Cubaseと強力な連携を可能にしたマスタリングソフト、WaveLab 9の実力

3月15日、Steinbergから波形編集ソフトマスタリングソフトとして実績のあるWaveLabの新バージョン、WaveLab Pro 9(オープン価格:実売55,000円前後)およびWaveLab Elements 9(オープン価格:実売9,500円前後)が発表され、3月末からパッケージ版の発売が開始されます。今回のWaveLab 9シリーズはユーザーインターフェイスが大きく刷新され、とても使いやすくなった一方、ある意味Cubaseと一体化したといってもいい、シームレスなソフトへと進化しているのです。

 

つまりCubaseでの音楽制作の一連の流れとしてマスタリング部分にWaveLab 9を使うことができ、マスタリング作業中に「やはりミックスから修正したほうがいいかも…」と思ったら、そのままCubaseに戻って差し替えた上で、続きのマスタリング作業を行う、ということを可能にしているのです。さらに、ほかのマスタリングソフトにはないステレオ処理とMS処理の相互編集という画期的な機能まで搭載しているのですが、実際どんなソフトなのか、その概要について紹介してみたいと思います。


Cubaseとの連携機能や強力なマスタリングエフェクトなどを装備して新登場したWaveLab Pro 9

国内で圧倒的な人気を誇るDAW、SteinbergのCubaseですが、このCubaseに欠けている機能がマスタリング機能です。確かに最終段のマスタートラックにEQやコンプ、マキシマイザなどをかけて音を整えることは可能だけれど、複数の曲を並べてアルバムとして仕上げるためのマスタリング機能は持っていません。


WaveLab Pro 9のインストール画面

その欠けた点を補完するソフトとしてWaveLabがあり、長年Cubaseとともに進化してきました。ただし、同じSteinbergのソフトではあるけれど、従来CubaseとWaveLabは別々のソフトであり、Cubaseで完成させてから、WaveLabに読み込ませ、ここで作業を行う形になっていたのです。だからこそ、必ずしもWaveLabを使う必要もなく、たとえばiZotopeのOzonなどを使っていた人も少なくなかったかと思います。

ところが、今回のWaveLabの新バージョンは、Cubaseと連携するWaveLab Exchangeという機能が搭載されたことで、Cubaseユーザーにとっては劇的に使いやすいマスタリングソフトに進化したのです。


Cubaseの書き出し機能にて「iXMLチャンクを挿入」にチェックを入れて書き出し 

 

具体的な手順を紹介してみましょう。まずCubaseで出来上がったプロジェクトをWaveで書き出します。この際、「iXMLチャンクを挿入」という項目にチェックが入っているのを確認の上(デフォルトの設定でチェックが入ってます)、作業をし、その後、WaveLabに読み込ませるのはこれまで通り。ここでマスタリング作業を行っていくのですが、マスタリングは魔法ではありません。「やっぱりボーカルはミキシングの段階でもう少し大きくしておきたかった」とか「コーラス隊に掛かっているリバーブが深すぎた」なんていう場合は、無理やりマスタリングで処理するのではなく、Cubaseのプロジェクトに立ち返った上で、ミックスしなおすのが効果的です。でも、従来であれば、マスタリングの段階に入って、そこまで戻るというのは、かなり億劫だったと思います。


WaveLabで編集やマスタリング作業を行っている中で、「プロジェクトを編集」ボタンをクリック 

 

ところが、この新WaveLabでは、「プロジェクトを編集」というボタンをクリックすると、元のCubaseのプロジェクトが立ち上がってきて、ミックスのし直しが可能になるのです。ここでボーカルを大きくしたり、エフェクトの設定を変えた上で、再度「オーディオの書き出し」をして、同じファイル名で上書きすると、もうその時点でWaveLab側も差し替えられるのです。したがって、すでに、ある程度のマスタリング処理を行っていても、その設定をそのままにミックスダウンデータを差し替えることができるんですね。


Cubaseのプロジェクト画面が開き、ここで編集作業やミックス作業に戻ることができる

で、そのマスタリング処理自体の機能・性能も従来バージョンと比較して格段に向上しているのです。中でも注目すべきポイントが「MasterRig」というプラグインの追加。


6種類のマスタリングエフェクトを1つに統合したMasterRig

これは6種類のマスタリングエフェクトを1つに統合したもので、具体的には

・イコライザ
・ダイナミック・イコライザ
・コンプレッサ
・リミッタ
・サチュレーション
・ステレオイメージャー
のそれぞれであり、まさにこれ一つでマスタリングにおける一通りのことができてしまうんです。かなり強力ですよ。従来はVSTのラックに一つずつエフェクトをセットしていなかったのと比較すると、格段に使いやすくなっているんです。もちろん、重大通り、ラックに組み込んでいくことも可能ですよ。


4バンドそれぞれにテープか真空管のサチュレータを掛けることができる

以上のことだけでもCubaseユーザーなら、すぐにでも買っておくべきソフトといえると思うのですが、WaveLab Pro 9には、さらに画期的な機能が搭載されているんです。それが、MS編集という機能です。


 通常のLとRのステレオでの波形表示

 

MSとはMid/Sideのことで、古くはノイマンのUSM69といったマイクで採用されていた方式で、Mid=中央と、Side=左右を捉える2つのマイクを活用することで、真ん中の音を狙ったり、左右の広がりのある音を作ったりと、録音した後から調整を可能にするちょっと不思議な方式のものです。


画面左下のボタンをクリックするとMSのステレオ画面に切り替えることができる

といっても仕組みはものすごく原始的なものでLとRのチャンネルを
L=M+S
R=M-S
で生成できるため、MとSのバランスを調整することで、音の広がりやセンターのパンチ力を変えることができるのです。で、それとは反対にすでにLとRのステレオデータがある場合、ここからMとSを生成することもできます。単純な方程式ですが
M=L+R
S=L-R
となるわけです。こんな話をしていると、頭が混乱しそうですが、この相互変換をボタン一つでできるようにしたのが、今回のWaveLab Pro 9なのです。

 

では、普通のLRのステレオと、このMSのステレオを相互変換できるとどんないいことがあるのでしょうか?たとえばSはそのままにMだけを大きくすると、曲全体の雰囲気はそのままにメインボーカルだけをよりハッキリと強くすることができたり、MはそのままにSを上げていくことで、芯はしっかりとボヤっとさせずに、広がりのある音にしたり……という普通のエフェクトでは処理できないことが可能になるのです。


Mだけ、Sだけにエフェクトを設定するといったことも簡単 

 

このMS編集の仕方については、改めてノウハウ記事を書いても面白いかなと思っていますが、こんなことが簡単にできるのがWaveLab Pro 9なんですね。また、エフェクトも通常のステレオにルーティングさせるだけでなく、Mだけにかけたり、Sだけにかけたりと独立して別のエフェクトが設定できるのもユニークなところです。従来からもMS処理に対応したプラグインというものは存在していましたが、このWaveLab Pro 9なら、ごく一般的なエフェクトでもMS処理で活用できてしまうというのが非常に大きなポイントとなっているんですね。この辺はいろいろと活用方法が考えられそうですね。


WaveLab Elements 9はMasterRigの機能が簡易版であるなど制限はあるが、かなり使える 

 

なお、WaveLab Elements 9にはMS処理機能が搭載されていないほか、DDP書き出し機能がなかったり、前述のMasterRigも簡易版になっているなど、制限がいろいろあります。ただし、Cubaseとの連携機能はWaveLab Elements 9でも持っているので、CubaseからCDマスタリングをして、CD-Rに焼ければいい、というのであれば、安いバージョンでもそれなりに使えそうです。


WaveLab Pro 9(左)とWaveLab Elements 9(右)のパッケージ写真 

 

でもWaveLab Pro 9があれば、完全にプロの業務用マスタリングソフトとして使える非常に高性能・高機能なものになっている、といえるわけですね。

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【関連情報】
WaveLab 9製品情報

 

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