11月15日、KORG Gadgetの新バージョンがリリースされました。その新バージョンの目玉機能となるのは、あの音圧爆上げマキシマイザーであるDotec-AudioのDeeMaxを搭載したということ。まさに最強のツール同士のコラボレーションです。ご存じのとおり、KORG GadgetにはMac版とiOS版がありますが、それぞれKORG Gadget for Mac v1.5、KORG Gadget for iOS v3.5にバージョンアップするとともに、DeeMaxが搭載されているのです。
でも、なぜKORG GadgetとDeeMaxが出会ってしまったのか、そこにどんなやり取りがあり、どのようにして開発されていったのか。従来のVST、AU、AAXで動作するプラグイン版とどう違い、ホントにiPhoneやiPadでもDeeMaxが動作するのか……。そうした点について、開発者みんなに集まっていただきお話を伺ってきました。伺ったのはKORGの中島啓さんと高橋和康さん、そしてDotec-Audioのフランク重虎さんと飯島進仁さんの4人です。
ついに、あのDeeMaxがKORG Gadgetの中に統合された!
--今回発売された新KORG Gadget、先日の音系・メディアミックス同人即売会 [M3]でもお披露目されていましたが、改めてどんな機能強化があったのか教えてください。
中島:今回のメジャーアップデートでは新規ガジェットが3つ加わりました。1つ目がエフェクトとしては初ガジェットとなるDotec-AudioさんとのコラボであるDeeMaxです。マスターに挿すという目的で制作をお願いし、ガジェットらしいものを作りました。今まではマスターにリミッターしかなかったのですが、DeeMaxが増えたことによりさらに音作りの幅が広がったと思います。それからLisbon(リスボン)とVancouver(バンクーバー)というガジェットも追加しています。また、Mac版はお待たせしていたNKS(Native Kontrol Standard)に対応いたしました。
お話を伺った開発メンバー。左から飯島進仁さん、フランク重虎さん、中島啓さん、高橋和康さん
--今回のDeeMaxような外部企業とのコラボというのは今までにもあったのですか?
中島:バンダイナムコさんとのコラボでKamataというガジェットはありました。もともと日本で活躍しているオーディオ・デベロッパーの方々とのコラボレーションを積極的にやっていきたいという思いはあったので、去年の春に開催されたM3でDotec-Audioさんに声をおかけしていたんです。もっともその時はすぐに話を進められなかったのですが、今年の春のM3でお会いした際に具体的な話をさせていただきました。
KORG Gadget for Mac v1.5。DeeMaxはマスターエフェクトとして組み込まれている。右はサンプラー音源のVancover
--去年の春が最初の出会いで、今年の春から話が進んでいったとのことですが、重虎さんと飯島さんは、KORGさんからのお声がけ、どう受け止められましたか?
飯島:昨年お声がけいただいた際には、よくあるご挨拶程度のことだと思っていたのです。ところが今年のM3で再度お会いした際、急に「ここにDeeMax入れたいんですけど」っとおっしゃられて、「えぇぇ」とビックリしました。でもとっても嬉しかったですね。詳細は、一度打ち合わせをしましょうということになり、「KORGさんと一緒に何かできるかもしれないぞ!」ってワクワクしつつ、まずはKORGさんの会社に行けることが楽しみで、半分、見物気分で出かけたんですよ!
重虎:以前からKORGさんとは音楽を作っていく上での姿勢がすごく近い感じを持っていました。単なる道具を作るというのではなく、ミュージシャンに寄り添った音楽的な面から考えて、音楽制作ツールを開発されているというところだったり、どういうものを作ったらもっと面白くなるだろうかと常に考えてたりするところに共感しました。
KORG Gadget for iOS。今回追加された3つのガジェットはアプリ内課金で追加できる。画面の音源はLisbon
--そういえば、とくにGadgetとDeeシリーズって、何か似ている雰囲気がありますよね。
中島:両社ともUIの簡単さは意識していて、ちょっと操作で欲しい音がすぐに手に入るところなどの方向性がもともと一致していたのが、スムーズに今回のコラボが進んだ要因ではないかと思っています。
重虎:UIを簡単にすることで、音楽制作のノリをそのままに実現できるところはお互いにあると思います。
KORGの中島さん(左)と高橋さん(右)
--では少し開発段階のお話しも教えてください。
中島:まずは、Dotec-Audioさんにライブラリエフェクトのアルゴリズム部分と2DのUIデザインを用意していただきました。それをこちらで組み込んだ上で、お二人に動作を確認していただきました。音の調整に関してはすべてDotec-Audioさんにお任せしました。
飯島:DSP部分は重虎さんが実装しまして、ライブラリ部分は私が担当しました。ある程度ライブラリ化する作業はありましたが、もともとクラス化はキレイに行っていたので作業自体は比較的簡単でした。iOSは初の対応だったので動作確認していただくまで不安はありましたが、大きなトラブルもなく進んでいったのでよかったです。
Lisbon、Vancouverは従来のガジェットと同様音源の一覧に入っている
--KORGに渡すためのライブラリ部分は飯島さんの仕事ということですが、DeeMaxのアルゴリズムというかプログラムは完成していたので、重虎さんは今回特に何もせず、ということだったのですか?
重虎:実はもともと今回の件では私は何もしなくて、すべてお任せで大丈夫だろうと思っていました(笑)。ですが、組み込まれたものを使ってみて、おや?と思ったのです。KORG GadgetにおいてはマスターでしかDeeMaxを使わないので、マスター専用のもっと扱いやすい特性を変えた方がいいのではないかと思ったのです。そこでDeeMaxの特徴は残しつつ、マスターでより使いやすいように特性を変化させるチューニングを行いました。KORGさんとも相談した結果、「それでいきましょう」となったので、プラグイン版のDeeMaxとは異なる、ラフに扱ってもいい音になる、ビギナーの方でも使いやすい形にしました。
Dotec-Audioの飯島さん(左)と重虎さん(右)
--プラグイン版のDeeMaxユーザーからすると違ったものになっているということですか?
重虎:音としては同じですが、プラグイン版のDeeMaxの方がピーキーな特性しています。各トラックに使ったり、マスターに使ったりする上でサチュレーションとの見極めをちゃんと確認しながら音を作っていく要素が多いものを、KORG Gadgetの方では、サチュレーションの掛かり具合のカーブを緩くし、ボカしたことでラフに使えるようにしてあるのです。それから、iOSでも動かすということもあったので、これまでの経験を活かして軽量化もしてます。
飯島:KORG Gadget版のDeeMaxを作る段階で一回「TURBO」ボタンや「SAFE」ボタンを取った方が、よりシンプルになるのでいいのでは?、と提案したこともあったのですが、「こういったボタンがあると面白いし、ユーザーの方がいろいろな使い方を思いつく可能性もある」とおっしゃっていただくとともに、オリジナルを尊重していただいたことはとてもうれしかったですね。
中島:全部含めても3パラメータですし、複雑になることはないなと思いました。それに、見た目的にもボタンがあることで気持ちが盛り上がるということもあり、現状のDeeMaxと同じ見た目にさせていただきました。
Montpellierなどとも一緒に動くDeeMax、画面の雰囲気はプラグイン版そのもの実はリデザインされている
--なるほど、マスター専用のチューニングをしたとはいえ、プラグイン版のリソースがほぼそのまま流用できたわけですね。
飯島:実は見た目はまったく変わらないのですが、画像のサイズが違うのでDeeシリーズのデザイナーさんである出雲重機さんにKORG Gadget用にデザインし直してもらっているんですよ。
重虎:縦横比なども変わったので、Retina対応高解像度版を用意しました。KORGさん側からサイズの指定はいただいていたので、それに合わせています。話はちょっと逸れますが、DeeMaxのデザインにはちょっとした秘密あるんですよ。出雲重機さんに聞いたところ、DeeMaxのレバーの赤いリングの部分を見比べてもらうと分かると思うのですが、実は左右非対称になっていているんです。これ、ダースベーダーのマスクと同じ理論とのことで、それによって印象に残りやすいデザインになっているそうですよ。
--なんと、そんな秘密があったんですね!まったく気づきませんでした。ところで、先日のM3でDeeMaxの3Dデザインを見てビックリしました。これは出雲重機さん側で作っているのではないんですよね?
高橋:デザインとテクスチャーは出雲重機さんにデザインしていただき、3DモデリングはKORG Gadgetのデザインをいつもお願いしているLuis Burdalloさんというスペインのデザイナーさんに依頼しました。2Dの素材を元にデザイナーさんとレバーの表現方法などを話し合い、基本的にコックピットのレバーをイメージして作っています。
重虎:3Dモデルの完成形を見た時に、斜めから見るとこうなっているんだ、なるほどと納得してしまいました。網の部分などの再現度も高くてびっくりしました。この画像だけ見たらハードウェア出すんだなって思いますよね。コンクリートにバーンと置いてある硬質な感じだったりヘビーデューティーな感じがすごくいいなと思い、くみ取り方がすごいなと感心しました。普通にヘルメットかぶったおじさんが現場に持っていってもおかしくないよね(笑)。
出雲重機さんの従来のDeeMaxをベースにスペインのデザイナー、Luis Burdalloさんが3D化を実現
--すごくカッコいいですね。確かにヘルメットが隣に置いてあったりしても違和感ないです(笑)他の新規搭載されたガジェットもスペインのデザイナーさんがデザインされたのですが?
高橋:Vancouverもスペインの方にデザインしていただきましたが、Lisbonのほうは朝倉涼さんという日本人のデザイナーさんなんですよ。Vancouverはレトロよりなデザインにしてもらったのですが、順番としては先にフルで3Dモデルを作ってから、それを2Dに落とし込む形の作り方をしています。
重虎:ツマミが金属ではなくプラスチックにメッキを施した感じがよく再現されているのがいいですね。
レイヤリング・メロディー・サンプラーのVancouverの3Dモデル
--このVancouver、60年代・70年代の雰囲気が出ていてマニアックでいいですね。でも普通のサンプラーって、KORG Gadgetにありそうでいて、これまでなかったんですね!?
中島:はい、これまでにも、サンプラーとしてBilbaoやAbu Dhabiなどがありました。しかし従来のサンプラーはドラム音源というかトリガーで鳴らすタイプのものだったんです。それに対し、Vancouverはレイヤリング・メロディー・サンプラーです。オシレーターが2つありレイヤーが2つ重ねられるのでレイヤリングという呼び方をしています。つまり、録ったものを気軽に鍵盤で音程を付けて弾けるという特徴を持っています。プリセットにはボーカルものを多数搭載していて、もちろんファイルのインポートも可能となっています。Vancouverみたいなサンプラーはユーザーの方からの声も多かったので、今回実装できてよかったです。
--もう一つのLisbonについても教えてください。こちらは音源としてはアナログシンセなんですよね?
中島:Lisbonはポリフォニック・Sci-Fi・シンセサイザーでして、Future BassやEDMなどに適したパワーのあるエネルギッシュなガジェットです。音源的にはアナログで、エフェクトはシェイパー、モジュレーション、EQ、ディレイ、リバーブと5系統搭載しています。また新しいコード機能を装備しました。7つのパッドを使って、簡単にコードを入力することができます。プリセットを16個搭載していて、曲に合わせてトランスポーズもできるので、曲の土台作りや展開をつけるのに最適です。
ポリフォニック・Sci-Fi・シンセサイザーのLisbonはVRのヘッドマウントディスプレイに映っているイメージ
--デザインも音も最新って感じをイメージされたんですね。最後にMac版、iOS版の入手方法についても教えてください。
中島:Mac版は、すでにKORG Gadget for Macをお持ちの方であれば、自動でアップデートの案内が表示されます。それに従ってアップデートしていただければ無償で1.5にすることができます。一方これから購入される方は、KORG Shopからダウンロード購入していただく形になります。
--iOSも旧バージョンを持っていれば、無償アップデートが可能になるのでしょうか?
中島:はい。今回のKORG Gadget for iOS v3.5へは無償アップデートできますが、この中の新ガジェットであるDeeMax、Vancouver、Lisbonはそれぞれアプリ内課金での追加という形になります。価格はそれぞれ1,800円です。ただ、実は本日よりキャンペーンを実施しているんです。
--そのキャンペーン、具体的におしえていただけますか?
中島:今回はアップデート記念として、11月30日までKORG Gadget for Mac / iOS の期間限定セール(最大50%オフ)を実施しています。KORG Gadget for Mac v1.5は通常の29,800円を14,900円に、またKORG Gadget for iOS v3.5は通常の4,800円を2,400円で販売しています。さらにiOS版のオプションであるDeeMax、Vancouver、Lisbonもそれぞれキャンペーンにより1,200円となっているので、ぜひこの機会にお買い求めいただければと思います。
--ぜひ使ってみます。ありがとうございました!
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