みなさんは、ヘッドフォンをどこに接続してモニターしていますか?たぶん多くの方がオーディオインターフェイスのヘッドフォン出力端子に接続して使っているのではないでしょうか?もちろん、それ自体間違ったことではないのですが、せっかくならもっといい音で聴いてみたいと思いませんか?
そんなニーズを対象にした、音楽制作用途専用のヘッドフォンアンプが、米Rupert Neve Designs(ルパート・ニーブ・デザインズ)から発売され話題になっています。RNHPという小さな機材なのですが、これがどんなもので、どのようにして使うものなのか、そしてどんな意味を持っているのか、紹介してみたいと思います。
音楽制作用に特化したヘッドフォンアンプ、Rupert Neve DesignのRNHP
RNHPの具体的な話に入る前に、オーディオインターフェイスにおけるヘッドフォン出力機能について、少し考えてみたいと思います。いま、高性能なオーディオインターフェイスが、かなり手ごろな価格で入手できるようになっています。
売れ筋でいえば、SteinbergのUR22mkIIやTASCAMのUS-2×2、FocsuriteのScarlett 2i2 G2、M-AudioのM-TRACK 2x2M、ZOOMのUAC-2……と2IN/2OUTのUSBオーディオインターフェイスだと15,000円程度で入手できる時代です。もちろん、各機器によって、回路構成は異なりますが、簡単な概略図で表すと以下のようなものとなります。
ここで注目してもらいたいのが赤いヘッドフォンアンプと書かれた部分。そう、ヘッドフォン出力は、通常メイン出力から分岐させた信号にヘッドフォンアンプを経由させて出力しているわけです。言い方は悪いですが、このヘッドフォンアンプ回路って、オーディオインターフェイス全体の中では、オマケ機能みたいなものなんですよね。
でも、ヘッドフォンから出力される音の品質は、ヘッドフォンそのものの性能と、このヘッドフォンアンプの性能の掛け合わせで決まります。ということは、せっかくいいヘッドフォンを手にしたとしても、このヘッドフォンアンプが貧弱だと、その性能を十分に生かすことができないわけです。
そこで登場するのが独立型のヘッドフォンアンプです。ヘッドフォンを駆動するだけの目的でしっかり設計されているので、音質を大きく向上させたり、さらに大きな出力を実現することが可能になるわけです。でも、いま主流のヘッドフォンアンプって、大半はポータブルオーディオ用というか、iPhone、iPod用ですよね。また、そもそもの目的がオーディオリスニング用なので、音楽制作用とはちょっと趣向が異なる設計であるのも事実だと思います。
プロオーディオ業界におけるレジェンド、Rupert Neveさん
そんな中で登場してきたのが音楽制作用途にフォーカスした、このRNHPというRupert Neve Designsによる機材なんです。そう、あの伝説の開発者、Rupert Neveさんによって設計されたヘッドフォンアンプなんです。
Rupert Neve Designsの業務用ミキシングコンソール、5088 Console
つい先日90歳の誕生日を迎えられたNeveさん。そのNeveさんをご存じない方は「Rupert Neve の歴史」という彼の80年間の歴史を追ったページがあるので、ぜひそちらも参考にしていただきたいのですが、レコーディング、音楽制作の機材の世界においては、神的な存在。近代~現代におけるミキシングコンソールは、Neveさんが設計したものを中心に展開されてきたといっても過言ではありませんし、現在も多くのスタジオでNeve製品が活躍しています。
また各種DAWやプラグインのチャンネルストリップやマイクプリアンプ、EQやコンプレッサといったもので、Neve製品をエミュレーションしたものは数え切れないほど存在しています。
デスクトップタイプのミキサー、5060Centerpieceのヘッドフォンアンプ回路がRNHPのベースになっている
そのNeveさん、2009年からは現在のRupert Neve Designsという会社を設立して、ここで現役エンジニアとして活躍しているのですが、当然これらの製品は一般DTMユーザーには簡単には手が出せないものばかり。まさに業務用のプロオーディオ機器というわけですが、そうした機材のひとつに、比較的手ごろな価格のデスクトップミキサー、5060 Centerpieceというものがあります。
まあ手ごろといっても、税抜き90万円の製品なのですが、この5060 Centerpieceのヘッドフォンアウト回路を抜き出して、これをベースにチューニングし、5万円というDTMユーザーにも手の届く価格にしてくれたのが、このRNHPというわけなのです。
上記の、Neveさんのビデオによれば「今あるヘッドホンアンプは音質、ヘッドルーム、出力のいずれかを妥協したものばかり。このRNHPは、どんなヘッドフォンからのサウンドもベストにするために生まれました。特別設計されたRNHPはパワフルなアンプとソースに最適化された入力によって究極に近い品質のサウンドを実現します」とのこと。またACアダプタを利用する形で、内部は24V仕様のリファレンスクォリティ、とのことなので、DTMユーザーならその多くが期待する機材といえるのではないでしょうか?
RNHPのリアパネル
ユニークなのは、このヘッドフォンアンプの入力は3系統別々の端子が用意されているという点です。RNHPのリアパネルを見ると分かるとおり、左側から
A : XLR/TRSコンボジャック
B : RCA
C : ステレオミニ
という3つが装備されています。
そう接続する機材によって、端子を変更できるようになっており、各機器にマッチさせることができるんですね。この中でオーディオインターフェイスと接続するのであれば、もちろんAのXLR/TRSコンボジャックということになります。バランス信号でオーディオインターフェイスと接続できるので、外部からのノイズの心配もほとんどなく、このヘッドフォンアンプと合体させられる意義は大きいと思います。
3端子のTRSフォンケーブル同士で接続することでノイズが入り込みにくい環境を構築できる
実際、いくつかのオーディオインターフェイスと接続してみましたが、なかなか快適です。やはり当然のことながら音質は変化し、トゲトゲしさが無くなった感じがします。またフロントパネル右の赤いノブを右に回しくと、かなりの音量を稼ぐことができ、オーディオインターフェイスの出力よりも明らかに上がります。でも、MAXまで回しても音が歪むことはなく、気持ちいい音で、そして明瞭に鳴ってくれます。
XLRのキャノン接続が可能な機材であれば、その方式で接続できる
また、どのオーディオインターフェイスに接続しても、比較的近い音質になる印象を持ちました。おそらくオーディオインターフェイス内蔵のヘッドフォンアンプの回路が機材によって、かなり品質に違いがあるので、RNHPに切り替えることで、その差が少なくなるんだと思います。
一方、CのステレオミニにiPhoneを接続して、DAWを鳴らしてみたのですが、こちらはかなりの爆音になりますね。赤いノブを真上の12時の方向で、ほぼiPhoneの出力と同じという感じだったので、「iPhoneの出力は小さい…」という人にも良さそうですね。まあ、iPhoneのアナログ出力はラインレベルではなく、iPhoneのヘッドフォンアンプを通した音なので、本来これをヘッドフォンアンプに接続するべきものではないと思いますが、RNHPでは、そうしたスマホの出力を突っ込むためのものとして設計しているようなので、問題はなさそうですよ。
Cの端子を利用することで、iPhoneとの接続も可能
このようにRNHPは、DTMのヘッドホンモニタリング環境を劇的に変換する画期的なツールだと思います。とはいえ5万円という値段なので、「やっぱり音を聴いてみないと何とも…」と躊躇される方も多いと思います。
発売元であるフックアップのWebサイトを見ると、「RNHP FREEレンタルキャンペーン」というものを行っているので、心配という方は、これで音を確認してみるというのも手ですよね。ぜひ、こうしたモニター環境の改善を試してみてはいかがでしょうか?
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【価格チェック】
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