MIDIの知識が人と人をつなぐ共通言語となる

現在、楽曲制作、サラウンド作品制作、演奏会スタッフなど幅広く、活動している相原耕治さんは、MIDI検定をいち早く取得したという人です。1999年にMIDI検定3級の試験が開始されると同時に3級を取得し、翌年2級の筆記試験が始まるとそれに合格。さらに次の年には2級の実技試験のスタートと同時に取得するなど、いずれも第1回目のMIDI検定に飛びついたそうです。

先日MIDI検定の記事を書いたとき、国内の初取得者の一人が相原さんだ、ということを伺い、個人的にも知っている方だったので、先日改めて相原さんに会って話を聞くことができました。個人的にもちょっと疑問に思っていた「MIDI検定って何か役に立つの?」という点を単刀直入にぶつけてみたところ、いろいろ興味深い答えが返ってきたので、紹介してみましょう。

第1回目のMIDI検定の資格を取得したという相原耕治さん


--相原さんが、一番最初にMIDI検定を知ったのはどんな経緯だったんですか?
相原:たまたま友人が、「こんなのあるよ!」って新聞の切り抜きを持ってきてくれたのが、そもそもです。当時、オーケストラの裏方として譜面を作成する写譜の仕事をしていました。同時にオーケストラのコンサートがあるときに楽器を並べるなど、ステージマネージャーの補佐的なことをしていたんです。そこで知り合った友達と、仕事とは別にDTMとソロ楽器によるコンサートなんかもしていたので、その友達が持ってきてくれたんですよ。

--なるほど、当時からDTMをしていたからこそ興味を持ったわけですね。

相原:そうです。それこそ僕はMSX世代なんで、中学校のころからYMOごっこをするなど、いろいろ遊んでいました。高校の入学祝いにPOLY-61を買ってもらい、ローンでMSXやDX7を手に入れました。当時、高校の吹奏楽部もDX7を持っていましたが、扱い方がわからず私に白羽の矢が当たり、そのまま3年の10月にDX7担当として入部しました。とにかくシンセサイザー・電子楽器関係は好きで、すべて独学でやっていました。ただ、仕事を始めてから経歴的なコンプレックスを持っていたんですよ……。


中学、高校のころからMSXパソコンやシンセサイザーで遊んでいたという相原さんの自宅にはいまも機材がいっぱい 

--経歴的コンプレックスというのは?
相原:周りにいる奏者の人たちは、たいてい「●●大学を卒業し、●●でバイオリンの演奏をし……」とか「5歳からピアノを始め、大学在学中より●●に師事し、●●音楽大学を卒業後……」なんてプロフィールが書かれていて、すごくカッコイイじゃないですか。でも僕はプロフィール欄に「尚美学園短期大学 音響科卒業」しか書けなかったんです。大好きでやってきた電子楽器に対して書く項目もなく、寂しい思いをしていたんです。

--そこにMIDI検定という資格が登場してきた、というわけですね!

相原:はい、ですから、これは自分にとっての大きなチャンスなのではと思ったのです。ところが、試験自体大学卒業して以来受けたことなんてないし、独学でやってきたけど、これで検定に落ちちゃったら、これまで電子音楽につぎ込んできた自分の人生を否定されちゃうようにも思えて、すごいストレスになってね……。当時は本当に10円ハゲができちゃったんですよ(笑)。誰も教えてくれるわけじゃないから、独学というのは半信半疑で不安だらけでしたね。


初めての試験を受けるにあたり、すごく不安もあったと振り返る相原さん 

--実際に受けに行っていかがでしたか?
相原:本当に藁をも掴む気持ちで受けにいきましたよ。気のせいかもしれないけど、そんな思いを持った人も少なくなかったように感じましたね。回りの人たちの様子を見ると、ジャズのオルガンプレイヤーやヤマハのインストラクター、エレクトーンの先生、ギタリストなど、見覚えのある人もチラホラ見かけましたから、音楽業界の人が多かったように思いました。本当に緊張しながら試験に臨みました。

--その結果、初回のMIDI検定3級の試験に無事受かったわけですよね。
相原:ええ、それは嬉しかったですよ。これでプロフィールに書けるぞ、人からも「電子楽器専門の人なんだね」と見てもらえるぞ…と、コンプレックスだったものが、取り除かれたような気分でしたよ。

--その翌年にはMIDI検定2級も受けたんですよね?
相原:2級は初年度に実施されたのは筆記だけの1次試験でしたが、2級が告知された後、勉強しようとすぐに入手したガイドブックを見て愕然としました。当時のガイドブックには参考資料だったそうですが、フォトカプラーを使ったMIDI端子の回路図とかが載っていて、ガーンって(汗)。回路図なんて、まったく無縁の世界にいたので、こんなことが分からないと、MIDI検定が受からないのか…と思い、すごいショックを受けましたよ。その辺は完全に捨てて受けたんですが、なんとか無事受かったようでした。さらに翌年の2次試験も合格できて、MIDI検定2級の資格を取得することができました。

--回路図はともかくとして、MIDI検定の勉強ということ自体はいかがでしたか?
相原:すごく自分にとって役に立つ勉強でしたよ。知らなかったこと、不思議に思っていたことなどを数多くに身に着けることができました。身近なところでいえば、「なんでベロシティーとかプログラムチェンジとか0~100ではなく、0~127という中途半端な数字なのか」ということ。だって普通0~100じゃないですか。DX7は0~99だったので、そこはそれなりに納得していたのですが、127って変だなぁ…とずっと思っていました。同様に「何でMIDIチャンネルは16までなの?」などデジタルが由来する数字の不思議を紐解くことができてスッキリしましたね。

--そうした例ってほかにもありますか?

相原:高校生のころからMIDIケーブルで接続することには慣れていましたが、そこがシリアル転送になっていることを理解できたのも重要な点でしたよ。流れる信号の順番をちょっと変えるだけで、まったく意味の異なる情報になることを理解できたのも新鮮でしたね。また僕はオーケストラはある程度分かるんだけど、ギターが弾けないので、ギターの知識が全然ありませんでした。チョーキングとかハンマリングってこと自体もよく知らなかったのですが、「それをMIDIで表現するとこうなるよ」というのが細かく解説されていたので、楽器の勉強という意味でも役立ちましたね。


相原さんがテルミンで参加しているCD「習志野天文部 夜會」

--MIDI規格そのものだけでなく、楽器の知識を広げる上でも役立った、と。
相原:ええ、そうしたことはいっぱいですよ。たとえばエレキベースもコントラバスと同じように記譜よりも一オクターブ下が鳴るなんてことも、MIDI検定の勉強をしていて初めて知ったことですよ。普段、自分のやっている関係のものしか知らないし、使わないから知る機会も少ない。だから、こうした勉強をすると、ジャンルに関わらずいろいろな知識が身について楽しいですよ。すごいと思ったのはMIDIギターの仕組み。弦ごとに6chに分かれているから、ベンダー情報でチョーキングができるという発想も凄いなぁ…と思ったり。まあ、最近はインターネットでいろいろ調べられるようにはなりましたから、それでいいのかもしれませんが、アマチュアの人が書いている情報だと、結構、嘘や誤りも多いんですよね。そのため、調べる側も、その間違いを見極める判断力が求められるのが難しいところです。その点、MIDI検定のガイドブック、教科書のようなものであれば、ある程度、形になってまとまっているからこそ、安心して勉強できるというのはメリットだと思います。

--MIDI検定の資格取得後はいかがですか?

相原:とにかく自信がついた、というのは大きいですね。それは当然仕事にもいろいろな形で影響してきます。ヒットチャートに上がってくる曲は、確かに誰が聴いても求められている曲だから売れているわけだけど、自分の作った曲の場合は判断がつきません。でも「自分の作った曲データのプログラムは、これでいい」というのがハッキリするのは気持ちいいし、MIDIというものが一つの共通言語となって、人とのコミュニケーションにも役立つんですよ!


「ティアラこうとう」小ホールで行われた習志野天文部によるホルストの木星では、相原さんはタンバリンや効果音をシンセサイザーで担当 

--MIDIが共通言語??

相原:そうです。私の場合、クラシックが好きで、そちらの勉強をしながら電子楽器に携わってきたわけですが、別のジャンルの人たちともMIDIを起点にして共通の話がいろいろできます。だからこそ、僕もMIDI検定2級の資格取得後に日本シンセサイザー・プログラマー協会(JSPA)に入会し、そこでの活動という場もできました。もちろん、オーケストラの世界でも、最近は楽譜浄書ソフトやDAWを使っている人が増えていますからね、そうした人たちとも、MIDIが一つの接点となって人のつながりができていきます。


相原さんが講師をしているMIDI検定協力校でもある国立音楽院のホームページ 

--MIDI検定の資格を取得したこと自体が直接お仕事に役立つこともあるんですか?
相原:いろいろありますよ。たとえば、尚美学園時代の恩師であった永野光浩先生が、国立音楽院で教壇をとっており、「相原君、MIDI検定の資格もあるなら講師をしてみる?」と国立音楽院に紹介していただき、現在もサラウンドやボカロなど授業や夏期講習の形でMIDI検定の集中講座を行っています。こうやって教える立場になることが大きな勉強にもなるんですよ。

--いまは、MIDI検定の指導者としても活躍されているんですよね。

相原:あくまでも仕事の中心は音楽制作とオーケストラ関連ですが、講師をしたり、講座を開くなどもしています。一方、その自分の音楽制作の仕事においてもMIDIの知識だけですべてが済むわけではないのも事実です。普段から波形編集は必須だし、オーディオデータを納品する前には波形を見ながら音圧を揃えたり、フェードイン/フェードアウトの処理をしたり、DCオフセットの削除を行ったり、マスタリングとまではいかなくても、どのくらいのレベルであるかをチェックしたり……、いろいろな機能を使うし、オーディオの知識もますます重要になってきています。MIDI検定もそうした実情に合わせ、2年前に大きく改訂し、試験内容もオーディオの内容も盛り込む形でシフトしています。私もガイドブックの改訂に一部関わらせていただきました。

相原さん制作のMIDI30周年
--MIDI、MIDI検定というものが、相原さんにとって、とても大きな礎となっているんですね。
相原:本当に大きな力になっています。これまでのMIDIへのお礼という意味も込めて、先日MIDI30周年のビデオも制作し、今でもYouTubeで公開しているんですよ。ナレーションもMIDI検定取得者の友達にお願いをして、メールで原稿とMP3のやり取りだけで制作しました。よかったら、ご覧になってください。

--本日はどうもありがとうございました。

取材を終えて、MIDI検定の意義を実感すると同時に、MIDIを核にして、さまざまな知識が広がる面白さを実感しました。MIDI検定の中心的存在ともいえる3級の試験は毎年12月に実施されており、募集期間は10月いっぱいです。よかったら試しにチャレンジしてみてはいかがですか?
【関連情報】
MIDI検定公式サイト
一般社団法人音楽電子事業協会サイト
日本シンセサイザー・プログラマー協会サイト

【関連サイト】
相原さんのサイト「Syn-phonic5」
国立音楽院

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