国内でMIDI規格に関しての管理を行うとともに、MIDIの新仕様・新規格の検討・制定などを行っているの機関がAMEI(一般社団法人音楽電子事業協会)です。AMEIはMIDI検定を実施する機関としても知られていますが、そのAMEIがこのたび新たな試みを2つ同時にスタートさせました。
ひとつはMIDI規格そのもののオープン化であり、これまで30年余り積み重ねてきた全仕様書を無償公開し、AMEIのWebサイトからダウンロード可能となりました。もう一つはソフトウェア開発プロジェクトのための共有ウェブサービスGitHubに、アカウント(amei-music)の運用を開始したということです。一般ユーザーの方にはピンと来ないかもしれませんが、実例なども示しながら、この2つの試みについて考えてみたいと思います
AMEIが公開したCreators’ HubによってドローンとMIDIの融合も可能になる!?
言うまでもなく、MIDIはDTMのシステムの中枢を司る規格であり、電子楽器同士や電子楽器とコンピュータなどを接続する上でなくてはならない規格です。最近はMIDIケーブルそのものを使うケースは減ってはいるものの、DAWの中身はMIDIで制御されているし、USBケーブルの中をMIDI信号が流れていたりするわけです。
最近ではMIDIの新しい規格としてBLE-MIDI(MIDI over Bluetooth LE)というワイヤレス接続する仕組みが誕生し、KORG、YAMAHA、Rolandなど各社からさまざまな新製品が登場して話題になっており、DTMステーションでもたびたび記事にしてきました。
でも、そのMIDIも最近ではDTMや楽器だけのものではなくなってきています。IoTなんていうこととも絡んで、さまざまな機器ともMIDIで通信されるようになってきているのです。たとえば、ドローンをMIDIで接続し、制御した「Sky Magic live at Mt.Fuji : Drone Entertainment Show」というものが、先日大きな話題になりました。
https://youtu.be/5WWwvIgGbkg
このビデオは、マイクロ・アドという会社が高城剛さんをクリエイティブディレクターとして迎え入れて作成されたもの。新たなメディアや広告、エンターテイメントの可能性をさまざまな形で提案するプロジェクト第1弾とのことです。富士山をバックに16,000個のLEDライトを搭載したドローンが、三味線の演奏とともに踊っており、その制御にMIDIが用いられているんですね。
また以下のビデオは、4月に行われた「Sound&City」というイベントにおいて、ヤマハと富士通が「『靴のIoT』から新しい音楽が生まれる」というテーマで行った共同出展での一コマ。見ると分かる通り、履いた靴を動かすと、それに合わせて演奏されるのですが、ここでもMIDIが利用されているんです。
ドローンとMIDI、靴とMIDIというのは、その一例に過ぎませんが、AMEIではMIDIの活用分野を広げ、楽器だけでない他分野との融合を促進させるため、上記github上に「Creators’ Hub」というアプリケーションを公開しました。
Creators’ Hubでは、プロトコルの変換テーブルである辞書を構築し、さまざまな機器とMIDIの融合を推進する
このCreators’ Hubでのキーワードとなるのが「辞書」、つまりプロトコルの変換テーブルです。たとえばドローンの世界、ロボットの世界、携帯電話の世界……とそれぞれの世界でもMIDIのような業界標準の通信プロトコルがあり、それを使ったやりとりがされています。ここにMIDIを接続するとなると、それなりの手間がかかります。この接続を個々のケースで開発するのでは無く、Creators’ Hubに公開されているアプリケーションを利用し、プロトコル変換テーブルを共有することができれば、MIDIがさまざまな世界で使える手助けとなるというわけなのです。
VJの世界、スマートフォンの世界をMIDIと融合させることが容易になる
たとえば、VJなどの世界で用いられることが多いOSC=Open Sound ControlとMIDIをやり取りするためのプロトコルを定義付けたり、スマートフォンで使われているJSON=JavaScript Object NotationとMIDIの通信方法を、みんなで共有できるようにしようという目的なので、今後いろいろなところに波及してくる可能性もありそうです。
実際、このCreators’ Hubを利用した事例が8月6日、7日に行われるMaker Faire Tokyoでのドローンレースでお目見えするようです。ここではドローンの操縦をすると音が出る仕掛けが施されるとのことですから、機会があれば見に行ってみると面白そうですよ
ついにMIDI 1.0規格書が無料で公開されるようになった!
さて、そのCreators’ Hubと連動するような形で、ついに無料公開がスタートしたのがMIDI規格そのものです。私自身も1989年に当時の「MIDI規格協議会」が出していた「MIDI 1.0規格」という資料を購入しているし、その後98年にスタンダードMIDIファイルや、GMシステム・レベル1、MIDIショー・コントロール1.1などが追記された「MIDI 1.0規格書」も購入していたので、MIDI規格そのものがオープン化されていなかったというわけではありません。
これまで有料で頒布されていたMIDIの規格書
実際、この規格書を見てスタンダードMIDIファイルの仕様を確認してシーケンサを開発した……なんていうフリーウェア作者の方もいるかもしれませんね。
ところが、今回無料公開されたのは、以前に販売されていた本がPDF化されて無料で配布されるようになった、ということに留まらないんです。
MIDI 1.0規格書のPDF版がAMEIサイトからダウンロード可能となった
MIDI規格は、オリジナルの1.0という規格書に加え、RP=Recommended PracticesおよびCA=Confirmation of Approval for MIDI Standardというものが追加されているんです。なんかちょっと難しそうな言葉ですが、RPとはMIDI規格策定後、利便性を高めるための推奨実施例として拡張された規格であり、これまでに52種類のものが発表されています。
MIDI 1.0規格書のPDFの中身はこんな感じで日本語で記載されている
一方CAはMIDI規格そのものの追記事項であり、時代の変化とともに追記してきたいわば追補版で、これまで33種類がリリースされてきたという経緯があります。CAの中にはRPとセットになったものもいくつかあるのですが、これらもすべて公開になったのです。これらは、AMEIの会員企業であったり、アメリカのMMA=MIDI規格協議会のメンバーでないと見ることができなかったものがオープンになったのです。
そもそもRPやCAにどんな項目があるのかも、完全には公表されていなかったので、これはものすごく大きな意義があると思います。
最も新しい52番目のRP、BLE-MIDIの仕様も公開された
たとえばRPの最新版が前述のBLE-MIDI。前述の通り、いろいろなメーカーがBLE-MIDI対応というものも製品化してきているものの、中には互換性で問題があるものが存在しているのが実情。とくにAMEI、MMA会員でない企業が出したものに問題があるケースがあったのですが、これらが公開になったことで、今後そうした問題が解決されていく可能性も高そうです。
まあ、一般ユーザーが規格書なんて見ることはあまりないとは思いますが、メーカー間でこうした情報が共有されて、よりよい製品、確実な互換性を持った製品が開発されるということは、ユーザーにとっても非常にいいことだと思います。
ちょうど今年もMIDI検定申し込みのシーズンになってきましたが、こうしたMIDI規格書を見たり、Creators’ Hubを覗いてみると、知識も広がるかもしれませんね。
【関連リンク】
MIDI規格委員会トップページ
MIDI 1.0規格書PDFダウンロードページ
MIDI規格 RP/CAダウンロードページ
Creators’ Hub
MIDI検定公式サイト