昨年末の楽器フェアでは、カシオがビンテージ・シンセサイザ、CZ-101をiPad上で再現した、として大きな話題になりました。登場は春ごろかと思っていたら、早くもそのアプリが完成し、「CZ App for iPad」という名称で1月22日より発売が開始されました。アメリカで開催されるNAMM SHOW 2015に合わせてのリリースとのことですが、App Storeにおける国内価格は2,000円。新たな大物アプリの登場ということで、国内外でヒットしそうな予感です。
ローランドもSound Canvas for iOSのリリースを目前に控えており、2015年はメーカー自らが過去の資産を復活させたアプリが続々と登場してきそうですが、CZ App for iPadをさっそく入手して試してみたので、どんなアプリなのかを紹介してみたいと思います。
CZ-101は1984年にカシオから発売されたシンセサイザで、PD音源と呼ばれる方式のものです。PDとはPhase Distortionの略で、位相歪みを意味するものです。いまデジタルシンセサイザというと、サンプリング音源と同義に語られることが多いですが、このPD音源は、サイン波(正確にはコサイン波)をROMから読みだす際に、位相角を歪まされることによって、さまざまな波形を得るというユニークな方式のシンセサイザでした。つまりサイン波のみから音を作り出そうという発想のものですね。
1984年に発売されたCZシリーズの初代機、49ミニ鍵盤のCZ-101
サイン波から音を作り出すシンセサイザとしては、ヤマハのFM音源、DXシリーズがありますが、PD音源はFM音源とはだいぶ仕組みの異なるシンセサイザなのです。その後、CZ-1000、CZ-5000、CZ-3000など大ヒットとなったCZシリーズの初代機として登場したのが、今回のアプリの原型となっているCZ-101なのです。
まあ、能書きはともかくとして、さっそくCZ App for iPad(以下CZ App)を起動してみると、CZ-101風な画面が表示されます。ここで画面上の鍵盤を弾くと、まさにCZというサウンドが鳴るのですが、画面左上には、デモソングのプレイボタンがあります。これを押して再生されたサウンドを録音してみたのが、以下のものです。
いかがですか?結構独特なシンセサウンドですよね。ここで鳴っている音は、キックやハイハットなどのリズムも含め、すべてCZ AppのPD音源だけで鳴らしているものです。聴いてみてお分かりいただけたかもしれませんが、同時に出ている音は4パートとなっているのが大きなポイント。CZ Appではこれ一つで4トラック分を構成することができるんです。
※初出時、CZ-101は4マルチティンバーができない旨の記述をしていましたが、対応していたそうです。
そのことは鍵盤が4段表示されるこの画面をみると、想像がつくと思います。まさにMTRという感じで、それぞれTRACK 1、2、3、4となっており、各トラックの音量バランスはミキサー画面において調整可能。このミキサー画面からも分かるとおり、音量バランスだけでなく、PAN、さらにはエフェクトでの音作りも可能になっていて、かなり自由度は高くできていますよ。ちなみにCZ App全体としては16音ポリとなっているので、発音できる数には制限があるものの、結構いろいろできそうですよね。
この鍵盤の表示方法としては、上から下へ4段ならべるほかに、下記のように双方向からの鍵盤表示というモードが用意されているのもCZ Appの独創的なところだと思います。そう、これなら2人で一緒にセッションするといった弾き方が可能なわけですね。それぞれ2段重ねの画面も用意されているので、ライブなどで使ってみると面白いかもしれませんよ!
もちろん、CoreAudio対応なので、ここにMIDIキーボードを接続すれば、それを使って演奏することも可能です。ここではIK MultimediaのiRig KEYSを接続してみましたが、Line 6のMobileKEYSでも、Lightning-USBカメラアダプタ経由で各種USB-MIDIキーボードに接続して演奏することもできますよ。
さて、このCZ Appでどんなサウンドが出せるのか、まずはプリセットの音色を呼び出してみましょう。ブラスやストリングス、オルガン、ピアノなど、計34音色が入っていますが、音を出してみると、なかなか独特なサウンドですよ。ブラス系は結構迫力あるサウンドだし、エレピはDX7とも似て非なる煌びやかなサウンド、リード系もまた迫力あるカッコイイ音です。
ユニークなのは、先ほどのデモソングでも目立ったリズム系ではないでしょうか?いわゆるリズムボックスが入っているわけではなく、1トラックで、スネア、ハイハット、キックなど1つの音色を出すだけですが、サイン波をPD音源として合成して作るサウンドは、なかなかユニークですよ。
では、どうやって音色を作るのかを簡単に解説してみましょう。画面上部には6つのグラフが表示されていますが、ここがPD音源の心臓部ともいっていいところです。よくみるとこれは上下に同じ構造のものが2系統あり、それぞれ左から
・DCO:Digital Controled Oscilator
・DCW:Digital Controled Wave
・DCA:Digital Controled Amplifier
となっています。これはアナログシンセでいうところのVCO、VCF、VCAに近いものだと考えてOKです。それぞれ2系統あり、2系統をミックスして1つの音色を作り上げるわけですね。
このDCOを詳細表示してみると、左側にはWAVE FORMというものがあり8種類の中から選択できます。この波形がサイン波を元に作り出したPDの基本波形というわけですが、ここにも同じものがFirst、Secondとあるので、2つ同じものにしてもいいし、異なるものでもいいので選択して組み合わせます。また右のグラフはピッチの変化になっているので、普通は横に一直線にし、ピュン!といった音を作るのなら、下げるようにすればいいわけです。
従来のハードウェアのCZ-101との大きな違いといけるのが、この画面です。CZ-101はまさにグラフを頭で想像しながら音作りを手探りで行わなくてはならなかったのが、CZ AppではiPad上でグラフィカルに表示させ、直感的な操作ができるのですから、音作りは断然しやすくなっています。これはDCOに限らず、以下のDCWやDCAでも同様ですね。
DCWでは鍵盤を押してからの時間にともない、波形がどう変化するかを設定していきます。0に設定するとしておくとサイン波になり100にすると、DCOで選択した波形になるというのがポイント。アナログのフィルタとは違い、PD音源の面白さが現れるところです。
そしてDCAはVCAそのものといってもいいものですが、このエンベロープジェネレータはADSRのような4つに限らず、最大8つのポイントまで設定できるようになっています。
そのほか画面を見ても分かるとおり、キートランスポーズがあったり、ビブラートの設定ができるほか、ポルタメントの設定やモノフォニック音源にする設定などもありますね。また、先ほどのとおり、DCO/DCW/DCAという一連の系統が2つあるわけですが、そのどちらかを出すのか、ミックスするのかなどは、LINE SELECTというところで設定できるようになっています。さらに、その2つをリングモジュレーションを掛けたり、ノイズモジュレーションを掛けるといった使い方も可能になっているので、音作りの幅が広がりますね。
一方、エフェクトもここに3系統搭載されています。具体的にはリバーブ、コーラス、そして、DSPの3つ。DSPはこれらを使って音作りをしていくわけです。DSPはコンプ、ディレイ、ディストーション、フェイザーなど8種類から選択できるマルチエフェクトのことです。
このように、アナログシンセサイザとも違うし、FM音源、サンプリング系のシンセサイザとも違うPD音源のCZ Appですが、単体で演奏するだけでなく、Inter-App Audioにも対応していますから、GarageBandやCubasisといったiPad上のDAWの音源として利用することも可能です。Inter-App Audioを使ってDAWからCZ Appを呼び出すと、CZ-Appの画面中央上部には録音、再生のためのトランスポートボタンが表示されるので、ここからDAW側をリモートコントロールすることが可能になるのです。
そのほかAudiobus2にも対応しているので、CZ Appで演奏するサウンドにエフェクトを掛けた上でDAWにレコーディングするといった使い方も可能。かなりいろいろな応用が利きそうですね。
音色作りも直感的に楽しくできる、CZ App、このようにDAWと組合せば、無理に楽曲の音源すべてをCZ Appに任せるのではなく、CZ Appならではのサウンドをうまく活用していくことも可能なので、曲作りの幅も大きく広がると思いますよ。
【関連情報】
CZ App for iPadオフィシャルページ