これまでDTMステーションにも何度も登場いただいている音楽作家であり、サウンドエンジニアでもあり、そしてDOTEC-AUDIOの開発者でもあるフランク重虎さんが、12月9日、プラグインのプライベートブランドであるVidar audio(ビダール・オーディオ @vidaraudio)を旗揚げするとともに2つのプラグインをリリースしました。このVidar audioは中上級者にターゲットを絞ったプラグインブランドであり、かつダイナミクス系のみを出していくとのこと。
今回リリースされたのはダンスミュージックに特化したマキシマイザであるBARRIER(バリア)と、フリーウェアのコンプレッサであるHAMMER(ハンマー)のそれぞれ。BARRIERは通常価格80ドルとのことですが、しばらくの間、新ブランド立ち上げ記念のイントロプライスとして20ドルでのダウンロード販売となっています。そこでこれらがどんなプラグインなのかをチェックするとともに、Vidar audioを立ち上げた背景などをフランク重虎さんに聞いてみました。
重虎さん個人による新ブランドの旗揚げということで、もしかしたらDOTEC-AUDIOで内紛でも起こったのか……と身構えてしまいましたが、そういうわけではないようです。
「DOTEC-AUDIOは初心者からプロまで幅広いユーザーを対象にするとともに、基本的にはワンノブで簡単操作というのをコンセプトに製品展開をすすめてきました。またDOTEC-AUDIOとしてのブランドカラーもあり、開発にはかなりの工数がかかります。たとえばデザインは出雲重機さんや福田興業さんにお願いするし、流通の面でも代理店や販売店にも展開しているため、どんなに急いでも年に2本出すので精一杯という状況です。一方で、私の頭の中では作りたいプラグインのアイディアがどんどん溜まってきていて、消化しきれていない…というのが実情なんです。そこで、DOTEC-AUDIOとは直接競合しない形で、もっと小回りの利くブランドを作ったというのが実態です。実際デザインも含め、すべて自分ひとりで開発しています」と重虎さん。
DOTEC-AUDIOのもう一人である飯島進仁さんと喧嘩別れになった…という話だったらどうしようか…とちょっぴり心配したのですが、そうではなくて安心しました。またデジタル署名やインストーラーなどには飯島さんの協力も得る形で運営しているそうなので、心配はなさそうですね。
「DOTEC-AUDIOが私と飯島さんとのバンド活動だと考えると、このVidar audioは私のソロ活動といった感じですね。自分が欲しいツールを作るという面では共通しているのですが、ソロ活動としては、DOTEC-AUDIOとは違うスタンスのものを作ってみたかったので、中上級者に絞ってパラメータも多く用意する形にしました」(重虎さん)
その最初のプラグインであるBARRIERとはどんなものなのか、まずは紹介動画があるので、こちらをご覧になってみてください。
かなりパワフルに使えるマキシマイザのようで、明らかにDeeMaxなどとは趣が異なります。
「透明感あるマキシマイズ、力強い低音、アグレッシブなサウンドと、モダンなダンスミュージックが求める音を作り出します。音圧を上げるだけでなく、低音はセンターにまとめ、中高域はワイドでド派手に広げたり、低音をブーストするなどダンスミュージックの音作りに対して即効性の高い機能を揃えています。パラメータがたくさんあるので、一見難しそうにも見えますが、基本的には左の2つ、つまりTHRESHOLDとCEILINGをコントロールすればいいだけなので、使ってみればそれほど難しくはないはずです」と重虎さんは話します。では、内部的にはどのようなことを行っているのでしょうか?
「低域と中高域を分けて、それぞれにダンスミュージック用にチューニングされたマキシマイズを行う仕様となっています。とくにダンスミュージックでは低域での処理が非常に重要であり、そこでのパラメータが重視されてます。そのために低域と中高域を分けており、そのクロスオーバー周波数とレベルを調整することもでき、低音のステレオ幅を調整したり、高音のステレオ幅を調整する……といったことも可能になっています。多くのマキシマイザの場合、ステレオイメージャーと併用して音作りをしますが、このBARRIERではワンストップで処理しているのもユニークなところです」(重虎さん)
また内部的には64bit倍制度演算処理を行っているので、演算のほうも、非常に高精度です。
「パラメータの中で中高域のステレオ幅を最大200%まで広げることができるので、ド派手な演出ができます。またダンスミュージックだと低音をあえてモノで処理するケースもありますが、そうしたことも可能になっています」(重虎さん)
さらにトゥルーピークに対応しているのも特徴の一つであり、バイパスしても音切れやブツっとノイズが入ったりすることなく使えるようになっているのもポイント。
「トゥルーピークに関しては、正しく理解していないユーザーの方も多く見かけます。これはヘッドルームが十分に空いている状態で、アナログにしたときのレベルが放送規定のピークを越えないようにするための機能です。よく-0.1dBで音圧パンパンの状態で使っている事がありますが、限界状態に加えてトゥルーピーク分を追い打ちで圧縮することになるので、音質的にはおすすめできませんね。これはトゥルーピーク全般でいえることです。」と解説してくれました。
なお動作環境もDOTEC-AUDIOとは少し違いがあります。Vidar audioのプラグインはBARRIERに限らずすべて以下のような仕様になっています。
プラグインフォーマット:64bit VST3,AU,AAX(Native)
推奨動作環境:
Windows7 64bit以降
MacOS 64bit 10.12以降
そのため、OBSであったり、一部の波形編集ソフトでは動作しませんが、DAWを使っているユーザーであればまったく問題ないと思います。また、インストーラが付属しているので、インストールもある意味DOTEC-AUDIOのプラグインよりも簡単といえそうです。
そんなBARRIERに加え、今回、無料のコンプレッサ/リミッタであるHAMMERもリリースされています。
「こちらは、いま風なプラグインであり、モダンとビンテージのハイブリッドなコンプレッサー/リミッターとなっています。名機1176のようにINPUTを上げればコンプレッションがかかるという仕様で、各トラックはもちろん、バスにも使いやすくファットでモダンなサウンドが楽しめます。こちらはダンスミュージックに限らず、全ジャンル、全パートで活用できます。PEAKモードではハードにかかるモダンな音に、RMSモードでは反応が緩やかなビンテージな音になります」と重虎さんは説明してくれました。
どんな音なのか、こちらもビデオが用意されているのでご覧ください。
かなりかかりもよく、幅広く使えそうなコンプですが、これが無料というのですから、ぜひ入手しておきたいところ。
このHAMMERも前述のBARRIERも、米gumroad.comサイトからダウンロードする形になっており、無料のHAMMERも、まずはgumroad.comのアカウント登録が必須です。
アカウント登録自体は簡単です。gumroad.comのログイン画面に行くと、上に「登録する」という文字があるので、これをクリックします。
するとアカウント作成画面が出てくるのでEメールとパスワードを設定してください。FacebookアカウントやTwitterアカウントに紐づけて登録することも可能になっているので、それらを利用することも可能です。
続くページでUsernameおよび、Nameをアルファベットで入力します。その後メールが届くので、そこに記載されているボタン(URL)をクリックすれば認証されて、完了です。その後、Vidar audioのページに行って入手してください。
なお、BARRIERには無料のデモ版も用意されています。こちらも機能的には製品版とまったく同じですが、30秒ごとに1秒の無音となる形になっています。これでも十分性能はチェックできるはずですが、せっかくイントロプライスで安く手に入るチャンスなので、BARRIER、HAMMERセットで入手してみてはいかがでしょうか?