これってモデム!? レトロ方式でPCと通信するドラムマシン、Pocket Operator PO-32[tonic]を買ってみた

Pocket Operatorという電卓みたいなシンセサイザをご存じですか?スウェーデンにあるTeenage Engineeringというメーカーが2年前に最初の製品を発売し、現在までにリズムマシン、ベースマシン、チップチューンシンセなど、7種類のラインナップが揃っている機材です。

見た目が30年前のゲームウォッチみたいな感じだし、価格も7,980円(税込み)~という設定なので、単なるオモチャだろう…なんて舐めてかかってはいけません。これ、実はかなり本気なシンセサイザなんですよ。私個人的にも最初のシリーズ3製品が発売されてすぐにリズムマシンのPO-12[rhythm]とベースマシンのPO-14[sub]を購入していたのですが、記事にする機会を逃したままになっていました(DTMステーションPlus!の番組では紹介したことがありましたが…)。そうしたら、いつのまにかラインナップが増えてきていて、先日見たら、トンでもなくブっ飛んだ発想のリズムマシン、PO-32[tonic]というものが登場していたので、思わず買っちゃいました。どんな機材なのか、紹介してみましょう。

7台揃った、Teenage EngineeringのPocket Operatorシリーズ


Teenage EngineeringOP-1というユニークなシンセサイザを開発したメーカーとしても知られています。このOP-1もオモチャっぽい見た目であるのに、すごい機能を持っていて驚かされましたが、10万円以上といいお値段だったため、なかなか手が出せずにいました。


Teenage Engineeringのシンセサイザ、OP-1

そのTeenage Engineeringが2年前に発売したのが3種類のPocket Operaterで、その後ラインナップを増やしてきたわけですが、先日、そのTeenage Engineeringのスミス・グラントさんにお会いし、それぞれの音源について簡単にデモをしてもらったので、まずはどんな音がするものなのか見てみてください。

どうですか?ホントに見た目がオモチャっぽい機材なのに、かなりしっかりした音が出ることが分かりますよね。7機種とも形は同じで、5×5の配列のボタン・ノブとモノクロ液晶ディスプレイという構造になっていいます。


単4電池2本で駆動する。内蔵スピーカーでもそこそこの音質・音量で鳴ってくれる

単4電池2本のバッテリー駆動で、基板裏側に搭載された内蔵スピーカーで音を出すことができる一方、右側にステレオミニジャックの出力端子があるので、ここからライン出力が可能になっています。

そこそこの音量で鳴る内蔵スピーカーがある一方、右側にステレオミニのライン出力がある

液晶画面は、それぞれゲームウォッチ風なものとなっていますが、あくまでも遊びであって、あまり深い意味はなさそうですね(笑)。またゲームウォッチ風なので、ちゃんと時計+アラーム機能も搭載されていますよ。

液晶に表示される画面は、いかにも80年代のゲームウオッチ風
さて、23個あるボタンと2つのノブを使ってリアルタイムに演奏をすることもできるし、プログラムしてフレーズを鳴らすことも可能です。複数のシーケンスパターンが登録できるので、それを並べて曲としていくこともできます。もちろん音色を切り替えたり、フィルターをいじってみたり、さまざまなエフェクトをかけてみたり……と、これ単体で結構いろいろなことができるんですよね。

5×5に配置された23のボタンと2つのノブで操作を行う

しかも、複数台持っていれば、それらを連結させて同期できちゃうというのがPocket Operaterの大きな魅力でもあります。しかも、その接続法があまりにも簡単なんですよ!


左側にはステレオミニの入力端子が装備されている

前述の通り、液晶の右上にステレオミニジャックがある一方、左上にもステレオミニジャックがあるんです。そこで1台目の右の出力から、2台目の左の入力に接続する、もうこれで接続は完了。その上で同期モードに設定すれば、もうこれで連結完了。あとはPLAYボタンを押すと、それぞれのテンポがピッタリと同期した形で演奏できるんです。


左側にあるPOー12[rhythm]から右側のPO-14[sub]へとステレオミニケーブルで接続する
しかも、この接続法でいくつでも連結できるのが面白いところ。価格も手ごろだから、私も含め複数台買っちゃうんですよね。でも、どうして、こんな接続で同期ができるのか不思議でしょ。実はすごく単純ながら賢いワザが使われているんですよ。

通常はステレオでの出力となるPocket Operaterですが、同期モードにすると、右チャンネルからモノラルで音が出る形になるのとともに、左チャンネルからは「プチ、プチ、プチ、プチ……」という同期信号が出力される形になるんです。その同期信号を受信して2台目、3台目のマシンが動作する形になるので、一番左のマシンでテンポを調整すると、それに合わせて右側も追従する形になります。

KORGのvolca keysとも接続して同期させることができた

また、オーディオ信号のほうは数珠つなぎにミックスされていくので、それぞれの音量バランスは、各マシンの出力ボリュームの設定で決まるという至って単純な仕組みなんです。このことからも分かるように、左チャンネルに同期信号を受け取れば、Pocket Operaterに限らずとも、ほかの機器とも接続できます。試しに、KORGのvolcaシリーズであるvolca keysと接続したら、バッチリ同期させることができましたよ。

今回の記事のメインテーマであるPO-32[tonic]

と、ここまでPocket Operaterの基本的なことを紹介しましたが、本題はここから。先日発売されたPocket Operaterの新機種、PO-32[tonic]についてです。これまでの6台はすべてTeenage Engineeringオリジナルの音源でしたが、PO-32にはオリジナル音源が存在しています。

Sonic Chageのリズムマシン、Microtonic
それは同じスウェーデンの会社、Sonic Chageという会社が開発したプラグイン型のリズムマシン、Microtonic(μTonic)という音源です。そしてPO-32はTeenage EngineeringとSonic Chageのコラボ企画というか共同開発になっているんですね。

Microtonic自体は国内でもクリプトン・フューチャー・メディアが運営するSONICWIREで以前から発売されており、価格は12,000円程度(現地価格は99ドルで、価格は為替レートによって日々変動する)。実際に使ってみたところ、かなり楽しいドラムマシンです。VSTおよびAudioUnitsで動作し、Macの場合はスタンドアロンでも動作します。

音源はPCMではなく100%シンセサイザ合成によるリアルタイム・レンダリングによるもので、8つの音色を作り、それを使ってリズムパターンを作成していく形です。オシレーター、ノイズ・ジェネレータ、ディストーション、フィルターを使っての音作りだから、808っぽいビンテージサウンドから、まさに今っぽいサウンドまでいろいろ作れますね。

Microtonicの右上にあるTeenage Engineeringのロゴをクリックするとデータ転送のためのダイアログが表示される
そのシステムをそのままPocket Operaterに移植したのがPO-32というわけなのですが、単に移植しただけではなく、Microtonicとのデータ互換性を持たせているんです。もう少し具体的にいうと、Microtonicで作成した音色、パターンをPO-32に送ることができるようになっているんです。実際に行ってみたものをビデオで撮影してみたので、ご覧ください。

分かりましたか?ちょっとバカバカしいほどに、レトロな仕組みを使っての転送なのですが、Microtonic側からPO-32へデータ転送のためのボタンを押すと「ピーガーガーガー」という音がオーディオインターフェイスを介してスピーカーから鳴り、これをPO-32搭載のマイクでキャッチすると、しっかりデータとして受け取り、PO-32でPLAYボタンを押すと、まったく同じ音で鳴るのです。

データ受信用として小さなマイクが搭載されている

USBだとかThunderbolt、Bluetoothといった技術を用いてデータ転送をするのが当たり前の現在、まさに30年前のモデムのような転送をする発想に笑ってしまいましたが、グラントさんによれば、Bluetoothなどを使うより低コストでできるし、単純なだけに、使い方が簡単だ、ということでこの方法を採用したのだとか。

音色だけを転送することもできるし、音色とパターンをセットで送ることもできる

モニタースピーカーからの音を受信させる場合は、ウーファーではなく、トゥイーター側にマイクを近づけたほうが、確実に通信できますよ」というアドバイスをいただきました。

ブラウザ上でさまざまなリズムパターンが自動生成されて聴くことができるPATTERNARiUM

もう一つ、グラントさんから教えてもらった、面白い使い方はPATTERNARiUMというWebサイトの活用です。ここにアクセスすると、ソフトを持っている持っていないに関わらず、自動生成されたリズムサウンドを誰でも聴くことができるようになっています。どんどん、新しい音色・パターンを作っていくことができるのですが、気に入ったものがあれば、COPYボタンを押した上で、Microtonic上でPASTEすると、それが再現できちゃうんです。これも、かなり面白いですね。

いったんMicrotonicに持ってくれば、先ほどの方法で、PO-32に転送することもできるので、いろいろな遊び方ができそうですよね。

なお、PO-32は単体販売されているほか、MicrotonicとセットとなったPO-32 microtonic bundle PO-32 + Microtonicセットという製品も発売されています。せっかくなら最初からセットで使うのがいいかもしれませんね。


一番人気の高いファミコン風なチップチューンサウンドを演奏できるPO-20[arcade]

以上、Pocket Operaterの概要とともに、最新のPO-32について紹介してみましたが、いかがだったでしょうか?グラントさんによると、Pocket Operaterシリーズは、今後も拡充していくとのこと。今後、どんな面白いアイディアを出してくるのか楽しみですよね。

記事だけだと、なかなか実感が沸かないとは思うので、ぜひ、実物を触ってみることをお勧めしますが、近所にPocket Operaterを置いているお店がないという方のために、8月1日放送予定のDTMステーションPlus!でPocket Operaterシリーズを特集してみたいと思います。グラントさんも出演いただけるとのことだったので、いろいろと実演をしてもらいながら、Pocket Operatorの楽しさを紹介していきますので、お楽しみに!

【関連情報】
Teenage Engineering製品情報
PO-32[tonic]製品情報
Microtonic製品情報

【第87回DTMステーションPlus!】
Pocket Operator特集 8月1日 21:00~22:30
●ニコニコ生放送
●Fresh!

【価格チェック】
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◎SONICWIRE ⇒ Microtonic





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