Vienna Symphonic LibraryやUVI Orchestral Suite、EastWest Symphonic Orchestraなど、各社から発売されているオーケストラ音源。昨年末のニコニコ生放送DTMステーションPlus!では弦楽器だけをまとめたNIのSYMPHONY SERIES STRING ENSEMBLEを取り上げたりしましたが、国内外で評価が高いのが、IK MultimediaのMiroslav Philharmonik(ミロスラフ・フィルハーモニック)という音源で、海外の掲示板などでもViennaとどちらがいいか…といった議論が活発にかわされています。
先日、そのMiroslav Philharmonikの新バージョン、Miroslav Philharmonik 2がリリースされ、オーケストラ音源の世界ではちょっとした話題になっています。実際、どんなものなのかインストールして使ってみたので、「オーケストラ音源って何?」という人のためにも、基礎的な話も含めて紹介してみたいと思います。
55GBものサンプリングデータを使ったオーケストラ音源、Miroslav Philharmonik 2
まずは、そのMiraslav Philharmonik 2の紹介ビデオがあるので、以下をご覧ください。
英語のビデオではありますが、なんとなくお分かりいただけたかと思います。このビデオに出ていたポイントを箇条書きで並べると、
・ジャズ界の巨匠、ミロスラフ・ヴィトウス氏との共同開発
・2,700以上の楽器サウンドを収録
・55GB以上のハイレゾサウンドライブラリ
・スイッチ操作で簡単にアーティキュレーションを実現
・マクロ機能でサウンドをすばやくエディット
・SampleTank 3搭載の34のプロ用エフェクト搭載
・空間を3Dで視覚化するコンボリューション・リバーブ
・豊かな音楽表現を可能にする3つのユーザー・インターフェイス
・スタンドアロンとしてもプラグインとしても動作
・SampleTank 3用ライブラリとしても利用可能
といったものが、特徴として挙げられます。
伝説のジャズ・ベーシストであり、Miroslav Philharmonikの開発者であるMiroslav Vitous氏
このMiraslav Philharmonikは、ウェザー・リポートのメンバーとしても知られるチェコのジャズベーシスト、Miroslav Vitous氏とIK Multimediaが共同で開発したもの。Wikipedia情報によれば、Miroslav氏は「心身疲弊を理由に1993年以降は演奏活動を休止する。しかしその期間中に音楽的なオーケストラ・サウンド・サンプルの制作の為に私財50万ドルと8年間を費やし、自ら作曲したモチーフをチェコ・フィルハーモニー管弦楽団の演奏で収録したライブラリー音源、Miroslav Philharmonikを完成させた」のだとか。今回のMiroslav Philharimonik 2は、その後継というわけですね。
オーケストラで使われる、全楽器のサンプリング音がここに収録されている
サンプリングのライブラリを見ると、Miroslav Philharmonikの最初のバージョンの音色をすべて包含しつつ、さらに新しい音色が加わっているのですが、内訳としては
ストリングス:858
ブラス:349
木管楽器:393
コーラス:119
パーカッション:774
クロマティック楽器:96
グランドピアノ:8
その他クラシック楽器:48
となっています。たとえばストリングスのを見てみると、この音源がどんなライブラリなのかが見えてきます。まずは複数で演奏するアンサンブルと1台の楽器で演奏するソロの2系統があり、それぞれビオラ、バイオリン、チェロ、コントラバスと分れています。
バイオリンだけを見ても、これだけ細かく分かれている
そしてアンサンブルのバイオリンを見ると、アーティキュレーション=奏法ごとに、さまざまな音色が用意されています。サステイン、デターシェ、スタッカート、スピカート、ピッチカート……。さらに、細かくみると、同じサステインの中でも、弾く強さによってff、mf、p、pp……など14種類にも及ぶといった具合。
まあ、こんなにいっぱいあったら、どう使っていいか分からなくなりそうですが、これらを1つにまとめた「14 Violins Multi」、「14 Violins Multi + 1st Violin」という音色が用意されています。つまり14人で弾いたバイオリン、それに1stバイオリンを加えたもの、というわけですが、ここには、さまざまなアーティキュレーションすべてが入っているんです。
低音の鍵盤をスイッチにしてアーティキュレーションを切り替える仕組みになっている
どういうことかというと、低音の鍵盤がアーティキュレーションを切り替えるスイッチとなっており、それで切り替えながら使っていくんですね。以下にこのバイオリン音源を使ったデモ演奏を置いたので、ちょっと聴いてみてください。
同様に、トランペット、ファゴット、グランドピアノなどのデモもあるので、聴いてみると、この音源の雰囲気がつかめると思います。
さらに、やはりオーケストラですから、これらの楽器を組み合わせたマルチという音源があるのが大きなポイントです。具体的には
・Brass Ensemble
・Full Orchestra Live
・Full Orchestra Live + Percussions
・Full Orchestra Live + Timpani
・Full Orchestra Scoring
・Strings Ensemble 1
・Strings Ensemble 2 + 1st
・Strings Quartet 1
・Strings Quartet 2
・Woodwinds Ensemble
の計10種類です。
たとえばストリングスのアンサンブルの場合、キーの高さによって音源が変わっていくわけですが、それを使ったデモが以下のもの。ちょっと感動してしまうような音ですよね。
さて、これだけ音色があるとはいえ、作り手として、少し音を調整したいと思った場合、どうしたらいいのでしょうか?さすがに、どこから手を付けていいのか、わからなくなりそうですが、それぞれの音色のまさに勘所ともいうべきポイントを抽出したマクロ・パラメータというものが用意されています。
各音色ごとに音色エディットのための勘所となる要素を取り出したマクロ・パラメータ
鍵盤の上に表示される8つのパラメータであり、音色によって、その中身は変わってくるのですが、1つのコントロール・ノブで複数のパラメータをセットで制御できるようになっているため、誰でもすばやく簡単に、そしていい感じに調節できるというのも重要なポイントですね。
シンセサイザ的に細かく音色エディットしていくことも可能
さらに、細かく調整したいという場合は、サンプラーですから、シンセサイザ的に音色をいじっていくEDIT機能というものも用意されていますよ。
SampleTank 3やT-RackSのエフェクトを34種類厳選し、搭載している
さらに、音を調整するという意味では、エフェクトが充実しているのもMiroslav Philharmonik 2の大きなポイントです。イコライザ系やダイナミックス系など、IK MultimediaのSampleTank 3やT-RackSシリーズから厳選した34のプラグインエフェクトが、ここに搭載されており、それらをすぐに使うことができるようになっているのです。
実際の音場を再現するコンボリューションリバーブは4種類を搭載
また、リバーブに関してはこれらエフェクトとは別に、実際の教会やコンサートホールなどの空間をシミュレーションするコンボリューションリバーブが搭載されています。このコンボリューションリバーブは3D画像で視覚化されるようになっているので、より雰囲気がわかって面白いですね。
IK Multimediaのツール、Authorization Managerを使ってダウンロードする
といったところが、Miroslav Philharmonik 2の概要です。やはりアコースティック楽器の集大成ともいえるオーケストラを再現するサンプリング音源であるだけに、その容量も膨大で、トータルで55GBにも及ぶのです。
16分割されたファイルをダウンロードし、1つずつインストールするので、結構手間はかかる
さすがに、これだけの大容量の音源をダウンロードしてインストールするというのは、結構大変。ダウンロードファイルが16分割されており、それらをダウンロードし、1つずつ解凍、インストールすると、やはり半日近くかかってしまいました。ただ、それだけの価値は十分にある音源だと思いました。
SampleTank 3のライブラリとしてMiraslav Philharmonik 2を利用することもできる
このように、見た目は完全にオーケストラ音源のGUIになっているMiroslav Philharmonik 2ですが、そのエンジンはSampleTank 3を用いているので、SampleTank 3の拡張ライブラリとして利用することも可能となっています。また、Miroslav Philharmonik 2を購入すれば、SampleTank 3もバンドルされているんですね。
気になる価格はというと、IK Multimediaの直販で通常版が499.99ユーロ。日本語ですべてやりとりでき、国内決済ができるbeatcloud.jpでは税込み66,960円となっているので、これを使うのがわかりやすいと思います。
beatcloud.jpを使ってクロスグレード版で入手するのが安い!
また、beatcloud.jpでは、旧バージョンであるMiroslav Philharmonikからのアップグレード版が39,960円、またIK Multimedia製品ユーザーであれば、誰でも利用できるクロスグレード版なら54,000円となっています。つまり、これから初めて買うのであれば、クロスグレード版を使うのが一番安いわけで、もしIK Multimedia製品を持っていないのであれば、事前に4,000円弱のiRingを入手したり、2,400円のSampleTank iPhone/iPad版を購入/ユーザー登録ておけば、グッと安くなります。