アメリカのソフトウェア音源メーカー、Spectrasonics(スペクトラソニックス)の代表的な製品、Omnisphere(オムニスフィア)が先日バージョンアップしてOmnisphere v2.5となりました。今回のバージョンアップの目玉となるのはHardware Synth Integration機能の搭載。KORGやMOOG、Roland、Sequential、Novation……と数多くメーカーのシンセと有機的な連携をし、完全にハードウェアの実機を使って音を出している感覚でOmnisphereを鳴らすことができるのです。
いわゆるフィジカルコントローラでの操作とはまったく別感覚で、各ハードウェアシンセの操作感、音のニュアンスをOmiisphereに融合し、大きく拡張してしまうユニークなもの。しかも従来のOmnisphere 2のユーザーであれば無償でのバージョンアップと太っ腹。とはいえ、「そもそもOmnisphereがどんな音源なのかよく知らない」という人も少なくないと思います。そこで改めてSpectrasonicsとはどんなメーカーであり、Omnisphereがどんな特徴を持った音源で、どのような歴史を歩んできたのかなど、その基本から紹介してみたいと思います。
プロの作曲家やアレンジャー、劇伴作家などに話を聞くと、必ずといっていいほど登場してくる音源メーカーの一つが、Spectrasonicsです。同社は1994年設立のアメリカの会社で、
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- Omnisphere
- Trilian
- Stylus RMX
- Keyscape
の4つの音源を出しています。社長は元Roland Japanのチーフ・サウンド・デザイナーであるEric Persing(エリック・パーシング)さん。シンセ界では超有名なEric PersingさんはRoland製品においてJUNO-106、JX-3P、D-50、JD-800、JV-1080、JP-8000、S-50、MC-303、MKS-80……と名だたるシンセの音作りに関わってきている人でもあります。たとえばD-50の1番目の音色「Fantasia」なんかも、彼の作ったサウンドですね。
Eric Persingさんの経歴などの話は、ちょっと古い記事ではありますが、KVRのインタビューを日本語化した「サウンドデザイナーのトップが語る、今までとこれから。」というものがあるので、読んでみると面白いですよ。またRoland時代に関わった機材リストもSpectrasonicsのサイトに掲載されているので、これを見ると驚かされます。
そのEric Persingさんが1994年にSpectrasonicsを設立し、当初は数多くの名作サンプリングCDを作っていました。その後、2002年に最初に発売したのがStylus。その後Trilogy、そしてAtmosphereと立て続けにリリース。ただ、Spectrasonicsは、それ以上増やさなかったというのが、ほかのメーカーとの大きな違いでもあるんです。そう、さまざまな製品を乱発して稼ぐというのではなく、これら3製品に集中し、性能UP、機能向上を続けてきたのです。
ご存知の通り、その後、StylusはStylus RMXに、TrilogyはTrilianに、そしてAtomosphereはOmnisphereへと少し名前を変える形で進化してきています。2016年にようやく4つ目のプロダクトとしてKeyscapeを出したところなので、腰のすえ方というのがよくわかりますよね。
また2003年登場のTrilogyを例にとれば何度もバージョンアップをした後に、2008年にTrillianに。さらにその後もバージョンアップを繰り返し、機能をどんどん強化した結果、最新版は1.4.4です。この15年の間、アップグレード料金を課したのは2008年のTrillianになったときの99ドルだけ。このように機能やサンプル、プリセットの追加など、メジャー級アップデートであってもできる限り、無償アップデートし、有償のアップデートとなる際も、既存ユーザーの負担が最小限に抑えるよう努めているのが、Spectrasonicsのポリシーのようですね。
そのSpectrasonics製品の中のフラグシップといえるのがOmnisphereなのです。Atomosphere時代は、よく「Atomosphere系のPad」なんて言い方もしていましたが、1音を抑えているだけで劇伴の曲ができちゃうほどのサウンドを作り出すシンセサイザでした。が、Omnisphereになってからは、Pad系サウンドだけでなく、ピアノ系、ギター系、ストリングス系……とさまざまなサウンドを網羅する、まさにフラグシップとしてのトータルシンセサイザへと進化していったのです。
さらにOmnisphere 2になってからサーキットベンディング(音が出るオモチャ)のサンプリング素材を膨大に揃えたり、民族系楽器の音色も、これ以上ないほどに追加され、ほとんどの音を網羅できるくらいに多彩なサンプリング音を搭載したシンセとなっていったんです。
みなさんの中には「あぁ、Omnisphereって、キワモノ系音源だよね」なんてイメージを持っている方もいるかもしれません。確かに2008年にAtomosphereからOmnisphereになる発表がされたとき、大きな話題になったのが「Burning Piano」というプリセットでした。その名前の通りアップライトピアノをバーナーで燃やしながらサンプルを収録したというもの。もうメチャメチャではありますよね。最新のv2.5でももちろん、そのBurning Pianoは入っており、燃えているピアノが表示されるのですが、そのサウンドはインパクトのある、キレイな響きを持ったものなんですよね。
このようにオーソドックスなサウンドからキワモノまで、あらゆるサウンドを網羅するOmnisphereはv2.5になって、サンプリング容量だけで66GBにも及ぶ膨大なライブラリを備えています。とはいえ、「Omnisphere=サンプルベースのシンセサイザ」というわけではないのも大きな特徴でもあるんです。オシレーターだけでも400種類以上あり、これを使ってアナログシンセ的な音作りも可能になっています。
実際、シンセサイザの方式を見てもメインとなるサンプルベース/オシレータベースのほかに、FM、リングモジュレータ、ウェーブシェイパー、ユニゾン、ハーモニア、グラニュラーと、まさに何でもあり。「Omnisphereでできないシンセサイズはない」といっても過言ではないと思いますよ。
パッチングもまさに自由自在。MODULATIONを使ってソースとターゲットを設定するのですが、虫眼鏡アイコンをクリックすると、12×4=48ものパッチングができるんですから、もう実質音作りの可能性は無限大という感じではないでしょうか……。
さて、ここからがOmnisphere v2.5の真骨頂ともいえるHardware Synth Integration機能について紹介してみましょう。ここで、社長であるEric Persingさんが、デモをしているビデオがあるので、ちょっとご覧になってみてください。
英語なので、わかりにくかったかもしれませんが、雰囲気はつかめたでしょうか?「HW」というボタンを押して「MOOG Voyager」を選択する一方、OmnisphereとVoyagerをMIDIで接続しているだけ。ここで、Voyagerを弾くとOmnisphereが鳴り、Voyager側のパラメータを動かすと、Omnisphereの音色がそれに伴って動くんですね。ここでスゴイは、フィルターを動かすと、まさにVoyagerのフィルターそのもののような音の変化をするんです。ほかのパラメータも同様に実機とソックリな動きをするため、ハードシンセに慣れた人であるほど、Omnisphereをより使いこなすことができるんです。
試しに、手元にあるKORGのmonologueをセッティングしてみました。monologueの場合、USB端子があるので、接続はより簡単。ここでmonologueのFILTERにあるCUTOFFのツマミを動かすと、画面は瞬時にフィルター画面に切り替わると同時に、CUTOFFのパラメータが連動して動くのが分かります。しかし、RESONANCEのツマミを動かすと、動くのがRESパラメータだけじゃないんですよ。同時にGAINも動いているんですね。だから、Omnisphereのフィルターの雰囲気がmonologueソックリになっているんです。
同様にVCO1の波形を切り替えると瞬時にMAINのSYNTH画面に切り替わり、monologue側で選んだのと同じ波形が表示され、PITCHやSHAPEを動かすと、monologueとソックリな動作をするように、複数のパラメータが同時に動くんですよね。ATTACKやDECAYのツマミを触ればエンベロープ画面に、
もちろんアルペジエーターも動くし、シーケンサも動くので(これらは単にmonologueからMIDIのノート信号が送られているだけ)、これがOmnisphereから出ている音であることを忘れてしまうほど、ハードシンセの操作に没頭できるんです。ただし、ここではmonologueからは音を一切出しておらず、ハードウェアコントローラに徹しているんですよね。もちろん、monologueの音も同時に出してDAWやミキサーでミックスするというのも手ですけどね。
アタックなどのツマミを触れば自動的にエンベロープの画面に切り替わる
さらに究極ともいえるのは、monologueなのに、ポリフォニックで使えてしまうこと。感覚的には、完全にアナログシンセのmonologueを動かしているんですが、Omnisphere側のVOICES数を1ではなく8とか16にすれば8音、16音が出るポリフォニックシンセに変身してしまうんですよね。まさにmonologueがminilogueやprologueにバージョンアップしちゃうような感覚です。
もちろん、monologueのモードにしたからといって、monologueの機能に縛られるわけではなく、これをグラニュラーシンセとして使うこともできるし、数々のエフェクトを設定することもできれば、Omnisphereオリジナルのアルペジエーターを活用することもできるので、本当に何でもできちゃうわけです。
手持ちのWAVを読み込めるなどグラニュラーシンセもより強力なものに進化している
ここではKORGのminilogueを例に試してみましたが、RolandのBoutiqueシリーズのJU-06やJP-08、MOOGのSub 37やLittle Phatty、Dave SmithのOB-6やSequencialのProphet-6、NovationのBass Station IIなどのシンセで同じようなことができるので、かなり楽しそうです。従来のフィジカルコントローラで操作するというのとは、まったく違う新しい世界だと思いますよ。
ちなみに今回のv2.5へのアップデートでは、31種類のハードウェアシンセのウェーブを搭載するとともに、これらを使った1000種のプリセットが追加されています。そのため、たとえばmonologueを持っていなくても、monologueの音を出せてしまうのも楽しいところです。
さらにOmnisphere v2.5になって、A~Dまで4つのレイヤーで音を重ねることができるようになったり、エフェクトの数も増えて、シンセサイズする部分がさらに強化されるなど、さまざまな機能UP、性能向上が図られています。普通ならば、有償バージョンアップとなりそうなものですが、太っ腹なSpectrasonicsはこれだけの機能強化をしても無償バージョンアップというのはこれまでのユーザーにとってはありがたいことですよね。
内蔵エフェクトも非常に充実している
なお、新規にOmnisphere v2.5を購入してみたいという人にとっても、このバージョンアップのタイミングはチャンス。日本限定のキャンペーンとのことですが、9月20日まで30%オフで販売されているので、買うならちょっと急ぐと良さそうです!
【製品情報】
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【価格チェック】
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