KORG iM1 for iPad開発者に聞く、iM1の120%活用術

先日、「本家KORGが自ら復刻させたiPad版のM1が凄い!」という記事で取り上げて大きな反響のあった、KORGのiM1 for iPad。KORGによると、iPadの有料アプリの総合ランキングでも1位を記録し、日本を含む世界の20か国以上でミュージックカテゴリーの1位を記録した大ヒットアプリとなっているようです。

個人的には大学時代に発売されて、買えなかった憧れの対象であるKORGM1が、こんな身近な存在として完全な形で復刻されるというは、ちょっと特別な思いがします。そんなiM1 for iPadはどのようにして開発されたのか、実際にM1の再現性がどのくらいあるのかなど、KORGの開発メンバーに話を伺ってみました。


KORG iM1 for iPadの開発者3人に色々お話を伺ってみました 


今回、インタビューさせてもらったのは、チームリーダーであり、UIの実装を担当した阪上大地さん、音色を担当した木下勝次さん、UIと全体デザインを担当した高橋和康さんの3人(以下、敬称略)。マニュアルに書かれていない、裏ワザや、90年代のサウンドで演奏するためのテクニックなども伺うことができたので、紹介していきたいと思います。


先日リリースされて大ヒットとなっている1988年リリースのM1を復刻させたKORG iM1 for iPad 

--先日、このiM1 for iPad(以下iM1)を使ってみて、本当に楽しくて、音出しているうちに半日が終わってしまいました。忙しい人にとっては禁断のアプリという気がしてしまいましたが、でもなぜ、今のタイミングでM1を登場させたのですか?

阪上:特に時期に深い意味はないのですが、これまでPolysixMS-20GadgetModuleといろいろやってきた中で、M1ってやってないよね、という社内でもみんな共通の思いがあり、「Moduleの開発が終わったらM1をやろう」という風に自然に決まった感じですね。


iM1 for iPadの開発リーダー、阪上大地さん 

--先日、iM1の記事を書いたところ、ものすごい反響がありましたが、結構多くのユーザーからは「iPhone版はないの?」といった声もありました。CPUパワー的にみれば、iPhone 6やiPhone 6 Plusなら問題なく動くように思いますが、その辺はいかがですか?
高橋:やはり、シンセサイザーをエディットする楽しさを多くの方々に味わってもらいたいので、そのためにはどうしてもiPadの画面サイズが必要だったのです。

阪上:このiM1は以前にPC用ソフトとしてリリースしているKORG Legacy CollectionのM1がベースになっているのですが、それをアレンジして移植を検討した際、やはりiPadの画面サイズが必要でした。


デザイン担当の高橋和康さん 

--KORG Legacy CollectionのM1(以下KLC)は以前にも使いましたが、それを使ったときより、今回のiM1のほうが、圧倒的に楽しく感じるんです!気のせいだとは思うけど、こっちのほうがいい音に聴こえてしまい、「M1ってこんな音も出せるのか!」という再発見もいろいろありました。でも、なんでこんな楽しいんでしょう!?
阪上:キーボードは、Gadgetでも採用していたスマートキーボードを採用していて、スケールに合った演奏が簡単にできるのも楽しさの1つだと思います。
高橋:iPadだと、触って直接操作できるのが大きいのだと思います。マウスでチマチマ操作するより触って操作することで、楽しさは確実に増しますからね。またKLCはどの音色カードを選んでいるか分かりにくかったのですが、今回は色を利用して、より分かりやすいしたのもポイントだと思っています。実は、このカードを表示させるに当たっては、当時の音色カードの実物を1枚1枚スキャンして、起こし直しているんですよ。

M1実機で使われたオプションのサウンドカードを1つ1つスキャンして画面に反映させている
--小さな表示のところまで、ずいぶん細かく、地道な作業をしてるんですね!

高橋:表示されるカード、指で触れると回転するのを止めたり、フリックして反対回しにすることもできるのに気づきましたか(笑)?


回転表示されるカードの動きを止めたり、反対回転させることもできる!?

--ええ?そんなマニアックな裏ワザがあったんですか?

阪上:さらに、裏ワザの表示でいうと、画面右上のKORG M1のロゴを長押ししてみてください。


右上のロゴ部分を長押しすると……なんとリアパネルが表示された! 

--わぁ、これはカッコイイですね!言われなかったら、絶対に気づきませんでした(汗)。こういう遊び心があるアプリって、そこまで気づかなかったとしても、開発者の思いというか、楽しさが伝わってくるんですよね。

高橋:デザインについては、本当にこだわりました。実際、デザインパターンも10種類以上作り、かなり細かく検討して進めていきました。KLCのデザイン、UIをイメージされる方も少なくないと思いますが、テーマはM1の実機のような感じをいかにして再現させるか、ということでした。


2005年にリリースされたKORG Legacy Collection M1

--そのKLCとの関係性について、ちょっと詳しく教えてください。実際のところ、KLCとiM1で音に違いはあるのでしょうか?個人的にはさっき言ったように、iM1のほうがいい音というか、よりリアルな音のように感じてしまいましたが、普通に考えると演算性能から見てPCのほうが処理能力は上ですよね?
木下:音の処理的に見て、PC版のKLCとiM1はまったく同じです。厳密にいうとiPad内蔵のDACとPCに取り付けられているオーディオインターフェイスやDACの種類によって、出音に違いは出てしまいますが、そればかりは仕方ないところかと思っています。ただ、私もM1ラックの実機と比較してみましたが、ほとんど差はありません。デジタル処理部分はKLCもM1実機もまったく同じであり、もちろんサンプリングデータは実機のデータがそのまま入っています。アナログモデリングとは異なり、iM1は実機の音そのものですよ。

サウンドを担当された木下勝次さん
--やっぱり、実機そのものの音なんですね。最初に立ち上がってくるUniverseの音を出すと、ちょっと感激しますよね。
阪上:今回、koishistyleさんにYouTubeの動画を作っていただきましたが、あの動画を見て「音がいい」という反響はすごくありました。

木下:M1って古い時代のシンセですから、いまあえてその音色に注目する人はいなかったかもしれませんが、このビデオなどをきっかけに「M1っていい音だね」と言っていただける方が増えているのはすごく嬉しいですね。実際、みなさんがどの音色を使っているのか、そのランキングをリアルタイムに見れる機能を設けているのですが、みなさん、本当に分かっていらっしゃる。M1を代表するサウンドであるPiano 16’やOrgan 2が上位に入ってくるんですよね。どの音色を選択したかが反映されるため、起動時のデフォルトのUniverseは選択する必要がなく、2位になる傾向が強いですが、これも上位にランキングします。


世界中のユーザーがどの音色を使っているからのランキングがリアルタイムに表示される 

--M1のオルガンって、オルガンとして使うよりも、これをベースとして使ったりしてましたよね。

木下:そうですね。またピアノも、アコースティックピアノをイメージして弾くと「何だこれ」という琴みたいなサウンドですが、ダンス系楽曲の音色として幅広く使われてきました。ただし、80年代、90年代当時のヒット曲に数多く使われたM1のピアノやオルガンの音にするためにはちょっとだけ手順があるんですよ。


オルガンはリバーブを切って、EQのLoを少し持ち上げる

--ぜひ、そのテクニックを教えてください!!

木下:オルガンベースにするためには、まずリバーブを切って、EQで少しLoを持ち上げる。ピアノはリバーブをはずして、エキサイターをかけてやると、昔ハウスで聴かれたあのサウンドになりますよ。あとはブラスアンサンブルなんかも、昔のポップスでよく聴かれた音ですが、、あれはリバーブをはずせば、そのままです。


GadgetでiM1(DARWIN)を使う場合は、Dry/WetでDryに回してエフェクトを切ってしまうのも手 

--って、全部リバーブを外すことばっかりじゃないですか(笑)!
木下:そうなんですよ。M1の使い方の基本はリバーブを外すことです(笑)。

阪上Gadgetの音源、DARWINとしてiM1を使う場合、GadgetにはエフェクトのDry/WetノブがあるのでこれをDryにすれば簡単ですよ!


1988年ごろに配布されていたM1のパンフレット

--確かにM1が出た当時は、まだデジタルリバーブが珍しいころでしたから、M1本体にリバーブが搭載されているというのは画期的でしたもんね。だから、どの音色にもリバーブが深めにかかっているんですかね(笑)。単体でちょっと弾く場合はいいけれど、ほかの音と重なってくると、グワングワンしてしまうし、音が奥のほうに行ってしまいますから、やはりリバーブはオフにする必要があるわけですね。でも、iM1では最初からオフにするという手法もあったわけですよね?
阪上:ここはあえて、M1の実機を再現するという意味で、当時のままの音色にしていて手を加えていません。オプションのカード音色では、M1用のものだけでなく、T1用のものも用意していますが、これらもオリジナルをそのまま再現しています。
木下:ただし、以前、KLCを開発した際に、M1オリジナルにはない新しい音色をいろいろ追加しており、それはiM1にも採用しています。KLCというカードがそれなんですが、ちょっとズルイかもしれませんが、ここにはM1やT1とは関係ない、かなりいい音のドラムなんかも収録しているんですよ。2005年に作られた音色ではありますが、EDM用のリズム音として、とてもいいものが入ってますよ。このカードだけはリバーブが抑え目になっていますね。

阪上:GadgetでEDM用のいいドラム音はないか……なんて言われることもありますが、そのために、KLCカードの入っているドラムを利用するのは手ですね。


当時は248,000円だった本体に加え1枚8,500~13,000円のカードがいっぱい詰まっている 

--なるほど、そうした点まで含めてもKLCとiM1は同じなんですね。だとしたら、KLCより安いiM1を買うほうがお得!?

阪上:KLCのほうは、カード全33種類、計3,300の音色がすべて標準で用意されていて4,980円。それに対し、iM1は一部のカードはオプションとなっていて、M1 Cards Pack、T1 Cards Packそれぞれが600円となっています。6月いっぱいはキャンペーン価格で2,400円となっているので、KLCより安いのは確かですが、標準価格の3,600円にオプションの600円を2つ購入すると4,800円となり、ほとんど同額となります。それを狙って値付けしたわけでもないのですが、結果的にほぼ同じになりました。


先日他界された小川文明さんによる音色カード。1枚のデータ容量は4MB 

--ちなみに、このオプションカードのデータ容量ってどのくらいあるんですか?
木下:本体だけだと4MBほどなのですが、T1のカードも含めすべてのカードの容量を合計すると音色データで65MBほどあります。当時としては大容量だったわけですが、まあ、最近のギガバイト単位のサンプリングデータの容量からすればずいぶん小さいですけどね。ただ、アコースティック楽器の再現の場合はともかく、シンセとか効果音の場合は、サンプリングデータの容量と音の良し悪しは関係ないですから。

--まあ、そう伺うと、やはりオプションのカードも含めて買っておいたほうがよさそうですね。音色の使い方も含め、いろいろと分かってよかったです。ありがとうございました。

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