売れっ子作曲家5人が語る、“自分がコツをつかんだ瞬間”

ここ数年、毎年5月に取材に行っている「クリエーターズキャンプ真鶴」。これは東京から東海道線で向かって小田原の少し先にある真鶴町で行われているイベントで、プロの作曲家が集まって泊りがけでコーライティング(共同制作)を行ったり、一般の人がコーライティングを体験できるワークショップがあったり、音楽にまつわるハッカソンが行われるなど、ほかにはないユニークなことが行われるというもの。
今年もそのクリエーターズキャンプ真鶴に参加してきたのですが、その初日冒頭に、非常に興味深いトークセッションが開催されてました。それは最新ヒット曲を次々と打ち出している、まさに新進気鋭の若手作曲家5人が集まり、ヒット曲を生み出せるようになったキッカケ、そのコツをつかんだ瞬間について、話すというもの。その作曲家としてはCarlos K.(@CarlosK11)さん、Akira Sunset(@Akira_Sunset)さん、丸谷マナブ(@manabu_marutani)さん、Soulife佐々木望(@nozomusasaki)さんと河田総一郎(@soichiroK)さん)のお二人が登場。さらに司会進行や聞き手としては、ソニー・ミュージックレコーズのプロデューサーである灰野一平さん、NEWSの元プロデューサで現在フリーで活躍する伊藤涼(@ito_ryo)さん、そしてクリエーターズキャンプ真鶴全体をまとめるオーガナイザーでもあった音楽プロデューサーで、「山口ゼミ」や「ニューミドルマンラボ」主宰の山口哲一(@yamabug)さんが担当するという、超豪華なセッション。どんな内容だったのか、その一部を紹介してみましょう。

5月4日に神奈川県真鶴町で行われた作曲家5人によるセミナー

Carlos K.さんは、以前「西野カナ、乃木坂46、Little Glee Monster、AKB48、NMB48……今国内最高のヒット作曲家、カルロスKさんの神ワザ音作りの秘密」という記事でインタビューしたことがありましたが、Akira Sunsetさんは乃木坂46『気づいたら片想い』『今、話したい誰かがいる』丸谷マナブさんはリトグリ『好きだ。』三代目J Soul Brothers『HAPPY』Soulifeのお二人は欅坂46『二人セゾン』リトグリ『Happy Gate』の作曲を手掛けてきた、まさに今、日本を代表するヒットメーカーの方々。では、見て行きましょう。


「クリエーターズキャンプ真鶴」のチラシ

灰野:今日は普段からよくやりとりをしている作家のみなさんに集まっていただきました。ある意味、彼らが下積み時代から付き合ってきた仕事仲間です。みんなあまり自覚はしてないようなのですが、それぞれ音楽的才能がすごくあるのはもちろんなのですが、僕の目から見ていると、売れる曲を作るという面で、何かコツをつかんだ瞬間というのがあって、そこからググググって伸びてきたような感覚をもっているんですよね。それが、何か特殊なテクニックを身に着けたということなのか、あるワンポイントを知ったということなのか、具体的なところもあではわからないので、今日はその辺を聞いていきたいと思います。

ソニー・ミュージックレコーズのプロデューサー、灰野一平さん
Calros:コツなのかどうかあまり分からないですが、モニタースピーカー変えたら良くなりました(笑)。それ以前は、音がモコモコしているといわれていたのですが、自分の環境だけで作っているとなかなか気付かないんですよね。自分の音しか分からない状況でミックスしているから、これで完璧だと思っていたのですが、違うモニターで聴いたときに「あれ?」ということがありました。そこで、周りの人たちから「この機材いいよ」といったアドバイスを受けながら、検討して6、7年前にADAM AUDIOのモニターに変えたあたりで、だいぶ音が変わり、受け入れられるようになっていったんですよ。

Carlos K.さん
Akira:僕はソニーミュージックで9年間ぐらいアーティストをしていて、ずっと自分の曲を作っていました。ただ売れなくなってきて、もうすぐ契約が切れるというころにコンペに参加するようになったんです。まさに契約切れる直前に乃木坂46のコンペがあり、「お前曲書けるから出せ!」と言われて、書き始めるんです。ただ、作曲家は死ぬほどいる中で「どうやったら自分が目立つか」ということをすごく考えました。普段は“波乗り作詞・作曲家”って謳ってるんですけど、実はアコースティック系のヒップホップが得意なんですよ。それこそ、ソニーだと遊助君の曲を書くのが自然だったんですけど、乃木坂46でどうやって書けるかなって…、って考えたんです。コンペ情報に清楚系アイドルって書いてあって、AKBのライバルを作るって書いてあったんですね。そこで思ったのは、清楚系フレンチポップみたいなのが5万曲くるんだろう、ということ。だったら自分はどうするか、どこに隙間があるかな…と考えて、むちゃくちゃロックな曲を作りました。それがセカンドシングルのカップリングで通って、その考え方は間違ってなかったんだなと思ったんです。コンペ情報と逆を行くと、カップリング曲が5、6曲ある中で、1曲は引っかかるという読みですね。単純に集めて聴いたときに明らかに目立つもの、「あ、これとっとこうかな」と思われる曲を目指して書いていきました。それを2年ぐらい続けた後にシングル取れて、完全に間違ってなかったんだなと思い、今も割とその方法で続けています。

Akira Sunsetさん(中央)
灰野:もともとサファリっていうアーティストで活動していましたよね。結構ミックス習いに行ったりとか熱心に模索していましたよね。でもアーティスト活動をしていたからこそみたいなことが作曲に生きているんではないかなと、はたから見ていて思いました。 Akira Sunset:僕が作る曲の採用はライブ曲が多いです。まぁそこを想定して作っているので、通りやすいのかなと思います。

計8人によるパネルディスカッションをコーライティングワークショップに参加した人が熱心に聞いていた

丸谷マナブ:僕は今はなきデフスターレコードというところに5年ぐらいいましたけど、なかなか売れななくて、契約が切れました(笑)。マニアックなことをしすぎて、誰も理解してくれなかったですね。宅録ユニットだったんですが、もしこのユニットとしてのコツみたいなものを掴んでもルーティーンになると飽きてしまうので、毎回手を替え品を替え同じ作り方をしないようにしてます。実は5、6年ぐらい前まで医療事務の社員として働きながら、作曲をしていました。でも、このままでいいのだろうか、と思うようになり、いろいろ考えた結果、社員を辞めてフリーターになったんですよ。今思えばあの時の決断が運命をたぐり寄せたのではないかと思っています。実際、仕事を辞めたことで、作家としての覚悟を決めたのです。これによって意識が変わり、提供するデモへの責任感はすごく増した。それが作品につながっていったんじゃないかと、今思えばそういうふうに感じます。

丸谷マナブさん
伊藤:みんな覚悟をするタイミングがあったんだなと思います。最近パラレルキャリアが流行りなので、仕事しながら趣味的に作曲としている人もいます。でも、やはりちゃんと覚悟をするタイミグは自分で作らなくてはいけないのかもしれないですね。
灰野:さて、次のSoulifeの二人も、もともとアーティスト活動をしていたんですよね。その後、僕がA&Rとしていろいろな曲を集める中、Carlos君やSoulifeの二人と知り合えて、よかったな、と思ってます。
佐々木:ホントにコンペに出すようになって、最初のころ、たしか3曲目くらいのときに灰野さんと知り合ったんですよね。とはいえ、苦労も多かったですね。

Soulifeの佐々木さん(左)と河田さん(右)
河田:途中で半年以上曲がまったく決まらなかった時期があり、そのときはつらかったですね。いろんなコンペで作っていく中で、ひとつ見つけた答えは「広くやりすぎない」ということでした。もちろんずっとトライはしていくのですが、自分たちの本当にできる分野を掘り下げた時期でもありました。その後また、少しづつ決まりはじめていったのです。ただ実は苦しんだとき書いた曲も1年後2年後に採用されたりしたので、無駄ではなかったと思います。苦しんだときに迷わずに行こうと決めたのは大きかったですね。
山口:Soulifeの二人は今日、会うのが初めてですが、お二人は普段どのような役割分担で楽曲制作をしているのですか?

山口哲一さん(左)
佐々木:もともとアーティストをやっていたときとスタイルは近いのですが、河田が詩、曲を書いてきたものを、僕が後を作って納品というケースが多いですね。

伊藤涼さん(左)

伊藤:さて、ここで、ちょっと話題を変えて、最近の自信作、代表作とそこで使ったマル秘テクニックを教えてください。

『A New Day』(Beverly)

Calros:つい最近リリースした曲ですが、海月姫のドラマ主題歌になったBeverlyさんのA New Dayです。もともと女性ボーカルの曲を書くのが得意で、Beverlyさんは歌が上手く音域も広いので、サビに気持ちよく伸ばせる部分を出す作り方をしました。いわゆる、王道バラードを気持ちよく歌える曲を作りたくて作ったんです。最初は転調してなかったのですが、この曲はサビで転調する作りなっています。自然にサビに行かせて華やかな感じに工夫しました。それと、全部生楽器でできているのですが、素晴らしい生楽器隊の方とご一緒することができたので、こういう素晴らしい曲になったのではないかと思います。コンペに出す前に歌ったらこんな感じになるなと考えながら、前もって研究してキーを決めたりしてますね。いいメロディーができても、キーによって雰囲気が違うのでそこもかなり考えますね。転調しないでテンションコードを使えたら、もっと違う雰囲気も作れるからもっと研究した方がいいよと最近言われました。
『いつかできるから今日できる』(乃木坂46)

Akira:乃木坂46の19th Single『いつかできるから今日できる』です。これは同じ乃木坂の『ハルジオンが咲く頃』って曲とほぼ同じコンセプトで、「EDM×ストリングス」というテーマになっています。そして、『ハルジオンが咲く頃』がメジャーで、この『いつかできるから今日できる』がマイナーで書きました。そのため「あいつ同じ曲しか書かないな」って言われちゃうんですが、実はこの2曲、リリース時期は違うけれど、同じくらいの時期に書いているんですよね。みんな、いい曲書くので普通に戦っても勝てない。「だったらどうやったら引っかかるんだ」ということしか考えてないですね。策略的に考えて作ったコンセプチュアルな曲ばかり採用されていて、自分でいい曲だなと思う曲はなかなか通ってないですよね(苦笑)。だから今のやり方は間違ってないかなと思っています。

『好きだ。』(Little Glee Monster )

丸谷マナブ:最近でいうと、AKB48の「11月のアンクレット」ですが、トーク的に行くなら、Little Glee Monster の『好きだ。』です。ソニアカという制作セミナーで講師をしたのですが、ここに来てもらってる人に「なるほど!」と思ってもらえるような説明ができる、伝わる曲を作ろうと、作った曲なんです。当時15、6歳の彼女たちが何を歌ったら「おっ」と思うかというところからスタートしました。「好きだ、君がすきだ、ほんとに好きだ」っていう普通に女性が歌ったらラブソングになるところを、彼女たちの年代の子が綺麗にハモって歌うことで、恋愛の好きだ以外にも、友人や家族に対する好きだって言っているような絵を思い浮かべて、それが伝わるような曲を作りました。そういうコンペのテーマではなかったですが、勝手に考えて作りましたね。結局フックとなる「君が好きだ、ほんとに好きだ」というフレーズは最後まで残って、リリースまでいきました。自分でも作ってみて、言葉とメロの親和性の強さは大事だと思った曲です。
『二人セゾン』(欅坂46)

河田:欅坂46の『二人セゾン』です。最初にサビの部分をアコギで作っていてできて、ただこれだけだとサビが弱いと思ったので、製品にはなっていませんが実はメロディーがもう一個ありました。もともとサビを二個ぐらい曲の中に入れたいという思いがあって、Bメロも作るのが好きなので、Bメロができ始めたころに、「あっこれサビに聞こえるBメロにしてしまおう」と思いました。なので、どっちがサビが最初分からない感じですよね。
佐々木:客観的に言うと、この曲はレンジが広いのでアイドルの曲としてはルール違反なんだと思います。その意味でこの曲は、あまり参考にはならないかもしれませんが、まずはレンジを気にせずに作ってから調整することが多いですね。


「クリエーターズキャンプ真鶴」は漁港のある町、神奈川県真鶴町で行われた

この後も、まだまだやりとりは続いていったのですが、記事にはちょっと書けない危険な情報(!?)もいろいろで、なかなか濃いセミナーとなりました。機会があれば、改めてみなさんにDTM周りの話も含め、インタビューできたらな……と思っているところです。

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クリエーターズキャンプ真鶴

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