4月3日、ヤマハからiPad/iPhone版のVOCALOID、「Mobile VOCALOID Editor」が4,800円で発売され(4月13日までは、発売記念価格の3,600円)、App Storeでのダウンロード購入が可能になりました。これまでもVOCALOIDの簡易版的な位置づけのiVOCALOIDシリーズがありましたが、今回登場したものは、PC版のV3版のVOCALOID Editorとほぼ同等の機能を持つだけでなく、MIDIキーボードを使ったステップ入力や、リアルタイム入力など、PC版を上回る便利な機能まで備えたものとなっています。
歌声ライブラリも、VY1やVY2、蒼姫ラピス、メルリはもちろん、ZOLAの3兄弟、ギャラ子、Mewなどが一気に勢ぞろい。さらに、今後はサードパーティー各社のVOCALOID歌声ライブラリも順次登場してくる模様です。このiOS上に登場したMobile VOCALOID Editorとはどんなもので、何ができるのか? またiVOCALOIDと何が違い、PC版のVOCALOID3やVOCALOID4との関係がどうなっているのか、などを整理しながら紹介してみたいと思います。
ヤマハからiOS版のVOCALOIDであるMobile VOCALOID Editorがリリースされた
まずは、具体的な機能を紹介する前に、ヤマハがMobile VOCALOID Editorに関するチュートリアルビデオをいくつか作っているので、その1つ目をご覧になってみてください。これがどんなアプリなのかが、その雰囲気が分かると思います。
これまでiVOCALOIDシリーズを使ったことのある方ならご存知のとおり、iVOCALOIDでは最大17小節までの曲しか入力できなかったり、利用できるパラメータがDYN、VIB、PITの3種類しかないなど、PC版と比較するとUI的に使いやすい面はあるものの、機能面、性能面でイマイチ…と感じていた方も少なくなかったと思います。
16トラック扱え、小節数制限もなくなり、コントロールパラメータも10種類まで対応するようになった
今回登場するMobile VOCALOID Editorは、従来のiVOCALOIDのバージョンアップというわけではなく、まったく新たに登場した新アプリ。iVOCALOIDの使いやすさを継承しつつ、PC版の機能を一通り備えているのです。ただし、ここでいうPC版はV3版のVOCALOID EditorであってV4版に用意されているGrowlやCross-Synthesisには対応していません。そのため使えるパラメータ数は10種類となっています。
iVOCALOIDではiVOCALOID-VY1やiVOCALOID-メルリのように、1アプリにつき1つの歌声しか扱えませんでしたが、このMobile VOCALOID Editorの場合は、ひとつのアプリで複数の歌声が扱えるようになっています(VY1-Liteのみ標準搭載で、それ以外はアプリ内課金によるオプション)。こうした関係を整理した表が以下のものになります。
機能 | VOCALOID4 Editor | iVOCALOIDシリーズ | Mobile VOCALOID Editor |
プラットフォーム | パソコン | iPhone/iPad | iPhone/iPad |
価格 | オープンプライス | 2,700円(税込) | 4,800円(税込) |
使用可能音域 | C-2~G8 | C3~F4 | C-2~G8 |
最大小節数 | 999小節 | 17小節 | 511小節(*1) |
最大VOCALOIDトラック数 | 16 | 1 | 16 |
最小分解能 | 4分音符の1/480 | 16分音符 | 4分音符の1/480 |
読込可能ファイル | VSQX(V3版・V4版)、VSQ、MIDI(SMF) | VSQX(V3版・V4版) | VSQX(V3版・V4版) |
インポート可能ファイル | VSQX(V3版・V4版)、VSQ、MIDI(SMF)、WAV | WAV(Audio Paste利用) | WAV(Audio Paste利用) |
VSQX書き出し | V4版VSQX | V3版VSQX、V4版VSQX | V3版VSQX、V4版VSQX |
オーディオトラック(WAV) | ステレオ1トラック/モノラル1トラック | ステレオ、モノラルのいずれか1トラック | ステレオ1トラック/モノラル1トラック |
エフェクト(ミキサー) | VST Host機能により好みのエフェクトを付加 | Reverb | V3Comp、V3Reverb |
Jobプラグイン機能 | あり | なし | なし |
歌声調整パラメータ数 | 12種類 | 3種類 | 10種類 |
ステップ入力、リアルタイム入力 | ×(*2) | × | ○ |
(*1)近日中に予定しているアップデートで999小節となる予定
(*2)「VOCALOID4 Editor for Cubase」と、「Cubase7」シリーズもしくは「Cubase8」シリーズを同時使用する場合は可能
この表だけではピンと来ないかもしれないので、もう少し具体的に見ていきましょう。前述の通り、これはPC版のVOCALOID Editorとほぼ同等の機能となっているので、同時に複数の歌声を出して最大16パートまでのアンサンブルが可能だし、モノおよびステレオのオーディオトラックも装備しているので、バッキングパートを鳴らしながら歌わせるといったことも可能です。
Mobile VOCALOID Editor搭載のミキサー機能
もちろんミキサー画面も備えていますから、ここでボリュームバランスをとったり、PANを振るだけでなく、PC版と同じV3Comp、Reverbの2種類のエフェクト使っての音作りも可能になっています。見た目のデザイン的にはiOS版のミキサーのほうがカッコイイと感じるのは私だけでしょうか?
それ以上に使いやすくなっているのが入力画面ですね。ピアノロール画面を指でタップしながら音符入力ができるのはもちろんですが、画面上に鍵盤を表示させて、これを弾きながら入力することが可能なんです。そして、これはCoreMIDI対応になっているから、iOS対応のUSB-MIDIキーボードやmi.1やC.24のようなBluetooth MIDIデバイスに接続しての入力も可能なんですよ。
鍵盤表示がされ、外部MIDIキーボードからの入力も可能になり、圧倒的に便利に
キーボードを弾くと、リアルタイムではVOCALOIDによる歌声ではなく「ポー」というサイン波が鳴るので、まずはこれで入力していきます。ステップタイプを決めて、1音1音ステップ入力していくこともできるし、メトロノームを鳴らして、リアルタイムレコーディングしていくこともできます。このリアルタイムレコーディングに対しては、後でクォンタイズを掛けることもできますから、まさに普通のMIDIシーケンサという感じですよね。この手軽な入力機能だけでも、十分買う価値ありだと思いました。
リアルタイムレコーディングに対応し、クォンタイズ機能なども装備
ただし、実際に使ってみて最初に戸惑ったことが2点あります。おそらく多くのユーザーも引っかかる点だと思うので、メモ書きの意味も込めて紹介しておきますね。1つ目はエディタ画面でのスクロールについて。ピアノロール上でスワイプすると、音符が入力されてしまい、画面がスクロールしないんです。スクロールさせるためには2本指でスワイプするか、画面上部の小節番号部分を1本指でスワイプするんですね。これさえ覚えておくと、PC版の画面よりもずっと使いやすくなりますね。
歌詞の流し込みはPC版と少し手順が違うので、最初戸惑うかもしれない
2つ目は歌詞の入力です。PC版だと1つ音符を選んで、長い歌詞を入力すると自動的に、その後の音符に流し込まれるのですが、このMobile VOCALOID Editorでは選んだ音符に1文字目が入るだけで、それ以降の音符は影響されないのです。これについては、あらかじめ歌詞を入力する音符を範囲してしておくと、それができるようになるんです。指定したい音符の歌詞だけを入れ替えられるという意味では、iOS版のほうが親切なのかもしれませんね。ちなみに、この点についてヤマハに確認したところ、1音符選択の長い歌詞流し込みについても、今後のバージョンアップで対応することを検討しているとのことでした。
こうして入力したデータのパラメータは指で描いていくことでマウスよりもスムーズにエディットしていくことができるし、VOCALOIDの入力デバイスとしては、すごくよくできていると感じました。
ここでチェックしておきたいのが歌声ライブラリの扱いについてです。前述の通り、Mobile VOCALOID Editorに標準で搭載されているのはVY1 Liteというものだけで、それ以外はすべてオプション扱いです。具体的には、以下のとおりですね。
歌声ライブラリ | 価格 |
VY1 Lite | アプリ同梱 |
VY1 | 1,200円 |
VY2 | 2,400円 |
KYO(ZOLA PROJECT) | |
YUU(ZOLA PROJECT) | |
WIL(ZOLA PROJECT) | |
蒼姫ラピス | |
メルリ | |
Mew | |
ギャラ子RED | |
ギャラ子BLUE |
気になるのはVY1 Liteとは何で、VY1とどう違うかという点ではないでしょうか?実際に歌わせてみると分かりますが、VY1 LiteとVY1ではほとんど音質は違わないです。ただし、高い声や低い声を歌わせると、VY1との音質差が目立ってくるので、サンプリングデータの容量の違いということなんだと思います。一方、iVOCALOID-VY1の音質と比較すると、ほぼ同じようですね。その他2,400円で販売されているものは、高い声でも低い声でもキレイに歌ってくれるから、VY1のみ半額という設定になっているっぽいですね。
一方PC版のVY1V3やVY1V4と比較して、「まったく同じ音質なのか?」と言われると、これは否です。ここにはiOS版の発音エンジンとPC版の発音エンジンの差や歌声ライブラリのデータ容量の違いもあるので、滑らかさという面ではPC版のほうが勝るようですが、これは値段差を考えても当然といえるかもしれません。とはいえ、ある意味ニュアンスの差でもあるので、曲によっては「iOS版で歌わせた声のほうがいい」と感じる面もあるのではないでしょうか?
とはいえVY1でも、ZOLAでも同じ歌声ライブラリであればiOS版もPC版も基本的には同じ。ノートの入力の仕方はもちろん、コントロールパラメータの設定による表現の仕方もまったく同じで、微妙なニュアンスが違ってくるという理解でいいと思います。でも、ニュアンスの違いを確かめたいという場合も簡単にできますよ。
Mobile VOCALOID EditorからVSQXデータ(V3版、V4版)をエクスポートできるので、これをPCで受け取って鳴らしてみればいいのです。この際、iTunesを経由したデータのやり取りも可能ではありますが、ボカロネット経由でやりとりすると、非常に効率的ですよ。
反対にPC版で作ったデータをボカロネット経由などでMobile VOCALOID Editorに取り込んで歌わせることも可能です。この際、ぼかりすで作りこんだような曲であっても、iOS側でキレイに歌ってくれることが確認できますよ。
もちろん、このようにPC版とシームレスにデータのやりとりができるというのもiOS版のMobile VOCALOID Editorの大きな特徴ではあるのですが、その醍醐味はやはりiPad上やiPhone上で、すべての曲作りを完結できることにあると思います。
前述のとおり、Mobile VOCALOID Editorだけでも、かなりのことができるわけですが、これをGarageBandやCubasisなどのDAWと組み合わせることで、より発展的な使い方ができるのです。といっても、DAWとの連携の仕方自体はいたってシンプル。そう、これはこれまでのiVOCALOIDと同じようにAudio Copyでやりとりするだけです。
このAudio Copyでのデータの受け渡しにもちょっぴりコツがあるので、紹介しておきますね。エディット画面において、入力したパートを選んでAudio Copyをして、別のアプリに受け渡すこともできるのですが、通常は、Mobile VOCALOID Editorで作った曲全体をDAWへと持っていきますよね。この場合、まず曲のミックスダウンを行います。この際、もし複数の歌声ライブラリに歌わせたものを別々のトラックで渡したいという場合には、不要なトラックをミュートしてからミックスダウンをする作業を繰り返せばOKですね。
FILE MANAGERからミックスダウンしたデータを選んでAudio Copyを実行
その後、ホーム画面においてFILE MANAGERを起動するとミックスダウンした曲の一覧が表示されますから、ここから目的のデータを選択の上、Audio Copyを選択すると、コピーができます。その後、GarageBandはもちろん、CubasisでもMobile Music SequencerでもAuriaでも好みのDAW上でAudio Pasteを実行すれば持っていくことができますよ。
その後、目的のDAW上でAudio Pasteを実行すれば受け渡しが完了する(画面はCubasis)
以上、新しくiOS上に誕生したMobile VOCALOID Editorについて紹介してみましたが、いかがだったでしょうか?現時点、このMobile VOCALOID EditorはInter-App AudioやAudiobusには非対応なようです。この点についてもヤマハに確認したところ、「現在検討中」というお返事をいただきましたが、できれば、今後うまく対応して、DAWと同期できるようになると嬉しいですよね。
【App Storeリンク】
Mobile VOCALOID Editorダウンロード 4,800円(4月13日までは特別価格の3,600円)