MIDIというと、なんとなく昔のもの…というイメージを持っている人も少なくないようです。確かにMIDIケーブルを見かけることは少なくなりましたが、最新のDAWもMIDIをベースに設計されていますし、ソフトウェア音源もMIDI信号のやりとりで実現しており、今もバリバリの現役。しかも、Bluetoothを使ってMIDIを飛ばす規格「MIDI over Bluetooth LE 」が登場するなど、まだまだ進化中。
さらに、今年1月にアメリカで行われたNAMM SHOW においてはYAMAHA、Roland、KORGなど日本メーカーが共同で「FME-CI =Future MIDE Expansion with Capability Inquiry 」なるものが提案され、今後のMIDIの可能性を広げようとしています。10月19日~21日の予定で開催される2018楽器フェアにおいても、こうした取り組みが披露されます。先日、そのライバル企業同士の会合も覗いてみたので、実際どんなことが行われているのか、紹介してみましょう。
MIDIは互換性を保ちつつまだまだ進化中
MIDIが誕生したのは1981年ですから、もう37年も前の規格。どんどん技術進化するデジタルの世界で、そんな古い規格が現役として残っているのはMIDIだけかもしれません。もちろん、その間にいろいろな仕様が追加されたり、GM やDLS 、XMF など、RP (Recommended Practice ) と呼ばれる拡張規格が登場してはいますが、30年以上前の機器と最新機器が、そのまま接続し、通信することが可能であるというのは、ちょっと驚きでもあり、感動すら覚えます。たとえば最新のCubase Pro 9.5 で1983年発売のDX7 をそのままコントロールできるのですからね。
AMEIでのFME-CIワーキンググループのメンバー。上段左から冨澤敬之さん(Roland)、原貴洋さん(YAMAHA)、水本浩一さん(Roland)、水野滋さん(AMEI)、下段左から菅原利弘さん(KORG)、高橋健さん(KORG)、三浦大輔さん(YAMAHA)
でも「レガシーな規格が残っている」というのではなく、まさに最新の世界で実用に耐える規格として使われているのです。とはいえ、時代に合わせて進化させる必要があるのも事実。そうした動きはメーカーの垣根を超え、ライバル企業同士が手を取り合って、力を入れているのです。
いまそのメーカー間で話し合いが進められているFME-CI は、現在のMIDIをベースにして、機器間のネゴシエーション(MIDI-CI )を定義することで、より高いレベルで楽器の連携や、将来プロトコル拡張、楽器以外の機器と連携(メディアミックス)も構想(FME )するフレームワーク。
MIDI規格委員会 FME-CI WGのグループリーダーである水本浩一さん
Rolandの部長であり、一般社団法人音楽電子事業協会 (AMEI )のMIDI規格委員会 FME-CI WGのグループリーダーである水本浩一 さんは
「CI(Capability Inquiry)とは、機器同士で予めネゴシエーションを行い、機器同士が対応可能な範囲で転送レート変更(Protocol)や、新たなメッセージ体系での送受信(Profile)、あるいは接続機器同士の音色ライブラリ情報交換(Property)などができる仕組みです。MIDI 1.0をそのまま利用しながら、より使いやすい環境を構築していこうというのが、FME-CIの考えているところなのです」と話します。
もう少し具体的にいうと、MIDIはこれまで一方通行の通信で、送りっぱなしで、相手の都合も考えない規格でした。接続先の音源のパッチリストさえ表示することができないのですからね。ただ、いまやMIDIケーブルで1本1本接続するのではなく、USBケーブル内にMIDI信号が高速に流れる時代。相互のやりとりもしやすくなっていることから、双方向通信をしながら、もっと使いやすいものにしていこう、というのがFME-CIの根幹にある考え方。
1月にアメリカ・アナハイムで行われたNAMM SHOWでMIDI-CIに関する発表が行われた
「相手のことを考えないMIDIからお互いのことを考えるMIDIになったら、嬉しいことじゃないですか。それはDAWから見てもすごく便利です。ストリングスのアンサンブルは何番の音色なのかを尋ねればすぐに分かる…というように。しかも1つの尋ね方で、各社とも同じように答えてくれるようになれば、飛躍的に便利に使えるはずです」と水本さん。
もちろん、これまでもシステムエクスクルーシブメッセージ(SysEx)を利用すれば、できなくもなかったと思いますが、SysExだと、各社各様で扱いも煩雑になります。それが一つの尋ね方で答えがかえってくるなら、扱いやすくなりそうです。
NAMM SHOWでの発表内容
そうした中、NAMM SHOWで行われたのは各社のオルガン音源やアナログシンセサイザーを接続するというデモでした。そうオルガン音源であるRolandのV-Combo VR-730、YAMAHAのreface YC、そしてさらにCubase上のソフトウェア音源YC-3BをMIDIで接続。この状態で1つの音源のドローバーを動かすと、ほかの音源もその動きに追従するのです。そうオルガンの場合、基準音、2倍音、3倍音、4倍音、5倍音などとパラメータがありますが、その動きに追従するし、ビブラートを動かせば、それに従った動きをするのです。
Roland、YAMAHA、KORGの各種機材がMIDIで接続され、デモが行われた
同様にKORGのアナログシンセサイザーであるmonologueとYAMAHAのアナログモデリングのシンセサイザーであるreface CSを接続すると、片方でレゾナンスやカットオフを操作すると、もう片方も同じように動作し、同様にアタックやリリース、サステインなどエンベロープのパラメータを動かすと、それに追従するというものでした。
それぞれの音源は、別物なので、まったく同じ音が出るわけではありません。でも、オルガンやアナログシンセサイザー共通という部分はあるから、それをお互いが分かりあうわけなのです。
もちろん、ここでデモした機材は、各社の開発チームがFME-CIの考え方に合わせて中身を改造した特別版。いま販売されている機器で、こうしたことがすぐにできるわけではないのですが、これからのMIDIの新しい姿を感じさせてくれます。
NAMM SHOWではMIDIでドローンをコントロールするというプレゼンテーションも行われた
そのほかにも、FME-CIは、従来のMIDIにはなかった新しい広がりも出てくるようです。MIDIとは当然、電子楽器同士、また電子楽器とコンピュータを接続するためのものだったわけですが、それらとは異なるものも接続していこうという動きです。このNAMM SHOWでもビデオで紹介されていたのがMIDIでドローンをコントロールするというもの。たとえばシンセサイザのツマミを動かすことでドローンの飛行制御をしたり、演奏によってドローンの向きや高度を変えることができる…といった具合。まあ、従来もステージの照明をMIDIでコントロールするという使い方はありましたが、ドローンまでコントロール可能となると、MIDIの世界は確実に大きく広がりそうですよね。
Rolandの水本さんは「MIDIができて30年経っていますが、アップデートを続けていきながらも、今もなお生き続けているということが示せる動きだと思っています。特にMIDI CIについては、AMEIとMMAが新しいワークフロウを試しましたし、さらに国内のメーカーさん同士が一つになって、デモまで作り上げました。単に規格としてだけではなく、業界にとってもエポックだったと思います」と話していました。
日本のメーカー勢=AMEIによる発表を、世界中の楽器メーカーの担当者が真剣に聞いていた
またKORGの高橋健さんは「MIDIがあることによって、こうして電子楽器の会社が一つにまとまり、国内の企業だけではなく世界中が協力しあえています。誕生したのは昔ですが、実際に今でも使える珍しい仕様だと思います。MIDIはこれからも、ずっと続き進化していくので、新しい人達とともに今後も作っていけたらと思っています」とのお話し。さらにYAMAHAの三浦大輔さんからは「楽器音楽の未来の第一歩を踏み出している状況にあるので、みなさん未来に向けて、一緒に活動していきませんか?」との呼びかけも。
各メーカーの担当者がAMEIの事務局に定期的に集まって、MIDIに関する議論を積み重ねている
もちろん一般のDTMユーザーが、すぐにMIDIの規格作りに参加できるというわけではありませんが、新しい情報をキャッチしつつ、どう活用するかを考えながらMIDIを使っていくと面白そうですよね。
こうしたFME-CIの最新情報に関する発表やNAMM SHOWで行われたのと同様の実演が、楽器フェアの2日目、20日(土)に東京ビッグサイトの会議棟602会議室でAMEIセミナーとして行われるので、誰でも見にいくことができます。また、FME-CIの発表の後に、同じ会議室で、「
MIDIの新しい活用事例~ハック&プログラミング教育編~ 」と題して、
楽器を使ってプログラミングを学ぼう!
アナログシンセサイザーprologueに搭載されたユーザー開発機能
Scratchxボカロ! ~ STEM教育におけるMIDIの活用
という3つのセミナーも開催される予定です。
楽器フェアに行けば、MIDIに関連するさまざまなセミナーに無料で参加できる
さらに、
といった内容のセミナーも20日および21日に行われます。
ちなみに、これらのセミナーを主催するAMEI=音楽電子事業協会は前述の通り、日本でのMIDI規格を策定する組織であり、MIDI検定を実施する機関でもあります。ちょうど現在、MIDI検定3級および2級の受付中でもあるので、こうしたセミナーもみつつ、チャレンジしてみるのも面白そうですよね。
【関連情報】
AMEI MIDI規格委員会
2018楽器フェア~AMEIセミナー
平成30年度MIDI検定試験スケジュール