独自の進化を加速するTASCAMリニアPCMレコーダー、DR-44WLが面白い

以前にも「MTR機能を持つリニアPCMレコーダー、DR-44WLとDAWの連携術」という記事で紹介したことがあった、TASCAMのDR-44WL。単なる「リニアPCMレコーダー」という枠に収まらない数多くの機能を備えたアイテムとなっているので、個人的にも持ち歩いて使っています。また、ときどきニコニコ生放送のDTMステーションPlus!においては、コンデンサマイクとしても活用しているので、ご覧になった方もいるかもしれませんね。

そのDR-44WLは頻繁にファームウェアのアップデートを行いながら、どんどん新しい機能が追加されているのですが、先日リリースされた1.20というファームウェアでは、ついに地理情報まで埋め込めるようになり、新しい世界へと突入していっています。このDR-44WLはどんなことができる機材なのか、改めて紹介してみたいと思います。

従来のリニアPCMレコーダーの範疇を超えて進化を続けているTASCAMのDR-44WL(右)、左はリモコンとして機能するiPhone


そもそも「リニアPCMレコーダーって何?」という人もいるかもしれませんね。誤解を恐れずに一言で説明すれば「できる限り高音質で録音するための機材」とでもいえばいいでしょうか?MP3やAACのような圧縮形式ではなく非圧縮のWAVのファイル形式で、レコーディングする機材であり、DR-44WLのようなハンディータイプの高品質マイク搭載の機材が主流になっています。


DR-44WLには高性能なマイクが搭載されている

つまり、これさえもっていけば、どこでも高音質で生録音ができてしまうというわけです。最近はミュージシャンのライブでも録音OK、なんていうのもあるので、そうしたところへ持ち込めば、まさに会場の空気感も含め、観客席ならではのライブ音源が作れてしまうのは楽しいですよ。もちろん、録音NGのときに盗み録りしたら、犯罪者になってしまうから、気をつけてくださいね!

また、子供のピアノの発表会に持ち込むといった使い方にもピッタリ。多くの人たちは、ビデオカメラを持ち込んで撮影していると思いますが、高画質化したビデオカメラも映像重視で、音は二の次、三の次というのが実情。DR-44WLであれば圧倒的にいい音で録れるだけでなく、iPhoneやAndroidなどのスマホを使ってリモコン操作できるのが大きなポイント。ステージ近くに三脚を使ってDR-44WLをセッティングしておきながら、操作は観客席からできてしまうので、人の邪魔をすることなく、録音ができますからね。

そのDR-44WLは「Wi-Fi接続対応リニアPCMレコーダー」としてはDR-22WLと同時に発売された兄貴分のほう。DR-22WLが2chレコーディングなのに対し、DR-44WLは4chのレコーディングができるほか、4トラックのMTRとしても使えるという仕様となっているのです。


DR-44WLのサイドパネルにあるWi-Fiボタン

その「Wi-Fi接続」というのが独特なものであり、多くの人は「なぜ、リニアPCMがWi-Fi対応なんだ?」と疑問に思うところですが、先ほど例として紹介したスマホからのリモコン操作というのが、まさにWi-Fi接続の機能なのです。普通Wi-Fi接続というと、「Wi-Fiの電波が入るアクセスエリアでインターネットに接続して……」ということを思い浮かべると思いますが、DR-44WLやDR-22WLでのWi-Fi接続はちょっと違うんです。これらの機材の側面にあるWi-Fiボタンを押すと、このリニアPCMレコーダー自体がWi-Fiの電波を発信するようになり、ここにiPhoneやAndroidを接続する形になるのです。だから、電波がまったく来ていない地下室であっても、電波が遮断されたホールの中でも利用できてしまうわけなのです。


iPhone上で起動させたTASCAM DR CONTROLの画面

では、スマホ側は何をどうするのでしょうか?こちらは、iPhone用、Android用それぞれに「TASCAM DR CONTROL」というアプリが無償配布されているので、これをインストールして使います。事前にDR-44WLとスマホをWi-Fi接続した上で、TASCAM DR CONTROLを起動すると、自動的にDR-44WLを認識してくれ、スマホ側で操作できるようになります。

スマホ上に表示される画面はDR-44WLの液晶画面とほぼ同じ。この画面のボタン操作で録音、再生ができるのはもちろんのこと、録音のフォーマットの変更や4chモードとMTRモードの変更、リバーブの設定変更といった操作も可能です。

たとえばRECボタンを押すとレコーディング準備状態に入るのですが、現在マイクから入力されている音量レベルメーターもスマホ上で確認でき、ここで入力レベル調整もできてしまうので、従来のイメージのリモコンの域を遥かに超えていますよね。

さて、ここに最新版のファームウェア、1.20で追加されたのが、冒頭でも触れた地理情報の記録機能です。「リニアPCMレコーダーに地理情報ってどういうこと?」と思う方が大半だと思うので、これについても説明しましょう。

地理情報とは、まさに地球上のどこの場所なのかを示す情報であり、国内であれば北緯○○度、東経○○度というかなり細かな情報です。たとえば、DR-44WLを野外に持ち出して、鳥の鳴き声を録る…といったフィールドレコーディングの場合、音と同時に地理情報も記録できれば、後でどこで録った音なのかをしっかり確認できますよね。


スマホ上で情報を見ると地理情報に基づき、地図も表示できる

もちろん、ライブハウスでのレコーディングや、ピアノの発表会の録音だって、あとからどこで録音したものなのかを確認できれば、何かの役に立つかもしれませんよね。

でも、DR-44WLにGPS機能を装備しているというわけではありません。どうやって地理情報を掴むのかというと、スマホに搭載されたGPS機能でそれを把握し、TASCAM DR CONTROLを使ったリモコン操作を行う際に、これをDR-44WLへとデータ転送して記録させるのです。


録音フォーマットをBWFに設定するとともにXRIモードをON+GPSに設定

この際、DR-44WL側では録音のフォーマットをBWFに設定し、XRIモードを「ON+GPS」に設定しておく必要があります。BWFとはBroadcast Wave Formatの略で、一般的なWAVファイルの拡張版。基本的にはWAVファイルと同じものであり、普通に互換性もあるのですが、ここに各種情報を埋め込めるようになっているのです。


記録した地理情報はDR-44WL上で確認することができる

その情報としてTASCAMが定義するXRI(eXtended Recording Information)というものを埋め込む形になっているわけなのです。ちょっと込み入った話で難しく思えた方もいるかもしれませんが、使い方自体はいたって簡単。単純にモード設定して、TASCAM DR CONTROLで操作すればいいだけなのです。


TASCAMが提唱するBWFに各種情報を定義するXRIのロゴ

記録したデータについてはDR-44WL上でチェックできるのはもちろん、PC上でもチェックすることは可能です。たとえばCubaseに読み込ませると、そのままLATITUDE(北緯)、LONGITUDE(東経)としてデータが表示されるし、それ以外にも、どのレコーダーで記録したのが、それが何時何分何秒なのか、入力レベルはいくつで、LOW CUTのオン/オフ、エフェクトのオン/オフがどうなっているのかなど、いろいろな情報が入っているのが分かると思います。

Cubaseに読み込ませると、地理情報ほか、各種情報が確認できる

 

こうした情報をどう活用するかはユーザー次第ではありますが、リニアPCMレコーダーの世界はまだまだ発展しているようですよ。

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