フランスのメーカー、Arturia(アートリア)が、ビンテージのアウトボードを再現したプラグインエフェクトを中心に全部で26種類のエフェクトをセットにしたFX Collection 3を発表するとともに、日本国内での発売を開始しました。前バージョンのFX Collection 2がリリースされてからちょうど1年ですが、今回新たに4種類のユニークなエフェクトを追加しての発売となっています。価格はオープンプライスですが、7月7日までの期間はイントロプライスとして39,600円となっています。
そのFX Collection 3に今回追加されたのは歴代のSansAmpを再現するDist OPAMP-21、Thermionic CultureのUltra vultureを再現したと思われるDist TUBE-CULTURE、グラニュラーシンセシスを用いた最先端エフェクトのEfx FRAGMENTS、Mellotron風なサウンドを実現するTape MELLO-FIの4種類。それに従来のFX Collection 2に入っていた22種類のエフェクト(ものによってはバージョンアップして機能強化されたものもある)を追加したトータル26種類が詰まっているのです。もちろんWindowsおよびMacで使うことができ、VST2、VST3、Audio Units、AAXに対応。WindowsにおいてはM1ネイティブにも対応しています。実際どんなものなか試すとともに、全26種類の元ネタが何であるのかもチェックしてみたので、紹介していきましょう。
Arturiaは今年で設立20年となるメーカーで、長年シンセサイザのソフトウェア化に取り組んできた会社でもあります。先月、その集大成ともいえるソフトシンセ全部入りパックV Collection 9をリリースしたことは「MS-20やSQ80も登場!32種類のシンセをパックにしたArturiaのV Collection 9が発売開始」という記事でも紹介した通りです。
その一方で、ここ4~5年、エフェクトについても取り組んでおり数々のビンテージエフェクトを忠実にソフトウェア化してきています。ここでも、シンセサイザのソフトウェア化で使われたTAE=True Analog Emulationというアナログ回路を正確にエミュレーションする技術が利用されているほか、物理モデリング技術も用いながら、数々のエフェクトが作られてきました。
そのArturiaがエフェクトをまとめて全部入りパック、FX Collectionとして最初にリリースしたのが2020年4月。このときは15本のエフェクトのセットとなっていましたが、その後、22本のセットに拡充し、FX Collection 2としてリリースしたのが昨年6月。このときは「憧れのビンテージエフェクト19種類+オリジナル3種類の詰め合わせ、Arturiaが FX Collection 2をリリース」という記事でも紹介していました。それから1年たって、さらに4本足して26本にしたのが今回、というわけなのです。
このFX Collection 2からFX Collection 3になるタイミングではMacのM1ネイティブ対応がされるとともに、Native InstrumentsのNKS= Native Kontrol Standardに対応するといったアップデートも図られています。そのためMASCHINEやKOMPLETE KONTROLソフトウェア上でもシームレスに、Arturiaのエフェクトが利用できるようになっているのです。
では、ここから今回追加された4つのエフェクトについて順に見ていきましょう。まずDist OPAMP-21はこの見た目の雰囲気、またその名称からもなんとなく想像できる通り、TECH21のアンプシミュレーター、SansAmpを再現したものです。SansAmpとは1989年に世界初の真空管アンプシミュレータとして登場したもので、ギターアンプやベースアンプを使わなくても、これを挟めばアンプサウンドになって、それをそのままラインでレコーディングできることから大ヒットになった機材。その後も、さまざまなバージョンが発売されて現在でも人気のある機材です。
Arturiaは「某エフェクトにインスパイアされて作った」といった表現をしていますが、SansAmpそのものをそのまま再現したというよりは、歴代のSansAmpをここに詰め込んだような形になっています。画面を見るとMode選択が可能でMODERN、NORMAL、LEAD、BASSと切り替えることで、かなり音が変わってきます。さらにその下にはCharacterというスイッチがあり、中域を持ち上げたり、トレブルをブーストしたり、真空管っぽい暖かな雰囲気にしたり……とスイッチ一つで調整できるようになっています。現在の本格的なアンプシミュレータとはちょっぴり違うサウンドなのもSansAmpならではの面白いところです。
2つ目のDist TUBE-CULTUREは、Thermionic Cultureの真空管ディストーションユニット、Ultra Vultureをソフトウェアとして再現したと思われるもの。比較的シンプルな見た目ながら、いかにも真空管アンプという感じの暖かい音から、かなり激しいドライブサウンドまで幅広い音作りができるのが特徴です。
なかでもユニークなのが実機にもあるFunctionという真空管の切り替えスイッチ。ここにはT、P1、P2、P3という4つのモードがあり、どれを選ぶかによって、かなり音のニュアンスが違ってくるのです。このTはTRIODEの略で三極管と呼ばれる真空管を使った音、またP1~P3のPはPENTODEの略で五極管を意味しており、それぞれ3つの異なる特性を持った五極管を選べるようなのです。どれを選ぶかによって増幅率や音の違いもあり、面白いし、真空管の勉強にもなりそうです。
続いてはグラニュラーシンセシスを使ったエフェクト、Efx FRAGMENTSです。
Classic、Texture、Rhythmicという3種類のモードを持っており、それぞれによってかなり違ったエフェクトになってい来るのですが、言葉だけだとどんなものなのか想像しずらいのも事実。Arturiaが簡単な紹介ビデオを作っているので、こちらをご覧ください。
こんな感じで、グリッチサウンドを作ったり、とても粒子の粗いステレオアンビエンスサウンドを作ったり…とこれまでにない新たな音作りができるはず。日本語のテロップ付きで、かなり詳しい使い方解説ビデオも出ているので、参考になるかと思います。
そして4つ目はMellotron風な音作りをするTape MELLO-FIです。Melltoronはサンプラーの元祖ともいえるもので、鍵盤一つ一つにテープで音をサンプリングした楽器で、鍵盤を押すごとにテープが再生されるというアナログ機材。そのMellotronで鳴らしたようなサウンドに加工するのがTape MELLO-FIなのです。
ある意味テープシミュレーター的なものですが、かなりS/Nが悪めなテープといった感じなのが、うまく表現できるし、回転ムラが激しく、かなりよれたサウンドにしてくれるのです。これについても紹介ビデオがあるので、ご覧になると音の雰囲気が分かると思います。
そのほかの22種類を一挙にまとめてみると、以下のような内容です。
プラグイン名 | 元モデル | 特徴 |
Bus FORCE | Arturiaオリジナル | フィルター、EQ、コンプレッサー、サチュレーションの 4つのモジュールで構成されたパワフルなオリジナル・パラレル プロセッサー |
Comp DIODE-609 | NEVE 33609 | 象徴的なNeveをベースとしたステレオ・コンプレッサー&リミッター |
EQ SITRAL-295 | Siemens W295b EQ | 70年代のSiemensコンソールをベースにしたクラシックなステレオ EQ |
Chorus DIMENSION-D | Roland SDD-320 Dimension D | シンプルな4つのモード操作で再現される美しく滑らかなステレオ・コーラス |
Phaser BI-TRON | MU-Tron Bi-Phase / Musitronics | 2つの位相回路と高度なルーティング・オプションを備えた、ブティック・ギター・ペダルの魅力を醸し出すデュアル・フェイザ |
Flanger BL-20 | Bel / BF-20 Stereo Flanger | 1970年代以来、アイコン的な存在になっているイギリスのラック式ステレオ・フランジャーを再現したエフェクト |
Chorus JUN-6 | Roland JUNO-6 Chorus | クラシックなJUNO-6のコーラスをベースにしたステレオ感のある豊かで温かみのあるサウンドを実現 |
プラグイン名 | 元モデル | 特徴 |
Comp VCA-65 | dbx 165A | 究極のリズムセクション・コンプレッサーであるComp VCA-65は、完璧に再現されたVCAコンプレッサーに現代的なアレンジを加えたもの |
Comp TUBE-STA | Gates STA-Level | 1950年代からベースやボーカルの秘密兵器として愛されてきた真空管式のGates STA-Levelを再構築 |
Comp FET-76 | UREI 1176 | 史上最も象徴的なスタジオ・コンプレッサーをソフトウェア・プラグインとして再現しました。いつでも完璧なボーカルと楽器を |
Delay TAPE-201 | Roland Space Echo RE-201 | 宇宙からやってきたものが、あなたのDAWで使えるようになりました。オーガニックでテープサチュレーションのディレイとリバーブの最高傑作 |
Delay BRIGADE | Electro-Harmonix / Delux Memory Man | 偉大なギタリストやプロデューサーが独自のトーンを実現するのに役立った、象徴的なローファイ・ディレイが、あなたのレコーディング・セットアップに登場 |
Delay ETERNITY | Arturiaオリジナル | エフェクトが統合された、刺激的で多彩なサウンドを持つオリジナル・ディレイ・エフェクトです。Arturia Delay Eternityは、現代のプロデューサーのための革新的なツール |
Rev PLATE-140 | EMT 140 | エフェクトのコレクションは、贅沢で豊かで滑らかなプレートがなければ完成しません。Rev PLATE-140は、すべてのプレートリバーブの母体 |
Rev INTENSITY | Arturiaオリジナル | まったく新しいタイプのリバーブに身を任せてみませんか。Rev INTENSITYは、21世紀のArturiaのオリジナル・エフェクト |
Rev SPRING-636 | Grampian Reverberation Unit Type 636 | 自分で蹴っているかのようなリアルなサウンドのスプリングリバーブで、あらゆるサウンドを強調することができる |
Pre 1973 | Neve 1073 | 世界最高のスタジオの象徴的なビンテージサウンドを、現代のプロデューサーのために完璧に再現 |
Pre TridA | Trident Studio A Rangeコンソール | これまでに製造されたチャンネルストリップの中でも最も貴重でレアなチャンネルストリップがDAWで生まれ変わった |
Pre V76 | Telefunken Tab V76 | 60年代のポップミュージックを代表するサウンドが、バーチャルスタジオのプラグインとして再発見 |
Filter MINI | Moog MiniMoog | Moog博士の有名なオクターブあたり24dBのローパス・ラダー・フィルターを再現したプラグインで、現代の音楽制作者のためにエキサイティングな新機能を追加 |
Filter M12 | Oberheim Matrix-12 | 伝説的なアナログ・ポリシンセのフィルターが、DAW用の非常にパワフルでモダンなプラグインとして生まれ変わった |
Filter SEM | Oberheim SEM | 史上初の内蔵型アナログ・シンセサイザーの一つであるTom Oberheimの先駆的なデザインには、最も愛されているフィルターの一つが搭載されていました。このフィルターを、あなたのDAWで利用できるようプラグイン化 |
先ほど紹介した4つの新エフェクトと同様、これら22種類についても、元ネタが何かをArturiaが言っているわけではなく、いずれも私がそうだろう、と推測したもの。間違っている可能性もあるし、実機とはちょっと音が違う…というものもあるかもしれませんが、その点はご留意ください。
いくつかをピックアップしてみると、たとえばComp FET-76はビンテージコンプレッサの定番中の定番、UREIの1176を再現したもの。電界効果トランジスタ=FETを用いたこのコンプはボーカル用に使えるのはもちろん、かなり万能に使え、とりあえずこれを入れるだけでいい感じの仕立てになってくれるので、持っていて絶対に損のないものです。
Rev PLATE-140は大きな鉄板を使ったプレートリバーブの元祖、EMT 140を再現したもの。実物はかなり大きいのですが、それとそっくりなサウンドをこのプラグインによってシミュレートしてくれます。
またなんといっても簡単で便利なコーラスが、JUN-6。これはRolandのJUNO-6のコーラスだけを取り出したもの。若干音に違いはあるけれど、JUNO-60やJUNO-106に搭載されたのと同じ系統のコーラスですね。その昔JUNO-106を使っていた時、このコーラスをオンにするかオフにするかで大きくことが変わり、広がった気持ちいサウンドになるのを思い出します。シンセサウンドに使えるのはもちろんですが、ギターやピアノなど、さまざまな楽器に使ってもいい効果を演出してくれます。
ほかにも、とにかく即戦力として使えるエフェクトが満載なので、FX Collection 3、持っておいて絶対に損はないと思います。
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