先週あたりから海外からリーク情報などが流れていましたが、AKAI Professionalから音楽制作用スタンドアロン型シンセサイザ・キーボード、MPC KEY 61が発表されるとともに、国内市場予想価格198,000円(税込み)という価格で発売が開始されました。これは超多機能なスタンドアロン・シンセサイザでありながら、フルサイズの4×4のパッドを持つスタンドアロンのMPCであり、オーディオインターフェイスであり、MIDIインターフェイスであり8ポートのCV/GATEコントローラーであり、サンプラーであり、シーケンサであり、DAWであり……と、これでもかとい機能を詰め込んだ、まさにモンスターマシン。
ワークステーションという呼び方が正しいかは分かりませんが、音楽制作用としてパワフルに使える機材であると同時に、Windows/Macと連携して活用することで、さらに幅が広がるユニークな機材なのです。またこのMPC KEY 61のリリースに合わせて、MPCソフトウェアも2.11へとバージョンアップ。これによって、25種類のインストゥルメントと100種類以上のエフェクトも搭載し、既存のMPCでも利用可能となるのです。機能がいっぱい過ぎて、全体像を捉えるのが難しいほどですが、発売前にMPC KEY 61を試すことができたので、どんな機材なのか紹介してみましょう。
AKAI Professional MPCのキーボード版が誕生
MPC KEY 61という名前を見て、どういうこと?と不思議に思う方も少なくないとは思いますが、まさにこの名前の通りの機材が登場したのです。そう、MPCは1987年に当時の赤井電機のAKAI Professionalブランドから誕生した4×4のパッドを持つシーケンサ、サンプラー、ドラムマシンを実現したMPC 60にルーツを持つマシン。その歴史はオタイレコードの「History of MPC (1987-2017)」に譲りますが、そのMPCシリーズの最新機種として、MPCシリーズ初となるスタンドアロンで動作する61鍵のキーボード・シンセサイザ、MPC KEY 61が誕生したのです。
これが何であるのか、一言では言い表せないほど、たくさんの機能を持っているのですが、主な機能・特徴を並べてみると
・アフタータッチ対応の61鍵セミウェイト鍵盤を使って演奏可能
・25種類のインストゥルメントプラグインと100種類以上のエフェクトを搭載
・7インチのマルチタッチ・スクリーン搭載
・Note Repeat機能/ベロシティ対応RGBバックライト付MPCドラムパッドx16を装備
・タッチストリップ・コントローラと4つのQ-Linkノブを搭載
・USB 3.0でWindows/Macと接続することでMPC Softwareのコントローラとしても動作する
・MPC KEY 61自体が2in/4outのオーディオインターフェイスとしても機能し、USBクラスコンプライアントのUSBオーディオインターフェイスの接続でポートを追加することが可能
・USB接続、Bluetooth接続でMIDIデバイスと接続可能
・128トラックMIDIシーケンサに加え、トランスポートコントロールセクションを8オーディオトラックを搭載
・8系統のCV/GATE出力を搭載
・4GBのRAM、Quad-core ARMプロセッサ搭載
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といった感じで、もう情報量が多すぎ……かもしれませんね。全部を細かく紹介しているとキリがなさそうなので、DTMステーション的に気になるポイントについて、少し絞って見ていきましょう。
25種類のインストゥルメントを標準搭載。電源を入れればすぐ使える
まずは、これがキーボード型のシンセサイザである、と点から。MPCといえば4×4のパッドでのプレイが中心のものですが、これまでの製品も数多くのシンセサイザ機能は持っており、ここにMIDIキーボードを接続すれば演奏することは可能というものが多くありました。が、このMPC KEY 61はそのキーボードを全面に打ち出し、電源を入れれば、もうすぐシンセサイザとしてプレイできるようになっているのです。
そのシンセサイザのエンジンとなるのが、ここに搭載されている25種類のインストゥルメント・プラグインを中心としたサウンドパレット。これまでも多くのインストゥルメント・プラグインがありましたが、今回キーボード型のMPC KEY 61のリリースと合わせ、キーボード向けの強力なインストゥルメント・プラグインがいろいろと登場しているのです。
2つのエンジンを持つフラグシップ・シンセ、Fabric XL
具体的に挙げると、まずFabric XLはダイナミックでパワフルなシンセエンジンと、サンプリングされたアコースティックサウンドを併せ持つ、MPCとしてのフラグシップ・シンセ。2つの強力シンセをレイヤーして重ね合わせる構造で、後段には数多くのエフェクトも同時に使える形になっています。現代的な音楽制作に最適なシンセサイザとして作りこまれた膨大な数のプリセットがあるので、MPC KEY 61を起動したら、まずはここから使っていくのが手っ取り早そうです。
4オペレータのFM音源、OPx4
OPx4は4オペレータのFM音源。といっても昔の4オペレータのDXシリーズなどとは異なり、かなり複雑なシステム構成ができるようになっています。つまり単にキャリア・モジュレータという掛け合わせだけでなく、フィルターを使って音を加工したり、サンプリング機能を交えた音作りをしたり、もちろんエフェクトも駆使できるなど、より直感的な音作りが可能になっているのも大きなポイントです。
アコースティックピアノやエレピ、オルガンなどの音源も
Stage Piano、Session Strings、Stage EP、Organは、アコースティック楽器と電気機械式楽器のサウンドを提供するプラグインとなっています。このうちStage Pianoは、SteinwayのグランドピアノとBechsteinアップライトピアノを含む特別なコレクションで、豊かなピアノ・トーンがラインナップされており、これだけのためにMPC KEY 61を購入してもも損はないレベル。セミウェイ鍵盤であるだけに、よりピアノ的なキータッチ、音を求めるのであれば、MPC KEY 61で間違いなさそうです。
一方Session Stringsは作曲家の切り札となるべく、精巧に作られたオーケストラ楽器群。繊細なソロ・ヴァイオリンから弓奏楽器の力強いアンサンブルまで、深みと奥行きのレイヤーを生み出すために必要なエッセンスが揃っています。
さらにStage EPの音色はRhodes、DX7と思われるエレピサウンドや、Wurlitzerなどのクラシックなキーボードの音色を忠実に表現したエレピのプリセットが数多く用意され、即戦力として活用できそうです。
さらにレズリー・スピーカーのシミュレーションを使用したOrganプラグインでは、ソウルフルなハモンドオルガンの音色が再現できます。ドローバーを使った音作りができるのはもちろんのこと、レズリー・スピーカーの回転を自由にコントロールしたり、アンプシミュレータを調整したり、ディレイやリバーブなどを使って音を作り上げていくことも可能となっています。
MPC KEY 61自体がコンピュータ!?
MPCをよくご存じの方であれば、すぐに理解できると思いますが、そうでないと、「インストゥルメント・プラグインってどういうこと?」と不思議に思うかもしれません。そうMPCはスタンドアロンで動作するタイプと、PCに頭脳を委ねるタイプがありますが、MPC KEY 61はスタンドアロンで動作するため、この本体の中にCPUやメモリ、ストレージが搭載されており、これ自体がコンピュータともいえるものとなっているのです。そしてここにはMPC OSが動作し、その上でこれらプラグインが動いて、シンセサイザとして使えるわけなのです。
一方で、スタンドアロンで動作するMPCもコンピュータモードにするともに、USB 3.0ケーブルを用いてPCと接続することにより、その頭脳をPCに委ねてしまうことも可能。この場合、PC側ではMPC Softwareを起動させるのですが、MPC SoftwareとMPC KEY 61側はシームレスになっていて、ほぼすべての機能を同じように使えるようになっているのもMPCならではのポイント。
つまり、MPC KEY 61に搭載されているインストゥルメントやエフェクトもすべてMPC Software上で動かすことが可能であり、機能、性能も基本的に同じ。ただし、現時点において、MPC KEY 61で新たに追加されたインストゥルメントは、未実装で、今後別途ライセンス購入することで使えるようになる、とのことでした。この辺、また詳細情報が入れば、お伝えしていきます。
DAWであり、DAWのプラグインにもなるMPC Software
なお、MPC Softwareについては、以前「AKAIがMPC Studio 2をリリース。抜群の操作性を持つMPCシステムに100種以上の膨大なプラグインをセットで29,800円」といった記事の中でも紹介しているので、詳細は割愛しますが、DAWと言っても過言ではないソフトであり、これを使って音楽制作をしていくことが可能。ここでレコーディングができるのはもちろん、MIDIの打ち込み、サンプリング、ミックス……とさまざまなことができるのです。
その際、MPC KEY 61を接続すれば、MPC KEY 61がフィジカルコントローラーとして効率よく使えるようになりますが、MPC Software単独で起動させ、手持ちのオーディオインターフェイスやMIDIキーボード、パッドなどを使っていくことが可能なのもMPCならではのポイントだと思います。
そしてこのMPC Softwareをホストとして、この中で手持ちのVST、AUのインストゥルメントやエフェクトを起動させて使うことが可能な一方、MPC Software自体がVST、AU、AAXのプラグインとして機能するため、CubaseやStudio One、Ableton Live、FL Studio、Logic ProといったDAWの中で動かすことができるのもユニークなポイント。つまり、こうすることで使い慣れたDAWの中にMPCの音楽制作手法をシームレスに取り入れていくことができるのです。
また、DAWのプラグインとして起動させた場合でも、MPC KEY 61が自動的にフィジカルコントローラーとして機能するので、非常に使いやすくなっています。
MPC KEY 61はオーディオインターフェスとしての機能も併せ持つ
もうひとつMPC KEY 61をコンピュータモードで起動させた場合にユニークなのは、MPC KEY 61が持つオーディオ入出力機能がオーディオインターフェイスとして機能する、という点です。ファンタム電源供給も可能な2つのコンボジャック入力と、TRSの4つの出力がありますが、これらをPCのオーディオ入出力用として使え、WindowsならASIOドライバ、MacならCoreAudioドライバでコントロール可能になっています。もちろん61鍵盤のキーボードもUSB-MIDIキーボードとして認識されるので、MIDI入力に利用可能です。
そのMPC KEY 61の入出力ポートを見ると、実はほかにもいろいろ興味深いものが搭載されており、ユニークな使い方が可能になっています。まず、PCと接続するためのUSB 3.0ポートと隣には、同じ水色のUSB 3.0のUSB Type A端子が2つ並んでいます。ここにはUSBメモリを接続してストレージとしてデータのやり取りができるだけでなく、USB-MIDIキーボードを接続すれば、本体の61鍵と並行して使えるキーボードとして活用可能になります。
さらにUSBクラスコンプライアントなオーディオインターフェイスを接続すると、本体の持つ2in/4outを拡張可能になっており、最大32in/32outという仕様にまで持っていくことが可能になっているのです。そんな仕様の機材って他にあまり見たことがないですが、アイディア次第でいろいろな使い方もできそうです。
そしてCV/GATEの出力を8つ装備しているのもユニークなポイント。つまり外部にアナログシンセを接続することで、打ち込んだシーケンスパターンを前述の25種類あるインストゥルメントだけでなく、アナログシンセでも鳴らしていくことができるというわけなのです。
そのほか、通常のMIDI入出力はもちろん、Bluetooth MIDIの接続ができたり、有線LANやWi-Fi接続でデータのやり取りやOSのアップデートなどができるなど、とにかく機能満載のモンスターマシンです。198,000円という価格を最初に見たときは、高い印象を持ちましたが、ここまで機能があることを考えると、こんなに安くて大丈夫なのか…と思ってしまうほど。いまの円安状況を考えると、近いうちに値上げされることも考えられるので、早めに入手するのが良さそうに思います。
なお、7月5日に放送予定の第200回DTMステーションPlus!において、このMPC KEY 61を特集する予定です。どんな操作性で、どんな音がするのかなど、ぜひ番組を通じてチェックしてみてください。
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【DTMステーションPlus!】
第200回 特集「AKAI Professional MPC KEY 61徹底解剖」
2022年7月5日 20:00~22:30
ニコニコ生放送:https://live.nicovideo.jp/watch/lv337445323
YouTube Live:https://youtu.be/XyCUo83hPzg
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MPC KEY 61製品情報
Akai Professionalサイト
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