以前、「難関MIDI検定2級、99点のトップ合格者は声優の小岩井ことりさんだった!」という記事でも紹介した、声優の小岩井ことりさん。ご自身でもかなり真剣にDTMを活用した音楽制作に取り組んでいるようで、先日その作品をちょっと聴かせてもらったところ、すごい完成度の高さに驚かされました。
ご存知の方も多いと思いますが、小岩井さんは先日、MIDI検定1級にも合格。現在は、Universal Audioのapollo twin USBとCubase Pro 9を中枢とするシステムで制作しているとのことですが、実際どんな使い方をしているのかなど、Universal Audio製品を扱っているフックアップのスタジオをお借りして、お話を伺ってみました(以下、敬称略)。
apollo twin USBを活用しているという声優の小岩井ことりさん
--先日のMIDI検定1級合格、おめでとうございます。ぜひ1級の勉強法なども今度じっくりお伺いしたいと思うのですが、今日は小岩井さんのDTM活用術について聞かせてください。先日のインタビューでも少しうかがいましたが、改めて、小岩井さんがDTMをはじめたキッカケを教えてください。
小岩井:キッカケは、いろいろあったと思うのですが、本格的にCubaseを使い始めたのは、セリフや歌の練習、ボイストレーニングのためだったんです。デビューした直後、現場に行ったら、すごく緊張しちゃって自分の未熟さを痛感しました。まずは、そうした場に慣れたいということがあって、どこのスタジオにもあるU87Aiを購入し、Cubaseを使っての練習を始めたんです。U87Aiをいきなり買ったのは、さすがに無謀でしたが、そこからですね。
--マイクの話は、なんとなく分かりますが、どうしてCubaseだったんですか?
小岩井:デビュー以前、関西にいたのですが、関西だと声優のお仕事というのはなかなかありませんでした。そうした中で楽曲制作をするタイミングがあり、当初は主メロと作詞をしてみたり、だんだんそれに編曲が加わったりと、取り組んでいました。といっても、そのころはDTMの知識もほとんどなかったので、姉のエレクトーンを借りて弾いて、それをノートパソコンのオーディオ入力につないで多重録音して……なんて使い方をしてました。そのころは使い方もほとんど分からないまま、フリーウェアのAudacityで録音していました。だから、デビュー後も、やっぱり音楽もしたいという思いがあってCubaseを導入したんです。また声優の基礎練習メニューもCubaseであれば自分で作っていけるという狙いもありました。
フックアップのスタジオをお借りして小岩井ことりさんにインタビューしました
--なるほど、結構以前から、DTMはやっていたわけですね!いま、小岩井さんにとって、音楽制作というのは趣味?お仕事?
小岩井:そうですね、「声優って音に関わる仕事である」って考えているので、声も音楽も区分けすることなく、取り組んでいます。ただ、私は「感覚で理解する」というのが苦手なタイプで、声優の練習も理詰めで行うんですよ。具体的にいうと、あるターゲットの声があり、それに近い発声をするという場合、スペアナで波形を表示して、比較しながら近づけていくんです。この声は、高めの周波数が多いなと思ったら、歯擦音を入れていくとか……。そんなときにもCubaseは大きく役立つし、音楽制作でも重要な道具なんです。
--すごい!そんな使い方をしているんですね!実際、小岩井さんが曲を作るという場合、どんなジャンルの曲を作るんでしょう?
小岩井:アニソンとかアイドルソングが好きです。でもアニソンも、アイドルソングもジャンルとしては広いので色々ですね。バンドものを作るときもあるし、電波ソング、アコースティックものもあれば、4つ打ちも。でも、私が何も考えないで、好きに作ると「ダサ可愛い」感じの曲になっちゃいますね(笑)。
UAD-2プラグインもいろいろ使っているという小岩井さん
--そういえば、昨年末、ブラックフライデーについてブログで書かれていた話が話題になり、Yahoo!ニュースなどでも取り上げられていましたよね。実際、何を買ったんですか?
小岩井:あのときは、まずSteinbergのAbsolute 2を買って、WAVESのDiamond Bundleも買っちゃいました!それと、UADのプラグインを3つ選ぶ、CUSTOM BUNDLEも購入しました。春にapollo twin USBを買っていたので、それをもっと活用したかったんです。このとき選んだのはShadow Hills Mastering Compressor、Fairchild Tube Limiterプラグイン・コレクション、Studer A800 Multichannel Tape Recorderプラグインのそれぞれです。
--また、かなりマニアックに揃えてますね!でも、そもそもなぜapollo twin USBを買ったんですか?
小岩井:そうですね、以前から使っていたオーディオインターフェイスが古くなったので、新しいのが欲しかったんです。また少しは余裕もでてきたから、ちょっと上のグレードのが欲しいなって。一人で使うだけだからIN/OUTの数は少なくていいけど、せっかくU87Aiがあることだし、マイクプリ部分にはこだわりたいな、とは思ってました。当初はラックマウント型を考えていましたが、DTMステーションの記事もじっくり読ませていただきつつ、いろいろ調べている中、apollo twinのUnisonテクノロジーが凄そうというのを知って、これに決めちゃいました。Windowsで使うので、apollo twin USBが発売されて、すぐに買ったんです!
購入時にキャンペーンでケースを付けてもらったので、すぐに本体とケースに白い羽を付けたのだとか
--やっぱり、声優さんとして、ボーカリストとしては、マイクプリにはこだわるわけですね。
小岩井:そうですね。ハードのプリアンプを揃えられればいいんでしょうけれど、それはさすがにお金的にも、スペース的にも難しいので。セリフだけなら、デジタルっぽくてもいいけれど、ボーカル用には真空管っぽいのも欲しい。そんなものをユニゾンテクノロジーで揃えられるというのは大きな魅力でした。一方で、ミキシング用のプラグインをあまり持っていなかったので、UAD-2のプラグインはとっても気になっていたんです。そのマイクプリとプラグインの両方をかなえてくれる、apollo twin USBはいいですよね!ちょうど、とあるネットショップが発売キャンペーンとして、カバーと教則本、それに真空管マイクプリであるUA 610 Tube Preamp & EQ プラグイン・コレクションも付いてくるというので、これに飛びつきました!たいていいつも愛用品には天使の羽をつけるんですが、apollo本体とカバーにもつけました。可愛くってお気に入りです。
--実際、apollo twin USBにしてみて、どうですか?
小岩井:レコーディングする音のランクが上がったというか、とにかく音の解像度がめちゃめちゃいい!細やかになって、スピーカーから出てくる音が全然変わりました。モニタースピーカーにはGENELEC 8010Aを使ってますが、音の空間というか広がりが全然ちがうんですよ!粒が細かくて、上のレンジも上がった感じがします。実際、自分の声を録ってみても、活舌がすごく明瞭に聴きとれるようになり、よりプロの環境に近づいたな、って。あと、ヘッドホンアンプがよくなったからだと思いますが、ヘッドホンから聴く音質も断然よくなったんですよね。これで、より精度の高い訓練ができるぞ、と思ってます。
apollo twin USBは声優の練習用機材としても音楽制作用にもフル活用
--なるほど、声優さんとしての練習用に、すごく役立つ、と。
小岩井:もちろん、音楽制作のほうでも大活躍してくれてますよ。Unisonテクノロジーはすんごく便利で、これのプリアンプが高級機のプリアンプに変化してくれる!温かみのある真空管っぽさを出すために、UA-610はかなり使ってます。UA-610AとUA-610Bがあるのですが、Bのほうが細かく設定できるので主にUA-610Bを使ってます。このUnisonテクノロジーを使うと、apollo自体から「カチン」ってスイッチが入った音が聴こえるんですが、この音が快感なんですよ(笑)。それからNeve 88RS Channel Stripはゲートコンプとして、結構活用しています。これ、とにかくゲートの効きがすごくいいんです!宅録なので、ノイズが入りにくいように使うんです。エキスパンダー的な使い方ですかね。あとは、レベルオーバーしないように気を付けてます。
--マイクからレコーディングする場合は、やっぱりボーカルが中心ですか?楽器を演奏して録ることもあるんですか?
小岩井:そうですね、歌とセリフで、ウチで楽器を録ることはほとんどありません。ただ、ある作品でリコーダーを吹く役をしたことがあったので、試しに1回リコーダーを録ったことはありますが…。
--あの作品ですよね!!まあ、それはいいとして……、ほかに、UAD-2プラグインは活用してますか?
小岩井:まだ使いきれてない面もあるのですが…。リバーブは購入時のキャンペーンで入手したEMT 140 Classic Plate Rverbeatorを使ってます。これはすごくオケに馴染むし、パラメーターが分かりやすくてとっても気に入っています。それからコンプはUA 1176 Classic Limiterです。これの実機はスタジオでよく見かけるんですが、これを実際にウチにお迎えすることはできなかったので、プラグインとしてウチに来てくれて本当にうれしいです。トランジスタといえば、これですよね!もうひとつコンプとしてFairchild Tube Limiterも使ってます。こっちは真空管。宅録にも関わらず、声に、これでもかっていうくらい温かみが出るんですよ!そのほか、UAD Precision De-Esserも便利に使ってます。これによって歯擦音を上手に抑えることができるんです。
フックアップのスタジオに設置されているUAの実機などを触れながら大喜びしていた小岩井さん
--わぁ、使い込んでますね!参りました(笑)。今後、欲しいプラグインってありますか?
小岩井:そうですね、UAD-2プラグイン、気になるものがいっぱいあるんですが…、Tletronix LA-2A Classic Levelerコレクションはかなり欲しいところ。あとはAPIシリーズやSSLシリーズなんかも気になっているところです。
--ほかに普段使っている音源系のプラグインって、どんなものがありますか?
小岩井:HALionはもちろん使うのですが、最近だとMODOBASSがお気に入りです。物理モデリングなのでハードディスクを食わないし、音色の変化が自由自在で気に入っています。弦の新しさを変えられたり、スライド奏法も簡単に打ち込めるのがいいですね。お値段もお手頃だったので、出てすぐに買いました。それからEastWestの音源も愛用していて、Hollywood Orchestra Goldなんかは、すごく生っぽいのでオーケストラ風のアレンジの時に使っているほか、Native InstrumentsのKOMPLETE 10 Ultimateを持っているので、この中のAction StringsとかDamageなんかはよく使っています。
小岩井さん自作のPCを使った自宅のDTM環境
--ところで小岩井さんのPC、以前伺ったときにタワー型を使っているという話でしたけれど、これはどこのメーカーのものを使ってるんですか?
小岩井:以前はノートPCなども使っていたんですが、自分のDTM環境にマッチする欲しいスペックのマシンって、市販ではないんですよ。ハイスペックマシンが欲しいけれど、ショップメイドのハイスペックマシンなんかもゲーミングマシンが中心ですよね。でもDTM用途ですからグラボはロースペックで大丈夫なんです。結局、雑誌などを見ながら、自分で好きなパーツを選んで、自分で組み立てることにしたんですよ。CPUはIntel Corei7 4770Kの3.5GHzで、メインメモリは16GB、SSDはCFDの256GBのものをCドライブのOS用に1つと、OCZの240GBのものをBFDなどの音源用に1つ、さらにデータストレージとして日立の3TBのHDDといった構成です。もう作ってから数年たって、そのままの状態なので、そろそろ新調してもいい時期なんですけどね。
--ええ?PCも小岩井さんの自作マシンだったんですね!それはビックリです。ちなみにPCパーツはどうやって購入したんですか?
小岩井:ネット通販で購入したものもありますが、秋葉原のPCショップに行って買ったりもしました。
かなり長時間に渡って、いろいろとインタビューさせてもらいました
--じゃあ、秋葉原のお店を回ってくると、小岩井さんに出会える可能性もある、と!なんかすごい話を聞いてしまったような気がします(笑)!いろいろとお話を伺って、レコーディングエンジニアも顔負けな使い方をしているのが分かりましたが、実際に小岩井さんの作品デモを聴いても、物凄い完成度ですよね。これを一般に公開していく予定はいかがですか?また、何か告知などがあれば、ぜひどうぞ!
小岩井:音楽制作もお仕事として進めていきたいとは思っているのですが、まだもう少しお待ちください。もちろん声優のお仕事も含め、私の携わっているのはみんな音に関わりのあるものです。これからも、たくさん音と関わって仕事をしていきたいです。いつか、自分が演じさせて頂いているキャラクターのキャラクターソングや、記事の連載、DTMに関係するラジオなんかもやってみたいです!ご依頼、お待ちしております!
--ありがとうございました。
ヘアメイク:石田翔
【関連サイト】
小岩井ことりオフィシャルブログ「ゆめはキミの太陽。」
小岩井ことりさんプロフィール(ピアレスガーベラのサイト)
【価格チェック】
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◎サウンドハウス ⇒ apollo twin USB
【製品情報】
apollo twin USB製品情報