手軽に自分だけのサチュレーションサウンドが作れる、OwnTHDが面白い

以前、何度か紹介し、大きな話題になったヘビメタギターサウンド音源のHeavier7Strings。これは北京にあるThree-Body Technologyというベンチャー企業が生み出した超リアルなソフトウェア音源で、中国の技術のスゴさを思い知らされると同時に、思い切りヘビメタ好きな人たちが4年もかけて作り上げたんだなと、胸が熱くなる思い入れを感じました。

そのThree-Body Technologyが先日、第2弾製品、OwnTHDをリリースしました。今度はソフトウェア音源ではなく、エフェクト。それもサチュレーションにターゲットを絞ったものであり、ギター用にはもちろんのこと、ドラム、ベース、キーボード、ボーカルなど、さまざまな音源を簡単に気持ちいいサウンドに仕上げてくれるというもの。現在において、サチュレーションエフェクトというのは、そう珍しいものではないのですが、このOwnTHDは手軽に自分だけのオリジナル・サチュレーションサウンドを作り出せる、という点を前面に出したユニークなプラグインです。価格はアメリカドルで$129ですから日本円で計算すると税抜きで14,000円ちょっとです。実際どんなものな試してみたので紹介してみましょう。
簡単に自分だけのサチュレーションサウンドが作れるOwnTHD



OwnTHDの話の前に、「そもそもサチュレーションって何?」という人も少なくないと思うので、簡単に解説しておきましょう。サチュレーション=Saturationは直訳すすると飽和するという言葉。「これ以上もう伸びない!」なんてとき、日本語でも「サチる」なんて言い方をしますが、これはサチュレーションが語源ですね。

アンプに音を入力する際、過剰に入力すると、音が歪(ひず)んできますが、これが音の世界でのサチュレーション。やりすぎると、オーバードライブとかディストーションに近いような歪みが発生し、ギターなどの楽器からの音を通すことで、いい効果を発揮します。一方、そこまで過剰にしなくても真空管アンプを通すことで、ちょっと温かみのあるサチュレーションが起こったり、テープに一度録音することで、やわらかい感じのサチュレーションが起こり、これも音を変化としては効果的な利用が可能です。

OwnTHDはさまざまなサチュレーション効果を作り出すエフェクト

実際のところ、コンプレッサやリミッタを通すことでも、副次的な意味でのサチュレーション効果はあるし、マイクプリアンプやEQなどを通しても、それぞれ特有のサチュレーション効果が出てきます。極端な音の変化というわけではありませんが、これらを活用することで、気持ちいい音を作ることができわけです。

そんなサチュレーション効果を実現するプラグインが、このOwnTHDです。THDとはTotal Harmonic Distortionの略であり、日本語にすると全高調波歪。なんか難しい言葉になってしまいますが、このTHDによる音の変化でサチュレーションが起こるわけですね。OwnTHDという名前の通り、自分だけのサチュレーションサウンドを作ることができるエフェクトです。

まあとりあえず能書きはともかくとして、OwnTHDを通すとどんな音になるのか、Three-Body Technologyがデモビデオを作っているので、この音の変化を聴いてみてください。

いかがですか?聴いても分かるとおり、ドラムにも使えるし、アコースティックギターやボーカルにも使うことができ、これをオンにすると、いい感じの音に変化するのが分かると思います。また、個別の音にかけるだけでなく、できあがった曲のマスターにおいてOwnTHDを通すことで、いい雰囲気に仕立て上げることができるのです。

使い方としては、各トラックにインサーションとして組み込む形であり、ちょっとおまじない的な使い方ともいえるのですが、通すだけでいい感じにできるスーパーエフェクトなのです。
右側のInを上げていくとサチュレーション効果が出てくる
この際、右側にあるInを上げていくとサチュレーション効果が強まっていき、Outを上げていくと、通した結果の音量を変化させることができます。

いろいろなパラメータはあるけれど、とりあえずはプリセットがいろいろあるので、これを選んで使うだけでも、なかなか面白いですよ。プリセット名にはAcoustic Guitar 1とかBass Drum 4、Electro Mix 2などといろいろな名前がありますが、あまり名前にとらわれず、適当に選んで試してみるのもお勧め。案外ピッタリ合ったりしますからね。

プリセットを選ぶだけでいろいろなサウンドを得られる
では、もう少しOwnTHDを具体的に見てみてみましょう。このOwnTHDは下図のように大きく4つのパートから成り立っています。
OwnTHDのシステム構成

一番左の大きい部分がビンテージ機材をシミュレーションするためのもの、その右の赤いところがSolid State、つまりトランジスタ回路のシミュレーション、オレンジが真空管回路のシミュレーション、一番右の青がテープのシミュレーションとなっており、それぞれ独立したサチュレーション効果を持つモジュールとなっています。

各モジュールのランプをクリックすることで、オン/オフを切り替えることが可能

そしてそれぞれのモジュールの左上にあるランプをクリックすることでオンにしたり、オフにすることが可能。全部オフにすれば、何もエフェクト効果はなくなり、オンにすれば、そのモジュールだけが使えるようになっているのです。

たとえばSolidだけをオンにするとかTubeとTapeの2つをオンにして使うということもできるわけですね。試しにドラムやボーカルなどの音を出しながら、少しInのパラメータを上げた状態で、Tubeだけをオンにしてみても、結構サウンドが変わってきますし、そのパラメータを上げていくと、より激しく変わってきます。

ロータリースイッチを切り替えることで、シミュレーションする機材が変わる
一方、左側のビンテージ機材の左側には、ロータリースイッチがあり、N-Pre、A-Pre、4K、U61……と、名前が書かれていますが、これでビンテージ機材のモデルを選ぶようになっています。マニュアルを見るとそれぞれについて以下のような説明があります。

N-pre 世界でもっとも著名なマイクプリの1つをモデリングしたもの。そのサウンドは温かく、強さや深さを持ち合わせている
A-pre もう一つの非常に有名なマイクプリ。N-Preと似た面もあるけれど、より中低域に焦点を絞ったものになっている
4K とても有名なビンテージ機材の一つで、とてもパンチの効いたサウンドにすることができる
U61 真空管のマイクプリアンプをモデリングしたもので、温かく、そして中域において大きな効果を発揮する
VOC 著名なチャンネルストリップをモデリングしたもので、高域で気持ちよく効いてくる
Child 伝説的なリミッターをモデリングしたもの
2A 非常に有名なリミッターをモデリングしたもの
A8 著名なテープレコーダーをモデリングしたもの
Hawk オーバードライブをモデリングすたもので、非常に強力なディストーション効果を持っている

名前を見ると、なんとなく「あの機材」をシミュレーションしているのかな……と想像するわけです。たとえばN-PreならNeve 1073かな、A-PreはAvalonのマイクプリ、ChildというのはFairchild 670ではないか、2AといえばLA-2Aだろう、S8はStuderのA800かな……といった感じ。

ただ、厳密にモデリングしているというよりも、サチュレーション効果のバリエーションを出すためにさまざまな特性のものが用意されているという感じのようです。

Driveなどのパラメータをいじることで、音色を大きく変えていくことができる
それぞれを選んだ上で、4つあるDriveパラメータを上げていくと、効き具合がよくなったり、Feedbackを上げることで、フォードバックさせて、より強烈な効果を出すことが可能になります。

画面下にはSweet Spot 1~3というのがありますが、これはどのモデルを選ぶかによって、それぞれにマッチしたパラメータに変化するというもの。まあ、あまり深いことを考えず、適当にさわってみると、いい効果を出すことができるようですよ。

前述の通り、4つあるモジュールのうち1つを選んでもいいし、複数を選んでもOK。気に入ったサウンドを作る方法を見つけたら、それを自分のオリジナル・サチュレーション・サウンドとしてプリセットに保存しておけばいいわけですね。

決済は日本語、日本円で行うことが可能

このOwnTHDはWindowsでもMacでも使えるハイブリッドのプラグインであり、VST、AAX、AUと一通りのプラグイン環境に対応しています。

デモ版も用意されており、DEMOの表記が出るほか、いくつかの制限事項がある
またデモ版も配布されているので、まずはこれを使って、どんな音になるか試してみるといいですよ。ちなみにデモ版は30秒ごとにノイズが入る仕様になっているほか、プリセットを保存することができません。またDAWで曲を作って保存する際、OwnTHDのパラメータが保存できないといった制約はあるようです、音を確認するという意味では十分機能すると思います。
【関連情報】
OwnTHD製品情報
OwnTHDデモ版ダウンロード

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