iZotopeのボーカル・エフェクト、VocalSynthがバージョンアップし、VolcalSynth2として先日発売されました。ボーカル・エフェクトといっても、リバーブとかディエッサー、コンプなど、ボーカルをキレイに整えるためのものではなく、いわゆるボコーダーであり、トークボックスでもあり、ロボ声エフェクトであり、ピッチ補正やピッチシフターなど……さまざまな機能を持つ最先端エフェクト。しかも、昔ながらのボコーダーというわけではなく、歌声の母音を強制的に違うものに置き換えることができるなど、最新技術によって従来にないユニークな機能がいろいろと搭載されたプラグインなのです。
6月にネット放送番組であるDTMステーションPlus!でVocalSynth2を特集した際、「後日、VocalSynth2を記事としてレポートします」と宣言していたのに、なかなか記事ができていなかったため、多くの方からPUSHをいただいておりました。ごめんなさい。改めて、このVolcalSynth2とはどんなプラグインなのか、紹介してみたいと思います。
80年代のYMOなどをご存じの方なら、「あぁ、ボコーダーね」という反応だと思いますが、「いきなりボコーダーと言われてもよくわからない……」という方も少なくないと思います。そこで、VocalSynth2を使うとどんな音、どんな歌声が出せるのか、iZotopeが作った2分弱のビデオがあるので、まずはこれをご覧になってみてください。
いかがですか?ボコーダーを知らなくても、「なるほど、こんな感じのボーカル、聴いたことある!」と思われるのではないでしょうか?でも中には「VOCALOIDの仲間?どうやって打ち込むの?」なんて思うかもしれませんが、ボコーダーは歌声合成ソフトではなく、人間の声を加工して、こうした特殊な効果を出しているんですね。現行のハードウェア製品だと、microKORGなんかがボコーダー機能を持っていて、このマイクにしゃべりながら鍵盤を弾けば、弾いた音程で歌ってくれるのです。
VocalSynth2は名前からもわかる通り、VocalSynthのセカンドバージョン
そんなボコーダーをプラグインソフトウェアで実現するとともに、これまでのボコーダーの機能、性能を遥かに超える表現力を持ったものが、iZotopeのVocalSynth2なのです。動作環境的にはWindowsでもMacでも利用でき、VST2/3、AU、AAX、RTASとほとんどどんな環境でも動作するようになっています。
Winodows/MacのVST2、VST3、AudioUnits、AAX、RTASと各プラットフォームでの利用が可能
実際にインストールして使ってみると、最初にちょっと戸惑うのは、これがインストゥルメントではなく、エフェクトである、ということ。ボコーダーはシンセサイザの一種であることから、インストゥルメントのプラグインだと思って使おうと思ったら、見当たらない……。そう、まずオーディオトラックを作成した上で、そのオーディオトラックのインサーションエフェクトとしてVocalSynth2を組み込むんで使うんですね。
もっともシンプルな使い方は、予め、そのオーディオトラックに普通にボーカルを入れておきます。そこにVocalSynth2をインサーションエフェクトとして組み込んでONにすれば、すぐに先ほどのようなボコーダーサウンドにすることができます。この際は、音程は基本的に入っているボーカルにしたがう形になります。もちろん、リアルタイムにマイクで歌ってもOKですよ。結構膨大なプリセットが用意されているので、これをいろいろ試すだけでも1日遊べちゃいますね。
これがオートモードというものなのですが、MIDIモードにすることで、一般的なボコーダーと同様、鍵盤=MIDIで指定した音程で歌えるようになります。この場合も、オーディオトラックにVocalSynth2をインサーションで入れておくこと自体は変わらないのですが、さらにMIDIトラックを作成し、その出力先の音源としてVocalSynth2を設定するのです。これで自由に演奏可能なボコーダーになります。
さらに、サイドチェインモードといものもあります。これはDAWの他のトラックのオーディオをVocalSynth2のキャリアとして利用できるというもの。たとえば、ギターやピアノなど生楽器でモジュレーションしたような、これまでにあまり聴いたことのない、不思議な特殊なサウンドも作れるのも面白いところです。
でも、このVocalSynth2は従来からあるボコーダーをソフトウェアで実現させた、というだけのものではないんです。実は、ここにはまったく特性や音が異なるボコーダーが5種類も入っているんです。具体的には
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- Biovox
- Vocoder
- Compuvox
- Talkbox
- Polyvox
の5種類。これらを単独で使うことも可能だし、同時に鳴らしてミックスして使うこともできるようになっているのです。それぞれをごく簡単に紹介してみましょう。
まずBiovoxが、今回のVocalSynth2の目玉ともいえるものなのですが、歌声の鼻音や母音を細かくコントロールできるようにした世界初のシステムです。画面左下にVOWELというものがありますが、ここを見ると、A、I、U、E、Oの5つの文字が見えると思います。そう、ここで母音をコントロールすることが可能になっているのです。極端なことをいえば「こんにちは」と歌った際、カーソル位置を「O」のところへ持っていくと「おおおおお」と歌う形になるんです。
もちろん、DAWのオートメーションを使って動きを記録することもできるので、「こ~んにちは~」を「こぉ~ぅんにちはぁ~ぅ」にするなど、歌の表現をあとから変化をつけられるのがポイント。VOCALOIDで生成した音声を、後で大きくいじるといったことができるのも面白いところです。
しかもDAW上で使っている場合、このカーソルの位置をオートメーションで記録することが可能なので、極端な話、これを使って歌わせてしまうことまでできるわけです。といっても、あいうえおしか歌えませんが……。さらに各種パラメータで声の透明度や鼻音、またフォルマントなどをコントロールすることが可能になっています。
次のVocoderは、その名の通り、昔ながらのボコーダー。BANDSのパラメータで音質の特性を指定できる一方、OSC1、OSC2という2つのオシレーターがあり、それぞれでノコギリ波や矩形波、三角波などを指定できできるほかノイズジェネレーターも搭載されています。それぞのピッチを調整できたり、フィルターで加工できるなど、まさにアナログシンセ感覚で利用できるわけですね。
Compuvoxは人間の声をより機械的な声、ロボットボイスにするためのものです。実はこれ、1970年代後半にTexas Instrumentsが出した教育玩具、Speak & Spellのサウンドを再現するためのもの。個人的にも中学生時代に遊んでいたので思い入れのある機材ですが、KraftwerkやDepeche Mode、また日本だと電気グルーヴが使っていたことでも知られる音ですね。そんなサウンドをこれで作れるというわけです。
次のTalkboxは、トークボックスとかトーキングモジュレータと呼ばれる、昔ながらのエフェクトです。そうホースを加えて口の中で変調させるというすごい仕組みではありましたが、独特なサウンドが得られるというもの。それをソフトウェア的に実演させているものです。
最後のPolyvoxは和音に特化したエフェクトです。これはAutotuneのようなピッチシフトをするためのモジュールで、ボコーダー的なシンセサイズ加工をするわけではないのですが、単音のボーカルを元にして、クワイヤ的なハーモニーサウンドを作ることができるのが特徴です。これをオートモードで使う場合、指定したコードの平行移動となるため、メジャーの設定ならずっとメジャーですが、MIDIモードにすると、より自由にコードを指定していくことができます。
こうしたVocalSynth2の使い方を解説したチュートリアルビデオが日本語テロップ付きで登場したので、これを見てみると、一連の流れがつかめると思いますよ。
一方、先日のDTMステーションPlus!の番組においては、これらVocalSynth2の機能を実際に音を出しながらいろいろと紹介するとともに、その場でレコーディングしたボーカルにVocalSynth2で加工するといったことを行ってみました。
その番組内で試してみて、案外面白かったのは人が歌うボーカルではなく、VOCALOIDの歌声をVocalSynth2で加工するという手法。とてもうまくマッチしてくれるので、VOCALOIDを使っている方は試してみる価値があると思いますよ。
このVocalSynth2は、誰でもダウンロードして、10日間は全機能を無料で使って試すことが可能です。
また期間限定で無償のプリセットも配布中です。Lil wayneのプロデューサーとして知られるDeezleやロック、エレクトロニックの各ジャンルの著名アーティストのプリセットが提供されているので、GETしておくとよさそうですね。なお開発元のiZotopeでは、YouTubeでのチュートリアルビデオなども公開しているので、参考にしてみるといいと思いますよ。
【関連情報】
VocalSynth2製品情報
VocalSynth2チュートリアルビデオなど(YouTube)
DTMステーションPlus!第106回「VocalSynth 2でDTMでの歌をビビッドに!」