apolloやapollo twin Mk2などのシリーズ製品、また「DTMの世界を激変させるシステム、ArrowをUniversal Audioが発売開始」という記事でも紹介したArrow……など、ユニークで画期的な製品次々と出している、米Universal Audio。そのUniversal Audioから、また新しいユニークな機材、ライブサウンド用リアルタイムUADエフェクトプロセッサー「UAD-2 Live Rack」が発表されました。
これは一言でいえば、ライブ用のPAシステムで使うエフェクトに、apolloやArrowの心臓部であるUAD-2を使うための専用機材。これまでもapollo 8などをライブで活用されるケースがありましたが、さらにもう一歩踏み込み、オールデジタルで、より簡単に普段使っているUAD-2のエフェクトを利用しようというものなのです。DTMの世界とは少しズレますが、UAD-2の技術がどんな広がりを見せるのか、来日していたUniversal Audioのインターナショナル・セールスマネジャーであるユウイチロウ“ICHI”ナガイさんに話を伺ってみました。
ライブでUAD-2を使う専用システム、UAD-2 Live Rackが誕生
PAシステムを使ったことのある方ならご存知のとおり、通常、ミキサー卓と外部のリバーブなどを繋ぐときは、センド/リターンの端子を利用して並列に接続します。また、イコライザーやコンプレッサの外部エフェクトを使う場合はDAWのインサートと同様に、各チャンネルに挿入する形で接続していきます。
以前取材に行った中田ヤスタカさんのライブFes、otonokoでもコンソールにapollo 8が接続されていた
小規模なライブならば、エフェクトが1、2台で大丈夫ですが、大規模なライブ、また音にこだわったライブとなるとエフェクトの数も増えていきますし、そこに使うエフェクトにレコーディングに使っているビンテージ機材を持ち込むケースも多いようです。ただ、そうなると管理や運搬が大変になるし、ビンテージ機材を運搬していると、故障などの原因にもなりかねません。そうした中、apollo 8をライブに持ち込むというケースが増えているようです。
UAD-2 Live Rackについてお話を伺ったユウイチロウ“ICHI”ナガイさん
「apolloを使ったら持ち運ぶ機材を減らせるし、ビンテージ機材が故障する心配からも解放されるし、何より音源のカラーをそのままライブでも再現できるということで、apolloをライブでも使う人が増えています。ただapolloは音楽制作に特化した設計であり、ライブの運用では必ずしも使いやすいというシステムとは言えません。そこで、ライブで使いやすいよう特化する形で開発したのがLive Rackなのです」とICHIさん。
1Uラックマウントの機材の中に4コアのUAD-2システムが入っているUAD-2 Live Rack
Live Rackは1Uサイズのユニットで、Studer、Neve、Lexicon、API、Fender、Moog……など、apollo twinやArrowなどと同様のUAD-2のエフェクトを使うことができる機材。コア数は4つとなっています。ただし、apolloなどと異なりアナログのオーディオの入出力端子がないのです。あるのはThunderbolt端子と光デジタルの端子、それにWord Clock端子のみ(IEEE1394端子もありますが、これはメンテナンス用でありユーザーが普段使うことはないそうです)。非常にシンプルな構造になっているのです。
右下にあるオプティカルの入出力がMADI端子
「この光デジタルの入出力端子はMADI(マディ)端子です。MADI=Multichannel Audio Digital Interfaceは1本で64チャンネル接続することが可能とするデジタル端子で、これを用いてPA卓と接続するのです。apolloを使う場合は、アナログで1本1本接続する必要があるし、ここでの音質劣化も起こりえます。それに対しMADIなら、何系統のエフェクトを利用するにしても、入出力1本ずつでOK。また音質劣化がないというのも大きなメリットとなっています」(ICHIさん)
オレンジ色のMADIケーブルでコンソールと接続されている
MADIは、adatの発展版みたいなもと理解してもいいと思います。光デジタル(オプティカル)ケーブルを使うケースと、同軸デジタル(コアキシャル)ケーブルを使うケースがありますが、Live Rackでは光デジタルとなっています。DTM用ではなく、コンサートホールや放送局などで使われる完全業務用のものであり、取り回しの便利さや最大2kmの長距離伝送が可能なことなどから、広く普及しています。
YAMAHAのコンソールとUAD-2 Live Rackの接続図
最近のデジタルコンソールであればMADIの入出力を持っているものも多いし、DanteやAVBなどMADIに変換できる入出力を持っているので、これらを使ってLive Rackと接続するわけです。どのチャンネルをセンド/リターンで接続し、どのチャンネルをインサーションで接続するかなどは、コンソール側で自由にルーティングすればいいわけです。
一方、Live RackとPCの接続はThunderboltで行います。Arrowと異なり、電源をThunderboltからとるのではないため、変換ケーブルを利用し、Thunderbolt 1やThunderbolt 2での接続も可能となっています。Live Rack、1台で16チャンネルのMADIオーディオを処理することができ、これをThunderboltとMADIのそれぞれでカスケード接続することにより、最大4台のユニットを組み合わせて64ch分のプロセッシングまで可能なのも、Live Rackの大きな特徴となっています。
AC端子が2つあり、電源が二重化されている
またLive Rackは、ライブでのトラブルを防ぐためにさまざまな工夫もされています。その1つが、パワーサプライです。デュアルパワーを用いているので、片方の電源が落ちても、もう片方の電源を接続していれば、問題なくライブを続けることができるようになっています。さらに全体の電源が落ちてブラックアウトしてしまっても、立ち上がったときにMADIのINとOUTが自動に繋がるようになっているので、最悪の場合はTHRUで使ってとりあえずオーディオは通る状態になります。
では、実際にどのように使うのでしょうか?
「操作自体はPCで行う形になっています。残念ながらWindowsは非対応であり、Mac専用のソフトを使って操作します。apolloやArrowのConsole 2.0からフェーダーをなくしたようなソフトですが、よりシンプルで、直感的に操作しやすい画面になっています。全画面表示になっているのは、他の操作を誤ってすることのないよう基本的に画面をロックする形になっているから。またタッチスクリーンでの操作も可能となっているので、暗いライブ会場でも非常に操作しやすくなっています」(ICHIさん)
実際に触ってみると、Universal Audio製品を使っている人であれば、違和感なく操作できます。各チャンネルには、8つまでUAD-2プラグインを立ち上げることができて、インサートやパラメーターの変更も大きな画面で操作しやすい印象。
1機材につき16チャンネルある中に、それぞれ8つまでのUAD-2プラグインを入れられる
スナップショットを保存できるのはもちろんのこと、スナップショットのリコールをMIDIのプログラムチェンジでも行えるので、曲の変わり目でスナップショットを変えたいときにでも、簡単に変更することができます。また、スナップショットのリコールを1msecほどで行い、その際ポップノイズが出ないように自動でミュートしてくれたり、Safeモードをオンにすることで、「誤ってパラメーターを変えてしまった」「インサートしていたプラグインを消してしまった」……などのトラブルを未然に防ぐことができます。
UAD-2プラグイン自体は、apolloやArrowユーザーであればお馴染みのものだ
また、アイソレート機能を使うことで、たとえば、「今のボーカルトラックの設定は残しつつ、前使ったスネアのプリセットが良かったから、そこだけリコールしたい…」という場合に、狙ったプリセットの一部だけをリコールできるのも嬉しい機能です。他にもディレイグループという、ドラムなどの位相が狂わないように、遅れを揃えることのできる機能や、インサートしているプラグインを連続的に表示できるチャンネルストリップモードがあるなど、時間との勝負でもあるライブの現場で助かる機能が豊富に搭載されています。
また、一度設定した内容は、Live Rack本体にも保存されているので、本体の電源を落とさない限り、極論PCの接続を外しても大丈夫なのです。これなら、もしMacがフリーズしても出音には影響がないので、失敗が許されないライブという環境で安心して使えるというわけですね。
Live Rackは、Antares Auto-Tune Realtimeを含む12種類のプラグインライセンスを付属した「UAD-2 Live Rack CORE」(実勢価格 340,000円(税別))と、Neve、Lexicon、API……などの名機を含むプラグイン92種を付属した「UAD-2 Live Rack Ultimate Bundle」(実勢価格 670,000円(税別))の2つのラインナップが用意されています。Live Rack本体はどちらも同じものなので、違いは付属しているプラグイン数だけですね。
「UAD-2 Live Rack Ultimate Bundle」には92種類のプラグインが収録されている
ここでちょっと気になるのが、ライセンスについて。今までapolloシリーズやArrowなどを使っているユーザーで、すでに複数のUAD-2プラグインを購入しているという人も多いと思いますが、Live RackのUAD-2プラグインのライセンスとはどのような関係になっているのでしょうか?
「今まで使っていたUADライセンスをそのまま使えるので、過去に購入したプラグインはそのまま使うことができます。でも『UAD-2 Live Rack Ultimate Bundle』を選べば、さらにお得に膨大な数のプラグインを使えるようになります。UAD-2プラグインの全部入りパックであるソフトウェアの『Ultimate Bundle』は、単体で40万円程で販売されているので、価格差から考えれば、『UAD-2 Live Rack Ultimate Bundle』を買うのが一通りのUAD-2プラグインを一番安く導入する方法になります」とICHIさん
こうした点を見ても、Live Rackはapollo twinやArrowとまったく同じUAD-2のシステムを使っていることがわかります。先日、秋葉原にあるライブハウス「CLUB GOODMAN」でLive Rack製品発表会があり、サウンドエンジニアのDub Master Xさんに少しお話をお伺いすることができたので、紹介しておきましょう。
「Live Rackはかなり革新的な機材ですね。今までにも、実機をシュミレートしたライブ機材はありましたが、“本物と違うんだよな……”という思いを持っていました。それに対し、UAD-2プラグインは、ほぼ実機そのものの動作なんですよ。だから普段はapollo 8をライブに持ち込んでいました。が、今回Live Rackが登場したことで、さらに使いやすくなります。今後私を含め多くのユーザーが導入していくと思いますね。実機に必要なメンテナンスや管理、持ち運びによる故障を起こすリスクもないですし、接続も簡単です。『UAD-2 Live Rack Ultimate Bundle』に入っている機材を全部揃えたら、数十倍の費用が掛かるので、そこだけを考えてもかなりいい製品ですよね。今後Live Rackが普及したら、音楽業界全体のライブサウンドのレベルがかなり上がると思いますよ」
以上、UAD-2を利用するライブ用のエフェクトシステム、UAD-2 Live Rackについて紹介してみました。DTMの世界とはちょっと違うけれど、UAD-2の技術が幅広く活用されていることが、見えてきたのではないでしょうか?
【関連情報】
UAD-2 Live Rack製品情報
Arrow製品情報
apollo twin MkII製品情報
【価格チェック】
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