「AAXしか使えないPro ToolsでVSTやAudioUnitsのプラグインを使いたい」、「Cubase LEを使ってるけど同時に利用できるプラグイン数の制限を何とかしたい」、「重いDAWは不要、プラグイン音源やエフェクトだけ動かしてライブで演奏したい」……そんな我がままな思いをかなえてくれるとっても便利なユーティリティがあるのをご存じですか?
Blue Cat Audioというフランス・パリにあるソフトメーカーが開発したPatchWorkというプラグインがそれ。国内ではフックアップが8,046円で日本語マニュアル&サポート付きでダウンロード販売しているもので、WindowsでもMacでも使え、あらゆるプラグインフォーマットに対応した強力なソフトなんです。これでどんなことができるのか、紹介してみたいと思います。
※2022.5.8追記
最新版のBlue Cat’s PatchWork V2については、こちらの記事「VST3、VST2、AAX、Audio Unitsと何でも動かせるプラグインコンバーター、Blue Cat’s PatchWorkの威力」をご覧ください。
これまでも「ラッパー」と呼ばれるソフトはいろいろありました。そう、VSTをRTASで使うなど、異なる規格のプラグインを包み込む(ラッピング)する形で利用できるようにするというもので、FXpansionやNOMAD FACTORYなどから、いろいろな製品が出ていました。
ところが、ここで紹介するPatchWorkは、いわゆるラッパーとはちょっと違うもので、もっと自由度が高く、もっといろいろな可能性を持ったソフトなんです。いうならば、「プラグインを入れるためのプラグイン」といったところでしょうか……。PatchWork自体はエフェクトでもなければ、ソフトウェア音源でもありません。ただの箱なんです。そして、この箱に、さまざまなプラグインを自由自在に詰め込むことができるんですよ。
画面としては上のようなものなのですが、見ても「何これ?」という感じですよね。左にPRE、真ん中にPARALLE CHAINS、右にPOSTとあって、それぞれに四角い箱がありますが、それぞれの箱の中にプラグインを組み込むことができるようになっているのです。
たとえば、MacのAAX版をインストールすると、Pro Tools 11のプラグインとしてPatchWorkを読み込むことができます。この状態では何も起きないのですが、さらにPatchWorkからVST対応のソフトウェア音源を読み込んでみます。たとえば先日紹介したYAMAHA DX7を再現するソフト、DEXEDは現時点VSTのみの対応ですが、これを読み込むことができ、Pro Tools上で使えてしまうのです。
同じく、AudioUnits版をインストールした後、LogicやGarageband上でPatchWorkを使えば、このDEXEDに限らず、AudioUnitsに対応していないVSTインストゥルメントやVSTプラグインエフェクトを自由に使えてしまいます。
まあ、ここまでであれば自由度の高いラッパーというところですが、PatchWorkが面白いのはここからです。前述のとおり、この中にはプラグインを収めるための複数の箱がありました。必要あれば、画面のように箱の数をもっともっと増やすことが可能となっています。つまり、DAW側からは1つのプラグインしか入れていないのに、この中でたくさんのプラグインを同時に動かすことが可能になるのです。
ここで思いつくのが、Cubase LE/Cubase AIのような機能限定版のDAWでの利用です。こうしたLE版は、インストゥルメントトラック数が8つまで、同時利用可能なエフェクトが8つまで……といった制限が付いていますが、間にPatchWorkを挟むことで、そうした制限を回避できてしまいます。もちろん、トラック数自体を増やすということはできませんが、1つのトラックに複数のソフトウェア音源を組み込み、数多くのエフェクトを入れることも可能ですからね。
もちろん、RTASの環境にVSTを入れるとか、AAXの環境にAudioUnitsを入れるといった変換に使うだけでなく、CubaseにPatchWork経由で複数のVSTプラグインを組み込むなど、すべてVSTで完結させるといったことも可能ですよ。
このPatchWorkを購入すると、ここにはWindowsのVST版、RTAS版、AAX版、DirectX版、MacのVST版、AudioUnits版、AAX版……といろいろ入っているのですが、さらにWindowsおよびMacのスタンドアロン版というものも入っているのです。これは何を意味するのでしょうか?
スタンドアロン版ということは、ホストアプリであるDAWが不要であることを示します。そう、PatchWork自体がプラグインのホストとして機能するということなんですね。つまり、スタンドアロン版のPatchWorkにソフトウェア音源やエフェクトを組み込むと、DAWなしに、これらのプラグインが使えてしまうのです。当然、DAWが不要なだけに、非常に軽く、そして安定して動作してくれます。
最近は、ライブにPCを持ち込んで、音源として、またエフェクトとして使うというケースも増えているようですが、PatchWorkを使えば、そうしたことが簡単にできてしまうのが嬉しいところです。ここでもAudioUnitsのソフトウェア音源とVSTのプラグインエフェクトを混在させたり、複数のソフトウェア音源をユニゾンで鳴らすことができるなど、自由度が高いのも大きな魅力です。
【追記】
記事掲載後、何人かの方からPiapro StudioがPro Tools 11上で動くのか、という質問をいただいたので試してみました。とりあえずWindows上で試してみたところ、ちゃんと歌わせることができ、プロジェクト側との同期も完全に取れることが確認できました。
このPatchWork、国内でも今非常によく売れているらしいのですが、フックアップに聞いてみたところ、Blue Catのソフトで海外でもっとも売れているのはAnalysis Packというものだそうです。これは名前のとおり、音を分析するツールであり、スペクトラムアナライザーなどとして機能するものなのですが、そこらのアナライザーとはわけが違うんです!
そう、分析した結果をリアルタイムにMIDIに変換して出力が可能なのです。それこそ「???」という状況ですが、たとえば、あるオーディオトラックをAnalysis Packで解析した結果のピッチを抽出した上で、そのピッチを数値としてMIDIコントロールチェンジとして送り出すことができるのです。このコントロールチェンジの番号は自由に設定できるので、たとえば、CC7で出力すると、ピッチが高いと音量が大きく、ピッチが低いと音量が小さいという、かなり妙なコントロールが可能になるのです。
この辺の割り当てはまさに自由自在。これをEDMの楽曲に適用させると、かなり面白いことができそうですよ。ためしに、オーディオのピッチを検出してMIDI CC7で出力させたものを記録した結果をリストエディタで見てみると、確かにピッチにしたがってCC7のパラメータが動いているのが分かりますよね。
もう一つBlue Cat Audioのプラグインで試してみたのが、MB-7というもの。マルチバンド・ミキシング・コンソールという副題が付いていますが、これもかなり変わったユニークなソフトなのですよ。ぱっと見た目は5バンドのEQのようなのですが、これはパラメトリックEQのように各バンドごとに切り分けた後は、マルチトラックで処理ができるんです。
たとえば、ローとミッドで切り分けた後、そのレベルを調整するだけでなく、ローにはコンプをミッドにはリバーブを……というように異なるエフェクトをプラグインで追加して処理していく、といったことができるわけです。これもプラグインで動作すると同時にスタンドアロンでも動作させることができるので、こちらでもいろいろな活用法が考えられそうですよね。
以上、Blue Cat AudioのPatchWorkを中心にいくつかのプラグインを紹介してみましたが、いかがだったでしょうか?Windows、Macそれぞれの環境でフリーウェアを含めて、いろいろ試してみましたが、なかなか安定していて使いやすいです。かなり技術力がしっかりした会社なのではないでしょうか?
また機会があれば、ほかのプラグインについても紹介してみたいところですが、まずはBlue Cat PatchWorkを使って、手持ちのプラグインの音源、エフェクトをフル活用してみてはいかがでしょうか?
【関連情報】
Blue Cat Audio製品情報(フックアップ:beatcloud)
【ダウンロード購入ページ】
Blue Cat’s PatchWork
Blue Cat’s Analysis Pack bundle
MB-7 Mixer
Liny EQ
Blue Cat’s MB-5 Dynamix