レコーディングにおいて、もっとも重要な役割を果たすものの一つがマイクです。このマイクにどのメーカーのどんな製品を使うかによって、録れる音はずいぶんと大きく違ってくるからです。そのため、プロのレコーディング現場では、複数のマイクを試してみて、もっともマッチするものを選択するということもあるくらいですが、多くのマイクを持つなんてこと、一般ユーザーにとっては非現実的ですよね。
でも、モデリングという手法を用いて古今東西のさまざまなマイクを試すことができるアプリがあるんです。IK MultimediaのMic RoomというiPhone/iPad用のアプリがそれです。たとえばShure(シュア)のSM57やSM58、Neumann(ノイマン)のU87、AKGのC414、Sennheiser(ゼンハイザー)のMD421……と、プロ御用達のマイクの音を簡単にモデリングして、その音でレコーディングできてしまうんですよね。実際に使ってみたので、どんなものなのか紹介してみましょう。
IK Multimediaのマイクモデリングアプリ、Mic Room
IK Multimediaが開発したMic Roomは現在App Storeで960円で発売しているiPhone/iPad対応のアプリ。これを利用することで、さまざまなマイクを持っているかのような感覚で、レコーディングができてしまうのですが、どうやって使うのでしょうか?
ボーカル用としてお馴染みのダイナミックマイク、ShureのSM58風な音にできる
まずMic Roomを用いるには、とりあえずマイクが必要となります。もっともシンプルなところでいえば、iPhone/iPadの内蔵マイク。これで捉えた音が、SM58風、U87風の音になる、というわけですが、それって、なかなかスゴイと思いませんか?
もちろん、内蔵マイクでマイクモデリングするよりも、もう少し高性能なマイクで音を捉えるほうがより、正確な音でのモデリングが可能になります。そのマイクとして利用できるのがIK Multimediaが出しているiRigマイクシリーズです。
元になるマイクとして各種iRigマイクシリーズが選択できる(デジタル接続のものは自動認識)
そのiRigマイクシリーズ、以前に記事でも紹介したことのあるiRig Mic Fieldのほか、ハンドヘルド型のコンデンサマイクであるiRig Mic、iRig Mic HDといったものがあるほか、もっともお勧めなのは先日発売されたばかりのラージ・ダイアフラムのコンデンサマイク、iRig Mic Studioです。非常にフラットな特性で、小さな音まで確実に捉えることができるから、正確にマイクモデリングができるんですね。
先日発売されたばかりのIK Multimediaのラージ・ダイアフラムのコンデンサマイク、iRig Mic Studio
でも、マイクモデリングとは、そもそも、どんなものなのでしょうか?マイクはモノによって周波数特性や周波数帯域ごとの音圧、またノイズの入り具合など、さまざまな違いがあります。そのため、どのマイクでレコーディングしたのかによって、同じボーカル、同じ楽器を録っても、ずいぶんと違う聞こえ方になってくるのです。そこで、元のマイクの特性を目的のマイクの特性にリアルタイムに変換するシミュレーション技術、マイクモデリングが誕生したのです。
当然、マイクモデリングを行うソフトは、元となるマイクの特性も、目的となるマイクの特性も十分知った上で変換を行っているわけで、Mic RoomはiPhone/iPad内蔵マイク、そしてiRigマイクシリーズの特性を知っているわけですね。
Mic Roomでモデリングできるマイク
では、Mic Roomでどんなマイクをシミュレーションしてくれるのでしょうか?具体的には、以下のとおりです。
マイク種類 | メーカー | 型番 | 標準/別売 |
コンデンサマイク | Neumann | CMV-563 | オプション |
AKG | C12 | 標準 | |
Neumann | U67 | オプション | |
Neumann | U87 | 標準 | |
Neumann | TLM170 | オプション | |
AKG | C414 | 標準 | |
Groove Tubes | MD1b-FET | オプション | |
Brauner | VM1 | オプション | |
Electro-Voice | RE20 | オプション | |
ダイナミックマイク | Shure | SM57 | 標準 |
Shure | SM58. | 標準 | |
Sennheiser | MD421 | 標準 | |
Sennheiser | MD441 | オプション | |
Sennheiser | MD609 | オプション | |
AKG | D20 | 標準 | |
リボンマイク | Royer | R121 | 標準 |
Beyerdynamic | M160 | オプション | |
Groove Tubes | VELO-8 | 標準※ | |
その他 | Shure | Model 55 | 標準※ |
電話マイク | 標準 | ||
※iRigマイクユーザーが登録すると利用可能になる限定モデル |
コンデンサマイク、ダイナミックマイク、リボンマイクと、著名なマイクがズラリと揃っていますよね。オプションとなっているものは、アプリ内課金で購入するというもので、各240円となっていますが、それらをまとめたMic Pack 2というものが1,200円で販売されているので、いろいろ試してみたいなら、それを入手するのが良さそうですね。実際に、iRig Mic StudioをiPhoneに接続して試してみたところ、モデリングするマイクを切り替えると、その瞬間にガラリと音の雰囲気が変わることを実感できます。
マイクモデリングという技術自体は、かなり以前からあるもので、著名なものとしてはRolandのCOSMマイクモデリングというものがありました。昔、一世を風布したハードディスクレコーダー、VS-880EXなどにも搭載されていたので、使った経験のある方もいらっしゃると思います。ただ、最近、Rolandも前面に出していないし、他社からもあまり製品がなかったんですよね。
プロのレコーディングスタジオのデファクトスタンダード、NeumannのU87のモデリングは標準でサポート
このMic Roomを使ってみて最初に感じるのは、薄らと入っているホワイトノイズの聴こえ方の違い。「サー」という音が「シュー」となったり、「スー」となったり、雰囲気が違います。また、それに伴い、捉えるボーカル、ギター、ピアノなどの音の雰囲気も変わってくるので、いろいろ試してみるだけでも、かなり楽しいですよ。
でも「音質が変わるのは分かるけど、コンデンサマイクをダイナミックマイクにしたり、ダイナミックマイクをコンデンサマイクにすることはできないのでは!?」という疑問を持った方もいると思います。それは、その通りです。コンデンサマイクとダイナミックマイクでは、音の特性だけでなく、使い方が違いますからね。ダイナミックマイクなら、かなり大きな音圧のサウンドもしっかりと受け止められますが、コンデンサマイクでは過大音量となってしまいます。逆にダイナミックマイクでは捉えられない微細な音もコンデンサマイクなら、キャッチできるなどの違いがあるわけで、どんな楽器をどう取るかは、モデリングの元となるマイクの使い方に委ねられます。
Mic Roomでできるのは、あくまでも録った音の変換ですから、持っているものがダイナミックマイクなのに、コンデンサマイクのような使い方ができるわけではないので、ここは要注意ですよ。
LatencyのパラメータをULTERA LOWにセッティングすることで、音の遅れがなくなる
また、Mic Roomを使う上で重要になるのがレイテンシー。シミュレーションにおいては、iPhoneやiPadの演算処理が必要となるため、どうしても音に遅れが出てしまいます。初期設定ではLetencyのパラメータがLOWに設定されているため、明らかにモニターする音に遅れが生じてしまいます。しかし、これをULTRA LOWに設定すると、ほぼ遅れなくモニターできるようになるますから試してみてください。やや古いiPhoneやiPadの場合、ULTRA LOWにすると、ノイズが入ってしまうケースもあります。そんな場合はレイテンシーはありますが、LOWに設定を戻して使ってみてください。
Inter-App Audioを利用することで、GarageBandにMic Roomを使った音をレコーディングできる
さて、このMic Room、リアルタイムにマイクモデリングをして、その音をモニターできるのはいいのですが、この音で録れなくては、まったく意味を持ちません。そこで登場してくるのがAudiobusやInter-App Audioです。
Audiobusを使えばCubasisやAuriaなどのDAWへレコーディングすることも可能
AudiobusやInter-App Audioの使い方については、これまでもDTMステーションで何度も扱っているので、ここでその詳細については割愛しますが、これらを利用することで、GarageBandやCubasis、Auria……といったDAWにレコーディングしていくことができます。
IK MultimediaではAmpliTubeのオプションとしてMic Expansion Packというものが出ているが、用途はギター用に限られる
中には「PCで利用できないのか?」という声もありそうですが、現状PC版のMic Roomというアプリは存在しません。しいて言うとIK MultimediaのAmpliTubeというアプリのオプションとして、AmiliTube Mic Expansion Packというものがあるのですが、これはギターアンプからの音を捉えるマイクのモデリングなので、汎用的に使えるわけではなさそうです。そのため、どうしてもPCでということであれば、まずCubasisなどのアプリでオーディオレコーディングし、それをPCへエクスポートするという手法がいいかもしれませんね。
※追記 2015.7.16
IK Multimediaが各モデルで音を比較することができるSound CloudをUPしていたので、以下に掲載しておきます。結構雰囲気が違って面白いですよ。
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◎App Store ⇒ Mic Room
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