英Focusriteから先日、高品位なUSBオーディオインターフェイス、Clarett+シリーズ、3機種が発売されました。10in/4outで2つのマイクプリアンプ(以下マイクプリ)を搭載するClarett+2Pre(税込実売価格57,200円)、18in/8outで4つのマイクプリを搭載するClarett+4Pre(79,200円)、そして18in/20uoutで8つのマイクプリを搭載するClarett+8Pre(113,300円)のそれぞれ。
いずれもFocusriteのトレードマーク的な鮮やかな赤いメタルボディーで、WindowsでもMacでも使えるUSB Type-C接続のオーディオインターフェイス。同じく赤いボディーで大ヒット製品となっているScarlettシリーズと比較すると一回り大きく、かつ価格レンジも1、2段階上にはなりますが、ここにはFocusrite自慢のプロ仕様のマイクプリが搭載されているのがポイント。AIRスイッチをONにすることでガツンとくるパンチのある音にすることができるのです。実際、どんなオーディオインターフェイスなのか試してみたので、紹介してみましょう。
Clarett+シリーズは、Focusriteが打ち出す上位版のオーディオインターフェイスです。6年前に「プロ用機を7万円で実現させたFocusrite Clarett 2Preの脅威」という記事で紹介したことのあるClarettシリーズの新モデルとなるもの。以前のClarettシリーズはThunderbolt接続でしたが、時代の流れに合わせ、今回の新モデルは、USB Type-C接続で、USB 2.0仕様のオーディオインターフェイスとなっています。
前モデルと比較し、さらに高音質になったというClarett+シリーズですが、最大の特徴は前モデルと同様、マイクプリにあります。ここに搭載されているのはインピーダンス切り替えとリレーコントロールを採用したオールアナログ方式のClarettマイクプリ。モデルによって搭載されているマイクプリの数は異なりますが、いずれも高ヘッドルームで、歪が小さく、そして超低ノイズでクリアなレコーディングを実現するものとなっています。
そのオールアナログのマイクプリとセットになっているのが、Clarett AIRと名付けられたAIR機能。これをONにすることで、ボーカルは艶やかになるし、ギターはシャキンとした音になるし、ドラムのオーバーヘッドを煌めかせることができる、魔法のスイッチ。
操作自体は、WindowsやMac用のドライバとともにインストールされるFocusrite Controlというソフトウェア上でAIRというボタンを押してONにするのですが、実はPC上のCPUを使っているわけでもなく、Clarett+内にDSPがあるわけでもないんです。このAIR機能もマイクプリと同様に完全アナログ回路で構成されているのです。そのためレイテンシーの心配もなく、当然タイミングのズレをきにする必要もありません。
見た目的には、同じメタリックな赤いボディーのScarlettシリーズとClarett+シリーズの決定的な違いはこのマイクプリ+AIR機能の部分なのです。このAIR機能とはFocusriteのISA 110マイクプリアンプというものを再現したものなのですが、ISA 110といってもピンとこない人もいると思うので、Focusriteというのがどんな会社なのかとともに、簡単に紹介しておきましょう。
Focusriteは1985年に、Rupert Neve(ルパート・ニーブ)氏によって設立されたイギリスのコンソールメーカー。Rupert Neve氏についての詳細は省きますが、プロオーディオの礎を築いてきた技術者であり、今年2021年2月に94歳でお亡くなりになったレジェンド中のレジェンド。
Neve and AMS Neve、Focusrite、ARN Consultants、そしてRupert Neve Designsと次々と会社を興し、各社で革新的なレコーディング機材を開発してきた人でもあります。そのNeve氏がFocusrite時代の1985年に開発したコンソールに搭載するためのマイクプリ/イコライザとして設計したのがISA 110だったのです。The BeatlesのプロデューサーであったGeorge MartinのロンドンにあったAssociated Independent Recordingというスタジオに設置するために特別設計された機材でした。ちなみにISAは Input Signal Amplifierの頭文字ですね。
世界中の数多くのヒット楽曲は、このISA 110を通してレコーディングされた音だったわけですが、単にクリアに音を通すというのではなく、そこに音楽的な良さを付加してくれるのがISA 110のすごさであり、Neve氏がプロオーディオの父である所以。
もう36年も昔に開発されたマイクプリではありますが、今でもこのマイクプリはさまざまな形で使われています。もちろん当時のISA 110が世界中のスタジオで使われ続けている一方、現行のFocusrite製品にもその回路を踏襲する製品がいろいろあるのです。たとえば、定番製品であるFocusrite ISA OneはISA 110の回路をベースにしたマイクプリアンプ。そこに入力トランスはを設置したり、可変入力インピーダンスという現代的な工夫も施された製品で実売価格が50,000円程度のもの。
またISA 110ベースのマイクプリを2つ並べたISA Twoも10万円強で販売されている定番製品であり、数多くのスタジオで導入されているほか、4つのマイクプリを搭載するISA 428 MkII、8つのマイクプリを搭載するISA 828、さらにはチャンネルストリップのISA 430 MkII…とISA 110を継承する製品は数多く存在しています。
さて、話は戻り、そのISA 110をエミュレートする回路をオーディオインターフェイスに搭載したのが、Clarett+シリーズというわけなのです。AIRスイッチがオフの状態でもSNのいいキレイなサウンドですが、オンにしてパンチが効く音になるのはISA 110の威力ですね。製品紹介ページにエミュレートという言葉が記載されていたので、てっきりDSPによる処理かと思ったら、アナログ回路で実現させていたというのは、ちょっと驚きでした。
本体にあるのはファンタム電源のスイッチだけなので、ドライバと一緒にインストールされるFocusrite Controlというソフトを使って行う形になっています。AIRをオン/オフするとカチカチと本体内部のリレースイッチが動作するのが分かります。どちらの音がいいかは、やはり録るものや、録音に使用するマイクによっても違うと思うので、必要に応じて試してみるといいと思いますが、多くの場合はオンが気持ちよく感じられるのでは、と。またLINEとINSTの切り替えも同様にFocusrite Controlで行う形になっています。
ところで、このClarett+シリーズ、見た目の端子数よりも入出数が多いと思いませんか?たとえばClarett+2Preの場合、10in/4outとなっているのですが、その理由は光デジタル端子=adat入力があるからです。これは1つの端子で8ch入力あるので、フロントの2つの入力と合わせて10inとなっているんですね。
またFocusrite Controlではモニター出力やメイン出力に何をどのようなバランスで出すかを調整するためのミキサー機能も搭載されており、ここで細かく調整できるようにもなっています。
ちなみにDAWから見ると実は12in/4outとして見えるのですが、S/PDIFとadatは同じ光デジタル端子を使うため、どちらかしか利用できず、結果として最大10in/4outとなります。そして、この入力および、DAW側からの出力をメイン出力やヘッドホン出力からどのようなバランスで出力するかは、先ほどのFocusrite ControlのOutput Routingで調整できるようになっています。こうした設定は基本的にはClarett+4Pre、Clrarett+8Preもすべて共通です。
ところでClarett+2PreおよびClarett+4PreにはACアダプタが、Clarett+8PreにはACケーブルが付属しており、外部からの電源供給で動作する形になっています。しかしClarett+2Preの場合、条件がそろえば、USB端子からの電源供給で動作させることが可能になっています。具体的には以下のようになっており、15W出力可能なUSB Type-CのポートもしくはThunderbolt 3端子であれば、ACアダプタ不要で使うことができるようになっているのです。
USB A | 7.5W USB-C | 15W USB-C | Thunderbolt 3 | |
Mac | × | × | 〇 | 〇 |
Windows | × | × | 〇 | 〇 |
さて、このClarett+シリーズにおいて、もう一つ特筆すべきことがバンドルソフトの豊富さです。実はClarett+シリーズに限らず、今年10月1日以降にユーザー登録したScarlett 3rd GenシリーズやRedシリーズなども同様で、Hitmaker Expansionというプラグイン群のセットが付属しています。さらにClarett+シリーズのみに付属しているソフトもいろいろあり、とにかく驚くほどに充実しているんです。実際どんなものが入手できるのか、少し見ていきましょう。
まずFocusrite関連でいうと、Red 2およびRed 3という赤くて目立つプラグイン、Red Plug-in Suiteというものがはいっています。これは世界中のスタジオで使われているFocusriteの伝統あるRed 2イコライザとRed 3コンプレッサをプラグインでエミュレーションする形で再現したものです。
Red 2イコライザは6バンドのEQで心地よい音の響きをもたらしてくれます。またRed 3コンプレッサはVCAコンプとなっていて、ボーカルはもちろん、ギター、ベース、ドラムなど自然なコンプレッションを実現してくれるもの。ほかのプラグインも同様ですがWindowsでもMacでも利用可能で、VST2/3、AU、AAX環境で使うことができます。
Brainworx bx_console Focusrite SCは先ほどの1985年開発のFocusriteコンソールに収められたISA 110モジュールをエミュレートするプラグイン。AIR機能と異なり、こちらはデジタルエミュレートとなるわけですが、すでにレコーディング済のものにISA 110を通した音の響きを与えるのもいいし、パラメーターが変えられるので、AIRと聴き比べながら、こちらを使ってみるのもよさそうです。
あのAuto-Tuneのエントリー版であるAuto-Tune Accessも付属しています。エントリー版とはいえ、3段階のRetune SpeedとHumanizeのつまみ調整により、微妙で耳に自然なピッチ補正から究極のAuto-Tune Effectまで、バラエティーに富んだチューニング加工が可能。購入すれば12,100円のソフトですから、大きなメリットだと思います。
また、Relab LX480 Essentialというリバーブも付属しています。これはレコーディングスタジオにいけばコンソールの上に置いてあるLexiconのリバーブ、Lexicon 480Lを再現するプラグイン。これも通常99ドルの製品ですから持っておいて損はないですね。
さらにXLN Audioのキーボード音源であるAddictive Keysがあったり、同じくXLN Audioのドラム音源Addictive Drums 2のStudio Rock Kitが付属していたり、またMarshallのJCM800の現代的進化版ともいえるSilver Jubilee 2555というギターアンプのシミュレーターがあったり、Brainworxのアナログシンセのモデリング音源でOrberheimのSEMを再現するbx_oberhausen……とほかにもさまざまなプラグインが付属しており、このプラグインだけで元が取れてしまいそうな充実具合です。
しかも、以前、「毎月プラグインがタダでGETできる!?Focusrite/novationが展開するPlug-in Collective,Sound Collectiveは絶対チェック!」という記事でも紹介した、Plug-in Collectiveにも参加できるので、Clarett+シリーズを購入すれば、今後も2か月に1本程度の割合でプラグインを増やしていくことができるというすごい権利を得ることができるのです。
マイクプリがしっかりしたオーディオインターフェイスが欲しい、というのであれば、このClarett+シリーズ、検討してみてもいいのではないでしょうか?
【関連情報】
Clarett+2Pre製品情報
Clarett+4Pre製品情報
Clarett+8Pre製品情報
【価格チェック&購入】
◎Rock oN ⇒ Clarett+2Pre , Clarett+4Pre , Clarett+8Pre
◎宮地楽器 ⇒ Clarett+2Pre , Clarett+4Pre , Clarett+8Pre
◎OTAIRECORD ⇒ Clarett+2Pre , Clarett+4Pre , Clarett+8Pre
◎Amazon ⇒ Clarett+2Pre , Clarett+4Pre , Clarett+8Pre
◎サウンドハウス ⇒ Clarett+2Pre , Clarett+4Pre , Clarett+8Pre