オーディオインターフェイスについて調べていると、よく見かけるキーワードの一つにDSPというものがあります。これはDigital Signal Processorの略であり、辞書で調べれば「デジタル信号処理に特化したマイクロプロセッサ」などと記載されています。でも、このDSPが何であるかをしっかり理解できている人って、結構少ないのではないでしょうか?初心者はもちろんのこと、DSP搭載オーディオインターフェイスを駆使している人でも、実は正確に把握できている人は少ないかもしれません。
このDSPはオーディオインターフェイスに限らず、デジタルエフェクターに搭載されていたり、AVアンプなどのオーディオ機器にも数多く使われているほか、実は携帯電話やデジタルカメラ、カーナビ……とさまざまなところにも搭載されているものなのです。このDSPがあると、どんなことができて、どんなメリットがあるのか、できるだけ分かりやすく紹介してみましょう。
オーディオインターフェイスなどに搭載されているDSPって何だ!?
オーディオインターフェイスのカタログなどを見ると、「専用DSP搭載の高速処理」とか「DSPミキサーを使った高性能ミキシング」……といった言葉が躍っています。これはいったい、どんなものなのでしょうか?
DSPを一言でいえば、エフェクトなどの処理を得意とする専用のコンピュータというか、デジタルICのことなんです。これが搭載されているオーディオインターフェイスと、搭載していないオーディオインターフェイスがあり、それによって機能や性能が変わってくるのです。
比較的低価格ながらDSP搭載を前面に打ち出しているSteinbergのUR242
また、単に搭載しているといってもどのくらいの処理能力を持ったDSPなのかによっても機能、性能が変わってくるのも事実。中にはDSPを搭載してはいるけれど、大した処理をさせていないため、あえてDSP搭載と言っていないものもあるんです。具体的な型番を出すことは控えますが、いま大ヒットしているオーディオインターフェイスの中にもDSP搭載していることを隠している(!?)ものもありますね。それはメーカーのシリーズ戦略上のためのようですが、ユーザー側からはなかなかわかりにくい点でもあります。
ここでちょっとプラグインエフェクトについて考えてみましょう。VSTやAU、AAXなど複数のプラグイン規格がありますが、これらの規格にマッチさせたディストーション、リバーブ、EQ、コンプ、コーラス、ディレイ、フランジャー……などなど、さまざまなプラグインが存在しています。
通常、これらのプラグインエフェクトはパソコンのCPUが処理しているのですが、CPUにエフェクト処理をさせるというのは、少し無駄の多いことなんです。というのも、パソコンの心臓部というか頭脳であるCPUは、さまざまなことを処理をできる、万能なものなので、すごい単純計算がほとんどのエフェクト処理には、もったいない使い方なのです。また、万能なCPUにエフェクト処理をさせると、結構時間もかかり、結果としてレイテンシーを生じさせてしまうのです。
ZOOMのギター用マルチエフェクター、G5n。これも中枢にDSPが搭載されている
そこでエフェクト処理をCPUではなく、専用の演算処理装置であるDSPで行おう、ということでオーディオインターフェイスにDSPを搭載したものが存在しているわけなのです。ただ、DSPをエフェクトに利用するというのは、最近始まったものではありません。実は、いまのソフトウェアのプラグインが普及するより前から業務用レコーディングシステムであるPro Toolsでは使われていたし、YAMAHAのSPXシリーズなど、デジタルマルチエフェクトと呼ばれる機材も、DSPが用いられていたので、すごく長い歴史を持つものでもあります。
DSPはCPUと非常によく似たものですが、あまり汎用的には使うことができず、信号処理のための単純演算を得意とするものです。もう少し言えば、大きな桁を持つ数字に対する掛け算が非常に得意なコンピュータであり、それを高速に処理できるものなんです。そのため、CPUと比較して、より高精度に、より高速にエフェクト処理ができるのです。
「ニアゼロレイテンシー」とうたっている、Universal AudioのArrow
そのため、DSP処理のエフェクトを「ニアゼロレイテンシー」、場合によっては「ゼロレイテンシー」なんて言い方をするんですね。とはいえDSPだって、いろいろな演算をした結果、音を出す構造であるため、厳密にいえばレイテンシーがゼロということはないのです。つまり、ギター用のストンプエフェクトだって、レイテンシーはあるんです。ただCPUで処理するプラグインと比較すれば圧倒的に高速であること、また間にDAWなどの仕組みを噛ますことなく、音を入力してDSP処理して、すぐに音を出すから、圧倒的に高速であるために、ゼロレイテンシーと言っているんですね。
Steinberg URシリーズのギターアンプシミュレータ。画面右下でDSPで動作していることを示している
もっともDSPはエフェクトのためだけに存在するものではありません。デジカメに搭載されているのは、画像信号処理を行うためだし、携帯電話に搭載されているのは無線で送るデジタル信号を高速処理するため。同じDSPを多目的に使うこともありますが、オーディオ用の信号処理として使われるDSPとしてはAnalog Devices(アナログデバイセズ)いう会社のSHARCやBlackfinというチップが有名であるほか、TI=Texas Instruments、Cirrus Logic、AKM=旭化成エレクトロニクス、そしてYAMAHAといったメーカーがDSPを出しています。
このDSPをオーディオインターフェイスに搭載した場合の使い方はメーカーによっても大きく異なってきます。たとえばSteinbergのUR242のような機材の場合、Cubaseにミキサー機能の中に融合して使うことを可能にしているし、Universal AudioのApollo TwinやArrowなどの場合は、VST、AU、AAXのプラグインとしてCPUではなくDSPが使えるようになっています。
TASCAM US-20×20のミキシングコンソールもDSPで動いている
一方で、TASCAMのUS-20×20やRolandのRubix 44などは、ハードウェアとしての機能として持たせていて、スイッチを入れればコンプやEQ、リバーブなどが使えるようになっているので、より手軽に使えるわけですね。
いずれにしても共通しているのは、このエフェクトを使う上で、パソコン側のCPUパワーを消費しないということ。またエフェクトだけでなく、ミキサー処理なども、DSPに行わせたりもしているのです。
ところで、オーディオインターフェイスの中には、DSPではなく、FPGAというICを搭載しているものもあります。その代表的なメーカーがRME。RMEのFireface UCXやFireface UFXなどは、XILINX(ザイリンクス)という会社が作ったFPGAが搭載されていて、これでエフェクト処理やミキシング処理を行うほか、オーディオインターフェイスとしての機能もほぼこのFPGAが担っているんです。またAntelope AudioのDiscreteやOrion StudioなどもFPGAが使われています。
FPGAを搭載しているRMEのFireface UCX
機能的にDSPとFPGAは、すごくよく似て見えるのですが、FPGAはDSPやCPUのようなコンピュータではないんです。やや話が難しくなりますが、FPGAはField-Programmable Gate Arrayの略。プログラムというかデータを読み込ませることで、自由に回路が書き換わるハードウェアというかICなんです。つまり、設計次第で同じFPGAがオーディオインターフェイス用にでも、テレビ用、電話用、自動車用でも何にでも書き換えることが可能なユニークなICです。
Antelope AudioのDiscreteなどにもFPGAが搭載されている
極端な話、これを書き換えてFPGAをDSPにしてしまうこともできますが、それはあまり効率のいい方法ではないため、リバーブとかコンプとして直接機能するハードウェアを作ってしまう、それがRMEの発想なんですね。DSPほど自由度が高くはないけれど、より高速に、より安定した処理をするというのがFPGAです。一方、Antelopeの場合は、数多くのエフェクトをプラグインとして使えるようにしているので、FPGAをほぼDSP的な使い方をしているようです。
FPGAによる高速処理で動いているRMEのミキサーをコントロールするTotalMix FX
以上、DSPについて紹介してみましたが、なんとなくでも理解いただけたでしょうか?多少なりとも知識を持っておくと製品選びなどもしやすくなると思います。なお、詳しい方だと「DSPはDigital Signal Processingの略でもある!」とおっしゃる方もいるとは思います。つまり処理すること自体をDSPと表現することもあるのですが、DTM、デジタルレコーディングの世界では通常、Digital Signal Processorを指すので、ここでは、できるだけ簡単に説明するという意図で、あえてProcessingについては無視しています。
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