8月12日、米ACOUSTICA社のDAW、Mixcraft 7およびMixcraft Pro Studio 7という製品がディリゲントから発売になりました。国内では前バージョンであるMixcraft 6の時代から発売されていたので、今回の製品が第2弾となりますが、それぞれ実売が10,000円と20,000円(税別)という手ごろなソフトです。
安価なので初心者用DAWとして使うのにもピッタリなのですが、実はCubaseやSONAR、Studio One、Ability、Live……といったDAWを持っている人にとっても超お得なパッケージなんです。というのも、ここには膨大なVSTプラグイン、VSTインストゥルメント、さらにループ素材がバンドルされており、これらを他のDAWでもそのまま使うことができるからです。Windows限定ではありますが、プラグイン集ともいえるユニークなDAWについて紹介してみたいと思います。
数多くのプラグインがバンドルされているDAW、Mixcraft 7
DAWを購入すると、ソフトウェア音源、エフェクトを含め、数多くのプラグインがバンドルされていますよね。どんなプラグインが付いてくるかが、DAW選びの一つの決め手になっているのも事実だと思いますが、難しいのが互換性です。たとえば、SONARに入っているD-PROをCubaseで使おうと思っても動かないし、Cubaseに入っているLoopMashをLiveで使おうと思ってもダメですよね。
どれもVSTの規格に則ったプラグインではあるけれど、動かないのは互換性がないというよりも、プロテクトによってわざと使えないようにしているんですよね。「そのプラグインを使いたいなら、ウチのDAWを使えよ!」って。
それがDAWの常識ともなっているわけですが、その中でちょっと太っ腹というか、掟破りなDAWが登場してきました。それが、今回紹介するMixcraftなのです。ここには数多くのソフトウェア音源、エフェクトがバンドルされているのですが、その大半が別のDAWでも使えるようになっているのです。また、7500ものループ素材も付属しており(旧バージョンでは6,500から増えた)、これらも他のDAWで活用可能となっているのです。
まあ、プラグインの話ばかりするのも失礼なので、DAW本体としての機能も簡単に紹介しておきましょう。Mixcraftはエントリーユーザー向けのDAWという位置づけですが、オーディオレコーディング、編集、MIDIシーケンス、ミックス、マスタリングと一通りの機能を装備しており、たぶんこれで困るようなことはないと思います。
オーディオクォンタイズ機能を装備したり、MIDIのステップエディター(ステップシーケンス)も搭載するほか、はAbleton LiveやBITWIG風なパフォーマンスパネルといったものも備えているなど、ほかのDAWに引けをとりません。最新版ではタイムストレッチ関連のエンジンも強化され、かなり高品位なタイムストレッチ、ピッチシフトを実現しているのも特徴となっています。
また、Mixcraft 6からMixcraft 7になっての大きな進化点としては、64bit対応アプリとなったという点です。Windows 7、Windows 8/8.1を使っている大半のユーザーは64bitのOSにしていると思いますが、その64bit OSで最大のパフォーマンスを発揮できるというわけです。もちろん32bit版も用意されているので、32bit OSユーザーも心配はいりませんよ。
Windows 10においても問題なくインストールでき、動作した
Windows 10を使っているDTMユーザーはまだ少ないと思いますが、Mixcraft 7は正式にWindows 10対応となった表記されたので、私の環境でも試してみました。インストールから、レコーディング、プレイバックと使ってみましたが、Windows 10環境でまったく問題なく使うことができますね。
そんなDAW、Mixcraftですが、やはり大きな魅力は膨大なVSTプラグインが搭載されていることです。Mixcraft 7とMixcraft Pro Studio 7でバンドルされている内容に違いがあるのですが、まずはソフトウェア音源は以下のようになっています。
搭載インストゥルメント | Mixcraft 7 | Pro Studio 7 |
ME 80 Vintage Analog Synthesizer | ◯ | |
ME 80 Version 2 | ◯ | |
Memorymoon Vintage Analog Synthesizer | ◯ | |
Acounstica Pianssimo Virtual Grand Piano | ◯ | |
Glass Viper | ◯ | |
Impluse | ◯ | ◯ |
Messiah | ◯ | ◯ |
Minimogue VA | ◯ | ◯ |
VB3 Organ | ◯ | ◯ |
Acoustica Instruments | ◯ | ◯ |
Acoustica Expanded Instruments | ◯ | ◯ |
Acoustica Studio Drums | ◯ | ◯ |
Alien 303 Bass Synthesizer | ◯ | ◯ |
Lounge Lizard Electric Piano | ◯ | ◯ |
Combo Organ Model F | ◯ | ◯ |
Combo Organ Model V | ◯ | ◯ |
Jouneys | ◯ | ◯ |
Renegade | ◯ | ◯ |
Alpha Sampler | ◯ | ◯ |
Omni Sampler | ◯ | ◯ |
たとえばProphet5をエミュレーションするMessiahは、なかなかいい音がするし、MinimoogをエミュレーションしたMinimogueVAもアナログシンセの暖かいサウンドです。またHammond B3オルガンをエミュレーションしたVB3 Organ、RolandのTB-303をイメージさせるAlien 303 Bass Synthesizerといったものが標準版のMixcraft 7に搭載されています。
また実はフリーウェアから持ってきているのですが、1960年代のコンボオルガンのエミュレータとしてFarfisaコンボオルガンを再現したCombo Organ Model F、以前iOSアプリを取り上げたVOX Jaguarを再現したCombo Organ Model Vなんかも、なかなか使える音源ですね。
コンボオルガン、VOX JaguarをエミュレーションするCombo Organ Model V
さらに上位版のMixcraft Pro Studio 7にはYAMAHAのCS80をエミュレーションしたME80 Vintage Analog Synthesizer、MemorymoogをエミュレーションしたMemorymoon、そしてアコースティックピアノ音源のAcounstica Pianssimo Virtual Grand Piano……などなど、魅力的な音源がいっぱいです。
YAMAHAのCS80をエミュレーションするME80 Vintage Analog Synthesizer
一方、エフェクトのほうのバンドルは以下のとおり。
エフェクトプラグイン | Mixcraft 7 | Pro Studio 7 |
Acoustica 31 Band EQ | ◯ | |
Acoustica Pro Studio Reverb | ◯ | |
Dubmater Liquid Delay | ◯ | |
FAT+ | ◯ | |
Ferox Tape Emulator | ◯ | |
FSQ1964 Transien Vitaliser | ◯ | |
GSXL4070 Vintage Parametric EQ | ◯ | |
iZotope Mastering Essentials | ◯ | |
Mid-Side Envelope Follower+ | ◯ | |
Mid-Side Harmonic Vitaliser+ | ◯ | |
Mid-Side Stereophase Filter+ | ◯ | |
TB Gate | ◯ | |
TB Parametric Equalizer | ◯ | |
TimeMachine Bit Crusher | ◯ | |
Twisthead VS-206 Preamp | ◯ | |
XBass 4000L Bass Enhancer | ◯ | |
Fusion Field Convolution Reverb | ◯ | |
SideKick6 Sidechaining Compressor | ◯ | |
Studio Devil Virtual Bass Amp | ◯ | |
Dubshox Multiband Distortion | ◯ | |
Treblecream | ◯ | |
TRW-1 Vacuum Tube Triode Warmer | ◯ | |
VTC-1 Vacuum Tube Compressor | ◯ | |
POD4500 Particle Delay | ◯ | |
PSEQ-1 Vacuum Tube Passive EQ | ◯ | |
VBE-1 Vacuum Tube Bass Enhancer | ◯ | |
Zener Limiter LM-2Z | ◯ | |
Acoustica Chorus | ◯ | ◯ |
Acoustica Compressor | ◯ | ◯ |
Acoustica Delay | ◯ | ◯ |
Acoustica Distortion | ◯ | ◯ |
Acoustica EQ | ◯ | ◯ |
Acoustica Flanger | ◯ | ◯ |
Acoustica Reverb | ◯ | ◯ |
Classic Auto-Filter | ◯ | ◯ |
Classic Chorus | ◯ | ◯ |
Classic Compressor | ◯ | ◯ |
Classic Delay | ◯ | ◯ |
Classic EQ | ◯ | ◯ |
Classic Flanger | ◯ | ◯ |
Classic Master Limiter | ◯ | ◯ |
Classic Phaser | ◯ | ◯ |
Classic Reverb | ◯ | ◯ |
Voxengo Amp Simulator | ◯ | ◯ |
Voxengo Spectrum Analyzer | ◯ | ◯ |
Acoustica Flanger | ◯ | ◯ |
GTune Guitar Tuner | ◯ | ◯ |
VocalZap | ◯ | ◯ |
Pultronic Tube EQ | ◯ | ◯ |
Shred Amp Simulator | ◯ | ◯ |
Broadcast Multiband Compressor | ◯ | ◯ |
GSnap Pitch Correction | ◯ | ◯ |
Mixcraft 7、Mixcraft Pro Studio 7ともに、膨大なエフェクトがバンドルされているのが分かりますよね。いくつか面白いところをピックアップしてみると、たとえば
・TRW-1 Vacuum Tube Triode Warmer
・VTC-1 Vacuum Tube Compressor
・PSEQ-1 Vacuum Tube Passive EQ
・VBE-1 Vacuum Tube Bass Enhancer
という4つは真空管を使ったコンプレッサやEQなどで、これらを通すことでアナログっぽい暖かいサウンドにすることができます。
真空管を使ったコンプ、VTC-1 Vacuum Tube Compressor
Dubshox Multi-band Distortionは、かなり激しいディストーションの一種なのですが、ロー、ミッド、ハイの3バンドで、それぞれ歪み具合を調整できるというもので、DUBSTEP系の音楽でかなり効果を発揮しそうです。
DUBSTEP用に最適なディストーション、Dubshox Multi-band Distortion
また、Mixcraft Pro Studio 7の目玉となっているのが、iZotope Mastering Essentialsです。その名の通り、マスタリング用のトータルなエフェクトとなっており、マスタリングEQ、リバーブ、マスタリングコンプをセットとしたもの。マスタリングコンプは真空管アンプを使った感じ音に仕立てるのが特徴となっています。
Mixcraft Pro Studio 7にバンドルされているマスタリングエフェクト、iZotope Mastering Essentials
では、これらのエフェクトすべてが、ほかのDAWで使えるのかというと、100%ではありませんでした。表の中で暗い色になっているところは他のDAWで使えないものを意味しています。たとえば、今のiZotope Mastering Essentialsなどは、ほかで動かないようにプロテクトがかかっているようですね。
またAcousticaのエフェクト7種類については、そもそもVSTプラグインではなく、Mixcraft専用のエフェクトとなっているため、使えないようですが、まあベーシックなエフェクトなので、あえてこれを別のDAWで使うこともないでしょう。
SONARのプラグインフォルダとして「C:\Program Files\Acoustica Mixcraft 7\VST」を追加
では、これらVSTエフェクトを他のDAWで使うための方法を簡単に紹介しておきます。このプラグインはすべて「C:\Program Files\Acoustica Mixcraft 7\VST」に収められているので、DAWでプラグインのフォルダとしてここを追加すればOKです。
SONARでMixcraftの各種プラグインを利用することができた
組み込む途中で、Fusion FieldおよびGlass Viperで「使えない!」というメッセージが出ると思いますが、これは仕方ないので、OKをクリックして進めてください。一方、SideKick6 Sidechaining Compressorも使うことができず、やはり別の警告が出るのですが、Cubaseで試してみたところ、致命的なエラーが発生し、そのために、すべてのプラグインの組み込みができなくなってしまいました。
これを回避するためには、Mixcraft上で使えなくなることを覚悟の上、「C:\Program Files\Acoustica Mixcraft 7\VST\Pro Studio」にあるSideKick6 Sidechain Compressor.dllを削除してしまうのが1つの方法。また、削除するのには抵抗があるというのであれば、VSTフォルダごと別のところにコピーした上で、コピーした先で当該ファイルを削除し、そのフォルダを組み込むといいですね。
以上、Mixcraft 7について紹介してみましたが、いかがだったでしょうか?もちろん、DAWとしてそのまま使ってもいいし、ほかのDAWと組み合わせてプラグインや素材集だけを活用するというのも手。手ごろな価格なので、現在使っている音源やエフェクトに物足りなさを感じていれば試してみる価値はあると思いますよ。
【関連情報】
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