360 WalkMix Creatorを使い360 Reality Audioのサウンドを作ろう Pro Tools編

これまでDTMステーションでは、Cubase、Studio One、Logic上で使う360 WalkMix Creatorを紹介してきました。今回はPro Toolsで利用する方法をまとめていきたいと思います。改めてではありますが、360 WalkMix Creatorは、ソニーの360立体音響技術を用いた新しい没入感のある音楽体験、360 Reality Audioという立体音響作品をDAW上で作るためのプラグイン。ヘッドホンで音を聴いていても、上下左右、前後……、と立体的に聴こえるサウンドが作れるのが、大きな特徴となっています。

複数のスピーカーを設置した立派なスタジオでなくても、普段のDTM環境で制作可能となっており、一般的なステレオサウンドとはまったく異なるアプローチで、楽曲にクリエイティビティを発揮することができるのです。実際の使用にあたって、いくつか押さえるべきポイントがありますが、一度覚えてしまえば楽々使いこなせます。さて今回はPro Toolsでの使い方を紹介していきましょう。

Pro Toolsを使って、360 Reality Audio作品を作っていく手順を紹介


これまでDTMステーションでは、

と、各DAWで360 WalkMix Creatorを使う方法を紹介してきました。お使いのDAWに合わせて、それぞれの記事をぜひご覧ください。

さてPro Toolsは、以前「Pro Tools 2022.04が発表され、ラインナップ激変! サブスクは必須か?永続版は買えるのか?など新体系を徹底解説」という記事でも紹介したように、2022年の4月で無料版のPro Tools | Firstが終了しました。そして、エントリーモデルとしてPro Tools Artistが誕生するなど、ライナップに動きがあったわけですが、現行の全ライナップでAAXを利用できるので、360 WalkMix CreatorはPro Tools Artist、Pro Tools Studio、Pro Tools Ultimateで使用することが可能です。

まずは、360 WalkMix Creatorをインストールしておき、Pro Toolsを起動します。

まずは360 WalkMix Creatorをインストール

通常はプレイバックエンジンで、利用したいオーディオインターフェイスを指定するのですが、ここではそれを指定しないのがポイント。複数のオーディオインターフェイスが表示されている場合、実際の出力として使わないものを指定します。また、ダイナミックプラグインプロセッシングはオフにしておきましょう。

利用したいオーディオインターフェイスをPro Toolsでは指定しないでおく

さらにオプションメニューにある「遅延補正」は、セッション作成後通常有効になっていると思いますが、使用している状態にしておきます。

「遅延補正」はオンにしておく
ここまでの設定が終了したら、新規のセッションを作成し、これを48kHzのサンプリングレートに設定しておきます。まずはマスターフェーダーを作成して360 WalkMix Creatorをインサートします。360 WalkMix CreatorはOtherの中か、Audio Futuresから見つけることができます。インサートすると360 WalkMix Creatorの画面が表示され、初回起動時のみログインを要求されるので、ログインしてアクティベーションします。

360 WalkMix Creatorをマスタートラックにインサートする

初回のログインが終わると、360 WalkMix Creatorの画面が表示されるとともに「マスター出力先として設定する」という表示が出てくるので、「設定する」をクリックしてください。「マスター出力として設定されています」といった表示になったら、このウィンドウはいったん閉じておきます。

マスター出力として設定する

次にオーディオトラックを作成し360 WalkMix Creatorをインサートします。すると今度は先ほどとは違う、360 WalkMix CreatorのPANNERの画面が表示されます。ここからは、360 WalkMix Creatorの最初のセットアップを進めていきます。

オーディオトラックにインサートすると、別の画面が表示される

まず右下にある歯車アイコンをクリックすると表示される、各種設定画面で、オーディオデバイスタブを選択し、オーディオインターフェイスの設定を行います。ここでは出力タイプからWindowsであればASIOを、MacであればCoreAudioを選択します。

MacではCoreAudioを選択、Windowsの場合はASIOを選択する

その後、出力デバイスで、これから使用するオーディオインターフェイスを指定します。先ほどPro Toolsで指定したオーディオインターフェイスではなく、実際出力するものにする、ということが重要です。また出力サンプルレートが48000に、出力バッファサイズが1024程度になっているようにしましょう。もし出力サンプルレートが違う数値の場合は「デバイスセッティングパネルを開く」をクリックして変更するようにします。また、スタジオなどでよく使われるHDXをモニター用のサウンドデバイスとして使用することはできるようですが、ネイティブ・モードでDSPプラグイン使用すると360 WalkMix Creator側の遅延補正機能などが正しく動作しないようですのでご注意ください。

オーディオインターフェイスを指定するとともに、出力サンプルレートを48kHzに設定

さらにスピーカーとヘッドホンも確認していきます。スピーカーはイマーシブ環境やサラウンド環境が用意されているのであれば、それらを指定します。ですが、多くのユーザーはステレオの2chだと思います。その場合でも、ヘッドホンで立体的にモニタリングすることが可能なので、ヘッドホンのみでモニタリングする場合は、スピーカーについてはとくに設定しなくてもOKですが、簡易的にという意味で、Standard 2.0(Stereo)を設定しておいてもいいでしょう。

スピーカーを設定する。ステレオ2ch環境の場合は、簡易的なものだが、Standard 2.0(Stereo)を設定

ヘッドホンも同じく、左右のチャンネルが正しく設定されていることを確認すれば大丈夫です。

ヘッドホンについても設定されているかを確認しておく

そしてヘッドホンでモニターする場合は、画面左下のヘッドホンアイコンをクリックして青く点灯させておきます。

左下にあるヘッドホンマークをクリックして、青く点灯させておく

最後に画面中央上にある電源ボタンをオンにして緑に点灯させると、準備完了。Pro Toolsを再生させると、画面上に表示されているオブジェクトが再生音量に合わせて光り出し、ヘッドホンから音が立体的に聴こえてくるはずです。もし、内蔵スピーカーなどから音が出てしまったり、エラーメッセージが出る場合は、どこかに設定漏れがあるので、再度チェックしてみてください。

電源ボタンをオンにする

このPANNERでオブジェクトの位置を動かしていくと、それに伴いモニター音も動いていきます。必要に応じて、その移動をオートメーションで記録していくことも可能。

再生すると、オブジェクトが再生音量に合わせて光り出し、ヘッドホンからは立体的に音が聴こえる

試しにオーディオトラック1つだけで行いましたが、もちろん実際にはここからオーディオトラックを増やしていきます。この際、オーディオトラックを追加したら、先ほどと同じように、インサートに360 WalkMix Creatorを挿していきます。その際、表示される内容はどのトラックも同じ。つまり、Audio 1というトラックを示すオブジェクトも、Audio 2というトラックを示すオブジェクトも1つのプラグイン画面の中に表示されるのです。したがって、プラグイン画面を複数表示させる必要はなく、1つあればいいわけです。

挿入するプラグインを増やしていくと、画面上にオブジェクトが増えていく

もちろんオーディオトラックだけでなくインストゥルメントトラックも同じように扱うことができます。インストゥルメントトラックを作成したら、同様に360 WalkMix Creatorをインサートすればいいのです。

インストゥルメントトラックも360 WalkMix Creatorをインサートし、オブジェクトとして配置していくことが可能

ちなみに、トラックの音にEQやコンプ、各種エフェクトを掛ける場合は、360 WalkMix Creatorをインサートするよりも前の段にプラグインを入れるようにしてください。もし後ろに入れてしまうと、まったくエフェクトが掛からないばかりか、同期がズレる可能性もあるのでこの点は注意してください。

このようにして音を立体的に配置していくのですが、音量が大きくなりがちなので、360 WalkMix CreatorのPANNER画面右側にあるオブジェクトのフェーダーを使って調整します。横のフェーダーだとしっくりこない…という場合、画面を最大化すると画面下にフェーダーが並ぶので、このほうが使いやすいかもしれません。もし、普段のミックスと同じようにPro Tools上のフェーダーを使用したい、という方はルーティングの工夫で実現する方法を本記事の後段で説明しているのでチェックしてみてください。

画面を最大化すると、下部にフェーダーが現れ、コンソール的に扱うことができる

またリミッターをオンにしておくことで、クリップしてしまうことはなくなるので、エクスポート時の安全用途として利用してください。ただし、リミッターをオンにすると再生時に負荷がかかり、オブジェクト数をふやしたときなどに音切れが発生することもあります。バッファサイズを大きくしても音切れが頻発するようであれば、リミッターをオフにして作業することも検討しましょう。

このようにして作品が出来上がったら、最後にデータの書き出しを行います。この手法については、「360 Reality Audioを制作するためのエクスポート手順とは」の記事で紹介しているので、そちらを参照いただきたいのですが、簡単に流れを説明すると、まず、先ほどオーディオインターフェイスやスピーカー、ヘッドホンの設定した画面にある「一般」を見てみてください。ここにExportフォルダというのがあるのでここのフォルダの場所を確認しておきます。これがデータを書き出すフォルダとなるのです。

Exportフォルダを確認しておく

その後、ファイルから「ミックスをバウンス」を選んで、ダイアログを表示させます。

ファイル保存先のフォルダを上記のExportフォルダと揃えておく

この際、保存先を先ほどのExportフォルダで指定してあったフォルダと同一のものに設定します。これが違うとうまく書き出すことができないので注意してください。その上でサンプリングレートが48kHz、ビット解像度が24bit、インターリーブのファイルフォーマットに設定されていることを確認して、「バウンス」ボタンをクリックします。

書き出しを実行すると、360 WalkMix Creator側がこのような画面に切り替わる

すると、360 WalkMix Creator側には、Exportプレビュー/調整という画面が表示されます。ここでMP4/MPEG-Hにチェックを入れるとともに、Level0.5、Level1、Level2、Level3のそれぞれにチェックをいれてOKをクリックすると、データの書き出しがスタート。各レベルすべてを書き出すのには多少時間がかかりますが、これが完成すれば、先ほどの出力フォルダにMP4ファイルが生成されます。

MP4/MPEG-Hにチェックを入れるとともに各Levelにもチェックを入れる

基本的なセッティングはこれで以上です。思ったよりも簡単に360 Reality Audioの作品を作れることが伝わったのではないでしょうか?一般的なプラグインの使い方やオーディオミックスダウンの方法とは異なるので、慣れるまで少し戸惑うことがあるかもしれませんが、ぜひ360 Reality Audioのミックスを試してみてください。

 

 

Pro Toolsのフェーダーを使って、オブジェクトのボリュームを操作する方法と

リバーブトラックの効果的な使い方

360 WalkMix Creatorを使用する上でのボリューム操作は、通常360 WalkMix Creator内のGainパラメータで行うことはこれまでの記事でお伝えしました。ですが、ルーティングを工夫することによって、Pro Toolsのフェーダーを使ったボリューム操作が可能です。つまり、各トラックの音量はこれまでの音楽制作のようにPro Toolsのフェーダーを使い、立体感を出すための定位の操作は360 WalkMix Creatorで行うといった、役割分担ができます。さらにPro Tools側でソロ・ミュートも可能。

セッティング方法は、とても簡単。各トラックごとに360 WalkMix Creator用のAuxトラックを作成するだけ。下の画像のようにオーディオトラックのアウトを作成したAuxトラックに設定します。そのAuxトラックに360 WalkMix Creatorをアサインすることで、オーディオトラックのフェーダーは自由に動かせるようになるのです。360 WalkMix Creatorより後にインサートしたプラグインや、フェーダーは機能しなくなるので、360 WalkMix Creatorより前に各パラメータが配置されるようにすればいい、というアイディアです。この方法は、ほかのDAWでも再現可能なので、ぜひ試してみてください。

Pro Toolsのフェーダーやソロ・ミュートを使うためにAuxトラックを活用する

次にリバーブトラックのTipsです。オーディオトラックにリバーブをインサートして、そのリバーブプラグインでDry/Wetを調整するといった方法もありますが、これだとリバーブの定位はオーディオトラックに依存します。複数のオーディオトラックに同一のリバーブをかけたり、リバーブ成分の定位を自由に動かしたり、ReverbにEQなどの処理を加える場合はリバーブ専用のトラックを作成するといいでしょう。

今、紹介したフェーダーを使う方法を応用して、オブジェクトとしたいオーディオトラックと同じ数のAuxトラックを作成し、元のオーディオトラックのOutputをそれぞれ1対1でAuxトラックに送ります。そのAuxトラックそれぞれに360 WalkMix Creatorを挿すことでAuxトラックがオブジェクトになります。このルーティングを構成すると、元のオーディオトラックのフェーダーが使えるようになる点に加え、Sendを使用することができるようになります。そこで、別途リバーブ用のAuxトラックなどを作りそれぞれのトラックからバス経由でSendすれば通常のステレオミックスの様にリバーブ専用のトラックへのSendができる様になります。そしてそのリバーブのAuxトラックに360 WalkMix Creatorを挿せば、リバーブオブジェクトができるので、例えば後方の上の方から降り注ぐようなリバーブを作るなど全天球音場の表現の幅を広げることができます。

リバーブ専用のトラックを作って、定位やDry/Wetを自在にコントロール

【関連情報】
360 Reality Audioサイト(クリエイター向け)
360 WalkMix Creator製品情報

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