まったく新たなアナログ音源と最新デジタル技術を融合したドラムマシン、drumlogue誕生。KORGの開発者3人にインタビュー

KORGからまったく新たに開発されたアナログとデジタルのハイブリッドによるドラムマシン、drumlogue(ドラムローグ)が11月23日に発売となりました(実売価格、税込み75,000円前後)。drumlogueの名前は2021年1月に行われたNAMMのオンラインイベント「Believe in Music」でお披露目されていたので、心待ちにしていた人も多いと思いますが、miniloguemonologueprologueなどアナログとデジタルのハイブリッドであるのlogueシリーズのドラムマシン版として誕生したものです。

このアナログ回路は、KORGでARP 2600 M、MS-20 mini、ARP Odyssey、Poly800やM1などを開発してきた伝説のエンジニア、池内順一さんが時間をかけて開発した完全に新たな方式のもの。ここに最新のデジタルによるサンプル音源に、シンセシス音源を加えるとともに、強力なシーケンサ、エフェクト、PCとの連携機能などを組み合わせた超強力なドラムマシンとなっています。実際どのようなコンセプトで開発をしたのか、まったく新たなアナログドラム音源回路とはどんなものなのかなど、アナログ回路を手掛けた池内さん、ファームウェアを担当したノロ・エベール エティエンさん、そしてサウンド全体やUI部分を担当した岡本達也さんにお話しを伺ってみました。

KORG drumlogueの開発者にインタビュー。左から岡本さん、エティエンさん、池内さん

インタビューに入る前に、まずはKORGが公開している、以下の音源を聴いてみてください。これまでにないドラムサウンドに仕上がっていますが、これがどのように誕生したのかインタビューしていきます。

--このdrumlogue、池内さんが開発された回路が大きなキーになっていると伺いましたが、これはどのような経緯で生まれてきたものなのでしょうか?
池内:実は、今回のdrumlogueの企画がスタートするより以前、何か新しいものはできないだろうかと、4~5年前から開発を続けてきたものなんですよ。やはりKORGはドンカマ(ドンカマティック)が始まりの会社なので、常にドラムとして何か提案したい、今時のアナログの音は何ができるのかトライしてきたのです。その結果、ある程度の形が見えてきたタイミングで、drumlogueの話が持ち上がってきたので、そこでこの技術を活用しよう……ということになっていきました。
エティエン:minilogue xdの開発が終わった後、ドラムマシンを…という話になったのです。初期段階では全部アナログで……というアイディアも出たのですが、やはりlogueシリーズとしてアナログとデジタルの融合が重要だろうと、方向修正をしこの形へとまとまっていったのです。

アナログ部分を担当された池内順一さん

--音源部としてアナログとデジタルの役割分担はどうなっているのですか?
池内:金属系の音もアナログでトライはしていたけれど、なかなか決定的なものにならなかったこともあり、最終的にはここはデジタルになりました。アナログが担当したのは、まずは太鼓系ですね。スネアとロータム、ハイタム、これらは完全に新しく開発したアナログ回路を使っています。一方、バスドラはアナログシンセを使う形にしています。
岡本:そのほかにサンプルベースの音源を6つ、そして1つのシンセシス音源(マルチ・エンジン)の、計7つのデジタルパートを備えています。

--考えてみたら、KORGのドラムマシンって、volcaシリーズを除いたら、かなり久しぶりではないですか?
岡本:volca beatsやvolca drum以外だとKRシリーズがありますが、ちょっと毛色も違いますしね。
池内:electribeがありましたが、あれは純粋なドラムマシンではなくGrooveboxだから、ある意味DDD-1やDDD-5以来30年以上ぶりの久しぶりの本格的ドラムマシンといえるかもしれません。最近他社を見ると、アナログのドラムマシンもありますが、復刻が中心でまったく新しい音源というのは少ないです。やはり新しい工夫をいれて以前ではできなかった音作りをしてみたかったんですよ。

--具体的に、そのアナログ音源、どんなものなのか、従来のものと何が違うのかを教えていただけますか?
池内:1つは全パラメータを電圧制御にしたことですね。昔はすべてボリュームで直接動かしていましたが、デジタル制御をするためにすべてこのようにしています。一方、音源のほうはアナログ回路を使ったモデリングをしているんですよ。

--アナログ回路をデジタルでモデリングするということですか?
池内:いや、そうではなく、全部アナログ回路で(笑)。太鼓は上と下に皮が2枚あり、それが胴でつながって共振する構造になっています。2枚の皮と胴が相互に影響しあいながら共振する。そんなシンプルな形をアナログ回路でモデルを作り実現させているだけなんです。一方で、バスドラは共振系がどうのこうのではなく、普通にシンセサイザですね。キックに特化したシンセサイザになっていて、歪みの回路、アタックの回路などを付加するとともに、サステインの時間制御も自由にできるようになっているので、シンセでしかできない長い音などを実現させています。

--実際ユーザーがいじれるパラメータはどうなっているのですか?
池内:パネルには基本的なパラメータしかないです。モデリングのパラメータを全部出すわけにもいかないので、最低限のものというか従来からのものと同様で、ディケイ、アタック、チューンなどで、中には個別にいくつかのパラメータがあります。
岡本:たとえばスネアだとディケイ、チューン、スナッピーというノブが表に出ていて、画面内にはもう少しパラメータがあるのですが、昔のアナログドラムマシンでいうところの、基板の半固定抵抗をいじるような細かいチューニングにあたります。キックの場合、表に3つのノブ、中に9パラメータがあり、それで調整できるようにしています。

サウンド全体やUI部分を担当した岡本達也さん

--このバスドラ、スネア、ロータム、ハイタム以外は比較的一般的なデジタル音源ということなのですか?
岡本:そうですね、PCMのドラムパートになっていて、クローズハイハット、オープンハイハット、リムショット、クラップが1つずつと、その他用が2つの計6つがあります。音源としての構造はすべて共通ではあるけれど、表に出ているノブが違うんです。たとえばハイハットはディケイのパラメータが表に出ているけれど、アタックなどほかのパラメーターは奥に入らないといじれない形です。表のノブはどんなモードにいても常に効くのですが、必要なノブを取捨選択しているので、初めての人でも直感的に音の調整ができるようにしているんです。これはlogueシリーズ共通の考え方にもなっています。
エティエン:その6つのPCMとは別に、Logue SDKの音源も入れられるようになっています。

--prologueやminilogue xdなどで培われてきたライブラリがそのまま使える、ということですか?
エティエン:構造が少し違うので、今までのものが、直接そのまま入れられるわけではないのですが、コンセプトは共通であり、簡単に移植することができるようになっています。minilogue xdやprologueではSDKを使ってオシレーターを開発し、これを本体のアナログフィルターを通して鳴らす構造になっていました。それに対し、drumlogueにおいてはオシレーターだけではなく、完全にシンセ全体を開発できるものに拡張してあります。また、エフェクトもディレイ、リバーブ、マスターエフェクトとありますが、これらもそれぞれカスタムで開発できるようになっています。実際デフォルトでdrumlogueに入っているエフェクトも、このLogue SDKで開発しているんですよ。

ファームウェアを担当したノロ・エベール エティエンさん

--エフェクトにおいてはminilogue xdのものと同じなんですか?
エティエン:これも若干構造が違うけれど、基本的な考え方は共通なので、ハイレベルな調整だけで簡単に移植できるようになっています。ちなみに、今回はモジュレーションFXではなく、マスターエフェクトとなっているのはAPIがちょっと違っていて、マスター部分に搭載しているんです。これによりサイドチェインが利用できるようになっているのも大きな特徴です。minilogue xdでの開発はオシレーターを作るだけだったから、ある意味、開発者にとってもハードルが低いものではありました。今回はシンセサイザ全体となったので、開発する負担は大きくなるけれど、自由度は大きくあがります。フィルタとかも自由に作れるので、面白い音源が出てくるのでは、と期待しているところです。また、このサイドチェインバスが追加されたほかに、それぞれのシンセやエフェクトからサンプルデータを取得できるようにしているのも開発者にとっては面白い点だと思います。グラニュラー系のシンセを作りたい場合なども、すべてのサンプルにアクセスできるので、新しい可能性も出てくるでは…と思っています。
岡本:今回、そのlogue SDKを使ってSinevibesというウクライナの会社が音源を作ってくれており、これがdrumlogue本体にカスタムシンセサイザとして収録されています。まずはぜひ使ってみてください。minilogue xdの時はディレイなど一般ユーザーが作ったもので「こんな発想があったのか!」と驚かされるものがいろいろあり、われわれもダウンロードして使ったりしていました。今回もこうした面白いものが出てきてくれたら嬉しいですね。

Sinevibes開発の音源が入っている

--こう伺っていくと、非常に独創的なドラムマシンであり、素人には手が出しにくい機材なのでは…とも思ってしまいますが、その辺はどうですか?
岡本:基本的なUIは16ステップのシーケンサなので、ドラムマシンを触ったことがある人なら、すぐにリズムを組んでいくことができると思います。一方で、奥に入り込んでいくとかなり複雑でマニアックな機能もいろいろ仕込んであるので、こだわりたい人にとっては、electribeやvolcaよりも深くまで入れる構造になっています。たとえば1ステップのマイクロタイミングをズラすとか、スウィングやグルーヴ機能による揺らぎを全体にもパート個別にもかけられる…といった具合ですね。
エティエン:各ステップの確率とかを設定できるのも面白いところです。たとえば4周に1回しか鳴らないとか、4周目の2小節目しか鳴らないとか、細かなプログラミング的なことが各ステップごとにできるんです。64ステップまで使うことができ、かつそうした設定機能を使うことで非常に豊かなシーケンスが組めるようになっています。

--ところで、このディスプレイもちょっとユニークですよね。
岡本:最初にminilogueを出したとき、オシロスコープを搭載し、音を見えるようにしたことが好評で、各logueシリーズでもそれを踏襲してきました。が、drumlogueはドラムマシンなので、視覚情報としては代わりに全体のシーケンスパータンを一望できるようにしました。またelectribe時代から使われているパラメータのモーション、いわゆるオートメーションも棒グラフ的にグラフィカルにわかりやすく表示できるようにしています。

--もう一つ気になったのが出力部分です。アナログ出力がいっぱいありますよね?これはどうなっているのですか?
エティエン:ドラムマシンだと個別アウトが要望されるので、メインアウトとは別に4つを設けています。どのパートをどこに出すかの割り振りが自由にできるのでキックだけを1番から出して外でコンプを掛けたあとで、オーディオ入力で戻すこともできます。また、メインアウトも個別パートをミュートできるようになっているから、使い方によっては6つパラで出力できる形です。

メイン出力(左側)のほかに4つのパラアウトが用意されている

--USBでPCとも接続できるようになっていますが、ここではオーディオのやりとりはないですよね?
岡本:オーディオの入出力はサポートしていません。普通に接続するとUSB-MIDIとなりますが、ストレージモードで起動してから接続するとPC側からはUSBストレージとして認識されて、PCMのサンプルとして自分の好きなものを入れることも可能です。それ以外にもdrumlogue上で作成したキットデータなどをバックアップできるほか、先ほどのlogue SDKで開発したユーザープログラム、シンセプログラムをやりとりすることも可能になっています。

USBはデバイス接続用とホスト接続用があり、MIDI入出力も用意されている

--とにかく、豊富な機能、ユニークな音色があり、面白そうなドラムマシンですね。最後にみなさんにお伺いしたいのですが、これをユーザーにはどのように使ってほしいと思いますか?
岡本:drumlogue一台で曲らしく仕上げることも可能ではありますが、まずはシンプルにドラムマシンとして使っていただければ、と思います。たとえばmonologueのようなベースマシンを1台追加するだけでも、テクノミュージック的なセッションができるのでいいですね。drumlogueにはオーディオ入力もあるので、ベースマシンからの信号を入れて、drumlogueのエフェクトで加工しつつミックスする…なんて使い方も面白いと思います。
エティエン:音作りも自由にできる一方で、非常に強力なシーケンス機能を搭載しているので、ぜひじっくりdrumlogueの奥深くまで使っていただけると嬉しいです。
池内:KORGとして久しぶりに作った本格的なドラムマシンであり、今だからこそ実現できた新しいアナログ音源も搭載しています。ぜひ、この音源を堪能していただければと思います。

--ありがとうございました。

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