NEUMANN(ノイマン)といえばマイクのメーカーですが、近年はスピーカーやヘッドホンなどモニター機器も積極的にリリースしています。そうした中、先日、NEUMANN初となる開放型ヘッドホン、 NDH 30をリリースしました。NEUMANNのモニタースピーカーも気がつけば10年以上の歴史があり、スタンダードモデルのKH 120の発売は2011年。2019年には密閉型ヘッドホンNDH 20がリリースされ、今では多くのプロに愛用されるようになっています。
着々とモニター機器をリリースしている印象がありますが、今回初リリースとなった開放型のヘッドホン。開放型はその圧迫感のない音ゆえに愛用者が多いタイプのヘッドホンです。NDH 30の新製品発表会に参加してきましたので、発表会で紹介されたNDH 30の秘密を中心に、NDH 20と比較しながら紹介してみたいと思います。
NEUMANNモニター機器の歴史とNDH 30のコンセプト
近年のNEUMANNはマイクだけでなく、「自宅をレコーディングスタジオに作り変えるNEUMANNのモニタースピーカー、KH 80 DSPのキャリブレーションを試してみた」で紹介したように、KH 80 DSPなどのモニタースピーカーやヘッドホンも手がけています。NEUMANNは1928年の創業以来数多くの定番マイクを生み出したメーカーですが、2005年にスピーカーの老舗メーカーであるKlein + Hummel(クライン・ウント・ハンメル)をゼンハイザーが買収したころからスピーカーやヘッドホンをリリースするようになりました。スピーカーであるKHシリーズのモデル名にKlein + Hummelの名前が残っています。ちなみに、NEUMANNは1991年からゼンハイザーのグループ企業となっています。
2019年にはNEUMANNの「Best Input. Best Output.」というキャッチフレーズと哲学を踏襲した密閉型ヘッドホンNDH 20をリリース。磁束密度の高いネオジウム磁石を使用した38mmのドライバーを搭載したヘッドホンで、5Hzから30kHzの周波数特性など、高級感と音質を兼ね備えた密閉型ヘッドホンとして多くのエンジニアやクリエイターに愛用されています。
開放型ヘッドホンはヘッドホンのイヤーカップが文字通り開放されており、外部と遮断されていないことが特徴。密閉型と異なり音が漏れるため録音ブースでは使用できませんが、圧迫感のないサウンドであるためミキシングや音声編集など、遮音性を必要としない作業でではよく使われています。
NDH 20とNDH 30はモデル名からもシリーズ製品に見えますが、実際の違いは密閉型と開放型という構造の違いだけではありませんでした。
NDH 20と同じようで違う!NDH 30ならではの特徴とは?
まずは外観から見ていきます。ヘッドバンドなどの大きなパーツは両モデルに大きな違いが無いようです。ヘッドバンドはハードな使用にも耐えうるメタル製で、ヘッドバンドを伸ばすと程よいクリック感があり、きっちりとした作りであることが伝わってきます。
イヤーカップ部は開放型と密閉型なのでもちろん異なっており、NDH 30のイヤーカップ外側はメッシュ構造となっています。ここでNDH 20とNDH 30を並べてみて気がついたのですが、イヤーカップのサイズは若干異なっており、NDH 30の方が100mmほど大きくなっています。どちらも耳をすっぽりと覆うオーバーイヤー型のイヤーカップではありますが、NDH 30の方がすんなりと耳を覆ってくれる印象があります。
ケーブルもシリーズ製品ながら大きく異なっており、NDH 20のケーブルは左右の信号線が各1本とグラウンド(アース)の3本(3芯構造)というヘッドホンでは一般的な構造ですが、NDH 30のコードは左右チャンネルのグラウンドが分離された4芯構造になっているとのこと。この専用設計により解像度の向上に貢献しているんだそうです。
ただし、NDH 20ではストレートとカールコードの2種類が付属していましたが、NDH 30ではストレートコードだけになっているとのことでした。
振動して音を出すドライバーユニットも「38mmのネオジウム磁石採用ドライバー」とスペック上は同じですが、違いがあります。
NDH 20ではゼンハイザーの特許技術であるDoufol(デュオフォール)膜が採用されていました。これはインパルス応答を良くする硬い膜と、部分的な共振を減衰させる柔らかい膜の2枚の箔を積層することで求めている特性を実現するというもの。これに対し後発のNDH 30ではDoufol膜で実現していた特性をなんと1枚の膜で実現しているとのこと。特許技術を持ちながらそれを上回る技術を採用するところに、常に最良を求めるNEUMANNの製品開発の姿勢が垣間見えますね。
新製品発表会の資料に掲載されていたNDH 30のドライバーの説明
さらにはドライバーユニット周辺部には吸収体を配置して高音域までリニアな応答性を実現しているそうです。
詳細は公開できないとのことで反転されているが白い部分が吸収体
その他スペック的な違いも探してみると、同じようなヘッドホンに見えてひとつも同じところがないくらい、それぞれのオーディオ性能が異なっていました。特に歪率という歪みの多さを表すスペックについては、NDH 20ですでに高性能であったものがさらに磨き上げられており、0.03%という低歪率を実現しているようです。聞いていても歪み感の少ないサウンドが特徴と言えそうです。
仕様 | NDH 30 | NDH 20(参考情報) |
形式 | 開放型 | 密閉型 |
トランスデューサー | ネオジム磁石 38mm ダイナミック型ドライバー | |
インピーダンス | 120Ω | 150Ω |
周波数特性 | 12Hz – 34kHz (-3dB) | 5Hz – 30kHz (-3dB) |
最大許容入力 | 1000mW | |
許容入力 | 200mW | |
音圧 | 104dB SPL (1kHz, 1Vrms) | 114dB SPL (1kHz, 1Vrms) |
歪率 (1kHz, 100dB SPL) | <0.03% | <0.10% |
コネクター | 3.5mm(6.3mm 変換アダプター付属) | |
重量 | 約 352g (ケーブルを除く) | 約 388g (ケーブルを除く) |
NDH 20とNDH 30の主要スペック比較
実際に音を聞いてみた
実際に音を聞いてみると、開放型ならではの圧迫感のないサウンドが感じられます。NDH 20の密閉型独特のタイトなサウンドも悪くはないのですが、NDH 30の開放型サウンドを聞いてしまうと、録音などの遮音性が必要無いときはこちらの方が気持ちよく聞けそうな気がしてしまいます。どのくらいの範囲の音が聞こえるかを表した周波数特性の上では、NDH 20が5Hz〜30kHz、NDH 30が12Hz〜34kHzと若干の違いはありますが、音を聞いてみると特性の違いよりは音のキャラクターの違いのほうが大きいと感じました。
気持ちよくて長時間音楽を聞いてしまいましたが、非常に快適でついつい聞き入ってしまいました。大型のヘッドホンではあるので装着していることを忘れてしまうほどではありませんが、違和感や疲れは感じられません。実はNDH 20に対して10%程度軽量化されているそうですので、重さも快適さにつながっているのかもしれません。
最後にKH 80 DSPモニタースピーカーの音と比べてみると、まったく同じというわけではありませんが、たしかにスピーカー環境とヘッドホン環境を行き来しても違和感のないサウンドだと感じました。オーディオライクな音というよりは脚色の少ないそのままの音という印象です。自宅で大きな音が出せないDTMerにとっては長時間作業をしても聞き疲れしない、素晴らしい選択肢のひとつになるのではないでしょうか。機会があればぜひそのサウンドを体験してみてください。
【製品情報】
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