングする橘田ほのかさん

--では、橘田さんの作業は、自宅でのレコーディングで終わり、ということだったんですね?その後、デモ曲である「Merry-Go-Round」を聴いて、初めてその完成を知った、と。実際、聴いてみていかがでしたか?
橘田:発表前にデモ曲を聴かせてもらいました。予想していた以上に、自分過ぎて、驚いたというか、とっても不思議な感じでした。ナチュラルに歌っているし、自分の癖もそのまま出ていて、要所要所が、それぞれ自分なんです。その後、DTMステーションの記事が出て、多くの人がツイートしたり、リツイートしたりするのを、チェックしてました。エゴサしたりもしながら、みんなの感想を見ていたのですが、正直自分も歌う活動をしているので、これで仮歌の仕事が来なくなったらどうしよう…なんて不安になったりもしました。キャラクタ、ビジュアルがないだけに、シンプルに歌声の情報だけで評価されているのを見て、こういう風に思われるのか…と嬉しさを感じたりもしました。

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--とはいえ、その時点では、Maiが橘田さんの声であることは発表されていなかったわけだし、基本的には公開NGだったわけですよね。
橘田:はい。それだけに、いろいろもやもやはありましたね。みんな「AIスゲー!」、「AIはここキレイに歌うんだ!」ってTwitterなどで言ってるけど、これ、私の声なんですけど!、って(笑)。一方で、知り合いや音楽仲間などから「この声って、もしかして……」なんて言われたりもしたんですが、そこはとりあえずごまかしてましたね。
カンル:その時点では、とにかく声で勝負したかったので、キャラクタもつけなかったし、中の人が誰かという情報も出しませんでした。Maiがリリースされることで、世の中に結構なインパクトを与えられるはずだという確信はあったので、多くの人にSynthesizer Vのリアルな歌声を届けたいと考えてました。その時点では橘田さんである情報を公開するとか、しないといったことは決めていませんでしたが、まずは橘田さんの情報を一緒に出すのではなく、Maiの歌声を聴いてもらいたかったという思いですね。

--そのMaiの声が、橘田さんであったというのを、今の時点で公開することになったのはどうしてなんですか?
尾形:結果的には、想像していた以上に多くの反響をいただき、話題になりました。公開することで橘田さんにご迷惑をかけてはいけないと思っていましたが、逆に相乗効果を出すことができるかもしれない、という話になり、このタイミングでの公開となりました。まだ具体的な予定は何も決まっていませんが、どこかのタイミングで、Maiと橘田さんのライブイベント…なんてこともできたらいいな、と考えているところです。

2021年リリースのミニアルバム「あわく滲む藍」 DL版、各配信サイトはコチラ

--Maiと橘田さんのコラボ、面白そうですね。
橘田:実は、Maiがリリースされた後に来た、仮歌の仕事の中に、Maiで仮々歌が入っていたものがあったんですよ。それのメインパートを歌って欲しいって。しかもコーラスはMaiで入っていたんですが、そこは録らなくていい、という指示で。だからMaiのデータを清書するみたいな気持ちでレコーディングして、コーラスはそのまま。そんな形でコラボしたことはありますよ。何かのコンペに使うための楽曲で、その後どうなったのかはわからないですが、いろいろな形でMaiと一緒に歌えたらいいですね。

--橘田さんはMaiを使ってみましたか?これまでVOCALOIDなどは使っていたんですか?
橘田:Mai、実は、まだ使えていないんです。操作方法がよくわかっていないというか……。VOCALOIDも本当は使いたかったものの、中高生のころはお金がなくて、フリーウェアのUTAUは使ったりしたのですが。ぜひ、今度ちゃんと使ってみたいです。ただ、多くの方が作っているMaiの声はYouTubeやTwitterなどでいろいろ聴いています。自分では絶対歌わないようなジャンルの曲もあったりして、楽しいですね。「試しにベタ打ちで歌わせてみた」といった感じのものが、一番私っぽく思います。一方で、調声していくと、かわいくなったり、自分とは違った感じになっていて、とっても不思議ですね。今度、Synthesizer Vの使い方をマスターしたら、さっきの仮歌の仕事じゃないけど、自分の音源制作において、Maiにコーラスを歌わせるなど、いろいろチャレンジしてみたいですね。

--Maiで音楽制作をしている人などが、橘田さんに歌ってもらいたい、と思った場合、お仕事としてお願いすることはできるものなんですか?
橘田:はい、歌う仕事は大好きなので、ぜひお声がけください。私のWebサイトにコンタクトフォームがあるので、そこから連絡いただいてもいいですし、Twitterから連絡いただいても大丈夫です。ぜひ、楽しい作品作りができればと思っております。

 

さて、そんなインタビューの最中、Maiのデモ曲として、大きな話題になった「Merry-Go-Round」を橘田さん本人が生声で歌ったら面白いのでは!と盛り上がり、橘田さん本人も「かなり同じ声だと思いますよ(笑)」と話していたので、後日、橘田さんの自宅スタジオでレコーディングしてもらうことになったのです。

メインボーカルのほかハモ、それにコーラスを2パートの計4トラックをStudio Oneを使って24bit/48kHzでレコーディング。そのデータを、オリジナルのミックス、マスタリングを行ったエンジニアさんに渡したうえで、オケとミックスさせた結果がこちらです。ぜひ、オリジナルと比較して聴いてみてください。

どうですか? 確かに同じ人の歌声だなと実感する一方、橘田さんによる生声のほうが、Maiよりも高音域でのツヤが出てる感じで生々しさも感じます。また橘田さんの声のほうがリリースが長く、ビブラートも緩やかであるため、人が歌うことによる良さがうまく表現できているように思います。もちろん、どちらがいい、悪いという話ではなく、歌声の違い、特徴という面での比較ではありますが、面白いですよね。まったく別楽曲で、Maiと橘田さんのコラボ作品なんかが今後出てきたら、とっても楽しそうです。

以上、Synthesizer Vの中の人が、橘田ほのかさんであったことを紹介してみました。橘田さんのことを少し知ったうえでMaiを使ってみると、さらにその良さを引き出すことができるようになるかもしれませんね。

橘田ほのかさんライブ情報

告知がギリギリのタイミングになってしまって大変申し訳ないのですが、この記事公開日である本日19:00~、東京・下北沢のライブハウス、下北沢DY CUBEにて、橘田さんのライブが行われます。「天下統一 -Matonの日-」と題したライブイベントで橘田さんのほか4人でのライブとなっています。いきなり行けないという人のために、ツイキャスでのライブ配信も行われています。

詳細については、
https://framu.world/events/4005
をご覧ください。ツイキャスでの配信については
https://twitcasting.tv/livehousedycube/shopcart/213122
からチケット購入可能で、3月29日までアーカイブの視聴が可能となっています。

その後3月20日には大阪の心斎橋LABAR、4月9日には京都のsomeno kyotoで橘田さんのライブが予定されています。詳細はこちら
https://framu.world/groups/kittahonoka
をご覧ください。

【関連情報】
Synthesizer Vシリーズ製品情報(AHS)
Dreamtonicsサイト
橘田ほのかさんオフィシャルWebサイト

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