バンドでもオーケストラでも、ピアノ演奏でも、最近は紙の譜面ではなくiPadやAndoroidタブレットなどを使う人が増えています。こうしたデバイスであれば譜面がかさばらないし、管理も簡単。また暗い場所でも見やすいから、ライブなどでも扱いやすく使い勝手がいいからです。とくに無料でほとんどの機能が利用できる日本のアプリ、Piascoreは人気で、多くの現場で利用されています。
そのPiascoreを愛用している一人がDTMステーションPlus!でもお馴染みの作曲家、多田彰文(@akifumitada)さん。多田さんは人気作曲家として数多くの仕事をこなす一方で、「代棒指揮(だいぼうしき)」という、国内にも稀有な指揮者としても活躍しています。その指揮をする際にPiascoreを利用するとともに、ペダルでページ送りをするiRig Blue Turnを使っているそうなのです。先日はじめて多田さんの代棒指揮の現場を見学することができたので、どんなことをしているのか少しレポートしてみたいと思います。
多田彰文さんが代棒指揮を務めるとある劇伴のストリングスセクションのレコーディング現場
以前から、多田さんに「代棒指揮の現場を見てみたい!」という話をしていたのですが、先日「ちょうど今週、ストリングスのレコーディングがあるので、見にきますか?」とお誘いをいただき、二つ返事で見学に行ってきました。
多田さんのお仕事、当然ながら秘密案件が多く、気安く見学に行けるものではないし、行っても内容は絶対に口外しないのがお約束。今回も、とある劇伴(げきばん)のレコーディングでストリングスセクションを録るという現場にお伺いしたのです。
作曲家で指揮者の多田彰文さん
読者のみなさんでも「代棒指揮って何だ?」と思う方も多いでしょうし、ネットで検索してもあまり引っかからない用語。
「劇伴などで管弦楽器を録音するケースが多くありますが、本来であれば作曲家が現場で指揮をします。でも指揮を振らない、もしくは指揮を振るれない作曲家も多いので、レコーディングの際に代わりに指揮をすることを、業界用語で代棒指揮というんです。いまはDAWでレコーディングするのが基本で、打ち込みとミックスするケースも多いので、クリックを聴きながら指揮棒を振るのがほとんどです」
と多田さんは解説してくれます。でも、そんな代棒指揮をする指揮者って、結構いるのでしょうか?
「何名かはいますが、本当に数えるほどしかいませんね。昔は代棒指揮を専門にする方もいらっしゃり、私もいろいろお世話になりました。しかし、当時すでにご高齢でもあり、跡を継ぐ人もいなかったので、そんな仕事も面白いのでは…と思って、国立音大の指揮の先生からレッスンを受けて……、代棒指揮の仕事をするようになってから、20年以上です。もっとも最近は指揮者を立てず、第一ヴァイオリンのトップ奏者、いわゆるコンサートマスターに任せて、コントロールルームから作曲家が指示をするケースが多いので、以前ほど呼ばれるケースはなくなりましたが、それでもいろいろな現場でお仕事させていただいています」(多田さん)
多田さんは指揮する際、最近はiPadとiRig Blue Turnを持っていく、という
その多田さん、以前にDTMステーションの記事でPiascoreの存在を知って以来、紙の譜面からiPadでの譜面に変えたとのこと。やはり持ち運びも楽だし、管理もしやすく、扱いやすいから切り替えたそうですが、最近はiPadといっしょに譜めくり用に、IK MultimediaのiRig Blue Turnを持ち歩いているとのこと。
Piascoreに表示された譜面にはペンデバイスによる書き込みもいっぱい
「Piascoreはペンデバイスも使えるので、譜読みする際、またリハーサル時などに、結構ペンで書き込みをしていきます。そうした際にページを送るとなると、ペンを置いたり持ち替えてスワイプする必要がありますが、iRig Blue Turnを使えば足でめくっていくことができるし、ページを戻る操作も簡単なので、すごく便利なんです。一度これに慣れてしまうと戻れないですね」と多田さん。
Piascoreの譜めくりにはIK MultimediaのiRig Blue Turnを利用している
この日のレコーディングは、都内のスタジオでしたが、第1ヴァイオリンx6、第2ヴァイオリンx4、ビオラx3、チェロx2、コントラバスx1という結構な人数の編成。こうした弦楽奏って、コンサートで見ることしかないので、みんな正装している印象がありますが、レコーディングだとみんな普段着なのか…と変なところに関心が行ってしまいました。が、そのメンバーを率いて指揮をする多田さんは、やっぱりカッコいいですね。
ちょうど見学に行った際は、5、6曲をレコーディングしていましたが、1曲ごとにリハーサルをして、本番。リハーサル時はコンサートマスターと多田さんでやりとりをしながら、iPadの譜面に赤入れしたりして、進めていきます。
指揮をする多田さんの足元にはiRig Blue Turnが
本番は私もコントロールルームから見学していまいたが、譜面台の上にiPadを置き、足でiRig Blue Turnのペダルを踏んでページを切り替えているのが分かります。コントロールルーム内ではPro Toolsからのシーケンス音なども流れ、それが目の前のストリングスと合わさっていくので、なかなか不思議なサウンドを楽しめます。
多田さんの指揮によるストリングスの演奏が、打ち込みサウンドに重なる形でPro Toolsにレコーディングされていく
レコーディングがいったん終わると、コントロールルームにいる作曲家さんからの指示が出ます。多田さんやコンサートマスターと会話をしていくのですが、それによって、一部を録音し直したり、録音後に譜面に修正が入った上でリテイクになるなど、活発なやりとりがされます。が、みなさんプロなので、想像以上にサクサクと進んでいきます。
奏者のみなさんも全員、片耳にイヤモニをつけて、モニターを聴きながらも、指揮を追いながら演奏しているのがよく分かります。ただし、奏者のみなさんは全員紙の譜面であり、タブレットを使っている人はいないようです。
ストリングスを演奏するみなさんの片耳にはイヤモニが…
「私自身は、数年前からすべてiPadに切り替えましたが、レコーディング現場でiPadを使って演奏している人は、まだ少ないですね。逆にコンサートなどは、暗いところが多いので、液晶画面のほうが、より便利に使えると思います。指揮者は、まだ手でページ送りすることができますが、演奏者の場合は両手がふさがるケースが多いので、iRig Blue Turnでのページ送りの意義はより大きいと思います。ワイヤレスで飛ばすので、多くの演奏者がいたら混信するのでは…と気になっていましたが、Bluetoothを使ってページ送りをするiRig Blue Turnの場合、1つの会場に数百台あっても問題ないそうですから、今後どんどん普及するのではないでしょうか?」
と多田さん。今後、レコーディング現場でも、コンサート現場でも、タブレットとiRig Blue Turnという組み合わせを見かけるケースが増えていきそうです。
ちなみに、このiRig Blue Turnについても簡単に紹介しておくと、これは足元で操作するのが基本だと思いますが、大きさ的には手のひらにも乗るコンパクトなもので、単4電池電池2本で駆動し、Bluetooth LEという省電力なBluetoothでiPhone/iPadのほか、Android、Macと接続し、HID=Human Interface Deviceという仕組みでやり取りする形になっています。
HIDでiPhone/iPad、Android、Macと接続してBluetooth LEで信号を送る仕組みになっている
HIDとは、文字を打つためのキーボードやマウスの通信規格ですね。これを使い、Page Up Down(ページ上下)、矢印キー上下、矢印キー左右の3種類のキーの組み合わせを設定可能になっており、どのモードを使うかアプリによってモードを切り替える形になっているのです。そのため、汎用性が非常に高く、Piascoreに限らず、以下のようなアプリでも利用できるようになっているので、ぜひいろいろと活用してみてはいかがでしょうか?
forScore
Loopy HD
Newzik – The Smartest Sheet Music Reader
Sheet Music Reader “piaScore” – Catalog of Songs with Guitar Tablature & Piano with Metronome & Chromatic Tuner
GuitarTapp PRO – Tabs & Chords
iReal Pro – Music Book & Play Along
Set List Maker
Teleprompt+ 3
Avid Scorch
DeepDish GigBook
Scorecerer
Stage Traxx
unrealBook
Adobe Acrobat Reader
GuitarTapp PRO – Tabs & Chords
MobileSheets
Musicnotes Sheet Music Player
Set List Maker
SongBook
Adobe Acrobat Reader
ここに挙げたのはあくまでも一例。MacでAcrobat Readerをコントロールできることからもわかる通り、HIDプロファイルに対応しているアプリであれば、譜面以外でもプレゼンアプリなどでも使うことができ、ハンズフリーでページ送りなどができるので、あとはユーザーのアイディア次第です。
なお、Piascoreを開発したPiascore株式会社 代表取締役の小池宏幸さんにもオンライン会議の形でコメントをいただけたので、以下に紹介しておきます。
Piascore開発者の小池宏幸さんコメント
いまPiascoreのダウンロード数は420万ほどになりました。誰がどのように使っているかまで正確にはつかめていないのですが、多田さんのような指揮者に利用いただいているほか、さまざまなジャンルの音楽のさまざまな楽器奏者にご利用いただいています。管楽器、弦楽器、ドラム、ギター……といろいろですが、やはりピアノが多そうではあります。
世界中の方々に使っていただいていますが、日本のダウンロード数が20%程度と一番多いことは確かです。ビジネスとして正しいかどうかは分かりませんが、無料でほとんどの機能が利用可能で、私のポリシーとして書き込みや譜めくりなどは誰でも使えるようにしたかったのです。600~700円で完全アップグレードが可能で、これによってレコーダーや楽器チューナー機能が使えるようになったり、カメラやアルバムなどからの取り込みを可能にしています。
標準でApple Pencilなどを使った書き込みが可能だから、指揮者が譜面を修正してAir Dropでみんなにその場で配る、なんてこともできるし、作曲中の譜面にアイディアなどを書き込んでネットでやり取りすれば、アイディアが広がるかもしれませんね。
DTMステーションの読者の方であれば、楽器を弾く方や打ち込みをされる方がほとんどだとは思いますが、実はPiascoreはもっと広い用途でも利用できるんです。PDFに対応しているから、別に譜面じゃなくても論文を読むのに使うこともできれば、台所で料理のレシピを見るのにも使えるし、Zoomを使ったレッスンにおいてアプリの画面共有機能を使ってやり取りするとか……いろいろなアイディアで使っていただいています。
ぜひ多くの方にPiascoreを使っていただければと思います。
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