先日、とある案件で、国産DAWメーカーであるインターネット社の村上昇社長とSkypeでミーティングをしていました。が、途中から話題は「各社のDAWも成熟してバージョンアップのネタがなくなっているのでは?」、「お布施とも呼ばれる1、2年に1度のバージョンアップ料金をみんな納めるのか…」といった方向に展開していったのです。
村上社長も、そうした機能停滞状況を認めつつも、操作性や便利な機能といった面での改善余地はまだまだいっぱいあるといいます。とはいえ、大きいネタが少なくなると、バージョンアップ料金を支払う動機は低くなりそうですが、インターネット社のDAWであるABILITYやSinger Song Writer Liteにおいては、海外メーカーとはちょっと異なるアプローチで新機能についてユーザーへ訴えているんだそうです。元々はまったく別件の打ち合わせだったのですが、話が面白くなっていったので、途中からインタビューモードに切り替えて話を聞いてみました。
ABILITYのアップデート方針などについて、いろいろ話を聞いてみた
--(前略)ひと昔前までなら、オーディオトラックが使えるようになった、プラグインで音源が鳴らせるようになった、オーディオを音程を変えずにテンポを変更できる……など従来から見れば魔法のようなことが可能になり、「これは買いたい」と思わせることができましたが、最近目新しい話題がないですよね。
村上:そうですね、各社のDAWを見ても、思いつく機能は全部搭載されており、大きな新機能は打ち出しにくくなってきているのは事実だと思います。そうした中、ウチは2年前にSinger Song WriterからABILITYへと、DAWを抜本的に作り直すとともに、ブランド変更したことで、大きなアピールをすることができました。もちろん機能的にもボーカルエディタを搭載したり、ステップシーケンサを搭載するなど大きな機能強化も行ってきましたが、それとは別に、他社では行っていない独自の手法でユーザーにメッセージを伝えているんです。それが、頻繁に行うアップデートなんです。
Skype通話で、いろいろとお話しを伺った、インターネット社の村上社長
--先日も記事にしましたが、1週間に1度くらいの頻度でアップデートを繰り替えしているんですよね!?
村上:アップデートというと、一般的にはバグ修正だと思います。実際、ウチでもユーザーさんの声も参考にしながら不具合を修正しています。やはりリリース当初は頻繁にアップデートが多くなりますね。またサポートに連絡がくるユーザーさんからのフィードバックの中には「こうしたほうが使いやすくなる」といった声もよくあり、確かに、そのほうが便利だとうなづける指摘も少なくないんです。そうしたアイディアをいち早く反映させているのも大きなポイントですが、それ以外にも新たな機能をちょこちょこと加えていってるんですよ。
ABILITY 2.0のリリースから間もない時期にアップデータで搭載されたLinPlug Organ3
--確かに先日はABILITY 2.0がリリースされてから間もないというのに、アップデータでオルガンのVSTインストゥルメントが追加されたりしてましたね。
村上:まあ、LinPlug Organ3の場合は、Singer Song Writer Lite 9.5にバンドルした都合上、上位版であるABILITY 2.0に搭載されていないのはよくないだろうということで、あのタイミングで追加しました。もちろん、それはもともと想定していたものなんですが、ABILITY 2.0の発表時には告知していなかったので、ユーザーのみなさんには、アップデートによるプレゼントになったのではないかと思います。
--普通なら、新機能が思い浮かんだとしても、次期メジャーアップデート用のネタとしてキープしておき、数年後に投入すると思うのですが、なぜ、少しずつアップデートで反映させるのでしょうか?
村上:メジャーバージョンアップでは、当然大きな新機能を追加したり、機能強化を図っているのですが、ユーザーのみなさんも、そうした新機能を中心にチェックされると思うのです。ただ派手な機能強化ではないけれど、「このちょっとしたことが凄く便利になる」というような機能強化ってありますよね。それを同じタイミングで搭載しても、ユーザーさんになかなか気づいてもらえないこともあるかと思います。そこで、アップデータに盛り込むことで多くのユーザーさんに気付いてもらえ、結果としてABILITYをより効果的、効率的に活用いただけるという効果もあるのではないかと思っています。また、そういった機能を次回メジャーバーションアップを待たずにより早く使えるというのはユーザーのみなさんにとっても良いことだと考えています
ABILITYを起動すると、よくこのメッセージに出会う
--ABILITYを起動すると、頻繁に「最新のアップデータが見つかりました。今すぐアップデートを行いますか?」」というメッセージが表示されますもんね。
村上:昔のようにアップデートのために物理メディアが必要だった時代では、こうしたことは不可能でしたが、高速なインターネット環境が当たり前の今であれば、新機能を手軽にお届けすることが可能になりました。これはユーザーのみなさんにとっても、私たちにとっても良いことですよね。
--ABILITY 2.0リリース以降での、具体的なアップデート内容をいくつか教えていただけますか?
村上:いろいろとあるのですが、まとめると新しい機能としては以下のようなものがあります。
◎マーカー一覧ウインドウを追加しています(これまではプレイヤーウインドウの中にマーカー一覧はありましたが、ウィンドウとして追加)。ソングに入力されているマーカーを一覧表示し、ダブルクリックすると、カーソルがダブルクリックしたマーカー位置にジャンプします。また、マーカーの削除や、マーカー間の範囲選択も行えます。
◎ソングエディターのオーディオトラックの縦幅は変更せずに波形レベルを拡大表示できるようになりました。
◎ミキサーのCOMP、EQセクションで他社のVSTプラグインも選択可能になりました。またトラック追加時にインサートされる、デフォルトプラグインも変更可能です。
◎オーディオミキサー、オーディオミキサーインスペクタでPre Sendの設定が行えるようになりました。
・Pre-FX では、インサーションエフェクトの手前でSendされます。
・FX->Preでは インサーションエフェクトの後でSend されます。
・トラック毎に設定が行え、ソングに保存されます。
◎VSTインストゥメントにLinPlug Organ 3 を追加。
ソングエディターのオーディオトラックの縦幅は変更せずに波形レベルのみを拡大表示可能になった
さらに使い勝手や使用感、性能の向上としては
◎ミキサーのスクロール位置がソングに保存されるようになりました。
◎演奏対象ソングを編集中にミキサーを閉じて、再度ミキサーを開く際、閉じた際の表示位置、サイズ、スクロール位置で開くようになりました。
◎MIDIFILE 読み込み時、VSTiの自動割り当てが行えるようになりました。
◎ミキサーのCOMPセクションでCopy/Pasteが行えるようになりました。
◎ACID WAVE化した曲中WAVのテンポ変換時の精度が向上しました。
といった感じです。また次回のアップデートにおいてはMS系のエフェクトなどの追加を予定しています。
--なるほど、確かにいろいろありますね。これらがABILITY 2.0がリリースされた後に追加されたと考えると、ユーザーにとっては、かなり嬉しいプレゼントという感じですよね。
村上:考え方としては、Cakewalkが行っているメンバーシップ制と近いのかもしれません。メンバーシップ制においては、毎月のように新機能が追加されていき、ユーザーはそのたびに恩恵を得られるわけですね。でもCakewalkとの決定的な違いは、ABILITYは無償でアップデートしているということです。ただし、無償アップデートで新機能が追加されるのは、次回のメジャーバージョンアップ、つまりABILITY 3.0が出るまでです。それ以降もバグフィックスに関しては無償で行いますが、機能追加はABILITY 3.0で行っていく予定です。
ABILITY 3.0登場までの間は、まだまだ新機能が追加されていく見込み
--まあ、SONARも有償とはいえ、メジャーバージョンアップしたら1年間はアップデートできるので、期間の差はありますが、近い考えといえそうですね。ABILITY 2.0が出てまだ間もない状況ですが、もう3.0のリリース日程なども決まっているのですか?
村上:メジャーバージョンアップは1年半から2年くらいの期間を置いて…と考えているので、まだまだ先になります。ただ、実質的なメジャーバージョンアップに匹敵するABILITY 2.5は年末ごろに出す予定で考えております。2.0から2.5へはもちろん無償でのアップデートですので、ぜひ楽しみに待っていてください。
--ABILITY 2.5では、具体的に、どんな機能が追加されるのですか?
村上:そこは、まだオープンにはできませんが、「スコア機能の強化」、「MIDI周りの強化」、「オーディオルーティングの強化」といったことを考えています。かなり役立つ機能をいろいろと追加していきますので、もうしばらくお待ちください。もちろん、今ABILITY 2.0を購入いただければ、年末のアップデートは無料ですから!
--ABILITYの一方で、エントリー版のDAWであるSinger Song Writer Lite 9.5も同じようにどんどん機能を追加しているのですか?
村上:SSW Liteは、DTM/DAWが初めてというユーザーを対象にしたソフトであることもあり、ちょっと位置づけが違うんです。確かにバグフィックスという意味では、頻繁にアップデートを行ってきましたが、機能追加というのはほとんど行っていません。初心者ユーザーの場合、できるだけシンプルに、分かりやすく使えるというのが重要であって、新しい機能がどんどん追加されたら戸惑ってしまうだろうと思います。ここは、何が何でも新機能を…というのではなく、ソフトに応じてというところですね。
--ありがとうございました。
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