ソフトウェアサンプラーの代名詞的ソフトの一つであるSteinbergのHALionがバージョンアップし、HALion 7として発売されると同時に、そのエンジンを持ったプレイバックサンプラーであるHALion Sonic 7が無料化されて登場しました。以前のバージョンでも、すでにサンプラーの枠に収まらず、さまざまなシンセシスエンジンを搭載した超強力インストゥルメントであったHALionですが、今回はYamahaと共同開発したFM音源を搭載したのが大きなポイント。DX7を再現できるのはもちろんですが、最大8オペレーターまで利用可能で、数多くの機能も装備した最新鋭のFM音源に進化しているのです。
それに対し無料化されたHALion Sonic 7はあくまでもプレイヤーという位置づけとなり、各サウンドライブラリは別売となっています(一部無料のサウンドライブラリもあり)。もちろんHALion 7とHALion Sonic 7を両方インストールすることで、HALion 7に入っているライブラリすべてをHALion Sonic 7でも使える形でFM音源の利用も可能となります。一方、そのHALion 7を同梱したSteinbergのインストゥルメント全部入りパックであるAbsolute 6も登場しています。今回のAbsolute 5からAbsolute 6へのバージョンアップでの変更点はHALion 7のみとなっていますが、HALion 7が41,800円(税込実売価格、以下同)、なのに対し、全27音源を収録したAbsolute 6が55,000円となので、かなり割安。いずれもWindows/macOS対応で、VST3対応はもちろん、AU、AAXにも対応しています。今回はそのHALion 7で強化されたFM音源部分を中心に紹介してみたいと思います。
22年の歴史を持つHALionがさらに大きく進化
HALionはSteinbergが開発するインストゥルメントの中核的存在で、もともとは2001年1月にソフトウェアサンプラーとして誕生したソフトです。その後22年の歳月をかけ、コンピュータ技術の進化とともに成長してきたのです。その過程で、もはやソフトウェアサンプラーは、HALionの機能の一部という形になり、バーチャルアナログシンセシス、ウェーブテーブルシンセシス、グラニュラーシンセシス、トーンホイールオルガン……などなどさまざまなシンセサイザエンジンを搭載していきました。
もちろん、シンセサイザエンジンだけでなく、FlexPhraserというアルペジオとフレーズのプレイヤーを備えたり、REVerenceという超強力なコンボリューションリバーブを搭載したり、VST Ampというパワフルなアンプシミュレーターを搭載したり、Resonatorというさまざまな音色を作り出すフィルタを搭載するなど、音作りの統合環境ともいえるソフトへと進化していったわけです。
HALion Sonic 7は無料に
今回のタイミングでライセンス方式がSteinberg Activation Managerになったことで、従来のドングルである、Steinberg Keyが不要となっています。また、Apple Siliconにも対応したことで、M1,M2のプロセッサを搭載したMacでも快適に使えるようになりましあt。
一方でHALion Sonic 7が無料で登場しているのも大きなニュースです。従来はHALion Sonic 3だったのが、一気にバージョンが4つ進んだというかHALion 7とバージョン番号を揃えた格好です。また従来のHALion Sonicとやや位置づけも変わっているのが重要なポイントとなっています。。
これまでHALion Sonic 3はプレイバックサンプラーとしての機能とともに、さまざまなサウンドライブラリがセットとして入っていました。そのサウンドライブラリの数が少ないのがCubaseなどに同梱されているHALion Sonic SE 3だったのです。
ところが、今回のHALion Sonic 7はエンジン部分はすべて最新に刷新されていますが、サウンドライブラリは同梱されない形に変わっているのです。ただし、Steinbergサイトでは現在
の4種類のサウンドライブラリが無償ダウンロード可能となっているので、まずはここから試してみるのもあり。一方で、HALion 7に搭載されているサウンドライブラリをすべてまとめたものが、HALion Sonic 7 Collectionという製品としてダウンロード販売をスタートさせています。これが実質的にHALion Sonic 3の後継ということになりますね。価格は29,810円(税込)なので、従来より少し安くなっています。これを利用することで、HALion Sonic 7でFM音源も含めて利用可能になるわけです。
新たに搭載されたFM Synthとは
では、ここからその新機能であるFM Synth=FM音源についてみていきましょう。「ついに登場か!」と思う人もいれば、「いまさらFM音源?」と思う方もいるかもしれません。でも、今回搭載されたFM音源機能は、単に昔の音源の復刻というようなものではなく、まさに最新のシンセサイザエンジンとなっているのです。
もっともFM音源といえば1983年にYamahaが発売したDX7を思い浮かべる人が多いと思います。最近はそのDX7をソフトウェアで再現するものもいろいろと出てきているので、そこだけを見れば、FM音源の搭載自体はそう目新しいものではないかもしれません。ただSteinbergはYamahaの100%出資の子会社であることもあり、HALionにFM音源機能を望む声は以前から多くありました。今回、それをSteinberg、Yamahaの共同開発という形でFM音源機能を搭載した意味は大きいと思います。
では実際に使いながらみていきましょう。HALion 7を起動すると、Play、Createと大きく2つのカテゴリーのアイコンが表示されますが、Play側がHALion Sonic 7でもできる機能、Create側がHALion 7のみでできる機能です。HALionは、このCreateを使って、音をゼロから作っていくことができるわけですが、ここにFM Synthesisというアイコンがあります。これが新たに搭載されたFM音源でこれを選択すると、FM音源のエディタが登場します。
パっと見、とてもシンプルに見えますが、かなり複雑な音作りが可能で、そのアルゴリズムだけでも膨大にあります。見るとわかる通り、DX7だと6つのオペレーター、DX100やDX21、TX81Zなどでは4つのオペレーターだったのが、このHALionには8つのオペレーターがあり、これを組み合わせていくことができるのです。またDX7など従来のFM音源の場合、OP1のみフィードバック可能であったのに対し、8つのオペレーターすべてでフィードバック設定ができるのも面白いところ。
それだけにアルゴリズムとフィードバックの設定だけでも、さまざまであり、膨大な組み合わせでの音作りが可能になっていきます。もちろん、8つのオペレーターすべてを使う必要はないため、アルゴリズムにはDX7というカテゴリの6つのオペレーターのアルゴリズムが32種類、TX81Zというカテゴリの4つのオペレーターのものが8種類、そして、今回新たなFM-Xというカテゴリの8つのオペレーターのものが88種類選べるようになっています。このFM-Xというのは現行のYamahaのシンセサイザであるMONTAGEやMODX+で使われているものであり、これらともデータ互換があるようです。
もっとも、アルゴリズムの話はHALion 7に搭載されているFM音源機能のごく一部を見ているにすぎません。たとえばそのオペレーターが発振する信号は、DX7などDXシリーズの場合、サイン波に限定されていました。が、これを別の波形にすることで、音作りの範囲は莫大に広がっていきます。そもそもサイン波どうしで周波数変調を掛けてどんな音になるのかを想像することすら難しかったわけで、それがFM音源の音作りの難しさでもあったわけですが、サイン波だけでなく矩形波やノコギリ波、三角波、さらにはもっと複雑な波形を入れていくと、もう頭の中では予想がつかない音になっていきます。このHALion 7のFM音源では、そうしたオペレーターの発振する信号もいろいろと選択できるようなっているのです。
HALion Sonic 7でも使えるFM音源エディタ、FM Lab
そんな感じで地味に地道にゼロから音作りをしていくHALion 7のFM音源ですが、もう少し見やすい画面で、楽しく音作りをしていくエディタも装備されています。それがFM Labというものです。このFM LabはHALion 7に限らず、このFM音源のライブラリが入っていればHALion Sonic 7でも利用できるのがポイント。もちろん、HALion Sonic 7であっても、FM Labで作った音色を保存して自分のライブラリにしていくこともできますよ。
そもそも、このFM Lab用に数多くのプリセットが用意されているので、これを読み込むことで、これまでのHALionでは表現できなかったFM音源サウンドをすぐに楽しむことが可能です。そして必要に応じて読み込んだ音をエディットしていくことができます。
先ほどのアルゴリズムの選択やフィードバックの設定、波形の選択などもここで行っていくことが可能。各オペレータごとにエンベロープの設定を行ったり、デチューンの設定を行っていくことなどもできます。
また、とっても根本的なところになりますが、HALion 7のFM音源の音作りにはもう一つ重要な特徴があります。そう、DXシリーズではオペレーターからオペレーターへの周波数変調を使ってさまざまな音を変えていくというのがすべてであり、アナログシンセなど従来のシンセサイザとはまったく違う音作りだったわけですが、このFM音源にはフィルターが搭載されているのです。つまり、周波数変調で音作りをした結果にフィルターをかけていくことで、アナログシンセ的な、より直感的な音作りができるのです。
しかもローパスフィルター、ハイパスフィルター、バンドパスフィルター、バンドリジェクト……など、さまざまなフィルターを選択できます。またLFOも4系統独立で搭載されていたり、MATRIX機能を使って、そのソースをどのデスティネーションに送るか……といったこともできます。
もちろん内蔵エフェクトも充実しています。コーラスやフランジャーなどモジュレーション系が10種類、EQ/フィルターが4種類、ダイナミクス系が2種類、ディストーション系が2種類、PAN、そしてリバーブ、ディレイとあり、そのうち5つを接続していくことができるのです。ここまでくると、単なるFM音源というより、FM音源をベースとしたモンスターシンセサイザですね。
DX7の音色データを読み込み完全に再現できる
そして、もうひとつ肝心なことを言い忘れましたが、これまで莫大な資産があるDX7の音色を読み込んで利用することも可能になっています。DX7の音色はMIDI System Exclusiveを用いて書き出したSYXファイルで管理していることがほとんどだと思います。そうしたデータを手元に持っている人も多いと思いますが、ネットを探せば膨大な音色データが出てきます。たとえば
というサイトに行くと、本当に途方もないほど莫大なライブラリを入手できます。これを読み込むことで、HALionとしてそのサウンドを再現することができるのです。さらにその読み込んだDX7の音にそのままフィルターを掛けたり、各種エフェクトを設定していくこともできるので、かなり楽しく音作りができるはずです。
IMPPORTタブを利用してDX7の音色データを読み込んでみた
開放弦のギターをサンプリングした音源、Tales
と、HALion 7に搭載されたFM音源の機能のほんの一部を紹介した感じですが、その面白さが少しは伝わったでしょうか?今回HALion 7には、このFM音源のほかにもTalesという強力なギター音源も追加されています。
これは、アコースティックギターをキレイなサウンドでサンプリングした音源なのですが、普通のギター音源と違うのはギターの弦を一つ一つ開放音としてサンプリングし、異なるピッチにチューニングした、というもの。この開放弦に加え、ミュートオンやハーモニクスなどのアーティキュレーションも収録しているほか、テクスチャーとしてシンセサウンドを加えていくこともできるユニークな音源です。ある意味、これだけでも十分元が取れてしまう音源といえそうです。
このHALion 7に加えPadshop 2、Retrologu 2、Groove Agent 5、The Grand 3……などなど、以下の全27音源がセットになったものがAbsolute 6です。
Sampler & workstation | Synthesizer and electronic music | Drums & percussion | Cinematic instruments |
・HALion 7 | ・Retrologue 2 | ・Groove Agent 5 | ・World Instruments |
・Sounds of Soul | ・Future Past Perfect | ・Dark Planet | |
Brass | ・Padshop 2 | ・Backbone | ・Studio Strings |
・Hot Brass | ・Polarities | ・Prime Cuts | ・Symphonic Orchestra |
・Skylab | ・Rock Essentials | ||
Organ | ・Anima | ・World Percussion | |
・Model C | ・Voltage | ・B-Box | |
・Auron | |||
Pianos | ・Triebwerk | Bass | |
・Amped Elektra | ・Granular Guitars | ・Electric Bass | |
・The Eagle | ・Hypnotic Dance | ||
・The Grand 3 | ・Trium | Choir | |
・The Raven | ・HALiotron | ・Olympus Choir Micro |
これら27音源を個別に買うと223,300円。それが55,000円で入手できるのですから、この機会にこのSteinberg音源全部入りを揃えてしまう、というのもありだと思います。
【関連情報】
HALion 7製品情報
Absolute 6製品情報
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