ポスプロやゲーム制作現場で使われるCubaseの親玉、Nuendo 8が登場だ

SteinbergからCubaseの親玉というか、兄貴分ともいえるNuendo(ヌエンド)の新バージョン、Nuendo 8が本日6月21日より発売されます(パッケージ版の出荷は23日の予定)。通常版の価格が19万円程度(税抜)と、いわゆるDTM用のDAWとはちょっと違う位置づけのソフトで、もともとポストプロダクション向けの製品として誕生して進化してきたDAWです。

Steinberg/YAMAHAとしてはPro Tools HDXのリプレースを狙ったマーケティング戦略をとっているようで、スタジオコンソールのNuage(ヌアージュ)とセットにしたシステム販売にも積極的に乗り出しています。もちろんソフトウェア単体で利用することも可能で、CMや映画、番組の音響効果制作の現場で数多く用いられているほか、最近はゲームの音響制作においても標準ソフトのように使われるようになってきています。そのNuendoとはどんなソフトなのか、今回のNuendo 8で何が改善されたのかなどを発表前にベータ版を見せてもらったので、紹介してみたいと思います。

SteinbergのDAWの最高峰、Nuendo 8が誕生



パッと見はCubaseそっくりのユーザーインターフェイスのNuendo 8。でもCubaseにはないさまざまな機能を持っており、とくに映像との組み合わせにおける機能は非常に強力です。最初に見せてもらったのは、ADRAutomatic dialog recordingという、アフレコ・アテレコ、吹き替えに関する機能。ADR機能自体は、Nuendo 7から搭載されているそうですが、今回大幅に機能強化されているようなのです。

見た目にはCubaseとそっくりのNuendo 8

業務用にはADR専門の超高価なソフトもいくつか存在しているとのことですが、Nuendo 8にはそれを超える機能が搭載されているとのこと。Cubaseユーザーから見てもその使い方はとってもスマート。マーカートラックにマーカーを入れるとともに、そこに文字を打ち込んでいくと、それを映像の中にテロップや字幕の形で表示させられるというもの。


マーカートラックを活用しつつ字幕なども簡単に入れることができる

単に文字表示だけでなく、画面をスワイプをするとか、カウントを画面表示するなどといった映像効果のスクリプトを仕込むこともできるし、指定のトラックの録音開始・録音終了といった指示も入れることができるんです。先にそうした設定を行っておけば、非常に効率よくアフレコ作業を行うこともできますよね。また、アフレコ現場で急遽セリフの変更があった場合に、現場で簡単に変更して、それを即画面に出して、収録するといったこともできるのです。

スワイプなどの映像処理も簡単にできる
また、マルチランゲージのローカライズ作業も簡単にできます。元言語のマーカートラックをそのままコピー&ペーストして別言語のマーカートラックに持っていくことで、言語の差し替え準備作業がスピーディに行えます。Cubaseの場合マーカートラックは10個ですが、Nuendoの場合32個あるので余裕があるのもポイントです。

NuendoはコンソールシステムのNuageとセットで納品されるケースも多い

このように音だけでなく、映像の扱いにも強いNuendoですが、そのビデオエンジンとして新開発のものを搭載したのもNuendoの大きな進化ポイントです。従来のNuendoではAppleのQuickTimeエンジンをインストールしておくことが前提でしたが、Windows版のQuickTimeはすでに開発が終了してしまっている中、新しいエンジンの必要性が高まっていました。

MOV AVI MP4 Mac Windows
DV/DVCPro
MotionJPEG/
PhotoJPEG
H263
H264
ProRes
DnxHD/
DnxHR
(オプション)

CODECとコンテナの対応表

そうした中、搭載された新エンジンでは、DVDVCProMotionJPEGPhotoJPEGH263H264Apple ProResAvid DNxHD&DNxHR(オプション扱い)のCODECに対応するとともに、MOVAVIMP4のコンテナに対応しているので、WindowsにおいてはもちろんMacにおいても無敵のビデオエンジンとなっているようです。


オーディオクリップに対して破壊処理を行うダイレクトオフライン処理

個人的に非常に気に入ったのがダイレクトオフライン処理という機能です。通常、オーディオにエフェクト処理をする場合は、プラグインを指して再生し、必要あれば、それをバウンスしてオーディオに書き出すという手法を取ります。しかし、Nuendo 8では、そうした従来の機能とは別に、波形そのものを書き換える破壊編集機能の進化版ともいえるものが装備されたのです。

REVerenceのような重たい処理でもリアルタイム処理と同じスピード感覚で行える

この機能で驚くのは処理の速さ。レンダリングに時間がかかることはなく、リアルタイムにエフェクトを動かしているように、瞬時に波形がエディットされるのです。エフェクトだけでなくノーマライズやフェード処理、リバースや移送処理といったことも可能。もちろんUNDOも使えるから、履歴を見ながら元に戻すこともできるのも嬉しいところです。また、この処理を行ったら当然、その後に再生する場合にはプラグインを動かす必要はないからCPUが解放されるというメリットもあるんですね。

4つのパラメータを自動でランダム設定され、さまざまな音処理を行えるRandomizer
そのダイレクトオフライン処理で大活躍するエフェクトとして新たに搭載されたNuendoならでは、というものがRandomizerというもの。これは名前の通りランダムにパラメータを変えて使うエフェクトなのですが、ボタンを押すたびに、ピッチ、インパクト、タイミング、カラー=音色を変化させるというもの。

DTMユーザーからすれば「音をランダムに変更するって意味あるの?」というのが普通の考えだと思いますが、ゲーム制作の世界においては非常に意味があるものなんだとか……。たとえば銃撃音のように連続で鳴らさなければならない効果音に対して、同じ音がなり続けると不自然に聴こえます。しかし多くの素材を収録するのも大変です。そこで、1つの素材をもとに、いろいろと変化させてしまえば、便利というわけです。これまでも、波形編集でそうした作業はされていたのですが、1つ1つピッチを変え、タイミングを変えて……という手作業が一発自動でできるようになったメリットは大きいとのことです。


ミドルウェアのWwiseと有機的につながるGame Audio Connect 2.0機能

そのゲーム制作現場において、ここ1、2年で急速に普及が進んだNuendoですが、その要となっているのがNuendo 7から搭載されたGame Audio Connectという機能です。これはゲーム開発において広く使われているAudiokinetic社のミドルウェア、WwiseとNuendoを連携させる機能ですが、それが今回さらに強化されGame Audio Connect 2.0へと進化しているとのこと。マルチトラックのイベントやマーカー情報にも対応するようになり、ゲーム制作における音声実装に加え、マルチトラックでBGMデータを実装して行うインタラクティブミュージックという手法の作業効率も大きく向上しているそうです。

さて、このNuendoが登場当初から力を入れてきたことの一つがサラウンドです。現在はCubase Pro 9もサラウンド対応しており、5.1chのミックスなどができるようになっていますがNuendo 8では、NHKの22.2chフォーマットも含め、最新のサラウンド環境に対応できるように機能強化されています。

3Dサラウンド空間内でどこから音を出すかを自由に決められるVST MultiPanner
見た目にも面白い新機能が3D表示されるサラウンドパンナーであるVST MultiPanner。そう、ステレオでのPANは単にLに振るかRに振るかを設定するだけですが、3Dサラウンド環境におけるPANは左右はもちろん、上下、さらには奥行きまで見て、音が出る位置を決めていくのです。この2つ並んだ画面の左側で平面の位置を決め、右側では高さを決めるようになっています。

22.2chを含め、さまざまなサラウンド・フォーマットに対応できる
こうしてできたデータはDolby AtmosAuro-3D22.2などのフォーマットで書き出すことができるので(Dolby Atomosのエンコーダーは別途入手する必要がある)、サラウンド制作においてもデファクトスタンダードツールとなっていきそうですね。

さて、このCubaseとも呼べる親玉であるNuendoですが、従来は完全上位互換というわけではありませんでした。見た目や構造はそっくりではあり、オーディオもMIDIも扱えるけれど、ポストプロダクション用ツールであるNuendo自体にはRetologueやSpector、Groove Agent SEなどの音源は入っていませんでしたし、スコアエディタやリストエディタ、ドラムエディタ、コードトラックなど、音楽制作=プリプロダクション機能はほとんど装備されていなかったのです。

これを補強して、Cubase機能を包含するためには別途NEKNuendo Expansion Kitというものを購入して、インストールする必要があったのです。しかし、今回のNuendo 8では、NEKを包含しているので、最初からCubaseの完全な互換ソフトとして使えるようになっています。

NuendoのプロジェクトをCubase Pro 9で開いたところ
さらにCubaseと併用するユーザーにとってすごいのはファイルの互換性です。CubaseのプロジェクトデータであるcprデータをNuendoで読み込めるのは当然として、NuendoのデータであるnprデータをCubase Pro 9で開くことができ、前述のADR機能などもCubase側から見えてしまうのです。普通なら下位ソフトで開いたとしても、保存すると上位ソフトで作ったデータは消えてしまうものですが、Cubaseの場合は、Nuendo側で作ったデータも保持した状態で保存できるのです。したがって、仕事場でNuendoを使ってデータを作り、家に持ち帰って音楽制作部分を行っておく……なんて使い方も可能なわけです。

このように独自の進化を続けるNuendo、ゲームや映像に絡むお仕事をされている方やポスプロ関係に従事されている方は、検討してみてもよさそうですよ。

7月11日にはカナダ大使館においてNuendo 8の発表会が開催される
なお、Nuendo 8の発売後ではありますが7月11日に、東京都港区にあるカナダ大使館で製品発表会が開催されます。業務用ソフトということもあり、一般の方向けではなく、関連企業、学校関係者、エンジニア、クリエイター、ミュージシャン、プレス、特約店が対象。無料ではありますが、参加申し込みフォームからの申請が必要で、大使館の中であるため、当日は運転免許証やパスポートなど顔写真付きの身分証明書が必須なので、その点に注意の上、興味のある方は参加してみてはいかがでしょうか?
ちなみに、発表会での司会・進行はDAW用高性能PCメーカーを開発・販売するOMFACTORY大島Su-keiさんが行うのとともに、そのサポート役としてCubaseユーザーでもある声優の小岩井ことりさんも登場するとのこと。また、ゲストとしてモバイルゲーム開発でNuendoWwiseを活用しているKLabのサウンドチームのトークセッションも行われるそうです。発表会に参加できない方も、その内容は後日Fresh!にて放送されるとのことなので、これを待つのもいいかもしれませんね。
【関連情報】
Nuendo 8製品情報

Nuendo 8製品発表会のお知らせ

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