いろいろな実験的な試みをしているDTMステーションのレーベル、DTMステーションCreativeですが、10月31日に東京流通センターで開催される音系・メディアミックス同人即売会、M3-2021秋に向け、また新たな作品作りにチャレンジしています。今回リリースするのは9月18日にオンライン上で声劇団「勢いありすぎーず」が公演を行う朗読劇、『空の欠片の深いあお。』の主題歌を含むサウンドトラック。
声劇団「勢いありすぎーず」は、主演するシンガーソングライターの福山沙織(@oryhime)さんをはじめとする声優陣、他にも脚本家、音響、ミュージシャンなど、さまざまな分野のプロフェッショナルが集まる劇団。 今回の初リアル公演ではキャストにBanG Dream!の朝日六花役でもお馴染みの声優である小原莉子(@Riko_kohara)さん、DTM系イベントのMCなどを務めたこともある声優のなりた雛糸(@piyorime)さんなど豪華な面々が参加しています。今回の朗読劇では、DTMステーションPlus!の番組を一緒にやっている作曲家の多田彰文(@akifumitada)さんが音楽監督務め、劇伴(げきばん)の作成をしていたこと、そして主演の福山沙織さんがDTMステーションPlus!の番組に出演したことなどもあり、次のM3向け作品のネタとして面白いのでは……とサウンドトラックを作ってみることにしたのです。でも、そもそもサウンドトラックの元ネタである劇伴とはどんなもので、どのようにして作っているのか、実作業として作曲家はどんな仕事をしているのか、あまり表に出ていないこともいろいろ。そこで、今回の作品を例に、実際、劇伴制作はどのように行っているのか、多田さん、福山さん、そして全体のプロデューサーである原田浩介(@kosukeharada)さんに話を伺ってみました。
実験的インディーズレーベルであるDTMステーションCreativeでは、これまでいろいろなことを実践してきました。最初に取り組んだのは3年半前。「DTMステーションCreativeでM3に初出展。滑り出しは上々!?売上情報、収支状況を全公開」という記事でも紹介しましたが、小寺可南子ボーカルによる立体音響ミックスを施した楽曲のCDで、その制作にかかった費用や売り上げなど、事細かく数字を公開するという前代未聞のトライをしました。
その次は「12月30日、初めてのコミケ参戦。DTMステーションCreativeの第2弾は『Harmony of birds feat. 小岩井ことり』」という記事でもレポートしましたが、声優の小岩井ことりさんとタッグを組んでDTMによる音楽制作に取り組んでみました。さらには、第3弾は「AI歌声合成をボーカルに起用した世界初のCDをリリース。歌声合成技術が人間を超える日は来るのか!?」という記事のとおり、CeVIO AIが出る2年も前に名古屋工業大学/テクノスピーチと組んで、まるで人間のような歌声のCDを完成させました。
さらには、DTMステーションPlus!の番組内で声優の田村響華さんと制作した楽曲をリリースしてみたり、小岩井ことりさんとバイノーラルマイクを使った立体音響作品を作ったり……と、さまざまなチャレンジをしてきたのですが、「次は何をしようか……」と多田さんと模索していた中、ようやくたどり着いた答えが、サントラだったのです。
普通サントラって、大ヒットした映画やテレビアニメなどでないと存在せず、インディーズなど小さなレーベルが出すってことはあまりないので、実験としては面白いのでは……となったのです。もし可能であれば、事前に朗読劇『空の欠片の深いあお。』を聴いた上で、このサントラを聴いてみていただきたいのですが、そもそもサントラの定義がどうなっていて、どのような経緯で作っていくものなのか、多田さん、原田さんと話をしてみました。
劇伴って何?どうやって作るの?
--まずは一般論的なことを多田さんにお伺いしたいのですが、サウンドトラックって、劇伴をアルバムにまとめたものだと理解していますが、そもそも劇伴って何ですか?
多田:劇中伴奏曲の略であると理解しています。だからこそ「げきばん」が正しい読み方ですが、誤って「げきはん」と発音する人がいたり、「劇版」と書いたりする人もいますが、伴奏であることを考えると変ですよね。劇中の背景音楽、BGMのことであり、映像のトラックに対して音のトラックだからサウンドトラックと呼んでいたはずです。映画においてはシネマティックサウンドなどとも呼ばれていますが、これらを総称して劇伴と呼んでいるんですね。あえてボーカル入りのテーマ曲をバックに流すケースも無くはないですが、基本的にはインストゥルメントであるのが決まりともなっています。
現在制作中のCD『空の欠片の深いあお。~Original soundtracks』の盤面
--多田さんは、数多くのアニメ作品や劇伴を手掛けている劇伴作家でもあるわけですが、いつごろから劇伴の仕事を手掛けるようになったのですか?
多田:最初はゴーストライターとしての参加だったので、作品名は明かせませんが、1996年に某アニメ作品で4曲オケをやってます。自分の名前をしっかり出したのは2000年の「高機動幻想ガンパレード・マーチ」だったのではないかと思います。これはゲームではありますが、ゲームもシナリオがあって、それに合わせた音楽を作るという意味では劇伴の一つだと捉えています。
--劇伴って、背景に流れる音楽なのだから、既存の楽曲を流用することがあってもいいように思いますが、基本的に書き下ろしなんですよね?
多田:世の中にはライブラリと称するものをメーカーが持っていて、選曲という職業の人があてがうケースも無くはないです。実写ドラマなどは予算がさけないから歌モノなど、世にある作品をつないでいって…。ただ、おそらく95%以上の作品が書き下ろしだと思います。ある意味、通例化しているのでしょうね。
DTMステーションCreative、DTMステーションPlus!の共同運営者でもある作曲家の多田彰文さん
--実際、多田さんが劇伴を担当する場合、どうやって仕事がやってくるんですか?
多田:アニメ作品の場合など、制作委員会と関わっている音楽の会社、レーベルから来るのが一般的です。中には監督から直接指名されるケースや、原作者から声がかかるというケースもあるようですが、通常は、音楽を誰に頼もうか…というディスカッションがあり、監督主導で「この人で行こう!」とかメーカーから「この人を使おう」なって降りてくるんです。指名で来る場合は「多田さん空いてますか?」と連絡がくるほか、私の所属事務所であるイマジンに案件が降りてきて、割り振られるといったケースもありますね。
--その後、具体的にはどのように制作が進んでいくのですか?
多田:ケースバイケースではあるけれど、最初に原作の小説とかコミックが来るので、それを読んでいると、その後、設定資料とシナリオがやってきます。設定資料は美実設定や時代背景などが文章と画像で来るのですが、『クレンヨンしんちゃん』なら、しんのすけの家の間取りなどが来るとともに、シナリオが来るのです。絵コンテが存在する場合もありますね。そして音楽メニューというものがあり、ここに状況・備考、シナリオ位置、音楽の尺、種類(コミカル、不思議、サスペンスなど…)、といった情報が記載されており、これにしたがって曲を作っていくのです。テレビシリーズの場合90秒が基本で、中には3分なんていう長いものがあったり、8秒なんて短いものもあります。それぞれのシーンにマッチした音楽を作っていくのです。
『空の欠片の深いあお。』のシナリオ。これに合わせて劇伴を作っていく
--その場合、すべて多田さんにお任せになるのですか?
多田:最初は監督と世界観と方向性のすり合わせをしていきます。オーケストラ編成なのか、全部プログレで一切オケは使わないとか……。「エレクトロミュージックで行きたい」と言われても、監督がイメージしているものと、私がイメージするもので違いが出てしまう…というケースはあります。とくに「ロックで行こう」ってなった場合、監督の年代によって、イメージするロックが大きく変わったりしますからね(笑)。だから、最初に、プロトタイプ的なものを作って聴かせ、方向性に間違いがないのか確認しつつ、軌道修正もしていくんですよ。
--さて、ここからが本題です。今回『空の欠片の深いあお。』の劇伴というか、音楽監督を多田さんが担当することになった経緯を簡単に教えていただけますか?
多田:ちょうどClubhouseがスタートしてすぐのころ、さまざまなルームに入って親交を深めていたのですが、その中で、福山沙織さんとルームで出会い、自身主導のコンテンツ制作を進めたいという思いを知りました。
原田:福山が公開企画会議というルームを立ち上げており、そこで多田さんと知り合いました。まだClubhouseの黎明期で、ここで出した音がどう届くのか、どうやって音を出すとキレイに聴こえるのか……など試行錯誤しつつ、実際にClubhouse上で朗読劇をやってみようと企画していたのです。そうした中、多田さんから、試しに使ってみて、と曲をいただき、本当にビックリしました。
Zoomでインタビューさせていただいたプロデューサーの原田浩介さん
--多田さんだから、きっとかなりすごい高いクオリティーの曲がやってきたわけですよね(笑)。みんなビックリします。
多田:企画会議になんとなく参加していたので、「こんな感じはどうかな…」とトライアル的に即興で作った10秒程度のジングルをダメ元で提出したんですよ。「使えそうなら使ってみてください。イメージに合わなかったらボツでいいですよ」って。
原田:作ってもらっただけで、もうビックリですよ。もちろん即採用ですよ。ただ、これをどうやって流すのがいいのか、オーディオインターフェイスに何を使うべきなのか、そもそもClubhouseでどこまで実現できるのかも手探りでした。実は多田さん含め、いろいろなプロの方がClubhouseに集まっていて、面白かったですよ。書道の先生にロゴを書いてもらったり……。
--実際、劇伴として音楽を作っていったのは、どういう経緯だったのでしょうか?
原田:3月18日に、プレ公演という位置づけで行った『東西武戦』が最初でしたね。割とみんな手探りで進めていて、双方自主的に出し合うような感じだったんですよ。
多田:脚本を拝見して、こういう音楽が入ったらいいのでは…とイメージしたり、企画会議の中で、原田さんからも「なんとなく、こういう音楽かな」なんて話を聞きながら作っていきました。バトルがあったり、何があったり…とザックリと演出を決めつつ、そこに音楽を合わせていくという感じでした。そうした中、企画会議に参加していたクラリネット奏者のマリィ凛さんが、「私、クラリネットで参加したいです!」と手を挙げてくれたので、私がリズムだけを作ったのを私、ここにマリィさんにクラリネットを入れてもらいました。お任せで、うまくマリィさんの音楽性を出してほしいと伝えていたのですが、うまくくみ取ってくれて、比較的短時間で完成させることができました。
ギタリストの青木俊明さん
--今回、DTMステーションCreativeとしてサントラを出すことになったのは、まもなく公演となる『空の欠片の深いあお。』ですが、ここで使う劇伴、どのように作っていったのですか?
原田:プレ公演は、Clubhouseに集まった人たちで、わいわいと自主公演していましたが、今回はしっかりオーディオションも行い、かなり本格的なものとして準備しています。多田さんとの具体的なやりとりは、私が直接というよりも、脚本担当の谷京輔さんが行っていましたが、できあがってきた曲を聴いては、「こんなすごいものを作ってくれたのか!」と感激でした。多田さんを中心にマリィさん、役者でギタリストの青木俊明さん、DJ・トラックメイカーのSHEART/奇道ぱーぷるさんも関わって、うまくまとめていただきました。
多田:細かいやり取りは、谷さんと台本のやりとりをしながら進めていきましたが、普段のアニメの仕事などと、ほぼ変わらない感じですね。アニメというより、舞台制作に近い感じ。テレビアニメのように完全に尺が決まったものではないから、音楽的には完結させないで、ループできるようにして、音響さんにループしてつないでもらえるようにしたりと工夫はしてましたね。
今回のアルバムには福山沙織さんによる主題歌も含め、全22トラックを収録
--普段、あまり気にせずに背景で流れている劇伴、今回はそこを意識しながら朗読劇、聴いてみたいと思います。これはリアルタイム配信だけになるのですか?
原田:ぜひ、楽しみにしていてください。今回の朗読劇はこれまでClubhouseで大好評だった「空の欠片の深いあお。」の別バージョンという位置づけで初の有料での生配信Liveを行いますが、いま練習も佳境に入っており、より多くのみなさんに楽しんでもらえるものになると確信しております。多田さんによる劇伴も含め、いろいろな演出をこらしているので、ぜひその辺りにも注目いただければと思います。生配信終了後、9月30日まではアーカイブされていますので、何度でも聴いていただくことができるし、9月18日以降にチケットを購入いただいて聴いていただくことも可能となっています。M3でリリースする福山沙織による主題歌を含む、サントラ盤CDとともに、ぜひ、多くの方に今回の公演を聴いていただけると嬉しいです。
朗読劇『空の欠片の深いあお。』配信情報
タイトル:『空の欠片の深いあお。』
配信日時:9月18日 15:00~17:30(9月30日までアーカイブ視聴可)
制作:声劇団勢いありすぎーず(http://ikioi.club/index.html)
配信プラットフォーム:KIPz
チケット代金:3,000円(チケット価格2,720円+発券手数料280円)
https://kipz.fun/mall/event/1208
主題歌を歌う福山沙織さん、インタビュー
今回、M3で頒布するCD、『空の欠片の深いあお。~ Orijinal Soundtracks』の1曲目として収録している主題歌は、福山沙織さんが作詞し、歌唱しているもの。実際、どんな想いで作詞したのか、レコーディング直前に、話を伺ってみました。
6月に放送したDTMステーションPlus!の番組に出演してもらったときの福山さん
--福山さんは、かなり多くの楽曲の作詞も作曲もしてますよね?今回の曲は普段と比べてどうでしたか?
福山:はい、今まで作詞はいろいろしていたのですが、実は今までメロディーが先にあって、そこにテーマとなる歌詞を当てはめていくというのがほとんどでした。しかし、今回は演出の谷京輔さんとのやり取りの中で先に詞を作ることになったのです。私にとって、作詞先行はほとんど初挑戦。どのくらいの文量を書いていいか分からなくて、いろいろ悩みました。でも、今回の物語を詞として書いていこうと思い、谷さんの物語に対する想いなどをヒアリングしました。2時間近いディスカッションになりましたが、ノート3ページ分くらいメモをしましたね。
--そのメモをまとめていく、という感じですか?
福山:いいえ、単に物語に沿って、あまり現実味のない言葉を並べていっても歌として面白くないな、と。それよりみんなに共感を持ってもらえるような歌にするにはどうすればいいだろう、と考えたのです。主人公である、カスミを演じさせていただくのですが、その時点ではまだ本番の台本もなかったので、Clubhouseでの、カスミを思い浮かべながら、どんな言葉にしていこうかと考えました。私も普段から曲を作る立場にはいるので、なんとなく文節や言葉数を作って、多田さんに提出したんです。
--多田さんからはどんな風に上がってきたのですか?
福山:事前に電話で、どういう思いで作詞したのかなどヒアリングされたのですが、その後、すぐにメロディーを作ってくださり、ドラムとピアノ、ベースに歌声合成による仮歌が届きました。まさに思い浮かべていた世界を表現してくれるメロディーになっていて感激でした。言葉から生まれたメロディーって、こういうものなんだ!と。
ギタリストの青木さんのスタジオで収録したときの写真
--それが、ラスト2の21トラック目に収録したSynthesizer Vの弦巻マキAIによる歌だったわけですね。
福山:はい。ただ、その時点ではメロディーの音数に対して、一部、言葉が足りないところがあって、多田さんからは「この辺を少し足せますか?」という要望があり、少しだけ調整しました。またメロ譜も送っていただいたので、ほかも少しだけ言葉を調整して完成させました。これから、その時の想いを込めて、ギタリストの青木さんのスタジオで歌ってきます!
M3-2021秋 DTMステーションCreative頒布情報
開催日:2021年10月31日
場所:東京流通センター
ブース番号:第一展示場 T-23
参加者:藤本健、多田彰文、福山沙織(M3規約上、3人のうち2人がブースにいる形です)
頒布価格:『空の欠片の深いあお。~ Orijinal Soundtracks』3,000円
M3入場料:前売り1,500円、当日1,650円
M3情報:https://www.m3net.jp/attendance/index.php
その他:M3への来場が難しい方は、M3終了後、DTMステーションCreativeオンラインショップ(https://dtmsc.official.ec/)にて通販を行いますので、無理に遠方までいらしていただかなくても大丈夫です。
※2021.11.03追記
DTMステーションCreativeオンラインストアでの販売スタート
M3終了後、DTMステーションCreativeオンラインストアでの販売をスタートしました。ぜひ、こちらもチェックしてみてください。
※2021.12.15追記
DTMステーションCreativeオンラインショップでは、12月25日まですべての製品を15%オフにするクーポンコードを配布中です!この『空の欠片の深いあお。』オリジナルサウンドトラックももちろん対象なので、ぜひご利用ください!