1月にアメリカで行われたNAMM SHOWでの大きな目玉製品として発表されたことから、すでにご存じの方も多いと思いますが、AKAI ProfessionalからMPCシリーズの新製品、MPC X(実売258,000円程度)およびMPC LIVE(実売価格128,000円程度)の2機種が発表され、先日、国内でのお披露目イベントが行われました。
この2製品に共通する大きな特長はPC不要のスタンドアロンで動作するという点です。近年のMPCシリーズは、基本的にPCを核にして使うシステムとなっており、ハードウェアはあくまでもコントローラという役割でした。とはいえ、歴史を紐解けば、もともとはスタンドアロンの機材だったMPCですから、まさに原点回帰したともいえる新製品なのです。このスタンドアロンかにはどんな意味があるのか、どんなメリットがあるのかを考えつつ、ごく簡単にレポートしてみたいと思います。
先日、国内初お披露目となったAKAIのMPC XとMPC LIVEの発表会
いま4×4のパッドを持つBEATマシンとしてはAKAIのMPCシリーズとNative InstrumentsのMASCHINEシリーズが人気を二分しています。そのいずれも、PCをコアにして使うものであり、WindowsもしくはMac(場合によってはiPhoneやiPadを使うケースもあるけれど)の環境があって、初めて動作するシステムとなっています。
そこに今回登場したMPC XとMPC LIVEはいずれもPC不要で動作するものとなっています。2015年にMPC TOUCHが登場したあたりから、「次はスタンドアロン版が出るのでは……」なんて噂はされていたので、予想通りというか、ついに(ようやく!?)という印象もあるんですが、発表になったわけですね。もっとも発売時期はまだ確定しておらず、いずれも春の発売とのこと。発売元であるinMusicに確認したところ「まだ発売時期は分からないけれど、おそらくMPC LIVEが先になり、MPC Xは少し遅れそう……」という返事だったので、気長に待つのがいいかもしれませんね。
発表会会場で展示されていたMPCシリーズの初代機、1988年に発売されたMPC60
改めて4×4のBEATマシン、サンプラーの歴史を振り返ってみると、一番最初に登場したのは、1988年に発売されたMPC60でした。まだ赤井電機時代の製品ですね(AKAI Professionalとして分離独立後、現在はinMusic参加のブランドとなっている)。今回の発表会場にも初代機が展示されていましたが、ここからMPCは始まっていったと思うと、なかなか感慨深いです。そして、その当時のMPCはもちろんスタンドアロンで動作する機材でした。その後、MPC3000、MPC2000XLなどの名機が生み出されていくわけですが、当時はこの機材だけで動作するスタンドアロンだったわけです。
MPCシリーズの系譜。2016年にMPC STUDIO BLACKが発売され、今回MPC XとMPC LIVEが登場
それが、MPC Renaissanceの登場で状況は大きく変わり、PCベースのシステムになっていきました。やはりサンプラーとしての機能が大きく向上したことで、MPC単独で処理するよりも、PCを使ったほうが、より効率よく処理できるために、ソフトウェアとハードウェアの分業となったんですね。ちょうどNative InstrumentsのMASCHINEシリーズも同じスタイルであったため、いつの間にかこうしたスタイルが一般的なものとなっていったのです。
MPC TOUCHとほぼ同じデザイン、大きさながらスタンドアロンで動作するMPC LIVE
個人的には、こうしたPCベースのシステムというかDTM的なシステムは好きですが、好みは人それぞれかもしれません。またその動作はPCの環境に左右されるため、不安定なPCを使っているとMPCのシステムとしても不安定になる可能性があるというネックもあります。そのため、電源を入れればすぐに使える、という意味で「昔のMPCはよかった」という人が結構いたようですが、今回、その要望に応えた機材が登場したというわけなのです。
MPC LIVEはバッテリー駆動で持ち歩くことができる
まずMPC LIVEのほうは、見た目も大きさもMPC TOUCHとそっくりなもので(若干、ボディーが厚くなっているそうです)、使い勝手もMPC TOUCHのものをそのまま継承しています。7インチのフルカラー・マルチタッチディスプレイを使いながら、波形を直接触って編集できるなど、見るからにスマートな機材です。
MPC LIVEのリアパネル。USB 3.0でPCと接続してDAWモードで使うことも可能
2.4kgととっても軽量だけど、ここには内蔵のリチウム・イオン・バッテリーが内蔵されていて、これ一つ持ち歩いてプレイできてしまうというのが大きな特徴となっています。主な特徴を列挙すると、以下のようになっています。
- PCを使わずにハード本体のみで動作するスタンドアロンMPC
- 7インチ高解像度マルチタッチディスプレイ
- 充電式リチウムイオン電池内蔵
- PHONO、ライン、マイクなど多彩な入力系統
- 2つのMIDI入出力端子
- 16GBのオンボードストレージ搭載(10GB以上のサウンドコンテンツを含む)
- 2GB RAM
- フルサイズSDカードスロット
- 拡張可能な2.5″ SATAドライブコネクター(SSDまたはHDD)
- USBドライブやMIDIコントローラー用の2つのUSB3.0A端子スロット
またユニークなのは、スタンドアロン機材でありつつもモードを変更するとPCと連携して使えるDAWモードになること。この辺、まだよくわかっていないのですが、ぜひ、今度、実機を借りて試してみたいと思っています。
フラグシップモデルのMPC Xは大型ながら、機敏な操作ができる
一方のMPC XのほうはMPC5000、MPC Renaissanceを進化させたような風貌のフラグシップマシン。こちらは結構大きな機材だけに、据え置き型として使うのが前提のようですが、10.1インチのマルチタッチディスプレイを搭載するとともに、専用のメニューボタン、大きなマスターエンコーダーノブ、16個のタッチセンシティブな360°アサイン可能なポット(Q-Links)を搭載するなど、かなりパワフルな制作環境となっています。こちらの主な特徴は以下のとおりです。
- PCを使わずにハード本体のみで動作するスタンドアロンMPC
- 10.1インチ高解像度マルチタッチディスプレイ
- MPC 2.0ソフトウエア・コントローラーとしても機能
- PHONO、ライン、マイクなど多彩な入力系統
- ビンテージシンセをコントロール可能なCV/ゲート出力
- 多彩な表現を可能にする16 Q-Linkノブ
- 2つのMIDI入力端子と4つのMIDI出力端子
- 16GBのオンボードストレージ搭載(10GB以上のサウンドコンテンツを含む)
- 2GB RAM
- フルサイズSDカードスロット
- 拡張可能な2.5″ SATAドライブコネクター(SSDまたはHDD)
- USBドライブやMIDIコントローラー用の2つのUSB 3.0 A端子
この発表会の会場で動いていたMPC LIVE、MPC Xをちょっとだけ触った程度ではありましたが、かなり機敏に反応してくれて、リアルタイムでのタイムストレッチなどを含め、快適に使えそうな印象でした。
発表会会場には3人のプレイヤーが登場。その日、みんな初めて触ったとのことだった
発表会会場では、以前、DTMステーションPlus!の番組にも出演いただいた熊井吾郎さんのほか、SHOGUN BEATZさん、KO-neyさんがゲストプレイヤーとして演奏を披露していましたが、みなさんMPC LIVE、MPC Xを触るのはその日が初とのこと。
華麗なプレイを見せてくれた熊井吾郎さん
そう、実はまだ実機が数台しかなかないようで、前日にアメリカから初めてやってきて、発表会終了とともに、アメリカに持ち帰られてしまったので、国内には機材がないんですよね。でも、そんな初めての機材でも、普通にプレイできてしまうのですから、まさにMPCとして完成していることが証明されたわけでもあります。
実機がやってきたらスタンドアロンでの操作性とともにPCとの連携性についても詳しくレポートする予定
ぜひ、今度製品が正式に日本にやってきたら、試してレポートしてみようと思っていますが、コンパクトで持ち歩ける機材になったMPC LIVEの意義はすごく大きいように感じました。MPC TOUCHとの価格差もそれほど大きくはないので、MPC LIVEが主流になっていくのかな……という印象ではありました。
リアルタイムでのパフォーマンス用というより音楽制作機材としてニーズが高そうなMPC X
一方のMPC Xのほうは据え置き型としての利用が前提となるので、スタンドアロンである意味合いはちょっと薄れるのかなというのが直感的に思ったことです。確かに業務用での制作シーンを考えると、PCを使わずに電源を入れたらすぐに動かせること、PCのご機嫌に振り回されず安定して動作してくれることを考えると大きなメリットなのかな……とも思うのですが、どうでしょうか?
いずれも、まだ発表会で見ただけで、細かなところまでは確認できていませんが、実機がやってきたら、DTMステーションPlus!の放送番組にも登場していただけるということなので、お楽しみに。
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