サウンドプロデューサー 松隈ケンタさんをゲストに迎えた、“第二回 月蝕會議 音楽クリエイター夜會”をレポート

10月2日に月蝕會議(げっしょくかいぎ)による「第二回 月蝕會議 音楽クリエイター夜會」というイベントが開催されました。月蝕會議は、全員が作詞・作曲・編曲家でありアーティストでもあるバンド形態の音楽ギルド。複数の人が集まって共同で音楽制作するco-write(コーライト)を積極的に行っており、上坂すみれ「踊れ!きゅーきょく哲学」、ももいろクローバーZ『月色Chainon』/劇場版「美少女戦士セーラームーン Eternal」主題歌、ヒプノシスマイク……などの作品を発表しています。

そして、第二回目のゲストは、BiSHやBiSなどの楽曲を手がける音楽集団スクランブルズ代表 松隈ケンタさん(@kenta_matsukuma)さん。「月蝕會議 音楽クリエイター夜會」は、co-writeの枠組をメンバー内からさらに拡大し、ゲストに各音楽ジャンルで活躍中のクリエイターを迎え、月蝕會議とゲストクリエイターとでもco-writeすることで音楽を楽しもうというイベント。今回もプロの楽曲制作の裏側やノウハウ、音楽クリエイター必見の内容満載でした。実際にこのイベントに行ってきたので、紹介していきましょう。

Absolute Blueで「第二回 月蝕會議 音楽クリエイター夜會」が開催された


今回行われた「第二回 月蝕會議 音楽クリエイター夜會」はタイトルにもあるように2回目の開催となっており、前回は「ステージ上で5人のプロが共同でゼロから楽曲制作!?月蝕會議×山田高弘の『月蝕會議 音楽クリエイター夜會が面白かった」という記事で紹介しています。第一回目では、ゲストにラブライブ!「Snow halation」でも知られる作曲家の山田高弘さんが登場しており、こちらも面白い内容となっているので、ぜひご覧ください。

昨年に第1回目として開催された月蝕會議×山田高弘の「月蝕會議 音楽クリエイター夜會」

大好評で終わった「第一回 月蝕會議 音楽クリエイター夜會」でしたが、実はイベントの最後、本番中に松隈ケンタさんに電話するシーンがあったのです。第一回目の終盤、完成した楽曲を電話越しに聴いて「Aメロの6小節目のコードがアマチュアじゃないコード感でした!びっくりしましたね」といった、一聴して各セクションの感想を述べた松隈さん。そして、そのまま電話で松隈さんに出演オファー、その結果「第二回 月蝕會議 音楽クリエイター夜會」では、松隈ケンタさんがゲストとして登場するといった経緯があったのです。

では、改めて月蝕會議のメンバーについても紹介しておきましょう。バンマスで、数多くのアニソン、アイドル曲を作り出すヒットメーカーであり、先日JASRACの理事にもなったエンドウ.@endo_jp)さん。元Hysteric Blueのドラマーで、鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMISTの作詞などをする一方、数多くの舞台音楽も手掛ける楠瀬タクヤ@takuyakusunose)さん、TRUSTRICKでメジャーデビューしその多くの楽曲の作曲・編曲を担当したBilly@Billy_Gu)さん、数々のアーティストへのサウンドプロデュースしている正体不明の謎過ぎるヒーロー鳥男さん、そして、現在は非常勤メンバーとなったNIRGILISのVo&Keyとして2003年メジャーデビューしTVアニメ「交響詩篇エウレカセブン」のOP主題歌「sakura」を作ったことでも知られる岩田アッチュ(@acchuiwata)さん、そして月蝕會議の歌唱担当キリンさん。

プロのクリエイター集団 月蝕會議

そうそうたるメンバーが揃っているクリエイター集団であり、バンドであるのが月蝕會議なわけですが、冒頭でも書いたように普段楽曲提供や音楽制作する際はco-writeと呼ばれる共同作業によって音楽を作っています。co-writeとは、作曲や編曲家、作詞家……など、複数の人が集まって共同で音楽制作すること。co-writeという言葉は知っているという方もいるかもしれませんが、実際どうやって進めていくのか、分からないところも多いと思います。前回同様イベントでは、どうやってプロがco-writeしているのかも観ることができました。

今回のイベントは、池袋にあるAbsolute Blueで行われた

第二回目となる月蝕會議 音楽クリエイター夜會は、池袋にあるAbsolute Blueにて開催されました。会場とYouTubeLiveの同時生放送が行われ、現地に行けない方でもコメントで参加し、みんなで楽曲を作っていく、この空間ならではの面白さがありました。まずは、エンドウ.さん、Billyさん、鳥男さん、楠瀬タクヤさんが登場。自己紹介やイベントの企画説明があり、さっそくゲストの松隈ケンタさんも登場しました。

アーカイブは残されていないが、当日はYouTube Liveでの配信も行われた

「よろしくお願いいたします!松隈ケンタです。福岡から飛行機でやってきました。今日は、待ちに待った福岡ソフトバンクホークスの優勝決定戦です。今速報が入り、ホークスの主砲である柳田選手がホームランを打ったので、機嫌がいいです!」と福岡を拠点とする松隈ケンタさんから自己紹介。

音楽集団スクランブルズ代表 松隈ケンタさん

鳥男さんからの「我々co-writeという形で、曲作りをしているのですが、松隈さん率いるSCRAMBLESでもco-writeはしてますか?」という質問に対して、「SCRAMBLESでは基本的にco-writeをしています。SCRAMBLESのクリエイターは、ヘビーな音楽が得意だったり、バラードが得意だったり、さまざまなタイプが居ます。そんな彼らと組んで、僕はトップラインや歌詞を入れたりしています」と松隈さん。

正体不明の謎過ぎるヒーロー鳥男さん

エンドウ.さんからの「曲作りのスタートでの決め事などはありますか?」という問いに対して、松隈さんから「僕は楽曲のテンポから決めて、リズムから作り始めます。コード進行は後から決めるのがよくて、リズムが音楽ジャンルを作るかなと思っているんですよね」といった、音楽クリエイターが参考になる話も飛び出します。

バンマスで、数多くのアニソン、アイドル曲を作り出すヒットメーカーでエンドウ.さん

そしてこのタイミングで、忘れていた乾杯が行われ、実際にイベントは曲作りパートに移行していきます。会場や配信を交えながら、楽曲のテーマが決められていく中、「女性が歌えるスタジアム・ロックを作ろう」と方向性が定まります。その間にも、「女性ボーカルへの楽曲提供の場合でも、男性ボーカルの楽曲をリファレンスにする」「ギガファイル便の期限は、デフォルトで100日にするべき」「仕事上流行っている音楽は事務的にすべて聴くけど、普段はあまり音楽を聴かない時もある」など、ほかでは中々聞けないプロ同士の雑談も面白かったです。

スタートから少し遅れた乾杯から本格的にイベントがスタート

また、松隈さんの好きな音楽について「僕は、U2が一番好きです。うるさい音楽を作っているのですが、個人的にうるさい音楽はそんなに好きじゃないんですよ。The Whoとかイギリス系の音楽がルーツにあります」とのこと。リズムから曲作りが始まり、鳥男さんの華麗な手ドラムで、どんどんベースとなる部分が出来上がっていきます。「スケッチの段階で大事なのは、作りすぎないことなんですよ。なんとなく、やりたいことが分かるトラックを作ることが大切なんです」と鳥男さんから、今日から実践できるノウハウも聞けました。

TRUSTRICKでメジャーデビューしその多くの楽曲の作曲・編曲を担当したBillyさん

エンドウ.さんからのBメロのない音楽を作ろう提案で楽曲の構成も決まっていき、すごい勢いで全体像が整っていきます。リズムがある程度決まり、コード進行について考える際に「コード進行で考える必要があるのは、1度はじまりなのか、4度はじまりなのか、ほかにも6度マイナーはじまりなのか、など定番の進行があるので、それを決めたいですね」と鳥男さん。それに対し「Eキーの1度からスタートしたいなと思っているんですよね」と松隈さん。エンドウ.さんからは「6弦の開放弦がEなので、ギタリストとしてはこれが一番弾きやすいんですよね。これがパワフルに聴こえるんです」といった、コード1つを見ても、プロのコードの決め方を知るだけで、自分の音楽制作にかなり役立つと思います。

鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMISTの作詞などをする一方、数多くの舞台音楽も手掛ける楠瀬タクヤさん

楽曲のAパターンBパターンを、会場やライブ配信で観ている人たちの反応で決めていったりと、みんなで音楽を作っていく様子もあり、普段音楽を作らない人でも楽しめる内容で進んで行きます。各セクションのコード進行も完成し、メロディを入れていくフェイズに入ります。ここでは書ききれないぐらい、音楽の知識が飛び交うので、ご興味のある方は次回開催を楽しみにお待ちください。

メロディラインは、月蝕會議と松隈さんがそれぞれメロディを歌い決めていきます。ここでは、ある意味ボツになったメロディも聴ける貴重なタイミングでした。エンドウ.さんは「サビの入り口で、keyEだったら、2度(9度)のF#から入ることのが好きなんだよね」だったり、「誰しもがここはこういうメロディが聴きたいと思ったメロディがあったとしたら、それは入れない。そうすることで次のフレーズに注目を集められるので」「メロディは迷ったら減らす」といった、トップライナーである松隈さんのテクニックが炸裂。

松隈さんのメロディアイディアの生歌も聴けた

イベントでのレコーディングや打ち込みはいつものように鳥男さんがCubase 12を駆使しながら、手際よく操作。この際、歌のレコーディングでは、トークに使っているマイクをそのまま使用。かなり周囲の音も入り込む環境ではありましたが、鳥男さんはノイズリダクションツールとして、WAVES Clarityを使っていたので、キレイにボーカルだけを収録するなどプラグイン類を効率よく活用していたようです。こういったプロによるツール利用術を目の前で見れるのも「月蝕會議 音楽クリエイター夜會」の醍醐味ですね。また、会場では鳥男さんの操作しているPCがミラーリングされたモニターも置かれていました。リアルタイムで操作を見れるのはなかなかないと思います。

WAVES Clarityをはじめ、Valhallaのリバーブ、AmpliTube、sausage fattenerなどが使われていた

A、A’、サビ、interとオケとメロディが完成し、co-writeで作られたデモが完成。たった2時間で作られたとは思えないサウンドを最後にみんなで試聴し、拍手喝采の中、エンディングに入っていきます。そして、「第二回 月蝕會議 音楽クリエイター夜會」の締めとして、各メンバーから今日の感想が語られました。

楠瀬タクヤ
ケンちゃん(松隈ケンタ)と長い付き合いなんですけど、これまで一緒に音楽を作る機会はなかったんですよね。やっぱり、作っていく過程を共有するのは刺激的ですよね。リズムを大事にしてるからこそ、聴いた人が共有したくなるんだなと思いました。
こうやってco-writeすると、一人ひとり自分の中で鳴っているサウンドが違うのだな、と感じますね。これまで積み上げてきた音楽にそれぞれが確固たる自信があって、そこが見える面白さがあります。松隈さんの音楽に対する哲学のようなものが聴けて楽しかったです。
Billy
エンドウ.
月蝕會議メンバー以外のミュージシャンのコツや普段考えていること、心構え、基準や指標が聞けて楽しかったです。昔小林亜星さんと話したときにメロディの作り方で、サビのトップの音は1回しか出しちゃダメ。と言われたんですよね。それが正解かどうか分かりませんが、小林亜星さんはこれを信念にしていて、困ったときの基準となっているそうなので、絶対に盗もうと思ったんですよね。今回そんな話がたくさん出たので、ラッキーでした。貰っていこうと思います。
松隈さんが言っていた、みんながこういくだろうなと思うところには、いかない。という考え方がすごく参考になりました。みんな好きだよなー、というのは作りがちになってしまうので、逆説的にこれを作らないというのが、ヒットを作る上で大事な部分なのかと、グッときました。
鳥男
松隈ケンタ
めちゃくちゃいい曲ができましたね。作曲家って天才なんじゃないか、メロディとか降りてくるんですか?とか言われるのですが、こうきたから次はこうするとか、考えながら作っているんですよね。それを5人で同じレベルで話せたのは、すごく楽しかったですね。誰かが歌ったものを違う人がブラッシュアップしたり、最初にポロっと出たいいものが最後まで残っていたりするのは、流石みんなプロだなと思いました、嬉しかったです。

以上、「第二回 月蝕會議 音楽クリエイター夜會」のレポートでした。ここでは書ききれないほどのノウハウや記録に残せないディープな話が盛りだくさんな月蝕會議 音楽クリエイター夜會。ぜひ次回開催される際は、参加してみてはいかがでしょうか?

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月蝕會議 official website

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