「nanoKEYをSC-55mkIIに接続して直接演奏」、「KORG volca kickとArturiaのBeatStepを同期させる」、「MIDIキーボードを弾いてポケットミクを歌わせる」、「安価なボリュームペダルをMIDIのモジュレーションコントロール用に改造」……、これまでできそうでいてできなかった、さまざまなことを実現できるとっても不思議で便利で、超強力な小さな機材、midiglueが誕生します。
midiglue、つまりMIDIを介してノリのようにさまざまなガジェットをつなぎ合わせることを可能にするというもので、MIDI端子、USB端子とmicro USB端子、CV/GATE入出力などを備える機材。プリセットを呼び出すだけで、変幻自在に用途を変更でき、必要に応じて自分で細かく設定することも可能というもの。日本の20代のエンジニア6人が集まったスタートアップ・ベンチャー企業、sigboostが開発し、本日7月22日よりKickstarterでのクラウドファンディングが開始されました。実際、このmidiglueとはどんなものなのか、プロトタイプを見せてもらったので、紹介してみたいと思います。
7月22日からKickstarterでのクラウドファンディングがスタートしたmidiglue
今回登場するmidiglueは、手のひらに乗る小さな箱。まだプロトタイプなので、ボディーは3Dプリンタで作ったものだとのことですが、これをHUBのようにして、さまざまな機材を接続することができ、これまで不可能だったことを実現してくれる、魔法の玉手箱のようになっているんです。
ボディーは3Dプリンタで作成したというプロトタイプであるmidiglue
まずは、KickstarterにUPされている以下のビデオをご覧ください。
なんとなくイメージできたでしょうか?このmidiglueの開発を行っているsigboost株式会社のCEOでmidiglueのプロジェクトリーダーでもある青木海さん、ハードウェアエンジニアの森口祥多さんにお話しを伺いました。
プロジェクトリーダーでもある青木海さん(左)とハードウェアエンジニアの森口祥多さん(右)
「もともと私たちは、sigboostという電子楽器を開発していました。これはFPGAというICを用いたシステムで、プログラム次第で中身を自由に書き換えられるという、PCレスで動くユニークな機材です。ただFPGAを使うために高価になるというネックがあった一方、ユーザーのみなさんからは、自分のニーズに合う機能を簡単に実現でき、より手ごろな価格で、PC不要で使えるものが欲しい、という声が大きかったのです。そこでsigboostから一部の機能を切り出す形で実現させたのがmidiglueなんです」と話すのは青木さん。
midiglueをHUBにするような形でさまざまな機器との接続が可能
「midiglueではオーディオを扱うことはできないのですが、その代わりにMIDI、USB-MIDI、CV/GATEなど多くのコントロール信号用の端子を装備しておおり、すべてプログラマブルでユーザーが自由に設計して使うことが可能となっています。そのためアイディア次第で、これを変幻自在に活用することができます」と森口さん。
何か凄そうだけど、まだイマイチこれがどんなものなのかよくわからない…という方も多いと思うので、まずは、midiglueの入出力端子としてどんなものがあるのかを見てみましょう。
フロントにはMIDI入出力とともにCVとGATEそれぞれの入出力が搭載されている
まずフロントにはMIDIの入力と出力、CVとGATEの入力と出力が用意されています。一方、リアのほうにもMIDIの入出力があるほか、Hostと書かれたUSB端子とDeviceと書かれたmicroUSB端子があります。
リアにももう1系統のMIDI入出力とともにホストとして使えるUSB端子とデバイスとして使えるUSB端子が搭載
そしてトップパネルにはOLEDディスプレイと、2つのボタン、ジョグコントローラが搭載されており、これで本体操作をできるようになっているのです。簡単にいえば、これらの端子に接続したデバイス間で自由に信号のやりとりを可能にするのがmidiglueということなんですね。
中央に有機ELディスプレイを搭載するmidiglueのトップパネル
なかでも大きなポイントとなるのがHostという端子です。今ある多くのUSB-MIDIキーボードは、PCと接続することを前提としているため、PCがないと使うことができません。でも、midiglueはこれらと接続ができるので、活用範囲が大きく広がるのです。もちろん、midiglueを介して電源供給も可能となっているので、USBバスパワーの機材も動かせるというわけですね。
「本体内にもバッテリーは持たせていますが、それほど大きな容量がないので、ACアダプタなどから電源供給するのが基本とはなります。これによって、さまざまな機材との接続ができるのではないかと思っています」(森口さん)
midiglueによるエフェクトのデモ。ピアノ音が実際に弾いている演奏、FM音源がエフェクト結果
あくまでもプロトタイプということで、端子の仕様がこれで確定しているわけではないとのことでしたが、個人的には、MIDI入出力は1系統でいいので、Host端子がもう一つくらいあってくれると嬉しいな、と要望してみたところです。
ただ「面白そうだけど、何をどうすればいいのか分からない」、「自分でプログラムを書かなくちゃいけないとなると、使えそうにない……」と思う方もいると思います。その辺についても、聞いてみました。
ex.1 USB-MIDIの信号をmidiglueを介してCV/GATEに変換の上、モジュラーシンセをコントロール
「まずは、我々で多くのプリセットを用意しようと思っているので、ユーザーのみなさんは、それらを選ぶだけで、すぐに使えるようにします。また、ユーザーの方が作ったプリセットを公開できるようにしたら、さらに広がりが出てくるのでは、と期待しているところでもあります」(青木さん)
ex.2 USB-MIDIデバイスを弾いた際、鍵盤部はvolca FMを、パッドはvolca Synthを鳴らす
その具体的な使用例ですが、単純なMIDIのパッチベイのようなことが可能にしたり、MIDI IN 1とMIDI IN 2からの入力をマージさせてMIDI OUTから出力させたり、反対にMIDI IN 1からの入力をMIDI OUT 1とMIDI OUT 2にスプリットさせて出力することは、基本中の基本。
ex.3 MIDIでのコントロールチェンジとGATEからのスイッチ情報で、SysEXを発生させる
一方プログラマブルであることから、1本の指でUSB-MIDIキーボードを弾くと、コードのアルペジオを生成して、MIDIのシンセサイザを鳴らすといったことができます。
ex.4 鍵盤を弾くとアルペジオなどMIDIエフェクトを生成の上、戻して鳴らす
また、CVのクロック信号をもらうと、それを元にしてMIDIやUSB-MIDIにMIDIくろっくを送って同期させることもできるし、もちろんmidiglueをマスタークロックにして、接続したデジタル、アナログすべての機材を同期させるといったことも可能です。
ex.5 Ableton LiveなどのDAWを使わずにLaunchpadで、シンセサイザを演奏させる
そのほかにも
- 各種コントロール信号(USB MIDI / レガシーMIDI / cv-gate / ペダル・フットスイッチ)の相互変換やルーティング(スプリット・マージ)
- MIDIエフェクタ(ルーパー、オクターバー、ディレイ)
- アルペジエーター、シーケンサ
- スケールクオンタイザ、コードアサイナー
- マイクロチューニング
- MIDIスマートレイヤースプリッタ:声部検出を行う賢いMIDIスプリッタ
などのプリセットを用意していくとのことなので、かなりのことができそうですね。
そしてmidiglueの真骨頂は自分でプログラミングできるということ。
「WindowsおよびMacでプログラミング可能なように、エディタはクロスプラットフォームとなっていて、エディタ内でオブジェクトを線で接続していく形で記述していきます。またこのエディタで記述したものからコード生成とコンパイルを行うと、自動でデバイスに書き込む形になっているので、初めての方でも比較的容易にプログラミングを楽しめると思います」(青木さん)
オブジェクトを線で接続していくことで、動作プログラムを生成することができる
実際にデモしてもらった以下のビデオでは、キーボードを弾いた音を追いかけて残像のような効果を出すエフェクター。こんなものが簡単に作れちゃうんですね。
気になるのは、midiglueが入手できる時期と、価格。Kickstarterでのスケジュールを見ると、9月に設計が完了して、10月に製造開始、12月に発送開始とのこと。少し、余裕を見て待ったほうがが安心かもしれませんが、半年先という感じみたいですね。そして価格は8,000円~。クラウドファンディングを使ったことのある方ならご存知だと思いますが、早めに支援してくれた方は安く入手できるシステムになっているので、段階的に値段が上がっていく形です。
midiglueの開発メンバー。左から青木海さん、野崎悦さん、坂部直哉さん、森口祥多さん、鶴田真也さん
具体的には開発ボードが8,000円(限定20名)、10,800円、筐体に入った製品版が13,500円(限定20名)、16,500円(限定100名)、19,800円などとなっています。将来、正式に発売するときには20,000円程度にしたいと言っているので、クラウドファンディングで入手すれば、安く手にすることができるのは間違いないと思います。また、オプションとしてMIDIケーブルやパッチケーブルも用意されているので、そうしたものと組み合わせて購入することもできそうですよ。
※訂正 2018.7.22
当初、冒頭で「iRig KEYSを弾いてポケットミクを歌わせる」と例示していましたが、現在の仕様だとUSBのホスト端子が1つなので、2つ同時接続はできないようです。